ナパでいま、注目されている品種の一つがカベルネ・フランです。カベルネ・ソーヴィニヨンから植え替えているという話も結構あるそうですし、ブレンド品種としてだけでなく、75%以上カベルネ・フランを使ったヴァラエタル・ワインとしても存在感が増しています。

カベルネ・ソーヴィニヨンと比べると生産量は1桁違いますが、実はブドウの価格が一番高いのはカベルネ・フラン。近年の人気で引く手あまたになっています。

一方で、ヴィナスのアントニオ・ガッローニは「青臭く、薄く、品種の表現力に乏しく、説得力に欠け、時間を費やす価値のないワインも多く味わった」と書いており、水準に達していないワインも珍しくないようです。カベルネ・フランはカベルネ・ソーヴィニヨンと比べて栽培が難しく、栽培適地もまだ試行錯誤の面があります。ガッローニは「フランはピノ・ノワールのようなものだ。良いときは本当に良い。しかし、悪いときは本当に悪い」とも書いています。

先日、アカデミー・デュ・ヴァンで、私としては初めてカベルネ・フランだけのクラスを行いました。ナパで買ってきたワインが大半であり、初めて飲むワインも多く、凶と出るか吉と出るか、私自身もちょっとどきどきしながらの講座でした。

最初の2本はトルシャード(Truchard)のカベルネ・フランとハドソン(Hudson)のカベルネ・フラン・ブレンド「オールド・マスター」。どちらも冷涼なカーネロスのワインです。冷涼な地域の中でもこの2つのワイナリーはやや丘になった畑も多く、海からの冷気を多少なりとも防ぐことができます。ハドソンはカベルネ・フランやシラーの評価も非常に高く、トルシャードはカベルネ・ソーヴィニヨンやジンファンデルも作っています。

トルシャードのカベルネ・フランは、一番冷涼感があり、エレガント系の味わい。一方、ハドソンは非常に複雑味のあるワインですが、とにかくまだ若くて固い(ヴィンテージはどちらも2020)。ポテンシャルはむちゃくちゃ感じましたが、もう5年は寝かしたいワインでした。人気も2分でしたが、暑い日でもあり今日のむならトルシャード、というのが私の選択。ちなみにトルシャードのカベルネ・フランは定価45ドルでオールドマスター(150ドル)の3分の1以下の価格。この日のワインの中ではダントツの安さでしたがよくできていました。

次の2本はヴァカ山脈系の山のワインであるファヴィア(Favia)のセロ・スール(Cerro Sur)とマヤカマス系のスプリング・マウンテンにあるキーナン(Keenan)の対決。Faviaはこの日のワインの中で一番濃厚。ヴァカ山脈系らしい日当たりを感じるワイン。一方、キーナンはマヤカマス系らしい緻密なタンニンを感じます。これも甲乙つけ難いワインでしたが、個人的にはセロ・スールの力強さに軍配を上げたい気がしました。

最後の日本はヴァレー・フロア系。ダックホーン(Duckhorn)とデタート(Detert)です。ダックホーンのカベルネ・フランは、カベルネ・フランらしさがあるかどうかちょっと心配でしたが予想以上に美味しく驚きました。

デタートは、かのト・カロン・ヴィンヤードのオリジナルのエリアにある畑。1943年にマーティン・ステリングという人がオリジナルのト・カロンの大部分を取得し、そこの一部に1949年にカベルネ・フランを植えました。これがカリフォルニアで一番古いカベルネ・フランと言われています。マーティン・ステリングが亡くなった後、未亡人が一部をデタート家に売却したのが、現在のデタートとマクドナルドの畑になっています。歴史的にはト・カロンと名乗れる場所ですが、商標の都合でその名前は使えません。
デタートのカベルネ・フランは。その一番古いカベルネ・フランと、より新しいブロックのカベルネ・フランを使っています。深みとエレガントさと両立して素晴らしいワインでした。それでもダックホーンと人気はほぼ2分。ダックホーンも大いに健闘しました。

なお、全体を通して一番好きなワインを挙げてもらったところ、そこではデタートが一番人気でした(私もデタートが1位)。

ところで、カベルネ・フランというと「ピーマン香」と思っている人が多いでしょうが、この日のワイン、冷涼なトルシャードを含めてピーマン香は見当たりませんでした。リースリングのペトロール香と同様、品種の特徴というより、特定の環境で育ったその品種で出やすい一種の欠陥香と言っていいと思います。

カベルネ・フラン好きといってもなかなかこれだけまとめてカベルネ・フランを試飲できる機会はないので、私にとっても勉強になりましたし、とても楽しい試飲でした。「世界が広がった」という感想もいただき、受講生にも喜んでもらえてよかったです。