オーパス・ワン再発見、そのブランドは伊達じゃない
生意気盛りの高校生のころ、何のときだったか、担任(現国の教師)が「伊達で教師やってんじゃねえんだ」と啖呵を切ったことがありました。おそらく、教師を馬鹿にするような発言を平気でしていた僕らに、抑えていたものが爆発したのでしょうが、普段おとなしく見えていた先生だったので、ちょっとビックリもし、リスペクトも生まれたのでした。
このサイトではOpus One(オーパス・ワン)は年に1度は書くネタではありますが、必ずしもいいことばかりを書いているわけではありません。むしろ、有名だからこそ辛口になる場合もありました。
今回、オーパス・ワンのプレス・ディナーでいろいろ話を伺う機会をいただきました。カリフォルニアワインとしては孤高の地位を維持する努力を知り、改めてその底力を感じると同時に、リスペクトの気持ちも強くなりました。伊達じゃないな、と思い、冒頭のエピソードを紹介した次第です(分かりにくい!)。また、最新の2010年を含む3ヴィンテージを飲んで、その魅力も再発見したように感じました。
今回話を伺ったのは国際マーケティングの副社長であるLaurent Delassus(ローラン・デラスス)氏と東京事務所代表の康子キャドビーさん(写真)。
康子キャドビーさんが就任したのは2011年春。当時オーパス・ワンにとって日本市場の大きな課題となったのが、ブランド・イメージの保持でした。リーマン・ショック以降日本には様々な経路でオーパス・ワンが輸入され、価格が下落。特にネットでは価格競争で1万5000円程度で売られることもありました。
(オーパス・ワンの価格についてはこちらの記事もご参考に)
安くなるだけであれば消費者としては歓迎ですが、大きなデメリットも生じていました。価格優先になるということは、流通過程に手抜きが起こること。コンディションの良くないワインが出回ることによって、本来の味ではないオーパス・ワンを飲み、この程度のものかと思ってしまうことが増えるからです。ブランド・イメージにとっても消費者にとっても良くない状態に陥っていました。
康子さんは、ワインショップやレストランなどを1軒1軒オーパス・ワンを持って回り、一緒に試飲をし、本来の味をしってもらうとともに、ブランドを守ることの意味を説明していったとのことです。
同時に、世界的に流通のコントロールを厳しくしました。オーパス・ワンの流通は米国では4つの地域に分かれ、米国外では22のネゴシアンが携わります。そこから、ショップやレストランなどに流すわけですが、不審な動き、例えばあるレストランが前年の3倍も注文した、といったことがあると調査に行くことによって、横流しを防ぎました。
こうして流通を安定させたのが、この2年半でした。その結果、売価は上がりましたが、怪しいワインもほとんど駆逐されました。安売りの目玉的に扱われることもなくなりました。
オーパス・ワンの生産量は2万5000~3万ケース。いわゆるカルトワインは数百ケースのものがほとんどですから、桁が2つも違います。流通にかける労力も桁違いなわけです。適切な量を適切なタイミングで適切な場所に売るのは並大抵のことではありません。デラスス氏は、目先のことにとらわれるのではなく、2年後、3年後、5年後にどうなっていたいかを考えて戦略を考えるとのことでした。
また、ワイン作りでは、2001年からワインメーカーを務めているマイケル・シラッチ氏がTime & Placeというフィロソフィーを掲げています。Timeはヴィンテージ、Placeはいわゆるテロワールのことです。特にヴィンテージが軽視されがちなカリフォルニアにおいて、ヴィンテージの特徴がワインに現れることを意識しているそうです。
例えば、現行最新ヴィンテージの2010年は雨が多く、気温が低い日が続きました。多くのワイナリではブドウの実の回りの葉を取り払って日光にしっかり当たるようにしていましたが、オーパス・ワンではそういったことをしなかったそうです。結果的には秋に暑い日が続いたときにもブドウの実が守られました。2010年はカリフォルニアでは難しい年の1つですが、オーパス・ワンの各メディアでの評価は過去最高といっていいレベルになっています。
