ナパのパルメイヤー、オーナーが代わって得たもの失ったもの
ジェイソン・パルメイヤー(Jayson Pahlmeyer)がパルメイヤー・ワイナリーをE&J.ガロに売却したのが2019年のこと。同社のニコラス・パリスMWが来日し、オーナーが代わってからの初のセミナーを開催しました。
ニコラスさんは2014年に米国で34人目のマスター・オブ・ワインを取得した人。さらにマスター・ソムリエにも挑戦していて、あと一つの試験に受かればいいというところにまで来ているという才人です。ちなみに両方取得した人はこれまで4人いるとのこと。
創設者のジェイソン・パルメイヤーはもともと弁護士をしていた人。弁護士の友人とナパのクームズヴィルに55エーカーの畑を購入し、ワイン造りを始めます。ちなみにこの畑はその友人が所有者となり、現在はCaldwell Vineyardとなっています。
ジェイソンは、ナパでボルドーの1級ワインに匹敵するワインを作りたいと考えていました。そのためにはいいクローンを手に入れることが大事だと思い、ボルドーから各品種のクローンを持ち込んだそうです。今でいうスーツケース・クローンです。当時もそれは法に触れることでしたが、カナダ経由で輸入することでなんとか入手できたそうです。
1981年に入手した樹を植樹しました。するとハウエル・マウンテンの著名なヴィントナーであるランディ・ダンが来て、ブドウを買わせてほしいと来たそうです。そこでジェイソンは「自分の名前が付いたワインを作ってくれるのならいいよ」と返答し、彼が最初のワインメーカーになりました。1986年に作った最初のワインがワイン・アドヴォケイトで94点を取り、一躍注目されるようになりました。さらに1992年には映画『ディスクロージャー』でストーリーのキーになる小物としてパルメイヤーのシャルドネが使われ、一般の知名度も急上昇しました。実はジェイソンは最初は映画にワインが使われることをためらっていたそうです、
1993年には当時、数々の「カルト・ワイン「を作って注目を集めていたヘレン・ターリーがワインメーカーになりました。収穫したブドウの中で柔らかな味わいのものなどは、分けてセカンド・ラベルに使うことにしました。こうしてできたのが「Jayson」ブランドですが、現在はセカンドではなく別ブランドという位置づけに変わっています。
1998年にはアトラス・ピークにWaters Ranchという畑を作りました。David Abreuが植樹と栽培管理を担当しました。これが今もパルメイヤーの主要な畑となっています。このほか、アトラス・ピークのステージコーチ(Stagecoach)の畑も主要な畑をして使っています。ステージコーチも現在はガロの畑ですので、買収後も使い続けています。
パルメイヤーというとビッグでボールドなワインスタイルで知られており、なんとなくヴァレー・フロアのブドウを使っているイメージがありましたが、実は山のブドウにこだわりを持っているワイナリーです。
自社畑は標高400~700mくらい。アトラスピークの一番端にあります。シャルドネとメルローは西向きの標高高いところに植わっています。
山の畑は涼しい気候で、生育期間を長くのばせます。酸をキープするブドウが作れます。また、霧の高さよりも高いところにあるので、日照時間は長くなります。ただ、表土は浅く雨で流れてしまうという弱点もあります。ヴァレーフロアであれば1エーカーあたり5~6トン取れるところが山では1トンから2トンしか取れないそうです。山ではブドウの樹が生き延びるのが大変であり根を伸ばすのと同時にブドウの粒が小さくなります。ブドウの色は濃く。酸とのバランスが良いワインが作れます。さらにパルメイヤーでは樹勢があまり強くならないような台木を使っています。また、ワインにエレガンスさを持たせるためにブドウの実に強い日照をあてないように工夫しています。
