世の中にワインの本はたくさんあるが,ワインをタイトルに掲げる小説は案外少ない。というわけだけで手にとったこの本,まずは主人公であるウィルバーフォース氏が,1982年のペトリュスを飲むためにあるレストランを訪問するところから始まる。

10万本のワインを所有するというウィルバーフォース氏,支払い能力を危ぶんだ給仕長に,大量の札束を渡して,そこから支払うというなどかなりの太っ腹であり,またワインマニアっぷりも只者ではない感じを受ける。

…しかし,このディナー,ペトリュス1982年を飲みきってしまい,このワインのこのレストランの最後の1本までオーダーしてしまうあたりからなにやら不穏な様相を見せ始める。そして,結局は酔いつぶれたウィルバーフォース氏は昏倒してしまう。

そう,実はウィルバーフォース氏はかなりのアルコール依存症であり,それ以外の問題も数多く抱えていることが次第に明らかになる。ウィルバーフォース氏,復活はあるのか――。

と,思いきや,実はこの小説,この2006年の章から次第に遡っていくという構成になっている。読み進めるほどに,ウィルバーフォース氏がどうしてそういう抜き差しならない状況に陥っていったかが分かってくるのである。最後,ワインを飲み始める前の氏の姿を読むのはいささか居た堪れないものがあった。

というわけで,ワイン好きにとって決して楽しい小説というわけではないが,なかなか面白い小説だった。ワインうんぬんは置いておいてお勧め。