サシ・ムーアマンが作るサンタ・バーバラのサンディ(Sandhi)とオレゴンのイヴニングランド(Evening Land)、セーラム(Salem)のワインを、サシの話を聴きながら試飲しました。サシのワインにはほかにシラーなどを手掛けるピエドラサッシ、サンタ・リタ・ヒルズでピノ・ノワールを中心に作るドメーヌ・ド・ラ・コートがありますが、そちらはインポーターが違うので今回はありません。


いつも穏やかな笑顔のサシ・ムーアマン

イヴニングランドはオレゴンの中でも注目が高まっているエオラ・アミティ・ヒルズに自社畑を持つドメーヌ・タイプのワイナリー。イヴニングランドはブルゴーニュのコント・ラフォンのドミニク・ラフォンが当初手がけ、2007年からサシ・ムーアマンとラジャ・パーがかかわっています(2015まではドミニク・ラフォンが関与)。コント・ラフォン時代にビオディナミの認証を受けており、現在もビオディナミで栽培されています。250エーカーの敷地に畑は35エーカー。畑にはブドウ以外に果樹なども植わっており、2割くらいは果樹が占めています。羊なども飼っていて生物多様性の面でも申し分ないところです。東向きの斜面で海からの風も通り冷涼。

土壌はジョリーと呼ばれる火山性の粘土質。鉄分が多く、シャルドネは酸がしっかりして強い味わい。ピノ・ノワールもタンニンが強くなります。ブドウの味わいや骨格が強いので、ほぼすべて除梗し、新樽もほとんど使いません。シャルドネは全房でプレスし、種や皮などからの強い味わいが付くことをさけています。樽もっパンチョンと呼ばれる大型のもので発酵・熟成します。

サンディはいろいろな面でイヴニングランドと対照的です。一部を除いて購入したブドウでワインを造ります。サンフォード&ベネディクトなど、サンタ・リタ・ヒルズの銘醸畑からブドウを仕入れています。サンタ・リタ・ヒルズは風が強く気温はオレゴンより低く乾燥しています。頁岩などの堆積性の土壌が中心です。

サンタ・リタ・ヒルズの方がブドウの味わいは優しく、ブドウの実は小さくなります。タンニンが少ないのでピノ・ノワールは全房を多用します。シャルドネも破砕してからプレスすることで皮からの味わいを果汁に移します。

試飲はイヴニングランドの若木を使ったSalem Wine Co.からです。2021年のシャルドネが4600円、ピノ・ノワールが2023年で4600円。

葛飾北斎風のラベルがユニークなワイン。描かれているのはマウント・フッドというオレゴンの山です。富士山に似た形なのでこのラベルを思いついたそう。シャルドネはエレガントで少し蜜っぽさも感じます。ピノも赤果実を中心にきれいな味わい。どちらもコスパが素晴らしいです。

サンディのピノ・ノワールは2022年のサンタ・リタ・ヒルズ(9500円)と2021年のロマンス(18000円)。
サンタ・リタ・ヒルズはAVAものと言っても、ドメーヌ・ド・ラ・コートなどの銘醸畑のブドウを使っています。赤果実の味わいがきれいで、酸高く、うまみや複雑さもありとても美味しい。
ロマンスは自社畑であるドメーヌ・ド・ラ・コートの畑のみ。購入ブドウを中心とするサンディの中では異色のワインです。ただ、ロマンスで使っていた区画はウイルスの被害にあってしまい、もう抜かれてしまったのでこの2021年が最後となります。ちなみに、なぜロマンスはドメーヌ・ド・ラ・コートではなくサンディで出しているのかを質問したところ、「ドメーヌ・ド・ラ・コートのラインアップは増やしたり減らしたりしたくないから」とのことでした。
果実味よりもうまみや複雑さを強く感じる味わい。ちょっとブレットも感じました。おそらく5年以上の熟成によって本領を発揮するようなワイン。今飲むならサンタ・リタ・ヒルズの方が美味しいです。