オーパス・ワンでは畑の作業をする人を20人フルタイムで雇っています。これだけフルタイムで雇っているワイナリはほとんどありません。彼らが毎日、細心の注意を払って、ブドウを見ていることが、Time & Placeの実現に大きく寄与しているようです。
さて、ワインですが、今回はティム・モンダヴィとパトリック・レオンがワインメーカーだった1996年、およびマイケル・シラッチに代わってからの2005年、2010年をいただきました。
1996年のオーパス・ワンは10年以上前に何回か飲んだことがありますが、非常にエキゾチックな味わいが印象的でした。今回もその印象は変わらず、17年を経ていますが、枯れてくるというよりも、円熟して柔らかくなってきた段階。まだまだこれから楽しめるワインでした。Tim Mondavi時代は必要以上にヨーロッパ的なワインを目指す傾向があったそうですが、この年はカリフォルニアらしさもしっかりと出ていると思います。
2005年はリリース当時「みにくいアヒルの子」と言われた難しいヴィンテージだそうです。リリース1年後くらいから本領を発揮し始めたとのこと。ブルーベリーやカシスなど、青系の果実味に加え、1996年にも通じるオリエンタルなスパイスの風味を感じます。
デラスス氏はオーパス・ワンの特徴を「パワーとエレガンスのバランス」と評していましたが、この2005年もパワーはあるのですが、押し出しすぎずエレガントにまとめている感じがしました。
2010年はリリースされたばかりであり、さすがに若さが目立ちます。それでも何か軽やかな感じを受けるのがオーパス・ワンらしさなのかもしれません。ファースト・アタックの強さよりも、余韻が楽しめます。今飲んでも十分おいしいワインですが、5年後くらいに飲んでみたいワインです。
康子さんは「2020年の東京オリンピックのときに」と仰っていましたが、確かにその頃が一番の飲み頃かもしれません。
ところで、この日のレストランはマンダリンオリエンタル東京のSignatureというフレンチ。料理もエレガント(写真はメインディッシュに選んだ鳩のサルミゴンディ)でオーパス・ワンによく合っていました。先日試飲したコルギン(WA100点!)だったら、料理とのバランスが取れなかったかな、などとも思いました。
このほか興味深かったのが偽造対策の話です。近年は偽造が多いことでも知られる中国のマーケットが伸びていることもあり、かなり神経を尖らせている様子でした。
偽造対策はボトル裏面の□で囲んだところで行っています。まず一番下の□はボトルにOpus Oneと浮き彫りで入れていること。偽造できないわけではないですが、コストがかかります。
また、裏ラベルにはボトルのID、QRコード、バーコードが入っています。このほかICチップも埋め込まれています。これらの情報は流通のコントロールにも役だっているそうです。
このほか、2010年からはボトルキャップにも工夫を入れたとのこと。下のデバイスを使ってボトルキャップを見ると紫や黄色で文字が見えるそうです。
最後に、日本の市場でときどき見かけるOverture(オーバチュア)について聞いてみました。Overtureはノン・ヴィンテージで、ワイナリで直接、あるいはワイナリのWebサイトでだけ販売しているワインです。当然一般の流通には載せていないし、載せる見込みもありません。
ワイナリの目的はあくまでも「オーパス・ワンそのもの」を作って売ることであって、Overtureは目的ではありません。そこは履き違えないようにしてほしいものです。
畑のブロックの話など、ほかにも面白い話はいろいろありましたが、またの機会に紹介することにします。
改めて、色々話を伺い、またワインを飲んで、オーパス・ワンを再発見したような感がありました。マニアックなカリフォルニアワイン・ファンだと「今さらオーパス・ワン?」みたいに思うかもしれませんが、マニアでない人でも手にいれられる高級カリフォルニアワインとして安心感は高いです。
機会があったらぜひ今のオーパス・ワンを飲んでみてください。
参考過去記事
オーパス・ワンの新ヴィンテージは当たり年か?
