ポール・ラトー初来日、ワインに付けられた名前の由来が明らかに
サンタ・バーバラで数々の銘醸畑からすばらしいピノ・ノワールやシャルドネ(シラーも)を造るポール・ラトー(Paul Lato、ポール・ラトとも)。造るワインはどれもその畑のワインとしてトップクラスの評価を得ているほどの達人です。そのラトー氏がプライベートで初来日。開かれたワイン会に同席させていただきました。
Paul Lato Chardonnay 'Matinee' Santa Barbara 2020
最初のワインはシャルドネのマティネ(Matinee)です。マティネはフランス語で朝という意味です。このワインは元々レストラン用に作り始めたもので、市販は意図していませんでした。マティネにはまた映画や演劇での昼興行という意味があり、映画の場合だと午前中に見ると、割引価格になります。このワインはポール・ラトーのワインの入門として、単一畑のワインが高くて躊躇している人に格安で出しているといった意味合いもあります。
最大の問題は、これが本当に美味しいので、こればかりが売れてしまうということだそうです。実際、上品な樽感ときれいな酸、少しグリップの効いた味わいは入門としては十分以上。私も購入しました。
ラトー氏に言わせるとこの日のマティネは知的な感じがあり、「プレイボーイ誌のバニーガールが心理学の修士号を持っているみたい」だとラトー氏。知的な印象を受け、実際に哲学的な語りも多いラトー氏ですが、実はちょいちょいジョークを挟んできます。通訳の山本香奈さんも「どこまでが真面目に行っているのかわからん」とときどき悩んでいました(笑)。
また、この日は8人の小規模なディナーだったのですが、前日は20人くらいの大規模なディナーだったそうです。クリエイティブなマインドがあり「同じことを2回やるのは苦手」というラトー氏にとっては、二日同じスタイルでないのは良かったとのことでした。
ラトー氏はすべて買いブドウでワインを造っていますが、自社畑の計画はないのかと聞いたところ、自社畑を持つのにはいい面と悪い面があるとのこと。現在は13くらいの畑からブドウを買っており、畑を見回っていますが、自社畑を持つと、いろいろな畑を回るのは難しくなります。彼の性分にはブドウを買う方が合っているようです。また、契約する相手は「一緒に食事をして楽しい相手」に限るとのこと。どんなにいいブドウを作っている畑でも食事とワインと会話を一緒に楽しめる相手からでないと買う気にはならないそうです(実は例外もあるようですが、それは教えてもらえませんでした)。
ちなみにこのとき、サラミと生ハムにキャラメライズしたオレンジとブーラッタ・チーズを乗せたものを食べていたのですが、オレンジをキャラメライズしたことを激賞していました。確かにこのキャラメライズで、シャルドネの樽の風味と非常によく合っていました。美味しい。
Paul Lato Chardonnay 'Goldberg Variations' No.2 Hyde Vineyard 2019
2番目のワインはナパのカーネロスにある銘醸畑ハイド(Hyde)のシャルドネです。なめらかなテクスチャー、最初のワインよりも酸高くリッチでミネラル感もあり、レベルの高さが感じられます。
Goldberg Variationsとはバッハの「ゴルトベルク変奏曲」のことで、この曲は最初と最後の主題の間に30の変奏曲が挟まる形になっています。ラトー氏が住むサンタ・バーバラからハイド・ヴィンヤードのナパまでは車で6時間ほどもかかるため、他の畑のように頻繁に訪れることができません。収穫時期の見極めなどもきめ細かい対応が難しくなります。そのためラトー氏としてもこの畑のワインを造るかどうか葛藤があったのですが、コントロールしきれないことによるヴィンテージの差異は変奏曲として許容しようという考えになりました。それがこの名前の由来になります。
ワイン造りにはレシピは持たないが哲学はあるとのこと。