現在のワインメーカーはケイティ・ヴォート(Katie Vogt)という人。ブドウ醸造の研究でUC Davisに並び立つCal Polyで学び、2016年からアシスタント・ワインメーカーになりました。2019年にガロが買収してからワインメーカーに就任しています。
テイスティングに移ります。
2022 Jayson Sauvignon Blanc
ソーヴィニヨン・ブランはガロが買収してから始めたもの。2021年が最初のヴィンテージでこれが2回目のヴィンテージとなっています。パルメイヤー自身はソーヴィニヨン・ブランの畑を持っていないので、ワインメーカーがナパをいろいろ回ってブドウを調達しているとのこと。生産量は少なく日本にも未輸入です。醸造では100%樽発酵しています。
パッションフルーツやグアバなど熟度の高い果実。オイリーなニュアンスとハーブの風味もあります。ちょっと甘やかさがあり、一方で酸もきれいで強く、バランスが取れています。フレッシュな味わいで、果実の明るさとなめらかなテクスチャを感じます。ナパらしさを感じるソーヴィニヨン・ブランです。
2021 Pahlmeyer Chardonnay
2021年は乾燥して雨が少なく収量が少なかった年です。
色は濃いめです。香りにミネラル感があり、白桃やナシ、かんきつの風味。バターやヴァニラ、ナツメグなどの風味もありリッチな味わいです。クリーミーで柔らかなテクスチャーです。余韻も素晴らしく長い。
パルメイヤーでは房が小さく凝縮した味わいになるオールド・ウェンテのクローンを使っており、その良さがよく表れています。
ニコラスさんは「ナットシャイ(控えめではない)」ワインと表現されていましたが、パルメイヤーのイメージそのままのワイン。基本的にワインスタイルは買収後も変えていないそうです。
2013 Pahlmeyer Chardonnay
麦わらや穀物の香り。リッチでかんきつやバター、フルーツケーキ。熟成からくるマッシュルームやベイキングスパイス、ナッツの風味。10年熟成でしっかりと熟成感が表れてきています。これが悪いわけではないですが、個人的には果実味がストレートに伝わってくる若いヴィンテージの方がこのワイナリーらしさがより感じられるような気がしました。
2020Jayson Cabernet Sauvignon
2020年は山火事でナパの多くのワイナリーが苦労した年。パルメイヤーでは「パルメイヤー」ブランドでの赤ワインはあきらめ、赤はジェイソンのカベルネ・ソーヴィニヨンだけを作りました。
Pope ValleyやSilverado Bench(ガロ傘下のWilliam Hillの畑)を使っています。山のブドウにこだわるパルメイヤーブランドとは異なり、ベンチランドにある畑も使っています。100%カベルネ・ソーヴィニヨンは、このブランドでは珍しいです。
非常に濃い。杉、ハーブ、カシス、ブラックベリー、アメリカン・チェリー。濃いですがフレッシュさもありバランス良いです。タンニンもしっかり。テクスチャは柔らかく緻密な味わい。
最後のワインは
2008 Pahlmeyer Proprietary Red
2008年は春先に霜の被害があり夏にはヒートスパイクも起こりました。収穫はだいぶ減ったそうです。9月上旬に熱波が来たので、そのお前にメルローやカベルネ・フランは収穫しました。カベルネ・ソーヴィニヨンは熱波を越えてから収穫し、生育期間が長くなりました。
腐葉土、マッシュルーム、カシス、レッドチェリー、チョコレート、ココア、コーヒー、グラファイト。アルコール度数は高いですが、重さを感じず、素晴らしく長い余韻があります。
ちょっと低めの温度でサーブされたのも抑制が効いた味わいになり、素晴らしかったです。
さて、表題につけた「オーナーが代わって得たもの失ったもの」ですが、基本的には畑のソースも変わっておらず、ワインメーカーも交代はしていますがこれまでを引き継いでいます。逆に得たものとしては、ガロ傘下の畑からの調達が確実になったことがあります。また新たに作ったソーヴィニヨン・ブランもかなり美味しく、これも得たものと言っていいでしょう。いい意味で「変わらないこと」に安心しました。
