ナパのガーギッチ・ヒルズ・エステート(Grgich Hills Estate)から、現ワインメーカーの娘であるマヤ・ジェラメス氏が来日。ランチイベントに参加してきました。



ガーギッチ・ヒルズの創設者はマイク・ガーギッチ。パリスの審判で白ワインの1位になったシャトー・モンテレーナで、そのワインを作ったワインメーカーです。サンフランシスコでコーヒー会社を営んでいたオースティン・ヒルズという人に見染められてパートナーシップを組んでワイナリーを立ち上げました。

オースティン・ヒルズは出資はするが口は出さないという素晴らしい人で、今も半分の権利を持っていますが、ワイナリーの経営自体はガーギッチの家族で行っています。今年100歳になったマイクは引退していますが今も週に2、3回はワイナリーに来るそうです。現在はマイクの娘のヴィクトリアが社長兼CEOで、マイクの甥でマヤさんの父親であるイヴォ・ジェラメスがワインメーカーと栽培を担当しています。

2008年にはすべてのワインを自社畑のブドウから作る「エステート」になりました。現在はナパヴァレーの5か所に計148ヘクタールの畑を持っています。栽培ではオーガニックからビオディナミ(バイオダイナミクス)に移行し、さらに2023年には環境再生型有機栽培(リジェネレーティブ・オーガニック)の認証「ROC」を受けています。この認証を受けたワイナリーは世界中で12しかありません。

通常、農業では地面を耕すのが基本になりますが、ROCでは耕さない方が基本になります。地中の二酸化炭素を排出させないというのと、耕すことによって土壌にスペースができ地中に雨がしみこみやすくなるのを避けるといった意味合いがあります。ROCではこのほか動物の福祉や社会的公正といったことも審査の対象になります。

有機栽培は、一般にコスト高と言われていますが、ガーギッチ・ヒルズの試算では1エーカー当たりの栽培の費用は11000ドル。ナパの平均は14000~15000ドルだそうで、それよりもコストがかかっていないそうです。




ワインは6本。
まずは
2020 フュメ・ブラン エステート・グロウン ナパ・ヴァレー
(「エステート・グロウン ナパヴァレー」は当然ながらどのワインにも付きます)
フュメ・ブランはロバート・モンダヴィが設立して間もないころにソーヴィニヨン・ブランのワインにつけた名前として知られています。当時のソーヴィニヨン・ブランは甘口がほとんどでした。モンダヴィも最初はソーヴィニヨン・ブランという名前で辛口かつ樽を使ったものを出したのですが、それではほとんど売れず、フュメ・ブランと名前を変えたところ大ヒットしたという経歴があります。モンダヴィがソーヴィニヨン・ブランを作ったのは熟成が必要なく、ワインの現金化が一番早くできるからという面もあり、ガーギッチも同じように最初にソーヴィニヨン・ブランを作りました。マイクは最初の「フュメ・ブラン」をモンダヴィで作ったワインメーカーであり、モンダヴィに敬意を表してこの名前を使い続けています。ただ、現在ではフュメ・ブランを知っている人の方が少なくなってしまったため、ソーヴィニヨン・ブランという品種名も書かれています。樽は旧樽で1500ガロンの大樽を80%使っています。畑はカーネロスとアメリカン・キャニオンでアメリカン・キャニオンが中心です。なお、アメリカン・キャニオンはAVAではなく、町の名前(AVAではナパ・ヴァレーだけになります)で、ナパの中でも一番サンパブロ湾に近いところです。
柑橘類に、熟しすぎていないネクタリンの風味。青さは感じませんがトロピカルフルーツまでの熟度はありません。ちょっとクリーミーなテクスチャ。後味にミネラル感。品よく美味しいです。ブラインドで飲んだらソーヴィニヨン・ブランとは思わないかもしれません。

2本目は
2020 シャルドネ エステート・グロウン ナパヴァレー
同じくカーネロスとアメリカン・キャニオンの畑ですがカーネロスが中心になります。2020年は干ばつの影響で例年の半分くらいしか作れなかったそうです。ソーヴィニヨン・ブランとは逆で8割が小樽、2割が大樽の発酵・熟成。新樽も4割使っています。
ヴァニラが上品に香ります。ピーチやマンゴーの香り、フレッシュな酸味があり余韻も長い。美味しいです。