収穫のタイミングが一番重要で、早すぎても良くないし、遅すぎるのも良くない。その見極めを大事にしています。また、収穫したブドウからはまずフリーランジュースを取り、それからプレスしていきます。あまり軽すぎるのもストラクチャーが出ないので、フリーランだけにすることはないようです。プレスの強さも決まりがあるわけではなく、果汁の味を見ながら、決めています。樽熟は16~18カ月。新樽率は高く、会計士には目を付けられているとか。新樽率は高いですが、樽の風味はあくまでも上品に付けるだけなので、会計士には「これだけ新樽を使っているんだからもっと樽感を出せ」と言われているとか。
様々な畑のワインを造る上で、その畑が表現できるようにしたいと考えていますが、それは「すべての畑で同じレシピでワインを造る」ということではありません。例えばある畑では新樽率は30%くらいですが、Hydeでは70%ほども使います。Hydeのブドウはしっかりしていて新樽をしっかり受け止めてくれる。レシピを決めて同じ新樽率で造るのではなく、それぞれの畑にあった形にしています。
また、欧州出身でブルゴーニュのワインは大好きですが、ブルゴーニュのワインを真似たいとは思っていないそうです。テクニックとしては使う部分はありますが、カリフォルニアのワインとして素晴らしいものを造ろうとしています。
この後、ちょっと哲学的な話になります。ラトー氏がワイン造りで大事にしているものとして、ワインのエネルギーやバイブレーションがあるといいます。昨年ブルゴーニュを訪問したときにサントーバンからモンラッシェまで歩いたのだそうです。自分の足で歩きながら畑を見ることで、畑を直接感じられたのですが、そのときにプルミエクリュ以上の畑からはバイブレーションを感じたそうです。ブルゴーニュは元々修道院の僧侶によって作られてきました。僧侶ですから信仰という面があり、モットーとしては「オーラ・エ・ラボーラ(祈りなさい、そして働きなさい)」という言葉が使われます。この祈りのスピリチュアルな部分と地に足を着けて働くというところが波動なのだとラトー氏は考えています。そしてプルミエクリュとかグランクリュのすばらしさがそのバイブレーションではないかと理解しているとのことでした。
Paul Lato Chardonnay 'East of Eden' Pisoni Vineyard 2019
Paul Lato Pinot Noir 'Lancelot' Pisoni Vineyard 2019 (実際にはこのワインは最後に飲んでいますが説明の便宜上ここに持ってきます)
ピゾーニ・ヴィンヤードは多くのワイナリーにブドウを供給していますが、シャルドネを作っているのはピゾーニ自身を除くとポール・ラトーしかありません。1990年代からブドウを提供しているピゾーニにとってはラトー氏は新参者。なぜ、それだけの関係を築けたのでしょう。
ラトー氏がピゾーニのことを知ったのは雑誌記事を通してでしたが、ゲイリー・ピゾーニ氏に直接会うことができたのはそれから1年半後でした。ゲイリー氏もラトー氏も飲んで食べるのが大好きなので、それで打ち解けていきました。あるときゲイリー氏が飲みながら「誕生日はいつか」というのでそれを伝えたところ、占星術の本を調べて、ゲイリー氏と同じ星の生まれでさることがわかり、同じ星の兄弟じゃないかということで盛り上がりました。それでワインを一緒に作ろうという話になっていきました。ただ、ピゾーニのブドウは既に多くのワイナリーに割り当てられていて空きがありません。ゲイリー氏は「ピーター・マイケルの分を分けてやるよ。奴らは少し減ったって気づかないさ」と言ったのですが、栽培担当の長男マークが「やっぱりそれはだめだよ」と言って、一回おじゃんになりました。その後、2008年にゲイリー氏が「自分のところのを分けるよ」ということでピゾーニ用の区画から2トンを分けてもらいました。
