カリフォルニアは昨年末から大雨が続き、洪水や地すべりで亡くなった方も20人を数えるなど、大きな被害が出ています。東京に雪が降るとすぐに交通が麻痺するように、雨が降るとすぐに洪水になってしまうのはカリフォルニアの常ではありますが、特に今回は「アトモスフェリック・リバー(大気の川)」と呼ばれる大量の水蒸気の塊が川のように次々と流れ込んでくる現象が繰り返し起こったことで異例の長雨になりました。

1年前からの干ばつの状況を見ると以下のようになっています。

1年前の1月は雨季中ですが、カリフォルニアの大部分はD2(深刻な干ばつ)の状況です。

昨年の乾季の終わり頃は、カリフォルニアの中央部は一番深刻な段階であるD4(例外的な干ばつ)、ロスアンゼルスから内陸のあたりはD3(極端な干ばつ)、ノースコーストやセントラル・コーストの大部分はD2になっていました。

昨年末はまだ今回の長雨の前で、LAあたりはD3からD2になっていますが、後は雨季前とそれほど変わりません。

1月17日にはノースコーストやセントラル・コーストの大部分、さらには内陸のローダイやシエラ・フットヒルズあたりはD1(中間的な干ばつ)、サンタ・バーバラからLAあたりはD0(異常な乾燥)と、だいぶ改善されています。

最新の1月24日は、セントラル・コーストの大部分はD0になっています。それでも乾燥している状況ではあるわけですが、少なくとも前回の干ばつが始まった2013年以降ではここまで全域の色が薄くなったのは初めて見たような気がします。

デカンター誌には、カリフォルニア各地の生産者にこの雨の功罪を聞いた記事が載っていました(California’s winter storms: water, water, everywhere - Decanter)。

サンタ・リタ・ヒルズにあるヒルトのワインメーカー、マット・ディーズは雨について「ひどいもんだよ」と言いつつ、貯水池などに水が溜まったのは良かったと言っています。また、海風からの塩分が地表にたまるサンタ・リタ・ヒルズでは、雨がふらないと土の塩分が濃くなりすぎてブドウの木に悪影響を与えるそうです。今回の雨で、塩が地中に染み込んだことでその問題も解消したとのことです。

ジョセフ・フェルプスがソノマ・コーストに持つフリーストーンのワインメーカー、ジャスティン・エニスは、今のところ今回の雨はすばらしいとしています。貯水池に水がたまり、地中にも水が蓄えられ、カバークロップにも好影響が出ているとのことです。

パソ・ロブレスのタブラス・クリークでジェネラル・マネージャーを務めるジャスティン・ハースは、ここ数年は干ばつで収量が大幅に落ちていたことを指摘して、この雨で持ち直してくれることを期待していると言っています。タブラス・クリークでの12月と1月の降水量は平年の3倍に達しています。

ナパではデーヴィス・エステートのマイク・デーヴィスが答えています。地下水脈が活性化したことを歓迎しているとのこと。また2020年のグラス・ファイアーの後、焼けた木を取り除いた結果、雨による侵食が心配されていましたが、木を除くときに根を残すことで大きな問題にならなかったとしています。

少なくともワインの視点からは今回の雨は被害よりもメリットを多くもたらしているのは間違いありません。