2017年、2020年とナパなどで山火事による煙汚染でワインの生産が大きな影響を受けました。その後、煙汚染への研究や対策が進みつつあります。その中から現在試みられている2つの新しいアプローチを紹介します(Trends in Winemaking: Two New Approaches to Smoke Taint Mitigation)。

一つ分かってきたことは、従来煙汚染の原因と考えられていた物質が必ずしも煙汚染のフレーバーの素にはなっていないことです。2つの方法の一つは清澄樹脂を使ったもの、もうひとつは膜による分離と固相抽出を組み合わせたものです。

前者の方法はジェフ・マレル(Jeff Murrell)という人が開発しているもの。ナパのセーフ・ハーバー・ワイン・ストレージでVinSciというワインの分析ラボを行っており、StaVinという会社で研究のディレクターもしています。彼が開発した清澄樹脂は、煙汚染による口当たりの問題を解決しようというものです。

この物質「SRxワインコラム」はすでにナパやソノマ、ウィラメット・ヴァレーのワインメーカーの間で話題になっており、この樹脂を入れたスティールのハウジングにワインを通すだけで効果が得られます。複雑な装備は必要ありません。現在FDAから食品での利用認可を得ようとしており、TTBによるワインのための樹脂利用のガイドラインに該当することを確認しています。マレルによるとワインメーカーはタンクからタンクに移すときや樽から樽に移すときなどに、これを利用できるとしています。チョーク・ヒルやパイン・リッジ、シーヴィー、ソコール・ブロッサー、コッポラなどがこの技術をすでに試しています。

マレルによると、これまでのアプローチの多くはアロマに注力していましたが、彼の分析では煙汚染されたワインの90%以上で香りは問題ないとのこと。逆に言うと、キャンプファイアーにいるような香りになってしまっているワインについては収穫されるべきではなく、そのような「行き過ぎた」ワインへの対処ではないとしています。

実際に試したワインメーカーによると、たしかにアロマにはあまり影響せず、灰のような苦さを取り除いてくれるとのこと。コッポラのワインメーカーであるコーレイ・ベックは「最初の実験結果はとてもよく、感銘を受けている」としています。

一方、膜を使った新しいアプローチは、逆浸透膜での処置のリーダーであるMavrik North Americaが開発しました。「汚染されたワインを吸うための迅速で完全かつ永続的な解決策」だとしています。こちらは煙のフレーバーとアロマに注力して取り除く方策です。ドン・セバスティアーニ・アンド・サンズは2020年に煙汚染されたサスーン郡のカベルネ・ソーヴィニヨンを大量に購入しました。煙にさらされたブドウは購入しない方針でしたが、栽培者が保険に入っていなかったなどの理由で購入したのでした。Mavrikの膜を2回使うことでフルーティなワインに仕上がったとのことです。

何よりも煙にさらされないことが一番ですが、こういった技術の進化で、煙汚染の被害が少なくなることを期待します。