ところが、当時まだまだラトー氏も無名であり、ほかに順番待ちしているワイナリーも多いことから、「なんであいつにわけてやるんだ」という抗議の電話がかかってきたそうです。それをゲイリー氏は「自分の畑なんだから誰に提供したっていいだろ」と言い返しました。
ピゾーニのピノ・ノワールには「ランスロット(Lancelot)」という名前が付いています。ランスロットとはアーサー王の伝説に登場する円卓の騎士の一人。11人の騎士がいるところに後からアーサー王が連れてきて、円卓の騎士に加わったそうです。そのとき、他の騎士から抗議があったものの、アーサー王は決めるのは自分だとし、ランスロット自身もその後、騎士として一番優れていることを証明していったといいます。後からピゾーニのワイナリーに加わった自身を騎士ランスロットに見立てての命名なのだそうです。リチャードギアの「トゥルー・ナイト」という映画でランスロットが描かれているとのこと。
一方、シャルドネですが、前述のように、ピゾーニの畑のシャルドネを作っているのはピゾーニとポール・ラトーしかありません(ほかにピゾーニが作っているルチアのエステート・シャルドネに一部使われています)。
毎年、収穫時期にブドウのサンプルをもらいにいくのですが、そのときにピゾーニの畑に素晴らしいシャルドネが植わっているのを見つけ、栽培担当のマークに「マーク、この素晴らしいブドウはどこに行くの」と聞いたところ、「ルチアに使う」とのことでした。ちょっとブドウの味を見てみたところ本当にいいブドウでした。そこでラトー氏はマークに「コルトンのことを知っているか?」と聞きました。コルトンはブルゴーニュのグラン・クリュの中で例外的に赤と白、両方を造ることができます(ほかにはミュジニーがあります)。「それをゲイリーに伝えてくれ」といいました。帰宅後、真夜中にゲイリーから電話がかかってきて「それは素晴らしいアイデアだ。このブロックを半々ずつピゾーニとポール・ラトーで使おう」と言ってくれたとのこと。こういった理由でピゾーニとポール・ラトーのシャルドネが誕生したのでした。なお「イースト・オブ・エデン」はモントレーのサリナス・ヴァレー(その東側の斜面がサンタ・ルシア・ハイランズ)に住んでいた作家スタインベックの小説の名前から取っています。
そのシャルドネですが、3つのシャルドネの中では一番パワフル。トーストの風味も一番強く、果実味も酸もしっかり。リッチでなめらか。余韻長く素晴らしいシャルドネです。
Paul Lato Pinot Noir 'Matinee' Santa Barbara 2021
ピノのマティネです。ラズベリーやレッド・チェリーの風味。明るいルビー色でやわらかい酸味。少しミネラル感もあります。エントリー品いてと水準以上のワイン。
ラトー氏は薄切りのマッシュルームに感激してマッシュルームをつまんで写真を撮っていました。
Paul Lato Pinot Noir 'Atticus' John Sebastiano Vineyard 2016
ジョン・セバスティアーノ・ヴィンヤードはサンタリタ・ヒルズの中央にある畑。一つの畑ですが、様々な方角の斜面があり、ブルゴーニュだったら27の別々な畑にするようなところ。単一畑のワインへのアプローチはブレンドによるマティネとは全く違います。マティネはいろいろな畑のものをブレンドしてトータルで美味しいワイン、難しくないワインを造ろうとしていますが、単一畑の方は畑が語り掛けるものを表現しています。ブレンドが色を足していく絵画だとしたら、単一畑は余計なものをそぎ落としていく彫刻のような感じなのだそうです。
畑のオーナーのジョン・セバスティアーノさんとラトー氏は仲が良く、一緒にブルゴーニュに行ったこともあるそうですが、そのワインには何らかヒーローの名前を付けたいということで選んだのが「アティカス」です。これは『アラバマ物語』という映画でグレゴリー・ペックが演じた主人公で弁護士をしており、公平で正直で勇気がある人だったそうです。
