ワイン評論家によるナパの2020年のレポートが相次いで発表されています。発表された中で購読しているのはVinousだけなので、Vinousのアントニオ・ガッローニによる評価と、短いレポートを公開しているジェームズ・サックリングの記事(Finding Clairity in Napa Valley's 2020 Vintage)を参考に、2020年のナパ(のカベルネ・ソーヴィニヨンやそのブレンド)を評論家がどう見ているかを簡単にまとめたいと思います。
Andy Ericsson
写真はナパ・ヴァレー・ヴィントナーズの会長に就任したアンディ・エリクソン

先日、オーパス・ワンが2020年を発売しないという記事を書きました。2020年9月27日に発生した「グラス・ファイアー」という山火事の影響で、多くのブドウを収穫できなかったのが理由です。

コルギンやシェーファーなど、その前から2020年を作らないと公表していたワイナリーも少なからずあります。また、今回のレポートを読むと、ワインは作ったけど、販売を見送るという判断をしたワイナリーも結構あるようです。例えばクインテッサは昨年私が聞いたときには2020年のワインも作っているという話でしたが、今回のレポートでは「火事の影響で販売しない」だけ書かれていました。先日紹介した新生ベラ・オークスのワインメーカーであるナイジェル・キンズマンも、いくつかのワインを醸造したが販売できるクオリティではないと判断した(おそらくこれは自身のキンズマン・イーズについて語ったものです)としています。

特に、ナパの東側、ヴァカ山脈側は煙の被害が大きく、プリチャード・ヒルやスタッグス・リープの2020年のカベルネはほぼゼロと言ってもいいくらいだとのこと。ナパ全体では少なくとも数百のブランドが2020年を販売しないことにしたようです。

2021年2月に発表されたクラッシュ・レポートによると2020年のナパのカベルネ・ソーヴィニヨンの収穫は前年より43%も減っていました。醸造しても販売を行わないことにしたものがかなりありそうなことを考えると半分以下に減っていることも考えられるかもしれません。

一方、2020年を売ることを選んだワイナリーももちろんたくさんあるわけです。有名どころでいうとスクリーミング・イーグルやハーラン・エステートは2020年を発売します。

特に興味深いのがハーラン・エステートの動きです。ハーラン・エステートが2020年のワインを作った、あるいは作れたのは収穫時期を大幅に前倒ししたからでした。ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンは9月中旬くらいから10月末くらいの間に収穫するのが普通です。オーパス・ワンなど1カ月以上かけて収穫を行いますし、いいワイナリーほど、収穫期間を長く持つ傾向があります。

ハーランは2017年(これも火事の影響が大きかった年でした)以降、収穫時期を早める傾向が出ており8月から収穫を始めることもあるそうです。2020年は火事のために通常よりもさらに早く収穫したわけですが、結果としてワインによりフレッシュさが出たことに満足して2021年以降も早い時期での収穫を行っているそうです。

ハーラン、ボンド、プロモントリーのハーラン・ファミリーのジェームズ・サックリングによる2020年の評価は「ほとんどが99か98点」だったとのこと。ヴィナスでの評価は例年と比べると低いようですが、これがどのように熟成して将来の評価がどうなるかは、現時点ではだれもわからないというのが本音のようです。ヴィナスでの評価が将来上ブレしたり、逆に下ったりする可能性もないとは言えません。

他の2020年を発売する決断をしたワイナリーの中にも、収穫時期を早めにしたところはかなりありそうです。逆に、早めに収穫したから火事の被害を少なく抑えられたといった方がいいのかもしれません。

ヴィナスでの2020年のワインの評価は全体として例年より低めであることは否めないと思います。ワインのフレッシュなスタイルが低めの評価につながったという面もあるかもしれません。

思い出すのは1998年のヴィンテージで、大豊作でクオリティも高いとされた97年に対し、98年はエルニーニョの影響で涼しく雨も多く、ナパでは珍しくブドウが完熟しない年でした。評論家の評価もかなり低く抑えられましたが、現在ではむしろ98年の方が97年よりも熟成すると美味しいという評価もあります。2020年のフレッシュなスタイルが将来どう評価されるかはわからないというのが正直なところで、98年のように評価が変わる可能性もあるでしょう。

いろいろ書きましたが、まとめると
・2020年のナパのカベルネは、おそらく半分くらいに減っている
・作られたカベルネは、やや軽いスタイルのものが多いかもしれない
・熟成したときにこのヴィンテージがどう評価されるかは神のみぞ知る
というのが現在の私の見方です。まだ実際に自分で飲んでいるわけではないので、あくまで評論家の評価を参考にしてということですが。