多くの日本人にとっては、これだけは起こってほしくなかった、ということが起こってしまった感じですが、なってしまったものはしょうがない。あとはそれがいい方向に向かうことを期待するばかりです。

Donald Trump

では、トランプ大統領がワイン業界にどう影響するかですが、既に英国のDecanter誌に記事が出ていました(What a Trump presidency might mean for wine)。ここでは、それも踏まえながら、個人的な見解も含めて書いていきます。

2016年は、英国のEU離脱(Brexit)という、これもショッキングな投票結果がありましたが、それになぞらえている記事です。英国のポンドはBrexitの決定以降、かなり弱くなり、大幅なポンド安が続いています。そのため、英国ではワインの値上がりが続いていますが、日本円に換算するとむしろ値下がり傾向にあるというのは先日「高級ワインのインデックス、日本円換算では値下がり傾向」という記事で紹介した通りです。

日本時間の水曜日の開票中は、トランプ大統領の可能性が高まることで市場が乱高下し、円ドルの為替も朝方の1ドル105円近辺から一時は1ドル101円台にまで円高になりました。ただ、選挙結果が決まったあとはむしろ落ち着いた値動きに戻り、Brexitのときのように、一気にドル安に流れるということはありませんでした。このあたりは、コンピュータによる取引の判断が影響したということもあるようですが(「円はなぜ100円を突き抜けなかったか 米大統領選が映す機械取引の妙」参照)、ひとまず落ち着いたのは良かったと思います。

ただ、トランプ大統領が実際に政権について以降、ドル安傾向が強まる可能性は高いように思います。強いアメリカの復活をスローガンとするトランプ氏ですから、輸出企業が有利になるような施策を打ち出すことになるでしょう。また、保護主義が高まり、TPPの承認も棚上げになるでしょう。

TPPではワインの関税撤廃も入っていますから、これが実行されないのは、米国から日本にワインを輸入する際にはマイナスになります。ただ、ドル安円高は、日本の産業全体にとってはマイナスかもしれませんが、ワインの輸入価格という面ではプラスです。ワインの関税は1本あたり100円くらいですから、1000円以下の安ワインの市場を除くと、これがなくなるかどうかより、為替の影響の方が遥かに大きいです。

一方で、米国は世界最大のワインの市場となっていますが、ドル安によってEUから輸入するワインは値上がりするでしょう。高級ワインではフランスなどEUのものよりもカリフォルニアワインを選ぶ動きが高まるかもしれません。1万円を超えるような高級ワインでは、日本に輸入したくてもモノがない、といったことも起こるかもしれません。EUから米国への輸出が減ると、EU諸国はよりアジアを重視するようになる、といった変化の可能性もあるかもしれません。

為替と関税関係をまとめると、TPP非承認はマイナスだが、ドル安に振れることで、2000円以上のワインではメリットが出てくる。ただし高級ワインは争奪戦が激しくなるかもしれません。

また、米国のワイン業界にとっては、メキシコからの移民の問題が最大の懸念材料になるでしょう。トランプ氏は、メキシコとの間に壁を作れと主張するほど、移民に警戒的です。一方で、カリフォルニアなどのブドウ畑で働く人は大半がメキシコ人です。もちろん正式な手続きを経て米国に来ている人も多いでしょうが、不法移民がいない、ということはないでしょう。トランプ氏が大統領になった暁にどういう施策を打ってくるかは気になるところです。新たな移民が入ってこなくなったとしてら人手不足で畑を管理できなくなったり、コストが上がったりということも起こるかもしれません。結果としてワインの品質が落ちたり、価格が上昇するといったことが本当に起こる可能性もありそうです。

実際にトランプ大統領になってみないと何がどうなるかわかりませんが、マイナスのことだけではなさそうだと思って見ていきましょう。