ダラ・ヴァレ、ナオコ/マヤ親子が初の国内セミナー
ナパのオークヴィルにあるワイナリー「ダラ・ヴァレ(Dalla Valle)」のセミナーに参加してきました。かつてのカルト・ワインの一つと目されたフラッグシップの「マヤ(Maya)」が有名なワイナリーで、神戸生まれの日本人ナオコさんがオーナーであることも知られています。ナオコさんはあまり人前に出たがらない人で、以前は日本だけでなく米国でもインタビューなどに登場するのは稀でした。マヤさんがワインメーカーに就任してからは、メディアへの露出も増え、今回も初めての日本でのセミナーとなりました。
私自身も、4月にナパでマヤさんにお会いしていますが、ナオコさんにお目にかかるのは今回が初めてでした。
米国で育ったマヤさんはもちろん、ナオコさんも米国暮らしが長く英語の方が楽だとのことで、セミナーも大部分は英語でした。
ナオコさんが米国に渡ったのは1982年。それまではカリブ海のマスティク島というところにいました。なお、ナオコさんのご主人のグスタフ・ダラ・ヴァレはスキューバダイビング用品で知られるスキューバプロの創設者です(私もスキューバプロのBCジャケットを持っています)。ダラ・ヴァレのロゴはグスタフ氏が地中海のダイビングで発見したアンフォラ(ワイン醸造に使った古代の壺)を模しています。
米国に来たときにはワイナリーをするつもりはなく、レストランとホテルをすることを考えていたそうです。ただ、オークヴィルの東側に買った土地に2エーカーのブドウ畑があって人生が変わったとナオコさんは語ります。
当初ブドウは近隣のケイマスに売っていましたが、グスタフ氏は自分で作ることに決めました。ただ2エーカーのブドウ畑だけでは商売にならないので、畑をもっと増やすことになりました。増やした土地は、近隣の人から車との物々交換で得たそうで、「これまでの最良の取引だった」とナオコさん。
1986年に最初のカベルネ・ソーヴィニヨンを作りました。その後、この場所でカベルネ・フランのいいものができるのではないかということでカベルネ・フランを植えていきました。
そうして作るようになったのが、娘さんの名前を冠したマヤです。最初のヴィンテージは1988年でカベルネ・フランが45%という、当時としてはカベルネ・フランの比率が非常に高いワインでした。そのワインがロバート・パーカーに評価され、1992年のマヤが米国のワインとしては2本目の100点を得ました(1本目は1985年のGrothのカベルネ・ソーヴィニヨン・リザーブ)。ただ、グスタフ氏はこの発表の少し前に亡くなっており、この100点を知ることはありませんでした。ナオコさんに取っては夫を失って途方に暮れていたときに100点を取ったことはビジネスを続ける勇気になったそうです。
ダラ・ヴァレは代々すばらしいワインメーカーがワインを作ってきました。最初はジョー・カファーロ(Joe Cafaro、シャペレーなど)、2人目のハイジ・バレット(Heide Barrett)が100点のマヤを作りました。その後もトニー・ソーター(Tony Soter)とその弟子のミア・クライン(Mia Klein)が10年にわたってワインを作り、フィリップ・メルカ(Philipe Melka)、アンディ・エリクソン(Andy Ericson)とつながります。2004年からはミシェル・ロランもコンサルタントとしてチームに加わりました。
マヤさんはボルドー大学でワイン造りの修士を取り、ナパで2年間インターンをした後、イタリア・トスカーナのボルゲリでオルネライアやボルドーのペトリュス、ラトゥールといったそうそうたるワイナリーで修行。2017年にダラ・ヴァレに戻ってきました。ナオコさんに言わせると、最初から十分すぎるくらいの経験と資格を持っていました。2021年からワインメーカーになり、アンディ・エリクソンはコンサルタントとしてチームに残っています。
