先日、WSET(Wine and Spirits Education Trust、ダブリュセットと呼ぶ人もいますが本来はダブリュエスイーティーと読みます)のLevel 3に合格しました。ワインの資格を取ったのはこれが初めてです。



ワインの資格というと日本ソムリエ協会(J.S.A.)のソムリエが有名ですが、ソムリエになるには3年以上、飲食やワイン業界に従事していないといけないため、一般の人は受けられません。その代わりにJ.S.A.にはワインエキスパートという資格があります。ソムリエもワインエキスパートも一次試験は選択式のテストがあり二次試験はテイスティングです。ソムリエの方は加えて論述とサービスのテストもあります。

それに対してWSETはロンドンに本拠地を置く国際的な教育機関です。日本語で受けられる試験としてはワインのレベル1~3、それから日本酒のレベル1があります。ワインの試験は英語のものと内容的には同じです。

WSETをお薦めする理由を挙げます。
・ステップアップしやすい
・世界標準の教育である
・ワインエキスパートと比べると覚えなければいけないことが少ない
・テイスティングはあくまでワインを評価するためのもので、銘柄当ては必要ない
・良いワインはどう作られるかの理屈が理解できるようになる

・ステップアップしやすい
日本語で受けられるレベル1~3は、レベル1が「ワインに関わる仕事を始めようとしている人や、ワインへの関心を追求している人を対象とした、ワインに関する初心者レベルの概要」、レベル2が「業界のプロフェッショナルやワインの愛好家を対象とした、ワインについての知識を深める初級~中級レベルの資格」、レベル3が「ワインの業界で働くプロフェッショナルおよびワイン愛好家を対象とした上級レベルの資格」となっています。

例えばレベル1の例題としては
以下のブドウ品種のうち、赤ワインを造るのはどれか?
 a カベルネ・ソーヴィニョン
 b ソーヴィニョン・ブラン
 c リースリング
 d シャルドネ
といったものがあります。試験は30問のマークシートです。基礎的な知識があればできそうですね。学習時間は試験時間の45分を合わせて6時間とされています。

レベル2の例題としては

ドイツとオーストラリアの両国で、上質な白ワインを造ると考えられているブドウの品種はどれか?
 a. メルロー (Merlot)
 b. セミヨン (Semillon)
 c. シラーズ (Shiraz)
 d. リースリング (Riesling)

以下のワイン生産地で、グラン・クリュ (Grand Cru)と表示ができるのはどれか?
 a. シャブリ (Chablis)
 b. ヴーヴレ (Vouvray)
 c. ミネルヴォワ (Minervois)
 d. エルミタージュ (Hermitage)

といった感じで、地域の知識などが加わってきます。また様々なぶどう品種の特徴を学ぶのがレベル2です。本当の初心者でなければレベル2からスタートするのが良さそうです。テストは50問の選択式となっていて、自由論述はありません。レベル2は16時間の講義と1時間の試験、11時間の自習が必要とされています。

レベル3は50問の選択式問題と論述問題、それから試飲となっていて、だいぶ難しくなります。選択式+論述の「理論」と「試飲」それぞれで55%以上の得点が合格条件です。

選択問題では以下のような感じの問題が出ます。

次のうち、ワイン中の微生物の安定化を保証するものはどれか?
 a. 無菌濾過
 b. ラッキング
 c. 深層濾過
 d. 低温発酵

ポートの生産に使用されないのはどのブドウ品種か?
 a. ティンタ・ロリス種
 b. トゥリガ・ナショナル種
 c. ユニ・ブラン種
 d. トゥリガ・フランカ種

次のうち、リベラ・デル・ドゥエロで重要な自然の要因はどれか?
 a. 海洋の影響
 b. 秋に発生する早朝の霧
 c. 標高の高さ
 d. ピレネー山脈から吹き降ろす冷気

