サンタ・ルシア・ハイランズでピゾーニ(Pisoni)と並ぶビッグネームである「ロアー(Roar)」のヴィンヤード・マネージャー、ニック・フランシオーニ(Nick Franscioni)氏とワインメーカーのスコット・シェイプリー(Scott Shapley)氏によるWebセミナーを受けました。ロアーがこういったセミナー類に出てくることは米国でも非常にレアであり、貴重な経験でした。

Nick Franscioni

まずはサンタ・ルシア・ハイランズを紹介しておきます。セントラル・コーストでサンタ・クルーズ・マウンテンズとパソ・ロブレスの間にあるAVAで、カレラのあるマウント・ハーランよりも山一つ太平洋側になります。1970年代からハーン(Hahn)やパライソ(Paraiso)などによってワイン作りが始まり、1991年にはAVAに指定されていますが、この地域を有名にしたのはなんと言ってもピゾーニです。

ピゾーニは1982年に植樹された畑で、ブルゴーニュのラ・ターシュのクローンとされるピノ・ノワールを使っており、その力強い味わいで2000年代のピノ・ノワール・ブームに乗って一世を風靡しました。パッツ・アンド・ホール、ピーター・マイケルといった凄腕のワイナリーにピノ・ノワールを供給して有名になり、さらに自身のワイナリー、ピゾーニのピノ・ノワールは「ピゾーニ、ピゾーニ(ピゾーニ・ワイナリーのピゾーニ・ヴィンヤード)」として今も珍重されています。

ロアーのオーナーであるフランシオーニ家は、ピゾーニ家と仲がよく、中でもピゾーニの畑を作ったゲイリー・ピゾーニと、今回セミナーをしたニックの父親であるゲイリー・フランシオーニは幼少のころからの友人同士。その縁からフランシオーニ家の畑でもピゾーニの畑のクローンを使わせてもらうのと同時に、両家で共同運営する畑もあります。また、ロアーでもピゾーニのブドウからワインを作っています。
畑マップ
こちらが畑のマップです。実は私もサンタ・ルシア・ハイランズの畑のマップをあまりちゃんと見たことがなかったのですが、ロアーが使っている畑(オレンジ色のところ)は結構分散しています。マップの端から端までは30kmほどあります。

この地図は左右になっていますが、この地図の右の方が北西方向にあたり、このしばらく先にモントレー湾があります。地図の上側、つまり南東方向は山脈になっています。
SLH
こちらを見れば雰囲気がわかるでしょうか。
ここはモントレー湾から強い風と霧が吹き込んできます。そのため、海に近い北西部ほど寒く、南東ほど暖かくなります。上の畑のマップで言うと右ほど冷涼で、左ほど温暖ということです。この中で一番左にあるのがピゾーニの畑です。

マップの中で一番右、すなわち一番冷涼なところに位置するのがロゼラズ・ヴィンヤード(Rosella's Vineyard)で、ゲイリー・フランシオーニの奥さんの名前から付けた畑です。ここがフランシオーニ家の畑では一番古く、家もここにあります。
ロゼラズ
こちらがロゼラズです。約50エーカーで、ピノ・ノワールのほかシャルドネと少量のシラーもあります。ロゼラズの特徴は、ピゾーニ以外にも様々なクローンを植えていること。ポマール・クローンやディジョン・クローンの777、667などを使っています。ピゾーニ・クローンの比率は半分弱だそうです。ロゼラズのピノ・ノワールはローズ・ペタルの香りがあり、ロアーのピノ・ノワールの中では一番エレガントな味わい。個人的にもロゼラズのワイン、大好きです。特に、現在は関係が切れてしまったオーガスト・ウエストのロゼラズは、かなりたくさん飲んでいました。
ゲイリーズ
次が、ゲイリーズ(Garys')とソベラネス(Soberanes)で、この2つの畑は隣接しており、どちらもピゾーニ家とフランシオーニ家の共同経営です。ゲイリーズはピゾーニ・クローンが大部分でカレラ・クローンもあり、スパイス感や複雑さを出すのに役立っているそうです。
シエラマー
次のシエラ・マー(Sierra Mar)は非常にユニークな畑。ゲイリーズからもだいぶ南になり、温暖になりますが、ここは標高が300m以上あり(ロゼラズは100m以下)、数多くの尾根からできています。土地は400エーカーほどありますが、うち植樹されているのはわずか50エーカー。ピノ・ノワールが3分の2でシャルドネも11エーカーほどありますが、このほかごくわずかだけシラーやグルナッシュ、ヴィオニエもうわっています。

畑は有機栽培ではありませんが、サステナブルで認証を受けています。収量は多くて1エーカー3トンとかなり少なめです。

ワイナリー
こちらがワイナリーです。機能的なだけでなく、かなりおしゃれな作り。これはロゼラさんの意見がだいぶ入っているそうです。
樽
シャルドネは樽発酵・樽熟成しています。樽発酵すると、より樽の風味が付きそうですが、実際には樽の風味がよくなじんでむしろ樽の感じは強くなくなるそうです。樽は5種類のメーカーを使っており新樽比率は30%(シャルドネ)だそうです。樽メーカーによって風味の特徴があり、インポーターのilovecalwineさんによると、樽別の試飲をしたら全然味わいが違って驚いたそうです。
タンク
ピノ・ノワールは写真のステンレススティール・タンクのほか、コンクリート槽も使っているとのこと。タンクは特注品で通常のものよりかなり浅くなっています。これはスキン・コンタクトの効果を出しやすくするためだとか。果房はパンチダウンで果汁と混ぜています。ホールクラスターは年によって使うときと使わないときがありますが、ピノ・ノワールではあまり使わない方向だそうです。シラーではゲイリーズのシラーで100%全房発酵など、かなり使っています。

今回、私は試飲なしだったのですが、それでもすごく勉強になりました。ロアーのワイン自体は10数年まえから飲んでいますし、実は初代ブログを立ち上げた2003年3月に記事で書いたワイナリーの一つなのである意味とても懐かしかったのですが、こうやって直接話を聞いたのは初めてで、貴重な経験でした。

なお、今回輸入されたのは
ROAR SLH Chardonnay 2018
ROAR SLH Pinot Noir 2018
ROAR Rosella’s Vineyard Pinot Noir 2018
ROAR Garys’ Vineyard Pinot Noir 2018
の4種。特にSLHのシャルドネは限られた州と日本にしか出ていなかったレアものです。すでに輸入元完売で、リンク先のWassy'sの在庫のみだそうです。

以下のリンクのショップはWassy'sです。