今回も突っ込みどころ満載の「神の雫」。もう終わるのかと思った遠峰一青のワイントレインの旅,まだ続いています。あ,初めて来られた方は前回その補足を先に見てくださいね。

のっけからかましてくれます。

おい,前回と逆だぞ
「ヨントヴィルを越えたら丘陵地帯にさしかかったわね」
「この辺りはオークヴィルというアペレーションで――」


おい,前回の最後に「さあもうじきオークヴィルを通り過ぎる さらにヨントヴィルとナパを越えれば有名な『スタッグス・リープ』がある」といったのはどこの誰だ? 全く逆じゃないか。

そうです,前回いつのまにか折り返して南下していると解釈してあげた僕の優しさは無残に踏みにじられてしまったのです。ワイントレインいまだ北上中…

今回飲んだワインは
Robert Mondavi Heritage Collection Cabernet Sauvignon 2004
Opus One 2004
Screaming Eagle 2004
Caymus Cabernet Sauvignon Special Selection 2000
Beringer Cabernet Sauvignon Private Reserve 1999
の5本。いずれもワイントレインのワインリストには載っていませんが,ワイントレインの在庫は400種あるそうなので,実際にはあるかもしれません。10年前の人気ワインという感じですが,まあそれはいいでしょう。ただ,細かい突込みを入れるとオークヴィルのところでモンダヴィのワインを飲んでいますが,このHeritage Collectionのラベル上のAVAはCalifornia。おそらくオークヴィルのブドウ(多分ナパに広げても)は使われていないだろうと思います。これ飲んで「オークヴィルは」って語ったら笑われますのでご注意を。

長くなるので続きに書きます。

さて,ワイントレインは折り返し地点のセントヘレナに着きます。

降りちゃだめ
「せっかくここまで来たのだから車を調達してすぐ隣のスプリング・マウンテンやもう少し先のダイヤモンド・マウンテンに内陸のハウエル・マウンテンなども回ってみるかい?」

えー,遠峰さん,降りちゃだめです。別記事に書いたように,Wine TrainはSt. Helenaと長い間係争中で,お客を下ろしてはいけないことになっているのです。今でこそ,途中でバスなどに乗っていくワイナリ・ツアーや月一回のCheers!イベントのツアーなどがありますが,昔はそれもなかったのです。なので,良い子の皆さんは絶対に真似をしないようにしてくださいね。

さらに遠峰一青。
タクシーある?

現地のタクシーですか!? ゼロではないと思いますが見たことないですよ。特に街中を流していたりは絶対にないです。良い子の皆さん(しつこい)は,足が必要なときは貸切のリムジンを予約しておきましょうね。

旅ネタはこれくらいにして,ワインの話に移ります。ちなみに今回は監修ワイナートとなっていたので,AVAやワインの情報はそこからもらったものが使われているのだろうと思います。

オークヴィル
まずはオークヴィルの特徴を説明する遠峰一青。右端が切れちゃいましたが
「見てのとおり丘陵地帯で水はけがとてもいいんだ
 しかも標高が高すぎる山岳地帯と違って霧や霜の影響を受けることもない
 カリフォルニアの中ではワイン作りに理想的な地域と言えるだろう」

どこから突っ込むのがいいのか悩ましいですが,Appelation AmericaによるとOakvilleは「The region is virtually a flat field, squeezed between the Mayacamas Mountains to the west and the Vaca Range on the east.」つまりほとんど平らです。西端のOakville Benchと呼ばれるあたりはなだらかな丘になっていますが,それならば一つ北のRutherford Benchの方がずっと有名です。つまりオークヴィルをもって丘陵地帯と呼ぶのはちょっとどうかという気がします。

次に「山岳地帯と違って霧や霜の影響を受けることもない」ということですが,霜の影響はないに越したことがありませんが,霧の影響はない方がいいとは言えません。Russian River ValleyやSanta Rita Hillsなど霧がほどよく影響することですばらしいワインを産むところはたくさんあります。特にピノやシャルドネは涼しい気候を好むのでその傾向は強いです。それと,実は山岳は霧や霜の影響が大きいかというと,それもちょっと変です。カリフォルニアの霧は海からもたらされるものがほとんどで,谷の合間をぬって上がっていきます。したがって標高が高い山はむしろ霧の影響は少ないのです。また,ソノマでワインを作っている私市さんのブログによると,霜については斜面の方が空気の流れが起こるので害が起きにくい(平地の方が霜害が発生しやすい)そうです。実際2008年の大規模な霜害ではオークヴィルの南であるOak Knollや北のRutherfordやSt. Helenaで霜害が報告されています。場所的にいってオークヴィルだけが逃れたとは考えにくいところです。

ここは分かりにくいと思うので一回まとめると,山岳と平地を比べたときに山岳の方が霜や霧の影響が大きいとは言えないというのが一つ。もう一つは霧の影響が少ないことがワインにとっていいこととは言い切れないというのがもう一つです。

「カリフォルニアの中ではワイン作りに理想的な地域」
うーん,何が理想的なのかは難しいですよね。山には山のよさがありますし。特に霧などを考えると「ワイン」というより「カベルネ・ソヴィニョン」とでも書いてあればまだ素直にうなづけるのですが。このあたりは作者の頭がカベルネ前提に染まってしまっているような感じがします。

次にスクリーミング・イーグルのところです。
99年て偉大?
「しかしこのワインはカリフォルニアにとって偉大な年と言われる'99年ものなどは未だに100万円近い価格で売買されている」

ここも突っ込みどころが複数あります。99年は偉大な年とは言われていません。前年の98年や次の2000年が良くない年だったのに比べるとまだマシな年という感じです。ちなみにParkerのヴィンテージ・チャートでカリフォルニアのカベルネ・ソヴィニョンを見ると99年は88点。2001年以降で90点を下回っている年はありません。それにいくらスクリーミング・イーグルでも100万円近い価格ということはありません。オークションなどでそういう例がないとは言いませんが,Wine-Searcherで見ると高くても3000ドルくらいなものです。高いというイメージを出したかったのでしょうけどちょっと実態と離れています。

カルト
うーむ
やっと最後の突っ込みにきました。
「アメリカのカルトワインといわれるジャンルに限っては品質以上に希少価値が値段を決める大きな要素になり得るのだよ
 私を含め著名な評論家が高く評価すればそこに投資価値を見出した投資家が値段を釣り上げる動きをみせる」


「カルトワインといわれるジャンル」で「品質以上に希少価値が値段を決める大きな要素」になっているのは確かです。それが良いこととは僕も思いません。ただ,それはカルトに「限って」のこととは言えないと思います。特に投資家の投機によって値段が影響されるという点ではボルドーの方がはるかに巨額が動いていると思います。カリフォルニアのカルトは,投資家というよりどちらかというと富裕層のマニアが値段を釣り上げているような感じです。正直いって今後の値上がりはあまり見込めないため,投資家としてはあまり面白くないでしょう。自分が投資家でカリフォルニアワインを投資のために買うのであれば,これからカルトになりそうなワインを探すと思います。高い評価が付いたあとではもう遅いでしょう。

参考までに英国日本のワイン・ファンドのページにリンクを張っておきますが,どちらもフランス,特にボルドーのワインを中心としているようです。米国のベの字も出ていません。

投資家の影響を,ことさらカリフォルニアのときにあげるのは作者の偏見のような気がするのですが,いかがでしょうか?