渡米して最初の働き口がスクリーミング・イーグル! テロワール重視の実力派ワインメーカー
現在のナパでトップ3のワイン・コンサルタントを挙げるとしたら、トーマス・リヴァース・ブラウン、フィリップ・メルカ、アンディ・エリクソンといったところになるでしょうか。セリア・ウェルチの方がとか、やっぱりハイディ・バレットが、とか異論はもちろん認めますが上記3人の実力がトップクラスであることはだれもが認めると思います。
この中でも数多くの顧客をかかえることで知られているフィリップ・メルカの下でワインメイキング・ディレクター、つまりはワイン造りの実質的な責任者を務めるのがマーヤン・コシツキー(Maayan Koschetzky)が来日して開催したセミナーに参加してきました。ちなみに、先日まではメイヤン・コチスチキーと記していましたが、来日を機にインポーターの中川ワインが確認したところマーヤン・コシツキーが一番近い表記ということになりました。「胸騒ぎの腰つき~♪」で覚えてねとインポーターの弁。
マーヤンはイスラエルの出身。柔道の黒帯で柔道のために日本に来たこともあるそう。マルガリットというイスラエルトップクラスのワイナリーで働いていましたが、2010年にイスラエル以外でワインを作りたいと米国に来ました。米国で得た職場がなんとスクリーミング・イーグル。たまたまスクリーミング・イーグルで人を募集していると聞いて、インタビューのために最初の渡米をしたそうです。インタビューでは家族やワインへの愛、人とのコミュニケーションなどを聞かれたそうなので、スクリーミング・イーグルで働きたい人はそういうことを考えておきましょうね。
おそらく人としての魅力が優れていたのでしょう、マーヤンは首尾よくスクリーミング・イーグルで職を得て、奥さんと息子、犬を連れてナパに移り住みました。スクリーミング・イーグルではちょうど地下のカーヴに新しい醸造設備を作り始めたところで、その経験がとても大きかったようです。畑を55のブロックにわけて別々に醸造してブレンドするなど、スクリーミング・イーグルではある意味究極的に手の込んだワイン造りをしていました。
最初はスクリーミング・イーグルでしばらく働いた後はイスラエルに戻るつもりだったのですが、他のワイナリーも見てみたいと思ったところでフィリップ・メルカに出会い、1年だけ働こうと彼の会社「アトリエ・メルカ」に移りました。
アトリエ・メルカではナパの北から南まで15の畑、25のワイナリーを6人のチームで担当していました。1年で10年分以上の経験が得られたといいます。ワイナリーによってエステートの畑を持っているところ、栽培は栽培家まかせのところ、ワイナリーのワインメーカーがいてコンサルタントはその人にアドバイスするところ… ワイナリーごとにコンサルタントのかかわり方も違います。ブレンドにこだわるところと単一畑にこだわるところもあります。
アトリエ・メルカでは就職1年後に6人のリーダーとなるディレクターに就任し、現在に至ります。
これだけでも十分すごいのですが、アトリエ・メルカ以外のワイナリーでもワインを作っています。自身のワイナリーとして作っている「ラ・ペレ(La Pelle)」と、ワインメーカーとして直接携わっている「ブリリアント・ミステイク(Brilliant Mistake)」。このほか実は2000円台の人気ワイン「スラムダンク」のワインメーカーでもあり、Royal Prince、Stralaというワイナリーでもワインメーカーをしています。
今回はラ・ペレとブリリアント・ミステイクのワインを試飲しました。
左の5本が「ラ・ペレ」。フランス語でシャベルの意味で、ラ・ペレはシャベルをかたどっています。写真の部分は畑の土壌。どれがどのワインだかは裏を見ないとわからないのがちょっと難しい。新しいヴィンテージではもう少しわかりやすくなるそうです。ブリリアント・ミステイクのボトルはおしゃれです。