3本目は今回特別に輸入されたもので「パリス・テイスティング・コメモラティブ」という名前の付いたシャルドネです。ヴィンテージは2020。
マイクが90歳になった2013年に始めたワインで、ガーギッチの畑の中でも樹齢の高い1989年に植樹されたウェンテ・クローンのブロックのみを使っています。畑はカーネロス。800~1000ケースという少量しか作っていません。なお、2020年はラベルも特別で、今年100歳になったマイクを祝ってマイク自身の絵が描かれています。
マンゴー、白桃のまろやかでやわらかい風味、キャラメルのような風味もあります。なめらかなテクスチャーは舌にまとわりつくようで、ついついグラスが進みます。後味にきれいな酸が残るのも好印象。すばらしいシャルドネです。

4本目はジンファンデル。ヴィンテージは2018。
ジンファンデルはマイクの故郷であるクロアチアが起源であることがUCデーヴィスのキャロル・メレディス博士によって明らかになっていますが、実はこの解明にはマイク自身が大きくかかわっています。マイクはカリフォルニアに来てジンファンデルを見たときに、クロアチアの主要品種である「プラディッツ・マリ」に似ていると思いました。クロアチアでもジンファンデルとプラディッツ・マリは同じだとする本も出ており、その話をキャロル・メレディス博士に紹介しました。クロアチアからプラディッツ・マリを取り寄せて調べたのですが、結局は違う品種であることがわかり、ただ近い品種であることもわかりました。博士はクロアチアに調べに行きたいと思い、現地の研究者とマイクを介して連絡を取りながら最終的にクロアチアで様々なサンプルを入手し、起源の解明につながったのでした。そういった意味でもガーギッチ・ヒルズにおいて大事な品種の一つとなっています。
ジンファンデルは非常にアルコール度数が高くドライフルーツのような風味が顕著なワインになることがよくあります。これはジンファンデルが不均一に成熟するという特徴から来ているもので、房のすべての実が熟すまで待つとどうしてもレーズン化してしまうブドウも出てきてしまうのです。そこでガーギッチ・ヒルズではなるべくブドウが均一に熟すよう、栽培途中でブドウの房の「肩」の部分の実を切り取り、房の中まで日が当たるようにしているとのことです。一般的にやられている方法なのか聞いたところ、ガーギッチ独自の方法とのことでした。
レッド・チェリー、プラムに熟したトマト、スパイスの風味を感じます。ジンファンデルとしてはタイトなスタイルでエレガント。

5本目は2018年のカベルネ・ソーヴィニヨン。
ヨントヴィルの自社畑のブドウを中心に、ラザフォードとカリストガのブドウをブレンドしています。カベルネ・ソーヴィニヨン80%、カベルネ・フラン7%、メルロー6.5%、プティ・ヴェルド6.5%。15000ケースほどの生産量のうち800ケースは毎年ライブラリとして保管し、5年あるいは10年後などに少しずつリリースしています。
青から黒果実の味わい。ローズマリー、フォレストフロア。酸の高さがヨントヴィルらしい感じです。かっちりとしたタンニン。熟成に向いたタイプのカベルネ・ソーヴィニヨンです。

最後は2019年の「ヨントヴィル・オールド・ヴァイン」カベルネ・ソーヴィニヨン。
これも限定品で、今回は特別に日本に入荷しています。シャルドネの「2020パリス・テイスティング・コメモラティブ」と同様、このヴィンテージはマイクが描かれたラベルになっています。
1959年に植樹された畑でイングルヌックのクローンが植わっています。ナパでは2番目に古いカベルネ・ソーヴィニヨン(一番はスケアクロウの畑)。イングルヌックから引き継がれたドミナスやレイルの畑もすぐ近くなので、おそらくかつてはイングルヌックにブドウを供給していた畑なのではないかと思います(スケアクロウも同様)。ちゃんと質問しておけばよかった。
レギュラーのカベルネ・ソーヴィニヨンと比べて赤果実を感じます。タンニンのきめ細かさが秀逸。果実味と酸がきれいで、杉やスパイスの風味。きわめてなめらかなテクスチャー。これも素晴らしいワインです。

ガーギッチ・ヒルズのワインは総じてソフトでなめらかな口当たりが特徴です。栽培によるものなのか、醸造によるものなのかはわかりませんが。パリスの審判でモンテレーナが1位になったことは多くの人が知っていても、マイク・ガーギッチがワインメーカーだったことは意外とそれほど知られていないような気がします。そういう意味ではもっと知られていいワイナリーですし、その歴史にあぐらをかくわけでなく(他の1位のワイナリーももちろんそうですが)、環境再生型農業にいち早く取り組むなど進化を続けていることも立派だと思います。

ランチの店は銀座のウルフギャング・ステーキハウスTeppan。熟成肉を鉄板焼きでいただけます。鉄板焼きで焼く分、さっぱりと味わえます。