今回、ワインの名前の由来をそれぞれ伺うことができました。「初めて聞いた」と伝えたところ「ほとんど話したことないんだよ」とのこと。アメリカ人はあまり名前に関心を持たないそうです。ラトー氏にとっては名前を付けるのは大事なことで、それこそ神の啓示のように名前が下りてくるのを待つのだとか。長い時には名前が決まるまで1年半かかったワインもあったそうです。
ちょっと名前の話が長くなりましたが、ジョン・セバスティアーノのピノ・ノワールは2016年のワインで9年熟成しているためマッシュルームや腐葉土といった、熟成によるアロマが出ています。素晴らしい。特に熟成好きな人にとっては、たまらないワインだと思います。
6番目のワインは先ほど説明したピゾーニのピノ・ノワール。複雑でシルキー、赤い果実に青い果実が少し入り、アーシーなニュアンスもあります。ややタンニン強くエレガントというよりはパワフルなピノ・ノワール。ピゾーニらしさも十分に出たすばらしいピノ・ノワールでした。
最後にスペシャルなワインが登場。シラーとグルナッシュのブレンドのワインでラベルも変わっています。これもきれいで美味しいワイン。あまり飲む機会はないですが、ラトー氏、シラーも名手です。
また、ハッピーキャニオンのブドウからソーヴィニヨン・ブランを作り始めているとのこと。畑のオーナーは歌手のPinkだそうです。これも名前がなかなか決まらなかったのですが、あるときYoutubeを見ていたらオーソレミオの歌が流れてきて、それで「オーソレミオ」をワインの名前にするそうです。11月にワインができたら持ってくるよと言っていましたが実現するでしょうか。
ところで、今回突然の来日だったのですが、その理由も明らかになりました。前の週にピゾーニ家が来日していましたが、ゲイリーからラトー氏に一緒に行こうよと誘われていたのだそうです。
それはちょっと、というところだったのですが、今度は別れた奥さんが息子さんと一緒に来日するというので、「君一人では心配だ」という理由を付けて急遽チケットを取ってやってきたのだそうです。ゲイリーとも京都であって一緒に飲んだとのことでした。
終始笑いの絶えないワイン会で、予想以上に気さくなおじさんでした。
Paul Lato Chardonnay 'Matinee' Santa Barbara 2020
最初のワインはシャルドネのマティネ(Matinee)です。マティネはフランス語で朝という意味です。このワインは元々レストラン用に作り始めたもので、市販は意図していませんでした。マティネにはまた映画や演劇での昼興行という意味があり、映画の場合だと午前中に見ると、割引価格になります。このワインはポール・ラトーのワインの入門として、単一畑のワインが高くて躊躇している人に格安で出しているといった意味合いもあります。
最大の問題は、これが本当に美味しいので、こればかりが売れてしまうということだそうです。実際、上品な樽感ときれいな酸、少しグリップの効いた味わいは入門としては十分以上。私も購入しました。
ラトー氏に言わせるとこの日のマティネは知的な感じがあり、「プレイボーイ誌のバニーガールが心理学の修士号を持っているみたい」だとラトー氏。知的な印象を受け、実際に哲学的な語りも多いラトー氏ですが、実はちょいちょいジョークを挟んできます。通訳の山本香奈さんも「どこまでが真面目に行っているのかわからん」とときどき悩んでいました(笑)。
また、この日は8人の小規模なディナーだったのですが、前日は20人くらいの大規模なディナーだったそうです。クリエイティブなマインドがあり「同じことを2回やるのは苦手」というラトー氏にとっては、二日同じスタイルでないのは良かったとのことでした。