Opus Oneにまつわる五つの誤解
このサイトではOpus One(オーパス・ワン)は年に1度は書くネタではありますが、必ずしもいいことばかりを書いているわけではありません。むしろ、有名だからこそ辛口になる場合もありました。
今回、オーパス・ワンのプレス・ディナーでいろいろ話を伺う機会をいただきました。カリフォルニアワインとしては孤高の地位を維持する努力を知り、改めてその底力を感じると同時に、リスペクトの気持ちも強くなりました。伊達じゃないな、と思い、冒頭のエピソードを紹介した次第です(分かりにくい!)。また、最新の2010年を含む3ヴィンテージを飲んで、その魅力も再発見したように感じました。
今回話を伺ったのは国際マーケティングの副社長であるLaurent Delassus(ローラン・デラスス)氏と東京事務所代表の康子キャドビーさん(写真)。
康子キャドビーさんが就任したのは2011年春。当時オーパス・ワンにとって日本市場の大きな課題となったのが、ブランド・イメージの保持でした。リーマン・ショック以降日本には様々な経路でオーパス・ワンが輸入され、価格が下落。特にネットでは価格競争で1万5000円程度で売られることもありました。
(オーパス・ワンの価格についてはこちらの記事もご参考に)
安くなるだけであれば消費者としては歓迎ですが、大きなデメリットも生じていました。価格優先になるということは、流通過程に手抜きが起こること。コンディションの良くないワインが出回ることによって、本来の味ではないオーパス・ワンを飲み、この程度のものかと思ってしまうことが増えるからです。ブランド・イメージにとっても消費者にとっても良くない状態に陥っていました。
康子さんは、ワインショップやレストランなどを1軒1軒オーパス・ワンを持って回り、一緒に試飲をし、本来の味をしってもらうとともに、ブランドを守ることの意味を説明していったとのことです。
同時に、世界的に流通のコントロールを厳しくしました。オーパス・ワンの流通は米国では4つの地域に分かれ、米国外では22のネゴシアンが携わります。そこから、ショップやレストランなどに流すわけですが、不審な動き、例えばあるレストランが前年の3倍も注文した、といったことがあると調査に行くことによって、横流しを防ぎました。
こうして流通を安定させたのが、この2年半でした。その結果、売価は上がりましたが、怪しいワインもほとんど駆逐されました。安売りの目玉的に扱われることもなくなりました。
オーパス・ワンの生産量は2万5000~3万ケース。いわゆるカルトワインは数百ケースのものがほとんどですから、桁が2つも違います。流通にかける労力も桁違いなわけです。適切な量を適切なタイミングで適切な場所に売るのは並大抵のことではありません。デラスス氏は、目先のことにとらわれるのではなく、2年後、3年後、5年後にどうなっていたいかを考えて戦略を考えるとのことでした。
また、ワイン作りでは、2001年からワインメーカーを務めているマイケル・シラッチ氏がTime & Placeというフィロソフィーを掲げています。Timeはヴィンテージ、Placeはいわゆるテロワールのことです。特にヴィンテージが軽視されがちなカリフォルニアにおいて、ヴィンテージの特徴がワインに現れることを意識しているそうです。
例えば、現行最新ヴィンテージの2010年は雨が多く、気温が低い日が続きました。多くのワイナリではブドウの実の回りの葉を取り払って日光にしっかり当たるようにしていましたが、オーパス・ワンではそういったことをしなかったそうです。結果的には秋に暑い日が続いたときにもブドウの実が守られました。2010年はカリフォルニアでは難しい年の1つですが、オーパス・ワンの各メディアでの評価は過去最高といっていいレベルになっています。
オーパス・ワンでは畑の作業をする人を20人フルタイムで雇っています。これだけフルタイムで雇っているワイナリはほとんどありません。彼らが毎日、細心の注意を払って、ブドウを見ていることが、Time & Placeの実現に大きく寄与しているようです。