このように、栽培や醸造、各国のルールについても知識が必要になります。30時間の講義、2時間半の試験、50時間の自習が必要とされています。

このようにだんだんレベルを上げていけるのがWSETのいいところです。それに対してワインエキスパートは試飲と知識と両方必要という点ではWSETのレベル3相当でしょうか。初心者にはかなりハードルが高いです。

・世界標準の資格である
WSETの資格内容はどの言語で受けても同じです。日本にいて英語で受けることもできます。
また、WSETにはレベル3よりも上の資格としてDiplomaもあります。Diplomaは日本人ではまだ100人足らずというかなり狭き門ですが。また、世界最高のワイン資格であるMaster of Wine(MW)は、WSET Diploma程度の資格を持っていることが応募の条件となっています。実質的にはDiploma取得が必須といっていいでしょう。もしあなたが世界のトップを目指すのならWSETを勉強するべきだと思います。

・ワインエキスパートと比べると覚えなければいけないことが少ない
以降は私の受けたレベル3とソムリエ/ワインエキスパートの比較になります。
記憶力の悪い私にとっては、これは大きなポイントです。ソムリエ/ワインエキスパートでは例えばブルゴーニュのグランクリュとかプルミエ・クリュとかを全部覚えたり、ボルドーの格付けシャトーの名前を全部覚えたりといったことが必要です。
WSETレベル3では、ブルゴーニュのグランクリュの畑名は一応教科書に出ていますが、基本的には村名まで覚えておけば大丈夫です。また、ワインのプロデューサーの名前は覚える必要がありません。カリフォルニア以外のワインの知識に乏しい私にとってはこれは重要でした。学習時間が80時間程度というのも、ソムリエ/ワインエキスパートと比べると格段に短いだろうと思います。

・テイスティングはあくまでワインを評価するためのもので、銘柄当ては必要ない
WSETのテイスティングは系統的テイスティング・アプローチ(SAT)といって、「ワインを正確に描写する能力と、そうした描写を基に妥当な結論を導く能力」を養うことを目的としています。
テイスティングのコメントは外観、香り、味わい、結論に分けて書いていきます。テイスティングで使う語彙は標準化されており、基本的にはその範囲で記述します。誰が書いても同じテイスティング・コメントになるような客観性を求めているのだと思います。
書く項目はソムリエ/ワインエキスパートと大部分共通しているようですが、ソムリエ/ワインエキスパートでは収穫年や生産地、品種を答えなければいけないのに対してWSET Level3ではそれらは必要ありません。飲んで客観的にその内容を評価することが大事であり「当てる」ことを目的としていないからです。

・良いワインはどう作られるかの理屈が理解できるようになる
WSET Level3では論述がかなりの要素を占めます。そこで大事なのは「論理」「理屈」です。例えばボルドーで小石の多い左岸ではカベルネ・ソーヴィニヨンを多く植えて、砂地の多い右岸ではメルローを多く植えるのはなぜか、土壌による温度の保持と品種の特徴とを結びつけて理解するといったことが大事になります。気候や斜面、気候に影響を与える地理的要素などを品種やワインのスタイルなどと結びつけて考えることが必要になります。また、醸造や栽培の方法についても知識が必要なのと同時に「なぜそうするのか」を理解する必要があります。逆に言えばこのように「理屈」でつなげて考えることができれば、覚えること自体はあまり増えずに済むのです。
またWSET Level3では価格と品質について考えることも大事です。安いワイン=品質が低い=悪いではなく、安いワインにも高いワインにも存在価値を認めていて、安いワインはどのように作られるから価格が抑えられるのか、高いワインはどのように作られるから品質が上がって価格が高くなるのかといった違いを理解できるようになります。

長くなったのでWSETの勉強法については別記事にしますが、教科書以外に読んだ本で唯一とても役に立ったものだけ先に紹介しておきます。



教科書の栽培や醸造の説明は「なぜ」の部分がちょっと足りずに理解しきれないところがあったのですが、この本を読んでだいぶすっきりしました。Level3の上のDiplomaを目指す人は必須の書籍の一つと言われているそうです。