ワインのオフフレーバー(好ましくない味わいの要素)の中にブレタノマイセス、通称ブレットがあります。特定の酵母に由来するもので、本来の香りがなくなり、ボディが弱くなり馬小屋臭などと言われる風味を付けます。ブレットの酵母の力は強く、樽などに棲み着くとなかなか取り除けないので、ワインメーカーにとっては忌み嫌うものの一つです。

このブレットをわざと使ってワインを作るという大胆なワインメーカーが登場しました。マンディ・ヘルト・ドノバンという人です(Did Mandy Heldt Donovan just ruin か? - SFChronicle.com)。

ブレットは少量であれば、ワインの複雑性を増すという意見もあり必ずしもマイナスの評価だけではありません。

また、クラフトビールの世界ではブレット入りのビールというのが一つのジャンルになっており、ブレット酵母で醸造したビールというのもあるほどです。

マンディ・ドノバンもクラフトビールが好きでブレット入りのものに親しんでいたことから、ワインでも試してみたいと思ったそうです。

ただ、ワイナリーにブレット酵母を持ち込むのはあまりにも危険。そこで、ワイナリーからピノグリのワインを一部自宅に持って行き、自宅で実験しました。

ブレット酵母はクラフトビールの醸造所からわけてもらいました。フルーティな特徴のあるもので、ブレットに時折ある絆創膏のような風味にはならないものを選んだとのこと。

また、ワインはすこし残糖がある形にして、ブレットで生じる酸味とのバランスを取りました。

作ったワインは2017年が30ケース、18年が50ケース。

できたワインはフルーティでショウガや醤油、緑のハーブ、ちょっとスモーキーな感じがあり、馬小屋臭はフィニッシュに少し感じるだけだそうです。

ピノグリであると思わなければ楽しめるワインだろうと著者のエスター・モブリーは書いています。

また、ナチュラルワインが好きな人であれば、この風味にも慣れているかもしれないものこと(SO2をほとんど使わないナチュラルワインはしばしばブレットに汚染されていて、それはビオ臭と呼ばれています)。

Merisi Manic Whiteというこのワイン、果たして受け入れられるのでしょうか。