サンタ・クルーズ・マウンテンズにあるMount Eden Vineyads(マウント・エデン、現地での発音はマウント・イーデンが近い)のオーナー夫妻が初来日。セミナーに参加してきました。

オーナーのパターソン夫妻

Mount Edenは後述するように歴史あるワイナリですが、近年とみに評価が高まっています。シャルドネやピノ・ノワールがWine Advocate誌やWine Specatator誌などで95点前後の高得点を連発。日本でも人気銘柄の1つとして完全に定着した感があります。僕にとっても近隣のRidgeやNeelyのシャルドネと並んで、好きなシャルドネの1つとなっています。

セミナーではまず、サンタ・クルーズ・マウンテンズAVAについて説明がありました。

モントレーとサンフランシスコの間にあるこの地域は、北にはサンフランシスコ湾、西と南には太平洋を望み、冷たい海の風の影響を受けやすくなっています。

特筆すべきなのは標高の高さで、太平洋側は海抜120m以上、サンフランシスコ湾側は同240m以上がAVAの条件となっています。標高が重要なのは、霧の影響のため。この高さでは朝に立ち込める霧のライン(Fog Lineといいます)よりも上になり、午前中から太陽の日差しをしっかりと浴びることになります。また、夜もそれほど気温が下がらず、昼と夜の温度差が少なく、ブドウがしっかり生育するのも特徴です。

標高でAVAが定まったのはここが最初であり、また山岳地帯での最初のAVAでもあります。

ただ、傾斜のきつさなどから畑の開墾は容易ではなく、AVA全体でのブドウ畑の面積は1500エーカー(約6平方キロ)にとどまっています。ナパの4万3000エーカーと比べると30分の1程度の小ささです。



Mount Edenの創始者はMartin Ray(マーティン・レイ)。カリフォルニアワインの歴史に残る偉人です。

19世紀にフランスから米国に移住したPaul Masson(ポール・マソン)が作ったワイナリをMartin Rayが買ったのは1936年。Massonに師事していたMartin Rayは、彼のサジェッションに従って1942年にそれを売却。1からワイナリを作ることにしました。そうして1945年に作ったのがこのワイナリです(当時はMartin Ray Wineryでした)。

彼はピノ・ノワールとシャルドネのヴァラエタル・ワインに取り組んだ先駆者で、後にはカベルネ・ソヴィニョンも作るようになりました。彼のワインには熱狂的なファンが多くいましたが、ワインは出来不出来の差が大きく、1つの樽の中でもある部分はとてもおいしく、ある部分はおいしくない、といったことがしばしばあったと言います(奥さんのエリー・パターソン談)。

Martin Rayは資産的な問題でワイナリを売却。1972年にMount Eden Vineyardsと名前も変わりました。現オーナーのジェフリー・パターソンは1981年から働き始め、妻のエリーは1982年から働いています。1986年に彼らは最大株主となり1993年にジェフリーが社長に就任しました。ちなみに1980年前後はChaloneのワインメーカーDick Graffや、現在はソノマで著名ワインメーカーになったMerry Edwardsなどが働いていたとのことです。

ジェフリーは1990年代には古い畑の大部分を植え替えたとのことです。

ワイン作りでは、自然な作りにこだわり、天然酵母だけを使用。補酸などは行っていません。20年かそれ以上熟成できるワインを目指しているとのことでした。

さて、今回試飲したワインは5種。シャルドネが3種とピノ・ノワール、カベルネ・ソヴィニョンが1つずつです。

最初のシャルドネは、今回唯一の購入したブドウで作ったワイン。Edna ValleyのWolff Vineyardのシャルドネ2010です。ここのワインに共通するのは、酸がきれいに伸びてくる感じだと思うのですが、このワインでもそれは共通。ややナッティ。複雑さはさほどないので長期熟成型というよりは早飲み型だと思いますが、なかなかいいワインです。

2番目のEstate Chardonnayはおそらくここの一番人気。私が以前飲んだのもこれです。今回のヴィンテージは2010。柑橘系の上にミネラルっぽさやミントの香りなどを感じました。1番目のワインより舌の上で丸い感じがします。いいワインです。

3番目はEstate Chardonnay Reserve2008。リザーブのワインを作るのは2007年からだといいます。10ヶ月のシュール・リー、10ヶ月の樽熟成の後、再びステンレススチールのタンクに戻して10ヶ月熟成させました。すると、澱(オリ)で濁っていたのがすっかりワインに溶け込んできれいになっていたと言います。確かに旨味が多く、2番目以上に丸い感じがするすばらしいシャルドネでした。

4番めはピノ・ノワールの2010年。1/3は除梗しないで作っているとのこと。赤系の果実にかすかな苦味と青っぽいフレーバー。腐葉土のような香り。カリフォルニアのピノ・ノワールとしては珍しく、果実味を前面に出すのではなく、ブルゴーニュのような複雑さを出しているワインです。ジェフリーは「甘さよりも旨味(savory not sweet)」と言っていました。

最後はカベルネ・ソヴィニョン2009。ブルーベリーに、杉っぽいニュアンス。カシス。タンニンは割ときつめです。「土のニュアンスを重視している」とのこと。スタイルとしては、近隣のワイナリの1つであるRidgeに近いものを感じました。

どれもとてもいいワインですが、ピノ・ノワールとカベルネ・ソヴィニョンはカリフォルニアらしい果実味バンバンのスタイルを求めるとちょっと違うかな、というところがあります。個人的にはシャルドネがどれも好みでした。特にリザーブは熟成させてみたいワインです。
試飲したワイン