ワシントンでチャールズ・スミスやKヴィントナーズ、ワインズ・オブ・サブスタンスといったワイナリーを持つ「鬼才」チャールズ・スミスがワイン造りを始めて20年目の今年来日し、セミナーを開催しました。その中のワインの一つは「実売2000円台とは思えないスーパーお買い得なカベルネ」で紹介しましたが、それ以外のセミナーのレポートです。


ユニークでひと目で分かるワインのラベルや、本人の独特の風貌など、ワインメーカーというよりも宣伝上手なマーケターにも見えてしまうチャールズ・スミスですが、実際には本人はいたってシャイで真面目な人。セミナー中には昔を思い出して涙ぐむこともありました。

ワイン造りも真摯であり、「ワインは真実だ」と繰り返し言うチャールズ。100%サスティナブル、100%天然酵母での発酵などをモットーにしています。また、基本的に白ワインは全房発酵、赤はシラーなどローヌ系の品種は全房発酵、ボルドー系の品種はステムを取っての発酵だとのことです。全房発酵を多く使うのは、ステムもワインの一部であるという考えから。生理的に完熟したぶどうを使うことで青臭くなることを防いでいます。また、2種類以上のブドウ品種を使うワインでは最初からぶどうを混ぜて一緒に発酵させるとのこと。普通は別々に作ってあとでブレンドしますが、一緒に発酵する場合、ブレンド比率は後から変えられないのでリスクを伴います。それでもハーモニーが大事だとして、そのやり方を貫きます。

19歳のときにレストランで働き始めたチャールズ。最初は厨房だったのですが、厨房は暑くて重労働。ウェイターとして客席に行くようになって、レストランでひとが幸せになるのを見るのに喜びを感じます。中でもソムリエの仕事にあこがれ、25歳でリッツ・カールトンでワイン担当になります。1999年にワイン造りを始めたときはほとんどお金もなかったのが、カイユースからブドウの提供を受けるなどして次第に人気を博し、今にいたります。

さて、ワインに移りましょう。今回の試飲は7本。2本がヴァラエタルの特徴を出すことを主体としたワインズ・オブ・サブスタンス、5本が少量多品種生産で非常に評価の高いワインを作っているKヴィントナーズです。

1番はワインズ・オブ・サブスタンスのソーヴィニヨン・ブラン2017。希望小売価格3300円。
チャールズが「還元的なワイン」だというこのソーヴィニヨン・ブラン。確かに還元香だと思われる、硫黄のような香りを少し感じます。果実味以上に青草の香りやチョークなどがあります。長熟できるソーヴィニヨン・ブランだといいます。フレッシュなタイプではないので、数年経ってから飲んだほうがいいかもしれません。

2番はKヴィントナーズのヴィオニエ・アート・デン・ホード。ヴィンヤード2017。4500円。
カリフォルニアワインファンの私ですが、正直に言ってヴィオニエについてはワシントンのほうが美味しいのではないかと思っています。カリフォルニアのヴィオニエだと白桃的な甘さが全面に出ることが多いですが、ワシントンのヴィオニエはもっとフレッシュ。オレンジピールやメロンの果実味にきれいな酸。やわらかさも感じる非常にいいヴィオニエです。50%コンクリートタンク、50%ニュートラルな樽での発酵とのこと。コンクリートタンク使うワイナリーは最近ずいぶん増えました。特に白ワインではフレッシュさを保ちながら味を引き出せるのが魅力のようです。

3番はワインズ・オブ・サブスタンスのカベルネ・ソーヴィニヨン2016。これは先日の記事に書いた通り。反則的なほど美味しいカベルネ・ソーヴィニヨンです。希望小売価格は2800円ですが、先日書いたように実際には税込み2500円程度でも売っています。いやあ、これはずるいわ。それにしても13万ケースという生産量で、天然酵母を使って37日間かけて発酵させるとか、普通できないです。フィルターも清澄もなし。

4番めはKヴィントナーズのオヴィード・カベルネ・ソーヴィニヨン/シラー 2015。9000円。
チャールズがお父さんのために作り始めたというこのワイン。お父さんの死後、1回はやめてしまったものの、また作り始めました。カベルネ・ソーヴィニヨン70%でシラー30%。香りに爽やかさを感じます。最初はちょっとくさっぽさがありますが時間が経つにつれて、果実味が出てきます。これも相当長熟できるワインだと思います。

5番目はKヴィントナーズのモーター・シティ・キティ シラー2015。7500円。
シラーもワシントンとてもいいと思います。カリフォルニアのシラーもいいですが、少し違う魅力があります。特に長熟性ではこちらのほうがだいぶ上だと思います。これも鉱物的な香りが強く、今はやや固さを感じますが将来性は豊かです。

6番目はKヴィントナーズのロイヤル・シティ シラー2015。2万5000円。
これは素晴らしいです。濃厚でパワフル。スパイシーでオリーブなどの風味もあります。時間が経つに連れて味わいも少しずつ変わってきます。これも長熟間違いありません。

最後はKヴィントナーズのキング・コール。カベルネ・ソーヴィニヨン/シラー 2015。1万6000円。
これは一番カリフォルニアに近いような丸みと果実の甘味を感じるワイン。美味しいです。

これまでも試飲会で何種類か試飲したことはありますが、やはりセミナーで時間をかけて味わうと全然違いますね。そして、ワインズ・オブ・サブスタンスもさることながら、Kヴィントナーズのヴィオニエとシラーはカリフォルニアでは作れないような美味しさのワインで、正直ちょっとうらやましく思いました。私もカリフォルニアを名乗りながらも北米全般はカバーしたいと思っているので、なかなか紹介することのないワシントン州のワインですが、これからも機会を見つけて紹介したいと思います。