ラ・ペレは栽培管理の会社とのコラボレーションで作ったワイナリーです。ナパのブドウ畑はどこも非常に高額なので、いろいろな畑のブドウを使ってワインを作るには大変なお金がかかります。栽培管理会社とコラボしたのは様々な畑のブドウを使えるようにするためです。きちんと栽培を管理している畑のブドウを使って1990年ころのようなワインを作りたいとのこと。前述のように名前は「シャベル」の意味です。栽培においても醸造においてもシャベルは必需品なので、この名前を付けました。
最初のワインはソーヴィニョン・ブラン ナパヴァレー2020。1981年に植えられた畑で無灌漑の有機栽培。剪定はカリフォルニア・スプロールと呼ばれる、ワイヤーを使わず樹1本1本が独立した形で立つ形です。マーヤンはサンセールのディディエ・ダグノーが好きとのことで、そのスタイルを目指しているそうです。例えば発酵と熟成に使う樽はダグノーと同じ葉巻型と呼ばれる細長い形のものを使っています。樽のメーカー自体、サンセールに近いところのものです。発酵は10℃くらいの低温で6~8週間かけて行い、18カ月樽熟成します。樽熟成中には様子を見てバトナージュアルコール度数11.5%というのはナパのソーヴィニョン・ブランとしては異例の低さ。PHは2.9~3.0。酸度が高く、SO2添加などをしなくてもマロラクティック発酵は進まないそうです。
第一印象としては豊かな酸と華やかな香り。最初はかんきつ系が中心ですが、時間が経つにつれて華やかさが増してグアバやパイナップルのような熟度の高いフルーツの味わいが出てきます。濡れた石や石灰岩の風味が全体を引き締めています。シリアスなスタイルのソーヴィニョン・ブランです。
次はカベルネ・ソーヴィニヨン ナパヴァレー 2019。この後は単一畑が3本続きますが、こちらは6つの畑のブレンドもの。畑別に醸造して後からブレンドします。2019年は柔らかい味わいのものになったとのことですが、飲んでみると結構タニックで骨格があるワインです。
3本目から5本目は単一畑のワインが並びます。クームズヴィルのセニーザ・ヴァインヤード、オークノールのレッド・ヘン、セント・ヘレナのアルヴィウム・ヴィンヤードです。クームズヴィルやオークノールはナパの中では比較的冷涼なAVA、セント・ヘレナは一番暖かいAVAです。
クームズヴィルのセニーザは「灰」という意味。火山性の細かい灰がある地域です。畑はオーガニックの栽培です。9月末の収穫。黒果実と赤果実。酸高く、しっかりしたタンニン。複雑味がありクラシックなスタイルのカベルネ・ソーヴィニヨンです。
オークノールの畑は砂交じりのローム。バイオダイナミクスの栽培です。収穫は一番遅く10月半ば。スタイルとしてはセニーザに似ていますが、より酸が高く、赤果実の風味が支配的。個人的にはこれが一番好きな味でした。
セント・ヘレナのアルヴィウムは沖積扇状地の土地。沖積扇状地というと水はけがよく細かい土のイメージですが、扇状地を作ってきた川の流れの変化などによって場所ごとに少しずつ違った土壌になっているそうです。畑はリア仕立て。ここはリッチなワインを作るのは簡単で、それをどう抑えるかが腕の見せ所とのこと。3本の中では明らかに一番リッチで凝縮感のあるワイン。多くの人がイメージするナパのカベルネのスタイルです。バランスよく美味です。おそらく8割くらいの人はこれが一番好きというだろうと思います。
最後のワインはブリリアント・ミステイクのg3カベルネ・ソーヴィニヨン 2019です。
2014年に始めたワイナリーで、オーナーはライナート夫妻。
見るからにアート系の二人で、印象的なワイナリー名とボトルのデザイン。ワイン名のg3はベクストファー・ジョージ・ザ・サード(George III)ヴィンヤードから。もともとボーリュー・ヴィンヤード(BV)でNo.3という畑だったところをベクストファーが購入した畑です。150エーカーというかなりの広さの畑ですが、ブリリアント・ミステイクでは、この中でも砂利質土壌の好きなブロックを選んで使っているそうです。ラ・ペレの新樽率が60%なのに対し、こちらは80%。アルコール度数も1%ほど高い作りです。飲んでみるとやはり樽香しっかりで全体的にリッチさが増しています。ミントやハーブのニュアンスが濃いだけのワインになるのを防いでいます。