次に、イヴニングランドのピノ・ノワールです。いずれも2022年。スタンダードのセヴン・スプリングス(9500円)、ラ・スルス(La Source、16000円)、スマム(サマムとも、Summum、18000円)。
セヴン・スプリングスはバランスよく酸きれい。まとまっています。おすすめ。
ラ・スルスは一番風が強い区画のブドウを使っています。過酷な環境でブドウが深く根を張るところ。樹齢が高い樹の比率が上がっており、タンニンがおだやかになるため、一部全房も入れています。スマムは良年だけ作られるワインでラ・スルスのブロックの中でも最良のブドウを選んでいます。
ラ・スルスは酸高く、複雑さもきれいさもあります。
スマムはより複雑さ強く、うまみ系の味わいもあり、美味しい。ラ・スルスより1ランク上の味わいで、個人的には2000円の価格差ならこちらを選びます。


シャルドネに移ります。
サンディのシャルドネはAVAものが2022年のセントラル・コースト(4900円)と2021年のサンタ・リタ・ヒルズ(6300円)。セントラル・コーストはサンタ・バーバラとサン・ルイス・オビスポの畑のブドウから。どこも冷涼であり、ワインもかなり酸が強く、ややリーンな味わい。
サンタ・リタ・ヒルズはAVAものと言いながら、実は自社畑のドメーヌ・ド・ラ・コートのブドウを90%も使っている贅沢なワイン。これはコスパが素晴らしい。酸の高さはセントラル・コーストと同様ですが、果実の厚みが全然違います。大おすすめ。


単一畑ものが4本並びます。いずれも2022年でパターソン(Patterson、16000円)、リンコナーダ(Rinconada、14000円)、サンフォード・アンド・ベネディクト(Sanford & Benedict、10500円)、ロマンス(Romance、20000円)。
いずれもサンタ・リタ・ヒルズの畑です。
パターソンは標高高く、北向き斜面で酸が落ちにくいとのこと。粘土質の土壌で質感豊かなワインになります。
果実味高く濃密な味わい。美味しいですがやや重さを感じます。
リンコナーダとサンフォード・アンド・ベネディクトは隣り合った畑。サンフォード・アンド・ベネディクトは火打石の成分であるケイ酸塩を含むシレックス(火打石)土壌、リンコナーダは粘土とロームの土壌と、土壌の違いがあります。
リンコナーダはバランスよくエレガント。サンフォード・アンド・ベネディクトは、サンタ・リタ・ヒルズのシグニチャーとも言える塩味を強く感じます。エレガントできれいなのはリンコナーダに通じますが個人的にはサンフォード・アンド・ベネディクトがより魅力的。
ロマンスはドメーヌ・ド・ラ・コートの自社畑のワイン。4つの畑の中で一番冷涼。非常に酸が高く、その奥から果実味が出てきます。深さもありますが、飲み頃になるまでは少し時間がかかりそうなワインです。品質は非常に高いので、セラーに置く余裕があるならお薦め。


最後にイヴニングランドのシャルドネです。ピノと同様、スタンダードなセヴン・スプリングス(6800円)、ラ・スルス(15000円)、スマム(17000円)という構成。ヴィンテージはいずれも2022年。
セヴン・スプリングスは酸とうまみのバランスがいいワイン。
ラ・スルスはディジョン・クローンの高樹齢の樹のブロックだけを使っており、より複雑さを感じます。美味しい。
スマムは最も良いブロックのブドウを使っています。ラ・スルスにさらにリッチさを加えた味わい。やっぱりこれは素晴らしい。ピノと同様、2000円の価格差ならスマムを選びます。


セミナー後、近年ブルゴーニュからオレゴンやカリフォルニアに進出する生産者が増えているのはなぜか聞いてみました。サシの考えでは温暖化など気候変動の影響ではないかとのこと。ブルゴーニュは近年ヴィンテージごとの差が非常に大きく、安定性を大きく欠いているとのこと。品質や味わいも毎年大きく変わります。消費者にとっては安心して選ぶのが難しくなっています。オレゴンも温暖化の影響はありますが、ブルゴーニュのような不安定さはなく、むしろ以前は収穫時期の雨が問題になりやすかったのが、その問題が減っていて良いヴィンテージが増えています。リスクヘッジのために米国に進出しているのだろうとのことです。