オー・ボン・クリマ(Au Bon Climat)のフラッグシップのピノ・ノワールといえば、娘の名前を付け様々な畑からのいいブドウを使ったイザベルか、息子の名前を付けて銘醸畑ビエン・ナシードの中でもよりすぐりのワインを作るノックス・アレキサンダーを思い浮かべる人が多いと思います。

もちろん、この2つは毎年作られるオー・ボン・クリマを代表する素晴らしいワインですが、実はめったに作られない「幻」と言ってもいいフラッグシップがあります。それが「ラーム・ド・グラップ(Larms de Grappe)」。2001年と2005年に作られてから10年以上も作られていませんでしたが2016年に久々に作られ、それがようやく出荷されて国内にも入って来ています。

なぜ、こんなにも作られないのかというと、100%除梗なしの全房発酵のワインだから。

英語でホール・クラスターと呼ばれる全房発酵で作ったワインは茎からの抽出による複雑さが味わいを深めますが、一方で青臭くなったりタンニンがきつくなったりとデメリットもあります。有名なところではDRCが全房発酵を行っています。一方、オー・ボン・クリマのピノ・ノワールの場合はイザベルもノックスも基本的にはすべて除梗します。創設者ジム・クレンデネンが師匠と仰ぐアンリ・ジャイエに倣っています。

オー・ボン・クリマの場合は、全房発酵を行っても茎からの青みが出ないような年だけこのワインを作っているのです。とはいえ前回作られた2005年のものを近年試飲したことがありますが、10年以上熟成していてもまだタンニンがかなり強く、ガチガチのワインで正直言って美味しく飲むのはちょっと難しいかもと感じました。

今回2016年のものを試飲しましたが、これは非常にいいです。全房らしい深みや複雑さがきちんとあり、一方で今飲んでも十分おいしく、バランスもよく作られています。今飲んでも2005年よりもずっと飲みやすいし、10年以上の熟成も可能だと思います。2005年のものは実売2万円を超えますが、今回は価格も抑えられています。手に入れる価値のあるフラッグシップになったと思います。ヴィナスのアントニオ・ガッローニは95+とかなり高い評価を付けています。

なお、畑はビエン・ナシードと双璧をなすサンタ・バーバラの銘醸畑サンフォード・アンド・ベネディクトです。