今回のセミナー、比較的少人数で最初からほぼフリートーク。質問割込みも自由という感じで「どうやってスクリーミング・イーグルに就職したの?」などぶっちゃけ質問も数多く出ました。この記事ではエッセンスのみを書いていますが、ほかにも樽トークなどいろいろと面白い話が聞けて楽しいセミナーでした。
この中でも数多くの顧客をかかえることで知られているフィリップ・メルカの下でワインメイキング・ディレクター、つまりはワイン造りの実質的な責任者を務めるのがマーヤン・コシツキー(Maayan Koschetzky)が来日して開催したセミナーに参加してきました。ちなみに、先日まではメイヤン・コチスチキーと記していましたが、来日を機にインポーターの中川ワインが確認したところマーヤン・コシツキーが一番近い表記ということになりました。「胸騒ぎの腰つき~♪」で覚えてねとインポーターの弁。
マーヤンはイスラエルの出身。柔道の黒帯で柔道のために日本に来たこともあるそう。マルガリットというイスラエルトップクラスのワイナリーで働いていましたが、2010年にイスラエル以外でワインを作りたいと米国に来ました。米国で得た職場がなんとスクリーミング・イーグル。たまたまスクリーミング・イーグルで人を募集していると聞いて、インタビューのために最初の渡米をしたそうです。インタビューでは家族やワインへの愛、人とのコミュニケーションなどを聞かれたそうなので、スクリーミング・イーグルで働きたい人はそういうことを考えておきましょうね。
おそらく人としての魅力が優れていたのでしょう、マーヤンは首尾よくスクリーミング・イーグルで職を得て、奥さんと息子、犬を連れてナパに移り住みました。スクリーミング・イーグルではちょうど地下のカーヴに新しい醸造設備を作り始めたところで、その経験がとても大きかったようです。畑を55のブロックにわけて別々に醸造してブレンドするなど、スクリーミング・イーグルではある意味究極的に手の込んだワイン造りをしていました。
最初はスクリーミング・イーグルでしばらく働いた後はイスラエルに戻るつもりだったのですが、他のワイナリーも見てみたいと思ったところでフィリップ・メルカに出会い、1年だけ働こうと彼の会社「アトリエ・メルカ」に移りました。
アトリエ・メルカではナパの北から南まで15の畑、25のワイナリーを6人のチームで担当していました。1年で10年分以上の経験が得られたといいます。ワイナリーによってエステートの畑を持っているところ、栽培は栽培家まかせのところ、ワイナリーのワインメーカーがいてコンサルタントはその人にアドバイスするところ… ワイナリーごとにコンサルタントのかかわり方も違います。ブレンドにこだわるところと単一畑にこだわるところもあります。
アトリエ・メルカでは就職1年後に6人のリーダーとなるディレクターに就任し、現在に至ります。
これだけでも十分すごいのですが、アトリエ・メルカ以外のワイナリーでもワインを作っています。自身のワイナリーとして作っている「ラ・ペレ(La Pelle)」と、ワインメーカーとして直接携わっている「ブリリアント・ミステイク(Brilliant Mistake)」。このほか実は2000円台の人気ワイン「スラムダンク」のワインメーカーでもあり、Royal Prince、Stralaというワイナリーでもワインメーカーをしています。
今回はラ・ペレとブリリアント・ミステイクのワインを試飲しました。
左の5本が「ラ・ペレ」。フランス語でシャベルの意味で、ラ・ペレはシャベルをかたどっています。写真の部分は畑の土壌。どれがどのワインだかは裏を見ないとわからないのがちょっと難しい。新しいヴィンテージではもう少しわかりやすくなるそうです。ブリリアント・ミステイクのボトルはおしゃれです。
ラ・ペレは栽培管理の会社とのコラボレーションで作ったワイナリーです。ナパのブドウ畑はどこも非常に高額なので、いろいろな畑のブドウを使ってワインを作るには大変なお金がかかります。栽培管理会社とコラボしたのは様々な畑のブドウを使えるようにするためです。きちんと栽培を管理している畑のブドウを使って1990年ころのようなワインを作りたいとのこと。前述のように名前は「シャベル」の意味です。栽培においても醸造においてもシャベルは必需品なので、この名前を付けました。