現在インポーター在庫があるのは2020ジェイソン・カベルネだけだそうです。
ニコラスさんは2014年に米国で34人目のマスター・オブ・ワインを取得した人。さらにマスター・ソムリエにも挑戦していて、あと一つの試験に受かればいいというところにまで来ているという才人です。ちなみに両方取得した人はこれまで4人いるとのこと。
創設者のジェイソン・パルメイヤーはもともと弁護士をしていた人。弁護士の友人とナパのクームズヴィルに55エーカーの畑を購入し、ワイン造りを始めます。ちなみにこの畑はその友人が所有者となり、現在はCaldwell Vineyardとなっています。
ジェイソンは、ナパでボルドーの1級ワインに匹敵するワインを作りたいと考えていました。そのためにはいいクローンを手に入れることが大事だと思い、ボルドーから各品種のクローンを持ち込んだそうです。今でいうスーツケース・クローンです。当時もそれは法に触れることでしたが、カナダ経由で輸入することでなんとか入手できたそうです。
1981年に入手した樹を植樹しました。するとハウエル・マウンテンの著名なヴィントナーであるランディ・ダンが来て、ブドウを買わせてほしいと来たそうです。そこでジェイソンは「自分の名前が付いたワインを作ってくれるのならいいよ」と返答し、彼が最初のワインメーカーになりました。1986年に作った最初のワインがワイン・アドヴォケイトで94点を取り、一躍注目されるようになりました。さらに1992年には映画『ディスクロージャー』でストーリーのキーになる小物としてパルメイヤーのシャルドネが使われ、一般の知名度も急上昇しました。実はジェイソンは最初は映画にワインが使われることをためらっていたそうです、
1993年には当時、数々の「カルト・ワイン「を作って注目を集めていたヘレン・ターリーがワインメーカーになりました。収穫したブドウの中で柔らかな味わいのものなどは、分けてセカンド・ラベルに使うことにしました。こうしてできたのが「Jayson」ブランドですが、現在はセカンドではなく別ブランドという位置づけに変わっています。
1998年にはアトラス・ピークにWaters Ranchという畑を作りました。David Abreuが植樹と栽培管理を担当しました。これが今もパルメイヤーの主要な畑となっています。このほか、アトラス・ピークのステージコーチ(Stagecoach)の畑も主要な畑をして使っています。ステージコーチも現在はガロの畑ですので、買収後も使い続けています。
パルメイヤーというとビッグでボールドなワインスタイルで知られており、なんとなくヴァレー・フロアのブドウを使っているイメージがありましたが、実は山のブドウにこだわりを持っているワイナリーです。
自社畑は標高400~700mくらい。アトラスピークの一番端にあります。シャルドネとメルローは西向きの標高高いところに植わっています。
山の畑は涼しい気候で、生育期間を長くのばせます。酸をキープするブドウが作れます。また、霧の高さよりも高いところにあるので、日照時間は長くなります。ただ、表土は浅く雨で流れてしまうという弱点もあります。ヴァレーフロアであれば1エーカーあたり5~6トン取れるところが山では1トンから2トンしか取れないそうです。山ではブドウの樹が生き延びるのが大変であり根を伸ばすのと同時にブドウの粒が小さくなります。ブドウの色は濃く。酸とのバランスが良いワインが作れます。さらにパルメイヤーでは樹勢があまり強くならないような台木を使っています。また、ワインにエレガンスさを持たせるためにブドウの実に強い日照をあてないように工夫しています。
現在のワインメーカーはケイティ・ヴォート(Katie Vogt)という人。ブドウ醸造の研究でUC Davisに並び立つCal Polyで学び、2016年からアシスタント・ワインメーカーになりました。2019年にガロが買収してからワインメーカーに就任しています。