ここからの解説はマヤさんにバトンタッチです。
ダラ・ヴァレの畑があるのはオークヴィルの東側で西に向いた斜面です。標高は150mくらいあり、サンパブロ湾からの涼しい風も届きます。夏は涼しく冬は暖かい恵まれた環境です。土壌は火山性の鉄分の多いものが中心ですが、4億年前の地滑りでさまざまな土壌が混じりあっています。広さは20エーカー。2007年からオーガニック、2019年からはビオディナミ(バイオダイナミクス)で栽培しています。
このマップは地質の学者として注目を集めているブレナ・キグリー(「デカンター誌のライジング・スターに注目の地質学者が選ばれる」参照)によるものです。18個のブロックを4種類の土壌に分けています。カベルネ・フランは30%程度、プティ・ヴェルドは0.5エーカーだけあります。
4種類の土壌は次のようになっています。
Zone1 ダークでリッチなソイル。水はけ良く根が深く。カベルネ・フランのベスト、カベルネ・ソーヴィニヨンのベストでもあります。華やかでフォーカスがあり、カベルネ・ソーヴィニヨンは酸が高くなります。
Zone2 マヤのコアになることが多いゾーンです。粘土が多く、石もあります。保水力が比較的あるところです。
Zone3とZone4 ごろごろとした石が多く、タンニンとパワーがワインに出ます。Zone 3は赤がかったオレンジ色、Zone 4は黄色がかったオレンジ色です。
植えているクローンはマサルセレクションのものなど、さまざまで台木も多様、斜面の向きも一様ではないため、パラメーターは多種多様です。例えばZone2は南向き斜面、3と4は西向きです。そのためブロックごとに収穫して醸造しています。ワイン造りの決まった方程式はなく毎日様子を見ながら決めているとのことです。ワインは基本的に22カ月熟成で一部はアンフォラを使っています。
試飲に移ります。コメントはナパヴァレー・ベスト・ソムリエ・アンバサダーの山田琢馬君にお願いしました。
Pietre Rosse 2018
古いファンなら、以前ダラ・ヴァレがこの名前のサンジョヴェーゼを作っていたことをご存じかもしれません。サンジョヴェーゼの樹は病気で引き抜かれてしまい、作られなくなったワインですが、ラベルを気に入っていたマヤさんがこのヴィンテージから復活させました。外部から調達したカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フラン、プティ・ヴェルドのブレンドで、一部アンフォラを使って熟成させています。レストラン専用のワインとなっています。
【琢馬コメント】フレッシュ赤黒いフルーツのトーン、程よく感じる樽の香りと土っぽいトーン。高い酸味によるリフト感と瑞々しさ、質感のハッキリしたタンニンによるエッジ、を感じるフィニッシュ。
【アンディコメント】赤果実、ちょっと土っぽさ。酸きれい。軽めの飲み口だがタンニンもしっかりあってグリップが効いている。
Collina 2020
ナオコさんが2007年に始めたワインで若い木を使ったものです。2020年は8月と9月末に2回の大きな山火事があった年です。煙の影響でワインを作らなかったワイナリーも数多くあります。ダラ・ヴァレでは1回目の火事のあと、醸造してテストしました(煙の影響があるかどうかは醸造してみないとわからないそうです)。結果としては煙の影響は感じられていない。熟成中も何度も試飲してチェックしました。いろいろな困難があった年ですが自信をもって送り出せるものができたことに誇りを持っているとマヤさん。