ラトー氏はすべて買いブドウでワインを造っていますが、自社畑の計画はないのかと聞いたところ、自社畑を持つのにはいい面と悪い面があるとのこと。現在は13くらいの畑からブドウを買っており、畑を見回っていますが、自社畑を持つと、いろいろな畑を回るのは難しくなります。彼の性分にはブドウを買う方が合っているようです。また、契約する相手は「一緒に食事をして楽しい相手」に限るとのこと。どんなにいいブドウを作っている畑でも食事とワインと会話を一緒に楽しめる相手からでないと買う気にはならないそうです(実は例外もあるようですが、それは教えてもらえませんでした)。
ちなみにこのとき、サラミと生ハムにキャラメライズしたオレンジとブーラッタ・チーズを乗せたものを食べていたのですが、オレンジをキャラメライズしたことを激賞していました。確かにこのキャラメライズで、シャルドネの樽の風味と非常によく合っていました。美味しい。
Paul Lato Chardonnay 'Goldberg Variations' No.2 Hyde Vineyard 2019
2番目のワインはナパのカーネロスにある銘醸畑ハイド(Hyde)のシャルドネです。なめらかなテクスチャー、最初のワインよりも酸高くリッチでミネラル感もあり、レベルの高さが感じられます。
Goldberg Variationsとはバッハの「ゴルトベルク変奏曲」のことで、この曲は最初と最後の主題の間に30の変奏曲が挟まる形になっています。ラトー氏が住むサンタ・バーバラからハイド・ヴィンヤードのナパまでは車で6時間ほどもかかるため、他の畑のように頻繁に訪れることができません。収穫時期の見極めなどもきめ細かい対応が難しくなります。そのためラトー氏としてもこの畑のワインを造るかどうか葛藤があったのですが、コントロールしきれないことによるヴィンテージの差異は変奏曲として許容しようという考えになりました。それがこの名前の由来になります。
ワイン造りにはレシピは持たないが哲学はあるとのこと。
収穫のタイミングが一番重要で、早すぎても良くないし、遅すぎるのも良くない。その見極めを大事にしています。また、収穫したブドウからはまずフリーランジュースを取り、それからプレスしていきます。あまり軽すぎるのもストラクチャーが出ないので、フリーランだけにすることはないようです。プレスの強さも決まりがあるわけではなく、果汁の味を見ながら、決めています。樽熟は16~18カ月。新樽率は高く、会計士には目を付けられているとか。新樽率は高いですが、樽の風味はあくまでも上品に付けるだけなので、会計士には「これだけ新樽を使っているんだからもっと樽感を出せ」と言われているとか。
様々な畑のワインを造る上で、その畑が表現できるようにしたいと考えていますが、それは「すべての畑で同じレシピでワインを造る」ということではありません。例えばある畑では新樽率は30%くらいですが、Hydeでは70%ほども使います。Hydeのブドウはしっかりしていて新樽をしっかり受け止めてくれる。レシピを決めて同じ新樽率で造るのではなく、それぞれの畑にあった形にしています。
また、欧州出身でブルゴーニュのワインは大好きですが、ブルゴーニュのワインを真似たいとは思っていないそうです。テクニックとしては使う部分はありますが、カリフォルニアのワインとして素晴らしいものを造ろうとしています。
この後、ちょっと哲学的な話になります。ラトー氏がワイン造りで大事にしているものとして、ワインのエネルギーやバイブレーションがあるといいます。昨年ブルゴーニュを訪問したときにサントーバンからモンラッシェまで歩いたのだそうです。自分の足で歩きながら畑を見ることで、畑を直接感じられたのですが、そのときにプルミエクリュ以上の畑からはバイブレーションを感じたそうです。ブルゴーニュは元々修道院の僧侶によって作られてきました。僧侶ですから信仰という面があり、モットーとしては「オーラ・エ・ラボーラ(祈りなさい、そして働きなさい)」という言葉が使われます。この祈りのスピリチュアルな部分と地に足を着けて働くというところが波動なのだとラトー氏は考えています。そしてプルミエクリュとかグランクリュのすばらしさがそのバイブレーションではないかと理解しているとのことでした。
