米国のワイン市場で今一番注目されているのは「缶入りワイン」だと言っても過言ではありません。2018年から2019年にかけても年間34%という急成長を遂げています。このブログでも何度となく取り上げているので、最近の記事から2本挙げておきましょう。
急成長遂げた缶入りワイン(2019/5/24)
急増止まらない缶入りワイン(2019/8/15)

これに伴い、日本にも少しずつ缶入りワインが輸入されるようになってきています。その一つが今回紹介する「ヘッド・ハイ」。 Price Family Vineyards & Estates ディレクター・オブ・セールスのクリス・マットソンが来日して、紹介しました。

ヘッド・ハイのオーナーはビル・プライス。実業界で成功した後、ワインビジネスに入り、デュレルやギャップス・クラウンといった畑を所有するほか、キスラーやスリー・スティックスといったワイナリーのオーナーでもあります。また、サーフィン好きでもあり、ヘッド・ハイとは頭の高さの波というサーフィン用語から付けられています。当初はスリー・スティックスの中のワインの名前として付けられたヘッド・ハイでしたが現在は独立しています。

今回ヘッド・ハイで輸入されるようになったワインは2つ。一つはピノ・ノワール ソノマ・カウンティ 2018(3600円)。もう一つは250ml缶入りのピノ・ノワール カリフォルニア NV(900円)です。

スリー・スティックスがハイエンドのピノ・ノワールを目指しているのに対し、ヘッド・ハイはコストパフォーマンスの高いピノ・ノワールを提供しようとしています。畑はビル・プライスが所有するデュレルやギャップス・クラウンなどのブドウを使っています。

クリス・マットソンによると、缶入りワインはミレニアル世代と呼ばれる若い人たちに受け入れられています。手軽さや価格、アウトドアのライフスタイルにマッチしているということに加え、分量が適切だということも理由になっています。また、缶の方がリサイクルしやすく地球環境にも優しいと言われています。

ワイン造りの観点からすると、缶入りワインはボトルのワインと違うアプローチが必要になるといいいます。ワインを缶に入れるためにはワインの酸との作用を防ぐために缶の内側にライナーを入れますが、現在のところこれがどれだけ保つのかは不明とのこと。一応保証としては5カ月程度なので、熟成には不向きです。缶入りワインは基本的に買ってすぐ飲まれることを想定しているのでそれで美味しいワインにする必要があります。また、ミレニアル世代は缶入りワインをグラスに移すことなく直接飲むことが多いので、それで美味しいことも必要です。

急増止まらない缶入りワイン(2019/8/15)の記事で書いたように、コンシューマーは250mlのサイズを好むという調査結果が出ています。米国ではこのサイズは4本パックで売らなければいけないという制限がありますが、現在TTBにはたらきかけてこの制限を変えようとしているところです。ヘッド・ハイは規制緩和も見越して最初から250ml専用で作っており、規制のない日本ではパックではなく缶単位で販売します。

ボトルとの造りの違いで見ると、ボトルのヘッド・ハイは新樽も3割り程度使っていますが、缶入りの方は新樽は使っていないとのこと。果実味を中心にした味に仕上げています。また、缶入りはヴィンテージを入れていません。実際には現在販売しているのは2018年のものですが、ヴィンテージを入れると逆に「若すぎる」と思われるのを避けたいのだそうです。

実際に試飲してみましょう。写真で右がボトルのヘッド・ハイ、左が缶のヘッド・ハイです。明らかに色が違います。味わいもボトルの方が濃くしっかりとしていて、普通にワインを評価するならばやはりボトルのものの方が美味しいと思う人が多いでしょう。

ただ、缶入りの方もチャーミングな造りで、普通にピノ・ノワールとして美味しいワインです。また面白いのが缶から直接飲むとまた味わいが変わること。当然香りは感じにくくなりますが、逆にタンニンなどのストラクチャーは缶から飲むほうがはっきりします。ボトルと同じ味わいのものを缶から直接飲んだら重すぎるだろうと思います。缶から直接飲むのは「意外と美味しい」というのは一つの発見でした。実は、このワインをアカデミー・デュ・ヴァンの授業の後にも試飲してもらったのですが、そこでも同じような感想でした。

缶入りのヘッド・ハイは250mlで900円。750mlに換算すれば2700円です。2000円台のピノ・ノワールとして納得できる味わいですが、缶入りワインの中では少し高めの値付け。ただ缶入りワインでちゃんとしたピノ・ノワールはまだほとんどないので、そこは大きな魅力になるでしょう。余談ですが、米国の価格は4本で28ドルなので1本7ドル。日本のインポーター価格はずいぶん頑張っていますね。

いろいろな意味で今後が気になるワインです。