【琢馬コメント】Pietre Rosseに比べるとより緻密で凝縮された印象。熟れたアメリカンチェリー、ヴァニラ、わずかに感じるフレッシュハーブのタッチ。なめらかなエントリー、メリハリのある酸味とコンパクトなタンニンのストラクチャーから飲み心地の良い印象。
【アンディコメント】ブルーベリーなど青い果実の印象。華やかな香りで酸高く飲みやすい。ストラクチャーもある。
Colina 2019
トラブルのない良年でゆっくりとした収穫でした。
【琢馬コメント】2019年の方がより余韻の詰まり方や奥行きを感じるテイスト。2020年の方がより軽やかで熟度を感じながらもデリケートな印象。
【アンディコメント】2019年の方が赤果実系の明るさを感じる。プティ・ヴェルドのようなストラクチャーがあってパワフル。とても美味しい。
カベルネ・ソーヴィニヨン 2019と2018
【琢馬コメント】赤黒いフルーツのトーン、ハーブや黒鉛のようなタッチ、樽からくる甘やかなアクセント。総じて突出した香りというよりはそれぞれの要素が溶け込んだ香りの印象ながら、ほどよく抑制も効いている。
2019はスムースなエントリー、緻密でシームレスなテクスチャーが印象的。バランスを取る質の高い酸味とやや丸みを帯びたタンニン、今飲んでも楽しめるスタイル。
2018年は香りの方向性は同じながら、ややミネラルドリブンな印象。味わいはスムースでいて酸がより強く、タンニンによるグリップ感を感じ、熟成のポテンシャルを感じるテイスト。
【アンディコメント】
2019は酸が豊かできれい。ハーブやフォレストフロアなどのニュアンスもある。
2018年は緻密でパワフル。カシスや黒鉛の印象。熟成させて飲みたい。
ちなみに2019年はバイオダイナミクスに変えた年なので、ヴィンテージの違いだけでなく、栽培の違いも影響しているとマヤさん。ワインの重みが変わった。エナジーのシフト。フルーツフォワードになるわけではなく、味わいがリッチになったとのこと。なお、2019年からは酵母も完全に天然酵母にしたそうです。
DVO 2019
ダラ・ヴァレがオルネライアと共同で作るワイン。2019年は2ヴィンテージ目です(最初のヴィンテージについては「ダラ・ヴァレとオルネライアの新プロジェクトが日本上陸、貴重なワインを試飲」参照)。
マウント・ヴィーダー(35%)、クームズヴィル(15%)、オークヴィル(50%)の畑のブドウを使っています。オークヴィルはヴァイン・ヒル・ランチ(VHR)とオークヴィル・ランチ。VHRはダラ・ヴァレと反対側のオークヴィル西側の沖積扇状地にある銘醸畑です。オールドワールドのスタイルだけどナパの自由さを持ったワインだとのこと。
【琢馬コメント】まさかのコメントし忘れてました。味わいと香りののボリューム感が他のワインとは明確に違いましたね!より凝縮していて力強い印象を受けました。
【アンディコメント】青から黒系果実の風味。洗練されたきめの細かいタンニン。モンダヴィのト・カロンなどオークヴィル西側の扇状地の畑らしい緻密さを持っている。ベイキングスパイスやフォレストフロアのニュアンスも。
Maya 2019
【琢馬コメント】デリケートながらコアの強さ、華やかさを奥に感じる香りの印象。フレッシュなダークチェリーやラベンダー、セージ、ココアパウダーのような樽のアクセント、岩っぽいミネラルのトーンなど、香りの立ち上がりかたに気品と強さを感じる。
タイトでまっすぐな味わいの印象。瑞々しい酸味としなやかなタンニン。抑制されつつもハッキリと主張する個性。
【アンディコメント】リッチで華やかな味わい。青~赤果実。シルキーなテクスチャ。
何人かの方にどれが一番美味しかったか聞かれましたが、難しいですね。Maya 2019はまだ熟成が必要な感じがします。今飲むならカベルネ・ソーヴィニヨン 2019がいいかなと思います。ピエトレ・ロッセも個性的でまた飲みたい味わい。
