リバモア
リバモア・ヴァレー(Livermore Valley)というAVAをご存じでしょうか。カリフォルニアワインに割と詳しい人でも「どこ?」と思うかもしれません。サンフランシスコ湾の東側でなだらかな丘陵地帯です。中央の盆地にあるリバモア市は千葉の四街道市と姉妹都市になっており、ローレンス・リバモア研究所で知られています。

実は、リバモア・ヴァレーはカリフォルニアワインの歴史においては重要な場所の一つです。ウェンテ(Wente)はシャルドネのクローンで知られており、コンキャノン(Concannon)はシャトー・マルゴーからのカベルネ・ソーヴィニヨンや、シャトー・ディケムからのセミヨンを持ち込んだ

ウェンテは家族経営のワイナリーとしてカリフォルニアで一番長い歴史を持っており、特にシャルドネの「ウェンテ・クローン」はカリフォルニアのシャルドネの7割を占めると言われるほど重要になっています。

これまではシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨンを中心とする地域でしたが、近年この地域で注目されているのがカベルネ・フランです。今年2月には「Cab Franc Guild」という団体も発足しています。コンキャノンでは「カベルネ・フラン・シティ」と名付けた新しいワイン・センターを建築中です。

リバモアの環境団体であるトライ・ヴァレー・コンサーバンシー(TVC)は2020年、歴史あるリバモア・ヴァレーのワイン産業の生産的な未来を保証する最良のブドウを特定するプロジェクトを始めました。依頼したのはUCデーヴィス。その報告書では、ソーヴィニヨン・ブランとカベルネ・フランが、ブドウの栽培条件が優れていることと、リバモア・ヴァレーのワインカントリーへの観光客を惹きつける可能性があることから、看板品種の候補として推奨されていました。

それ以前から、カベルネ・フランは作られていましたが、この報告書をきっかけにさらにカベルネ・フランを植える生産者が増えており、前述のギルドも作られました。

スティーブン・ケント・ワイナリー(Steven Kent Winery)のスティーブン・ミラソーは2023年に、「CabFranc-a-Palooza」というイベントを始めました。今年のイベントには500人ほどが参加したそうです。

カベルネ・フランはナパでも存在感を少しずつ増やしており、注目のブドウ品種の一つになっていますが、生産量がカベルネ・ソーヴィニヨンと比べてずっと少ないことからムーブメントになるほどの力はなさそうです。現状で、リバモアがナパを超える名産地になるかどうかは不明ですが、カベルネ・フランを旗印にかかげる産地はロワールを除くとほとんどありませんから、興味深い存在になる可能性はあると思います。

ただ、日本においてはリバモアのワインで輸入されているのはウェンテくらいであり、ウェンテはまだこの動きには追随していないので、リバモアのフランを飲むチャンスはなかなかなさそうなのが残念です。