このところ、古木の畑の記事が公開されたり(Uncovering the Magic of Old Vines | Wine-Searcher News & Features)、自分のセミナーでリッジを取り上げたときに改めてリットン・スプリングスやガイザーヴィルについて調べたり、ベッドロックのモーガン・ピーターソンのマスター・オブ・ワインの論文を読んだりなど、古木について考える機会がいろいろありました。また先週はコントラコスタで古木の畑から素晴らしいコスパのワインを作っている「スリー」の生産者が来日し、話を聞く機会もありました。

スリーについては、きちんとまとめる予定ですが、英語の録音を全部聴き直すのにまだ数日はかかりそうなので、そのイントロダクションの意味も込めて、古木の世界を少し紹介したいと思います。

2011年から活動を始めた非営利団体の「ヒストリック・ヴィンヤード・ソサエティ」には、現状126個の畑が登録されています(数え間違いでなければ)。また、未登録ですが登録候補となっている畑のリストがそれと同じくらいあります。登録の条件は、(1)現在もワインを作っているカリフォルニアの畑であること、(2)最初の植樹が50年以上前であることの証拠があること、(3)現在ワイン造りに使われている木の3分の1以上が最初の植樹に遡ること、の3つ。3つ目の条件はなかなか難しく、例えば1949年に最初に植えられたナパで一番古いカベルネ・ソーヴィニヨンの畑と言われているJJ Cohn(スケアクロウの畑)などが登録候補状態にとどまっているのはその条件がクリアできていないのではないかと思います。

古木の畑の中でも特に重要なのがジンファンデルの畑です。19世紀に植えられた畑で現存しているものの大部分はジンファンデルの畑です。そのほとんどがフィールド・ブレンドといって、畑の中に複数の品種が混じって植えられた形になっています。

複数の品種が混じった理由はいくつかありますが、ジンファンデルの特性が関係しているようです。ジンファンデルは成熟が一様でなく、一つの房の中でも完熟したブドウとまだ青いブドウが混じるといったことが普通に起こります。そこでワインが青臭くなるのを防ぐために、色の濃い他の品種を混ぜて植えたようです。

多くのワイナリーでは、これらを一緒に収穫して醸造する「コファーメント」の手法を使っています。これによって、複雑さが生まれると、多くのワインメーカーは考えています。色調が安定する効果もあると言われています。フィールド・ブレンドの比率は畑によって違いますから、ある意味それぞれが唯一無二の味わいを生み出しているとも言えるでしょう。

そもそもなぜ当時ジンファンデルが多く植えられたかというと、一つにはジンファンデルは房が大きく収穫量も多くなるといったことがあったようです。また当時の役所が「最もクラレット(ボルドーの赤ワインのこと)に近い味わいを出すのがジンファンデルだ」とジンファンデルを植えることを推奨したという話もあります(なぜカベルネ・ソーヴィニヨンを推奨しなかったのかは不明です)。また、ジンファンデルは比較的病害にも強く、19世紀末にフィロキセラの害が蔓延する中で、他の品種からジンファンデルに植え替えられたという例もあったようです。フィールドブレンドの畑でも19世紀末にジンファンデルの比率が上がっています。このほか、ジンファンデルは年をとった木でも、まだそれなりの収量があるため、植え替えられずに残ったということも関係していそうです。

ちなみに、カベルネ・ソーヴィニヨンは比較的若い木でもいいワインができる(例えばパリスの審判で1位になったスタッグス・リープ・ワイン・セラーズのSLVの畑は当時樹齢10年以下でした)、年をとると極端に収量が落ちるといったことから、30年程度で植え替えられることが多く、なかなか古い木が残るケースが少ないようです。

とはいえ、ジンファンデルもやはり収量は落ちますから、経済的に古い畑を維持できる環境を作っていくことが大事になります。ヒストリック・ヴィンヤード・ソサエティを作ったのも、古い畑の重要性に皆に気づいてもらうことが大きな目的だったと思います。

この団体の初期メンバーの一人であるベッドロックのモーガン・ピーターソンは、古い畑の維持に積極的に取り組んでいる一人です。彼の作る「オールド・ヴァイン・ジンファンデル」は、「オールド・ヴァイン」の広告塔的な役割を担うとともに、それなりの価格で売れるワインに使うことで、古木の維持につながるという目的もあって作られています。

もっと古くから古い畑のブドウを使ったワインを積極的に作っているワイナリーとしてはリッジやターリーがあります。リッジはリットン・スプリングスなどの有名な畑だけでなく、様々な畑のワインを「ATP(Advanced Tasting Program)」というクラブメンバー向けに提供しています。ターリーは30を超えるほどの数多くの古木の畑から単一畑のワインを作っています。

古木の畑が特に多い地域としてはソノマとロウダイがありますが、ソノマではセゲシオなども古い畑のワインを積極的に作っています。また、ロウダイではマイケル・デイヴィッドが人気ワインの「セブンデッドリージンズ」に使うために、古木の畑のブドウを積極的に購入していました(ブランド売却により、今後どうなるのかが少し心配ですが)。

また、「ニューカリフォルニア」系の生産者でもブロック・セラーズなど、無名の地域の知られざる古い畑でマイナー品種を作っているところ探してきてワインを作っています。こういった、ジンファンデル以外の活動も興味深いものがあります。

世界を見渡せば、オーストラリアのバロッサ・ヴァレーやギリシャのサントリーニ島など、もっと古い木が残る地域もありますが、カリフォルニアのオールド・ヴァインも貴重な歴史の一つです。カリフォルニアワイン・ファンとしては、それを守るワイナリーを応援していくことが必要だと思います。

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