Paul Lato Chardonnay 'East of Eden' Pisoni Vineyard 2019
Paul Lato Pinot Noir 'Lancelot' Pisoni Vineyard 2019 (実際にはこのワインは最後に飲んでいますが説明の便宜上ここに持ってきます)
ピゾーニ・ヴィンヤードは多くのワイナリーにブドウを供給していますが、シャルドネを作っているのはピゾーニ自身を除くとポール・ラトーしかありません。1990年代からブドウを提供しているピゾーニにとってはラトー氏は新参者。なぜ、それだけの関係を築けたのでしょう。
ラトー氏がピゾーニのことを知ったのは雑誌記事を通してでしたが、ゲイリー・ピゾーニ氏に直接会うことができたのはそれから1年半後でした。ゲイリー氏もラトー氏も飲んで食べるのが大好きなので、それで打ち解けていきました。あるときゲイリー氏が飲みながら「誕生日はいつか」というのでそれを伝えたところ、占星術の本を調べて、ゲイリー氏と同じ星の生まれでさることがわかり、同じ星の兄弟じゃないかということで盛り上がりました。それでワインを一緒に作ろうという話になっていきました。ただ、ピゾーニのブドウは既に多くのワイナリーに割り当てられていて空きがありません。ゲイリー氏は「ピーター・マイケルの分を分けてやるよ。奴らは少し減ったって気づかないさ」と言ったのですが、栽培担当の長男マークが「やっぱりそれはだめだよ」と言って、一回おじゃんになりました。その後、2008年にゲイリー氏が「自分のところのを分けるよ」ということでピゾーニ用の区画から2トンを分けてもらいました。
ところが、当時まだまだラトー氏も無名であり、ほかに順番待ちしているワイナリーも多いことから、「なんであいつにわけてやるんだ」という抗議の電話がかかってきたそうです。それをゲイリー氏は「自分の畑なんだから誰に提供したっていいだろ」と言い返しました。
ピゾーニのピノ・ノワールには「ランスロット(Lancelot)」という名前が付いています。ランスロットとはアーサー王の伝説に登場する円卓の騎士の一人。11人の騎士がいるところに後からアーサー王が連れてきて、円卓の騎士に加わったそうです。そのとき、他の騎士から抗議があったものの、アーサー王は決めるのは自分だとし、ランスロット自身もその後、騎士として一番優れていることを証明していったといいます。後からピゾーニのワイナリーに加わった自身を騎士ランスロットに見立てての命名なのだそうです。リチャードギアの「トゥルー・ナイト」という映画でランスロットが描かれているとのこと。
一方、シャルドネですが、前述のように、ピゾーニの畑のシャルドネを作っているのはピゾーニとポール・ラトーしかありません(ほかにピゾーニが作っているルチアのエステート・シャルドネに一部使われています)。
毎年、収穫時期にブドウのサンプルをもらいにいくのですが、そのときにピゾーニの畑に素晴らしいシャルドネが植わっているのを見つけ、栽培担当のマークに「マーク、この素晴らしいブドウはどこに行くの」と聞いたところ、「ルチアに使う」とのことでした。ちょっとブドウの味を見てみたところ本当にいいブドウでした。そこでラトー氏はマークに「コルトンのことを知っているか?」と聞きました。コルトンはブルゴーニュのグラン・クリュの中で例外的に赤と白、両方を造ることができます(ほかにはミュジニーがあります)。「それをゲイリーに伝えてくれ」といいました。帰宅後、真夜中にゲイリーから電話がかかってきて「それは素晴らしいアイデアだ。このブロックを半々ずつピゾーニとポール・ラトーで使おう」と言ってくれたとのこと。こういった理由でピゾーニとポール・ラトーのシャルドネが誕生したのでした。なお「イースト・オブ・エデン」はモントレーのサリナス・ヴァレー(その東側の斜面がサンタ・ルシア・ハイランズ)に住んでいた作家スタインベックの小説の名前から取っています。
