カリフォルニアのセントラル・コーストでサンタ・ルシア・ハイランズなどのあるモントレーと、サンタ・リタ・ヒルズなどのあるサンタ・バーバラに挟まれているのがサン・ルイス・オビスポ郡です。サン・ルイス・オビスポの中でも北部のパソ・ロブレスは高品質なシラーやカベルネ・ソーヴィニヨンなどで比較的知られていますが、アロヨ・グランデ・ヴァレー、エドナ・ヴァレーといった南部の沿岸地域はちょっとマイナーなイメージ。この地で一人気を吐くといっても過言ではないのがタリー・ヴィンヤーズ(Talley Vineyards)のブライアン・タリーです。1986年から30年以上にわたってワールドクラスのシャルドネとピノ・ノワールを作り続けています。

品質的にはワイン・アドヴォケイトで最高98点、ヴィナスでも最高95点など、サンタ・リタ・ヒルズのトップクラスと比べても引けを取らない評価を得ており、それでいて価格も比較的リーズナブル。安いものは3000円そこそこから入手できます。

そのちょっとマイナーさのせいか、これまであまり人前に出たのを見たことがなかったのですが、今回はオンライン・セミナーの形で直接話を聞けました。

タリーの家族は1948年からサン・ルイス・オビスポで野菜を作っていました。3代目にあたるブライアンがワインを作り始めたのは前述のように1986年。1988年にはワイン・アドヴォケイトで非常に好意的なレビューが載ったとのこと(現在のワイン・アドヴォケイトのサイトではそのレビューは見つかりませんでした)。1991年にはニューヨーク・タイムズにも好意的なレビューが載り、タリーの名声を築きました。

タリーはワイナリーのあるアロヨ・グランデ・ヴァレーと隣のエドナ・ヴァレーに多くの畑を持っています。この二つの谷はサンタ・バーバラとよく似ており、太平洋から東西方向の山脈に沿って冷気が入ってきます。海からの距離も近く、カリフォルニアの中でも非常に冷涼な地域です。


これはブライアン・タリーの自宅のバルコニーから撮った写真ですが、夏の間はほぼ毎日このような霧が入ってくるそうです。


こちらはワイナリーの写真。建物は「リンコン・アドビ」というランドマークで、ラベルにもこの建物の絵が記されています。

タリーのワインは自社畑のワインと、買いブドウも含む「ビショップス・ピーク(Bishop's Peak)」の2つのラインからなります。といってもビショップス・ピークも買いブドウの比率は2割くらい(ヴィンテージによって変わります)、大半は自社ブドウで作っている非常にコスパの高いブランドです。

試飲は2017年のビショップス・ピークのシャルドネ サン・ルイス・オビスポから。ちなみにビショップス・ピークの名前は地域のランドマークになっている山の名前からだそうです。エドナ・ヴァレーの自社畑のブドウが中心で買いブドウを15%使っています。

廉価版のブランドですが、夜の暗い間に収穫をし、ホール・クラスターでプレス、ジュースをそのまま天然酵母で発酵という基本はエステートのワインと動揺です。ただ、エステートのワインがすべて樽を使っているのに対し、こちらは樽は2/3ほどで新樽はなし。後はステンレススティールとなっています。マロラクティック発酵はしていません。

きりりとした酸味が特徴のワイン。レモンやライムの皮、白い花、濡れた石…寿司や牡蠣に合うとブライアン・タリー。



このレベルで2000円台というのはかなりの驚きです。レベル高い。

次はエステートのシャルドネ。タリーはサン・ルイス・オビスポの沿岸地域で初めてシャルドネを作ったワイナリーだそうです。20%新樽で発酵。マロラクティック発酵も100%行います。

ヴァニラ、オレンジピール、ネクタリン、クリームブリュレの風味。酸がかなり高く、マロラクティック発酵でまろやかさを出したことでバランスが取れた味わいになっています。高級感ある味わい。



これも5000円以下とは思わなかったです。高級感もありとてもいいシャルドネ。

赤はビショップス・ピーク・ピノ・ノワール 2017 サン・ルイス・オビスポから。

カリフォルニアのピノ・ノワールでは珍しいくらい淡い色合い。透明感ありクリーンなピノ・ノワールです。ストロベリー、レッド・チェリー、ローズ・ペタルなどを感じます。冷涼系のピノ・ノワールでおいしいです。



繰り返しになりますが、この冷涼感ある味わいで3000円台はちょっと驚き。ワイン・アドヴォケイトで91点です。

次はエステートのピノ・ノワール。タリーをワールドクラスのワイナリーにした、ブライアン・タリーにとっても思い入れのあるワインです。ヴィンテージは2016年。タリーが誇る2つの自社畑、リンコンとローズマリーのブドウだけを使っています。これもサン・ルイス・オビスポで初めてのピノ・ノワール。

房と実のレベルで2回選果し、オープントップの発酵槽で天然酵母を使って発酵。手で優しくパンチダウンしています。2週間くらいで発酵が終わるとバスケットプレス(下の写真)でプレスし、樽熟成します。新樽率は1/3。



2016年はブライアン・タリーがこれまでで最高のヴィンテージとするいい年です。赤系果実の味わいに、ブラックベリーなどの酸が豊かな黒系果実の風味。ミネラル感。ボディもありパワフルかつしなやかなワイン。



そして、最後はタリーのフラッグシップといえるローズマリー・ヴィンヤードのピノ・ノワール2016。ローズマリーは母親の名前で、母親の自宅の周りにある畑がここ。ローズマリーのブドウは完全除梗で使います。ちなみにリンコンはワイナリーの周りの畑です。エステートのピノではリンコンは1/3くらい除梗しないで使っているとのこと。

エステートよりも複雑味があり、マッシュルームなどの風味も感じます。素晴らしい。ワイン・アドヴォケイトでは94点。



冒頭に書いたように、ややマイナーなイメージのあるサン・ルイス・オビスポですが、その理由としては以前は大資本のワイナリーが中心だったことがあるようです。最近では小さなワイナリーが増えてきており、ブライアン・タリーによるとこれから20年で有名なワイナリーも増えてくるだろうとのことです。

改めてタリーの実力を確認するとともに、今後のアロヨ・グランデ・ヴァレーやエドナ・ヴァレーにも期待したくなるセミナーでした。