最初のワインはソーヴィニョン・ブラン ナパヴァレー2020。1981年に植えられた畑で無灌漑の有機栽培。剪定はカリフォルニア・スプロールと呼ばれる、ワイヤーを使わず樹1本1本が独立した形で立つ形です。マーヤンはサンセールのディディエ・ダグノーが好きとのことで、そのスタイルを目指しているそうです。例えば発酵と熟成に使う樽はダグノーと同じ葉巻型と呼ばれる細長い形のものを使っています。樽のメーカー自体、サンセールに近いところのものです。発酵は10℃くらいの低温で6~8週間かけて行い、18カ月樽熟成します。樽熟成中には様子を見てバトナージュアルコール度数11.5%というのはナパのソーヴィニョン・ブランとしては異例の低さ。PHは2.9~3.0。酸度が高く、SO2添加などをしなくてもマロラクティック発酵は進まないそうです。
第一印象としては豊かな酸と華やかな香り。最初はかんきつ系が中心ですが、時間が経つにつれて華やかさが増してグアバやパイナップルのような熟度の高いフルーツの味わいが出てきます。濡れた石や石灰岩の風味が全体を引き締めています。シリアスなスタイルのソーヴィニョン・ブランです。
次はカベルネ・ソーヴィニヨン ナパヴァレー 2019。この後は単一畑が3本続きますが、こちらは6つの畑のブレンドもの。畑別に醸造して後からブレンドします。2019年は柔らかい味わいのものになったとのことですが、飲んでみると結構タニックで骨格があるワインです。
3本目から5本目は単一畑のワインが並びます。クームズヴィルのセニーザ・ヴァインヤード、オークノールのレッド・ヘン、セント・ヘレナのアルヴィウム・ヴィンヤードです。クームズヴィルやオークノールはナパの中では比較的冷涼なAVA、セント・ヘレナは一番暖かいAVAです。
クームズヴィルのセニーザは「灰」という意味。火山性の細かい灰がある地域です。畑はオーガニックの栽培です。9月末の収穫。黒果実と赤果実。酸高く、しっかりしたタンニン。複雑味がありクラシックなスタイルのカベルネ・ソーヴィニヨンです。
オークノールの畑は砂交じりのローム。バイオダイナミクスの栽培です。収穫は一番遅く10月半ば。スタイルとしてはセニーザに似ていますが、より酸が高く、赤果実の風味が支配的。個人的にはこれが一番好きな味でした。
セント・ヘレナのアルヴィウムは沖積扇状地の土地。沖積扇状地というと水はけがよく細かい土のイメージですが、扇状地を作ってきた川の流れの変化などによって場所ごとに少しずつ違った土壌になっているそうです。畑はリア仕立て。ここはリッチなワインを作るのは簡単で、それをどう抑えるかが腕の見せ所とのこと。3本の中では明らかに一番リッチで凝縮感のあるワイン。多くの人がイメージするナパのカベルネのスタイルです。バランスよく美味です。おそらく8割くらいの人はこれが一番好きというだろうと思います。
最後のワインはブリリアント・ミステイクのg3カベルネ・ソーヴィニヨン 2019です。
2014年に始めたワイナリーで、オーナーはライナート夫妻。
見るからにアート系の二人で、印象的なワイナリー名とボトルのデザイン。ワイン名のg3はベクストファー・ジョージ・ザ・サード(George III)ヴィンヤードから。もともとボーリュー・ヴィンヤード(BV)でNo.3という畑だったところをベクストファーが購入した畑です。150エーカーというかなりの広さの畑ですが、ブリリアント・ミステイクでは、この中でも砂利質土壌の好きなブロックを選んで使っているそうです。ラ・ペレの新樽率が60%なのに対し、こちらは80%。アルコール度数も1%ほど高い作りです。飲んでみるとやはり樽香しっかりで全体的にリッチさが増しています。ミントやハーブのニュアンスが濃いだけのワインになるのを防いでいます。
今回のセミナー、比較的少人数で最初からほぼフリートーク。質問割込みも自由という感じで「どうやってスクリーミング・イーグルに就職したの?」などぶっちゃけ質問も数多く出ました。この記事ではエッセンスのみを書いていますが、ほかにも樽トークなどいろいろと面白い話が聞けて楽しいセミナーでした。