昨年、「【比較試飲】大人気ブレッド&バターに対抗するシャルドネは?」という記事で紹介したように、今日本で一番売れているカリフォルニアワインの白はブレッド&バターです。樽がこってりと効いていて、バターの風味も濃厚なまさに「ブレッド&バター」な味わいです。

ブレッド&バターは2014年に設立された、まだ非常に若いワイナリーですが、オバマ大統領のランチミーティングで使われ、ニールセンの急成長企業に選ばれるなど米国でもすごい勢いで成長しています。

このヒットに触発されて、似たようなワインを造るところも増えてきました。

昨日、Twitterで知ったのがこのワイン。

モンダヴィよ、お前もか、という感じです。

1990年代にはこういったバタリーなシャルドネの全盛期だったわけですが、当時生まれた言葉が「Anything But Chardonnay」、略してABCです。こういったシャルドネに辟易したワインファンが「コテコテのシャルドネ以外のものを飲ませてくれ」ということで造った言葉です。

この20年間は、カリフォルニアのシャルドネは基本的にはエレガントな方向に向かっていっていっていて、近年では逆に樽のこってり効いたシャルドネの方が少ないのではないかという印象でした。昔のスタイルを残しているロンバウアーが、ある意味残存者利益のような形で人気を集めてはいましたが。

それがここにきてのバタリーシャルドネ人気。

誤解があるといけないのですが、バタリーなシャルドネを好む人を否定する気など全くありませんし、良くないワインだとも思っていません。ワインはあくまで嗜好品ですから、好きなものを好きな人が飲めばいいわけで。ただ、一度あれだけ否定されたものがまた人気になってくるという時代の巡りが面白いなあと思って見ています。ファッションのリバイバル人気みたいなものでしょうかね。

話はちょっとずれますが、ある人がワインについて「イノベーションのジレンマ」のことを書いていましたが、嗜好品についてはイノベーションのジレンマはあまり当たらないかなあとも思っています。

イノベーションのジレンマは、「これまでの製品より品質は少し落ちるけれども便利なものがでてきたときに、従来の製品のメーカーが新しいものを品質が落ちるということで否定し、その間にそちらの品質がどんどん上がって市場を席巻してしまう」というのが基本構図です。アナログレコードからCDへの変化とか、まさにその例の一つだったわけですが、音楽を聴くツールが嗜好品にまでいたったことで、今では逆にアナログレコードの方が売れるといったことがおきています。「写ルンです」の再ヒットみたいなものもそうですね。便利さや画質で言えばスマホのカメラの方が圧倒的に上なのに、面白さで売れる。

おそらくABCの時代はカリフォルニアワインがまだまだ発展途上で、栽培的にも醸造技術的にも試行錯誤も多かった、ということも多様性よりも分野の否定につながったということがあったのではないかと思います。

バタリーなシャルドネのヒットは、カリフォルニアワインの成熟が生んだ新たな姿なのかもしれません。