さて、ワインですが、今回はティム・モンダヴィとパトリック・レオンがワインメーカーだった1996年、およびマイケル・シラッチに代わってからの2005年、2010年をいただきました。
1996年のオーパス・ワンは10年以上前に何回か飲んだことがありますが、非常にエキゾチックな味わいが印象的でした。今回もその印象は変わらず、17年を経ていますが、枯れてくるというよりも、円熟して柔らかくなってきた段階。まだまだこれから楽しめるワインでした。Tim Mondavi時代は必要以上にヨーロッパ的なワインを目指す傾向があったそうですが、この年はカリフォルニアらしさもしっかりと出ていると思います。
2005年はリリース当時「みにくいアヒルの子」と言われた難しいヴィンテージだそうです。リリース1年後くらいから本領を発揮し始めたとのこと。ブルーベリーやカシスなど、青系の果実味に加え、1996年にも通じるオリエンタルなスパイスの風味を感じます。
デラスス氏はオーパス・ワンの特徴を「パワーとエレガンスのバランス」と評していましたが、この2005年もパワーはあるのですが、押し出しすぎずエレガントにまとめている感じがしました。
2010年はリリースされたばかりであり、さすがに若さが目立ちます。それでも何か軽やかな感じを受けるのがオーパス・ワンらしさなのかもしれません。ファースト・アタックの強さよりも、余韻が楽しめます。今飲んでも十分おいしいワインですが、5年後くらいに飲んでみたいワインです。
康子さんは「2020年の東京オリンピックのときに」と仰っていましたが、確かにその頃が一番の飲み頃かもしれません。
ところで、この日のレストランはマンダリンオリエンタル東京のSignatureというフレンチ。料理もエレガント(写真はメインディッシュに選んだ鳩のサルミゴンディ)でオーパス・ワンによく合っていました。先日試飲したコルギン(WA100点!)だったら、料理とのバランスが取れなかったかな、などとも思いました。
このほか興味深かったのが偽造対策の話です。近年は偽造が多いことでも知られる中国のマーケットが伸びていることもあり、かなり神経を尖らせている様子でした。
偽造対策はボトル裏面の□で囲んだところで行っています。まず一番下の□はボトルにOpus Oneと浮き彫りで入れていること。偽造できないわけではないですが、コストがかかります。
また、裏ラベルにはボトルのID、QRコード、バーコードが入っています。このほかICチップも埋め込まれています。これらの情報は流通のコントロールにも役だっているそうです。
このほか、2010年からはボトルキャップにも工夫を入れたとのこと。下のデバイスを使ってボトルキャップを見ると紫や黄色で文字が見えるそうです。
最後に、日本の市場でときどき見かけるOverture(オーバチュア)について聞いてみました。Overtureはノン・ヴィンテージで、ワイナリで直接、あるいはワイナリのWebサイトでだけ販売しているワインです。当然一般の流通には載せていないし、載せる見込みもありません。
ワイナリの目的はあくまでも「オーパス・ワンそのもの」を作って売ることであって、Overtureは目的ではありません。そこは履き違えないようにしてほしいものです。
畑のブロックの話など、ほかにも面白い話はいろいろありましたが、またの機会に紹介することにします。
改めて、色々話を伺い、またワインを飲んで、オーパス・ワンを再発見したような感がありました。マニアックなカリフォルニアワイン・ファンだと「今さらオーパス・ワン?」みたいに思うかもしれませんが、マニアでない人でも手にいれられる高級カリフォルニアワインとして安心感は高いです。
機会があったらぜひ今のオーパス・ワンを飲んでみてください。
参考過去記事
オーパス・ワンの新ヴィンテージは当たり年か?
Opus Oneにまつわる五つの誤解