このほか、いくつかの質問への回答を最後に載せておきます。
Q. オプティカル・ソーターは使っていないのか?
A. 使っていない。手作業で選果している。もともとのブドウの品質がいいのと、オプティカル・ソーターを使うと全部が均一になってしまって面白くないと思う。ナオコさんが選果台のリーダーをしている。
Q. メルローは作らないのか?
A. メルローは1エーカー作っていたが1993年にやめた
Q. マヤはカベルネ・フラン比率が高いワインだが、それでもカベルネ・ソーヴィニヨンが半分を超えている。もっとカベルネ・フラン比率が高いものを作るつもりはないのか。
A. カベルネ・ソーヴィニヨンの方が熟成には向いていると思うので、カベルネ・フランがメインのものは作っていない(ナオコさん)。私はカベルネ・フラン・メインのもやってみたいと思っており、そこは母と意見が分かれている(マヤさん)。1989年のMayaはカベルネ・フランが55%でこれまでで一番比率が高い。ナパに帰ったらそれを飲んで相談しようかと思う(ナオコさん)。
Q. 栽培面でカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランの違いは?
A. カベルネ・ソーヴィニヨンはいろいろなところに植えられる。多様性がある。カベルネ・フランは土壌や気候の適性がある。収穫量を増やすとグリーンノートが出やすいので注意が必要だ。
Q. 気候変動への対応でやっていることはあるか?
A. 灌漑に使う水を最小限にしている。例えば葉を絞って圧力をかけてその数値で見たり、ソイルモイスチャーを見て、灌漑の必要性を判断している。栽培では日陰を作るようにしている。バイオダイナミクスでモイスチャーはより保持できる。このほかソーラーパネルや排水の活用もしている。
Q. 2023年のヴィンテージはどうか?
A. 2023年は2018年と19年の中間的な感じで非常にいい。
お招きいただいたJALUXさん、ありがとうございました。
ダラ・ヴァレのワインを複数並べて飲むこと自体、初めての経験であり、大変勉強になりました。
私自身も、4月にナパでマヤさんにお会いしていますが、ナオコさんにお目にかかるのは今回が初めてでした。
米国で育ったマヤさんはもちろん、ナオコさんも米国暮らしが長く英語の方が楽だとのことで、セミナーも大部分は英語でした。
ナオコさんが米国に渡ったのは1982年。それまではカリブ海のマスティク島というところにいました。なお、ナオコさんのご主人のグスタフ・ダラ・ヴァレはスキューバダイビング用品で知られるスキューバプロの創設者です(私もスキューバプロのBCジャケットを持っています)。ダラ・ヴァレのロゴはグスタフ氏が地中海のダイビングで発見したアンフォラ(ワイン醸造に使った古代の壺)を模しています。
米国に来たときにはワイナリーをするつもりはなく、レストランとホテルをすることを考えていたそうです。ただ、オークヴィルの東側に買った土地に2エーカーのブドウ畑があって人生が変わったとナオコさんは語ります。
当初ブドウは近隣のケイマスに売っていましたが、グスタフ氏は自分で作ることに決めました。ただ2エーカーのブドウ畑だけでは商売にならないので、畑をもっと増やすことになりました。増やした土地は、近隣の人から車との物々交換で得たそうで、「これまでの最良の取引だった」とナオコさん。
1986年に最初のカベルネ・ソーヴィニヨンを作りました。その後、この場所でカベルネ・フランのいいものができるのではないかということでカベルネ・フランを植えていきました。
そうして作るようになったのが、娘さんの名前を冠したマヤです。最初のヴィンテージは1988年でカベルネ・フランが45%という、当時としてはカベルネ・フランの比率が非常に高いワインでした。そのワインがロバート・パーカーに評価され、1992年のマヤが米国のワインとしては2本目の100点を得ました(1本目は1985年のGrothのカベルネ・ソーヴィニヨン・リザーブ)。ただ、グスタフ氏はこの発表の少し前に亡くなっており、この100点を知ることはありませんでした。ナオコさんに取っては夫を失って途方に暮れていたときに100点を取ったことはビジネスを続ける勇気になったそうです。
