ナパで最も多くの有機栽培やバイオダイナミクスの畑を栽培しているのが誰だかご存じでしょうか。フロッグス・リープ? オーパス・ワン? デイビッド・エイブリュー?

答えは「ジャック・ニール&サン・ヴィンヤード・マネージメント」という畑の管理会社です。私も知らなかったのでほとんどの人が知らないと思いますが、ナパでCCOF(カリフォルニア有機栽培認証)を得ている畑や、バイオダイナミクスの畑の大部分を管理している会社で社員も420人もいる大会社です。

この会社の名前を聞いたことがなくても、「ニール・ファミリー・ヴィンヤーズ」というワイナリーは知っているかもしれません。昨年来、環境再生型有機栽培(Regenerative Organic Farming)がしばしば話題になりますが、その世界的認証であるROCをナパで初めて(米国では2番目)に取得したのがニール・ファミリーです。

ここはハウエル・マウンテンとラザフォードに畑を持っており、ROC認証を得たのはハウエル・マウンテンの方でしたが、ラザフォードの畑「ラザフォード・ダスト・ヴィンヤード」もとてもユニークな畑になっています。

それこそがこの記事の主旨である「ダブル・トレリス」と呼んでいる仕立て法です。
Rutherford dust

ブドウの樹が、上と下と2段になっています。よくわからないですか?
Double Trellis

これでどうでしょう。ブドウがヴぇレゾンすると上が黒ブドウで下が白ブドウになっているのがわかると思います。もちろん、一つの樹に黒ブドウと白ブドウの両方が出ているわけではなく、樹を1本おきに黒ブドウ、白ブドウとして、白ブドウは低く、黒ブドウは高く剪定しています。

この仕立て方の最大のメリットは収穫が倍になること。同じ場所に黒ブドウだけを植えていたときと比べて黒ブドウの収穫量は変わらず、白ブドウの分だけ収穫が増えているそうです。

剪定の労力は増えますが、倍ほどではなく効率はいいのです。収穫量が増えたら、ブドウの質は下がるのではないかと思う人もいるでしょう。少なくともこれまでのところでは、品質が落ちたということはないようです。例えば、ワイン・エンスージアストでは2019年のカベルネ・ソーヴィニヨンが97点、2021年のヴェルメンティーノが91点を取っています。ドウが水を競い合うことで、自然に枝の成長などが抑えられているそうです。

ここはスケアクロウなどの畑のすぐ近くでナパの中でも最高級のカベルネ・ソーヴィニヨンができる地域。当然、畑もほとんどがカベルネ・ソーヴィニヨンなどボルドー品種になっています。白ワインも作りたくても、ワインが高く売れるカベルネ・ソーヴィニヨンを優先せざるをえないという状況です。この仕立て方をすると、上段のカベルネ・ソーヴィニヨンには十分に日光が当たり、下段の白ブドウ(ソーヴィニヨン・ブランとヴェルメンティーノ)はその日陰で少し温度が低くなり、適度な温度になるとのことです。この地域で白ワインを作るための方法としても画期的です。

ナパはブドウ畑が飽和状態で、新しい開発もほとんど認められていません。これ以上収穫を増やすのは難しい状況です。近年は特にソーヴィニヨン・ブランなどの白ブドウが足りず、多くのナパのワイナリーが近隣の郡(レイクやソノマ、ソラノ)から調達するようになってきています。この方法を使えばナパ産の白ワインが復活することになるかもしれません。

また、この方法を使うことで二酸化炭素の放出もより少なくできるとニールは主張しています。環境にも優しい方法なのです。

この方法を採用する畑は少しずつ増えています。セント・ヘレナのソラレス(Solares)ヴィンヤードは4年前にダブル・トレリスに切り替え、上段にカベルネ・ソーヴィニヨンとプティ・シラー、下段ではアルバリーニョを育てています。Lola Winesというワイナリーがアルバリーニョを、アワーグラス(Hourglass)が赤を購入しているとのこと。

かの有名な「マーサズ・ヴィンヤード(Martha’s Vineyard)」も今年この方法を一部でとりいれました。ブドウの樹の勢いが強すぎるため、それを弱めるために採用したとのこと。ニールはこの畑の栽培を1980年代から担当しており、彼の判断に従ったそうです。採用した白ブドウはアルバリーニョとフィアーノです。

これからさらに増えていくのでしょうか。