ヘレン・ターリーを「ワインの女神」と呼んだのはロバート・パーカーだったと言います。出典を探したところ、Wine SpectatorのJames Laubeは2000年4月のカルト・ワイン特集で「女神」と書いているのを見つけましたが、パーカーの直接書いたものは結局わかりませんでした。ただ1999年の記事で、「パーカーが女神と呼んだ」としているものがあったのでWine Spectatorが最初ということではないのでしょう。ともかく、ワインの女神と言えばヘレン・ターリーというのは既成事実化しているのだと思います。

1944年にゴルフのマスターズ・トーナメントで有名なジョージア州オーガスタで生まれたヘレン・ターリーはメリーランド州のアナポリスにあるセント・ジョンズ・カレッジで文学を学ぶという、ワインとは全く関係ない育ちでした。夫であり、現在も共同でワイン作りをしているジョン・ウェットローファーとはセント・ジョンズ・カレッジ在学中に知り合いました。

農業に興味があった彼女はその後、ニューヨークのコーネル大学で農業を学びます。そして1977年に田舎暮らしのライフスタイルとワイン作りのためにナパに来ます。

最初に得た職はRobert Mondaviで、研究所の技術者でした。いわゆる「セラー・ラット」としてセラーでの様々な業務もこなしたようです。また、野生の酵母で1樽分醸造してみるなど実験をいろいろやって知識を蓄えたといいます。

ヘレンは1984年にソノマのB.R. Cohnでワインメーカーになります。そして1987年に大きな転機が訪れます。イギリス人のPeter Michaelが作ったプレミアムなワイナリPeter Michaelの初代ワインメーカーになったのです。ここで彼女は贅を凝らしたワインを作り、一躍名を上げました。

1990年にはPeter Michaelを辞して自身のワイナリMarcassinをソノマに構えます。また、1991年から1993年ころにかけて、コンサルタントとして数多くのワイナリと契約します。その中にはColginやBryant、Pahlmeyerなどが含まれていました。

また、1993年から1995年にかけては、ヘレンの弟であるラリー・ターリーが作ったTurley Wine Cellarsでもワインを作っており、極めて濃厚なスタイルのジンファンデルという道を切り開きました。

1990年代半ばから後半に彼女が作ったワインは評論家に圧倒的に高く評価され、冒頭に挙げた「女神」という名が掲げられるようになりました。

一方で、ヘレンは品質にこだわるあまり、ワイナリのオーナーにも過大な要求および報酬を求めるようになっていきました。オーナーとぶつかり合うことも多かったのでしょう。1990年代末には大部分のワイナリでコンサルタントをはずれています。

そういった問題が浮上したのは、Bryant Familyとの契約のもつれが明らかになったことからでした。1997年のワインがWine Advocate誌で100点と評価されるなど、彼女の代表的なワイナリでしたが、内情は大変だったようです。正式には2002年にフィリップ・メルカに交代していますが、2000年の収穫期には既に内部で多くの問題がおき、ヘレンがワイン作りをボイコットして、ワインの品質も低くなったと言います。さらに2003年にはBryantのオーナーを契約不履行で訴えることになりました。裁判はヘレンが勝ち、25万5000ドルの報酬を得ることになりました。

訴訟問題としては、2006年にRoy Estateという新興のワイナリから逆に、契約を勝手に打ち切られたと提訴されるということもありました(和解で決着しています)。

素晴らしいワインを作りながらも、これらの問題から、ダーティで守銭奴的なイメージがついてしまったのは、残念なことだと思います。

こういったことや自身のMarcassinに注力したいという意向から、2000年代にワインメーカーをしたのは自身のMarcassinのほかは、Marcassinのブドウの供給元としても付き合いがあったMartinelli、1999年にできたBlankiet、2003年にできたKapcsándyと、1990年代に比べるとわずかにとどまります。長く続いたMartinelliとも2010年には終わりを告げ、2011年からは自身のMarcassinに専念することになりました。2011年には2008年のシャルドネがカリフォルニアのシャルドネとしては初めてWine Advocate誌で100点に輝いています。

最後に彼女のワインメーカーやコンサルタントとしての足跡をまとめておきます。ナパでの活躍を見るとカベルネ・ソヴィニョン一辺倒かと思ってしまいがちではありますが、Marcassinではウルトラ・プレミアムなピノ・ノワールとシャルドネを作り、同じくソノマのLandmarkやMartinelliでも優秀なシャルドネやピノ・ノワールを作りました。TurleyとMartinelliではZinfandelでも優れたワインを作っています。

B.R. Cohn 1984-1987
Peter Michael 1987-1990
Harrison Vineyards 1989-90?
Marcassin 1990-現在
Canepa 1991-?
Green & Red 1991-?
La Jota 1991-1997?
Swanson 1992-1995?
Colgin 1992-1999
Bryant 1992-2002
Landmark 1993-?
Martinelli 1993-2010
Turley 1993-1995
Pahlmeyer 1993-1999
Blankiet 1999-2005
Kapcsándy 2003-2004