そのシャルドネですが、3つのシャルドネの中では一番パワフル。トーストの風味も一番強く、果実味も酸もしっかり。リッチでなめらか。余韻長く素晴らしいシャルドネです。
Paul Lato Pinot Noir 'Matinee' Santa Barbara 2021
ピノのマティネです。ラズベリーやレッド・チェリーの風味。明るいルビー色でやわらかい酸味。少しミネラル感もあります。エントリー品いてと水準以上のワイン。
ラトー氏は薄切りのマッシュルームに感激してマッシュルームをつまんで写真を撮っていました。
Paul Lato Pinot Noir 'Atticus' John Sebastiano Vineyard 2016
ジョン・セバスティアーノ・ヴィンヤードはサンタリタ・ヒルズの中央にある畑。一つの畑ですが、様々な方角の斜面があり、ブルゴーニュだったら27の別々な畑にするようなところ。単一畑のワインへのアプローチはブレンドによるマティネとは全く違います。マティネはいろいろな畑のものをブレンドしてトータルで美味しいワイン、難しくないワインを造ろうとしていますが、単一畑の方は畑が語り掛けるものを表現しています。ブレンドが色を足していく絵画だとしたら、単一畑は余計なものをそぎ落としていく彫刻のような感じなのだそうです。
畑のオーナーのジョン・セバスティアーノさんとラトー氏は仲が良く、一緒にブルゴーニュに行ったこともあるそうですが、そのワインには何らかヒーローの名前を付けたいということで選んだのが「アティカス」です。これは『アラバマ物語』という映画でグレゴリー・ペックが演じた主人公で弁護士をしており、公平で正直で勇気がある人だったそうです。
今回、ワインの名前の由来をそれぞれ伺うことができました。「初めて聞いた」と伝えたところ「ほとんど話したことないんだよ」とのこと。アメリカ人はあまり名前に関心を持たないそうです。ラトー氏にとっては名前を付けるのは大事なことで、それこそ神の啓示のように名前が下りてくるのを待つのだとか。長い時には名前が決まるまで1年半かかったワインもあったそうです。
ちょっと名前の話が長くなりましたが、ジョン・セバスティアーノのピノ・ノワールは2016年のワインで9年熟成しているためマッシュルームや腐葉土といった、熟成によるアロマが出ています。素晴らしい。特に熟成好きな人にとっては、たまらないワインだと思います。
6番目のワインは先ほど説明したピゾーニのピノ・ノワール。複雑でシルキー、赤い果実に青い果実が少し入り、アーシーなニュアンスもあります。ややタンニン強くエレガントというよりはパワフルなピノ・ノワール。ピゾーニらしさも十分に出たすばらしいピノ・ノワールでした。
最後にスペシャルなワインが登場。シラーとグルナッシュのブレンドのワインでラベルも変わっています。これもきれいで美味しいワイン。あまり飲む機会はないですが、ラトー氏、シラーも名手です。
また、ハッピーキャニオンのブドウからソーヴィニヨン・ブランを作り始めているとのこと。畑のオーナーは歌手のPinkだそうです。これも名前がなかなか決まらなかったのですが、あるときYoutubeを見ていたらオーソレミオの歌が流れてきて、それで「オーソレミオ」をワインの名前にするそうです。11月にワインができたら持ってくるよと言っていましたが実現するでしょうか。
ところで、今回突然の来日だったのですが、その理由も明らかになりました。前の週にピゾーニ家が来日していましたが、ゲイリーからラトー氏に一緒に行こうよと誘われていたのだそうです。
それはちょっと、というところだったのですが、今度は別れた奥さんが息子さんと一緒に来日するというので、「君一人では心配だ」という理由を付けて急遽チケットを取ってやってきたのだそうです。ゲイリーとも京都であって一緒に飲んだとのことでした。
終始笑いの絶えないワイン会で、予想以上に気さくなおじさんでした。