「トカロン(To-Kalon)」の名称を巡って再び訴訟が起きています。トカロンはロバート・モンダヴィの畑として、また「ベクストファー・トカロン」の畑として知られています。オーパス・ワンもトカロンのブドウを使っている代表的なワイナリーの一つです。としてシュレーダーやポール・ホグスなどが最高級のカベルネ・ソーヴィニヨンを作っています。ワイン・アドヴォケイトでは「トカロン」の名前が入ったワインで約30本もの100点ワインを輩出している、銘醸畑中の銘醸畑です。

To-Kalon Vineyard [2]

実はトカロンの名前は1987年にロバート・モンダヴィによって商標登録されており、現在はロバート・モンダヴィのオーナーであるコンステレーション・ブランズ社がその商標を持っています。コンステレーションとしては、トカロンを拡大解釈してあらゆるワインに使うことも可能な状況です。

もともとトカロンは1868年にハミルトン・クラブという人が土地を購入してブドウ畑を作り、その名前として名付けたものでした。ギリシャ語で「最高の美しさ」という意味があります。

ロバート・モンダヴィ(コンステレーション)が所有しているのは、このオリジナルのトカロンの半分くらいで、ほかにもいくつかの畑がそこにあります。ベクストファーの畑もその一つです。

2002年にシュレーダーがかつてのトカロンの畑であったベクストファーの畑から「Beckstoffer Original To Kalon Vineyard」とラベルに銘打ってワインを出し、2003年にロバート・モンダヴィがそれを提訴、ベクストファー側もモンダヴィの商標は無効として反訴するということがありました。

結局、両者は和解したため裁判としては結論が出ておらず、モンダヴィとしては商標は守られ、ベクストファーとしては「ベクストファー・トカロン」と銘打ったワインを出せることになりました。したがって、旧トカロンの畑の持ち主であってもモンダヴィ(コンステレーション)とベクストファー以外はトカロンと名乗れない状況は今も続いています。

さらにコンステレーションは2017年に「To Kalon Wine Company」「To Kalon Vineyard Company」「Rooted in To Kalon」の3つを商標登録しようとしましたが、結局これは断念しています。ただ、2018年に「The Miracle of To Kalon」「To Kalon 1886」の2つを商標登録したそうです。

今回、改めてコンステレーションの持つ商標が無効として訴えたのはファー・ニエンテの創始者の子供のジェレミー・ニッケルが保有する「ザ・ヴィンヤード・ハウス」というワイナリー。かつてハミルトン・クラブが所有していた土地の一部を持っており、そこのワインにトカロンと名付けるために提訴しました。

かつてベクストファーが訴えたのとよく似ていますが、一つ大きな違いがあります。ザ・ヴィンヤード・ハウスが所有している「トカロン」の土地は、ハミルトン・クラブの地所の一部だったのは確かですが、ハミルトン・クラブはそこには畑を作っていなかったのです。ベクストファー家のアンディ・ベクストファーは、ハミルトン・クラブが実際に畑にしていたかどうかが大きな問題であり、ザ・ヴィンヤード・ハウス側には分がないのではないかとの見方を示しています。

コンステレーションがかつて敵だったシュレーダーを買収し、シュレーダーは今後ベクストファー・トカロンからコンステレーションのトカロンにブドウの供給元を変えることになる(2021年まではベクストファーとの契約があるそうです)など、今後もトカロンには様々な動きがありそうです。

モンダヴィが商標を登録したときには「この名前は歴史的には重要だが、ワイン業界において現在は意味がない名前になっている」と記していたそうです。それから30年、トカロンはナパにおいて最重要な名前の一つになりました。故ロバート・モンダヴィは草葉の陰で何を思っているのでしょう。