テイスティングに移ります。
2022 Jayson Sauvignon Blanc
ソーヴィニヨン・ブランはガロが買収してから始めたもの。2021年が最初のヴィンテージでこれが2回目のヴィンテージとなっています。パルメイヤー自身はソーヴィニヨン・ブランの畑を持っていないので、ワインメーカーがナパをいろいろ回ってブドウを調達しているとのこと。生産量は少なく日本にも未輸入です。醸造では100%樽発酵しています。
パッションフルーツやグアバなど熟度の高い果実。オイリーなニュアンスとハーブの風味もあります。ちょっと甘やかさがあり、一方で酸もきれいで強く、バランスが取れています。フレッシュな味わいで、果実の明るさとなめらかなテクスチャを感じます。ナパらしさを感じるソーヴィニヨン・ブランです。
2021 Pahlmeyer Chardonnay
2021年は乾燥して雨が少なく収量が少なかった年です。
色は濃いめです。香りにミネラル感があり、白桃やナシ、かんきつの風味。バターやヴァニラ、ナツメグなどの風味もありリッチな味わいです。クリーミーで柔らかなテクスチャーです。余韻も素晴らしく長い。
パルメイヤーでは房が小さく凝縮した味わいになるオールド・ウェンテのクローンを使っており、その良さがよく表れています。
ニコラスさんは「ナットシャイ(控えめではない)」ワインと表現されていましたが、パルメイヤーのイメージそのままのワイン。基本的にワインスタイルは買収後も変えていないそうです。
2013 Pahlmeyer Chardonnay
麦わらや穀物の香り。リッチでかんきつやバター、フルーツケーキ。熟成からくるマッシュルームやベイキングスパイス、ナッツの風味。10年熟成でしっかりと熟成感が表れてきています。これが悪いわけではないですが、個人的には果実味がストレートに伝わってくる若いヴィンテージの方がこのワイナリーらしさがより感じられるような気がしました。
2020Jayson Cabernet Sauvignon
2020年は山火事でナパの多くのワイナリーが苦労した年。パルメイヤーでは「パルメイヤー」ブランドでの赤ワインはあきらめ、赤はジェイソンのカベルネ・ソーヴィニヨンだけを作りました。
Pope ValleyやSilverado Bench(ガロ傘下のWilliam Hillの畑)を使っています。山のブドウにこだわるパルメイヤーブランドとは異なり、ベンチランドにある畑も使っています。100%カベルネ・ソーヴィニヨンは、このブランドでは珍しいです。
非常に濃い。杉、ハーブ、カシス、ブラックベリー、アメリカン・チェリー。濃いですがフレッシュさもありバランス良いです。タンニンもしっかり。テクスチャは柔らかく緻密な味わい。
最後のワインは
2008 Pahlmeyer Proprietary Red
2008年は春先に霜の被害があり夏にはヒートスパイクも起こりました。収穫はだいぶ減ったそうです。9月上旬に熱波が来たので、そのお前にメルローやカベルネ・フランは収穫しました。カベルネ・ソーヴィニヨンは熱波を越えてから収穫し、生育期間が長くなりました。
腐葉土、マッシュルーム、カシス、レッドチェリー、チョコレート、ココア、コーヒー、グラファイト。アルコール度数は高いですが、重さを感じず、素晴らしく長い余韻があります。
ちょっと低めの温度でサーブされたのも抑制が効いた味わいになり、素晴らしかったです。
さて、表題につけた「オーナーが代わって得たもの失ったもの」ですが、基本的には畑のソースも変わっておらず、ワインメーカーも交代はしていますがこれまでを引き継いでいます。逆に得たものとしては、ガロ傘下の畑からの調達が確実になったことがあります。また新たに作ったソーヴィニヨン・ブランもかなり美味しく、これも得たものと言っていいでしょう。いい意味で「変わらないこと」に安心しました。
現在インポーター在庫があるのは2020ジェイソン・カベルネだけだそうです。