ダラ・ヴァレは代々すばらしいワインメーカーがワインを作ってきました。最初はジョー・カファーロ(Joe Cafaro、シャペレーなど)、2人目のハイジ・バレット(Heide Barrett)が100点のマヤを作りました。その後もトニー・ソーター(Tony Soter)とその弟子のミア・クライン(Mia Klein)が10年にわたってワインを作り、フィリップ・メルカ(Philipe Melka)、アンディ・エリクソン(Andy Ericson)とつながります。2004年からはミシェル・ロランもコンサルタントとしてチームに加わりました。
マヤさんはボルドー大学でワイン造りの修士を取り、ナパで2年間インターンをした後、イタリア・トスカーナのボルゲリでオルネライアやボルドーのペトリュス、ラトゥールといったそうそうたるワイナリーで修行。2017年にダラ・ヴァレに戻ってきました。ナオコさんに言わせると、最初から十分すぎるくらいの経験と資格を持っていました。2021年からワインメーカーになり、アンディ・エリクソンはコンサルタントとしてチームに残っています。
ここからの解説はマヤさんにバトンタッチです。
ダラ・ヴァレの畑があるのはオークヴィルの東側で西に向いた斜面です。標高は150mくらいあり、サンパブロ湾からの涼しい風も届きます。夏は涼しく冬は暖かい恵まれた環境です。土壌は火山性の鉄分の多いものが中心ですが、4億年前の地滑りでさまざまな土壌が混じりあっています。広さは20エーカー。2007年からオーガニック、2019年からはビオディナミ(バイオダイナミクス)で栽培しています。
このマップは地質の学者として注目を集めているブレナ・キグリー(「デカンター誌のライジング・スターに注目の地質学者が選ばれる」参照)によるものです。18個のブロックを4種類の土壌に分けています。カベルネ・フランは30%程度、プティ・ヴェルドは0.5エーカーだけあります。
4種類の土壌は次のようになっています。
Zone1 ダークでリッチなソイル。水はけ良く根が深く。カベルネ・フランのベスト、カベルネ・ソーヴィニヨンのベストでもあります。華やかでフォーカスがあり、カベルネ・ソーヴィニヨンは酸が高くなります。
Zone2 マヤのコアになることが多いゾーンです。粘土が多く、石もあります。保水力が比較的あるところです。
Zone3とZone4 ごろごろとした石が多く、タンニンとパワーがワインに出ます。Zone 3は赤がかったオレンジ色、Zone 4は黄色がかったオレンジ色です。
植えているクローンはマサルセレクションのものなど、さまざまで台木も多様、斜面の向きも一様ではないため、パラメーターは多種多様です。例えばZone2は南向き斜面、3と4は西向きです。そのためブロックごとに収穫して醸造しています。ワイン造りの決まった方程式はなく毎日様子を見ながら決めているとのことです。ワインは基本的に22カ月熟成で一部はアンフォラを使っています。
試飲に移ります。コメントはナパヴァレー・ベスト・ソムリエ・アンバサダーの山田琢馬君にお願いしました。
Pietre Rosse 2018
古いファンなら、以前ダラ・ヴァレがこの名前のサンジョヴェーゼを作っていたことをご存じかもしれません。サンジョヴェーゼの樹は病気で引き抜かれてしまい、作られなくなったワインですが、ラベルを気に入っていたマヤさんがこのヴィンテージから復活させました。外部から調達したカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フラン、プティ・ヴェルドのブレンドで、一部アンフォラを使って熟成させています。レストラン専用のワインとなっています。
【琢馬コメント】フレッシュ赤黒いフルーツのトーン、程よく感じる樽の香りと土っぽいトーン。高い酸味によるリフト感と瑞々しさ、質感のハッキリしたタンニンによるエッジ、を感じるフィニッシュ。
【アンディコメント】赤果実、ちょっと土っぽさ。酸きれい。軽めの飲み口だがタンニンもしっかりあってグリップが効いている。
Collina 2020
ナオコさんが2007年に始めたワインで若い木を使ったものです。2020年は8月と9月末に2回の大きな山火事があった年です。煙の影響でワインを作らなかったワイナリーも数多くあります。ダラ・ヴァレでは1回目の火事のあと、醸造してテストしました(煙の影響があるかどうかは醸造してみないとわからないそうです)。結果としては煙の影響は感じられていない。熟成中も何度も試飲してチェックしました。いろいろな困難があった年ですが自信をもって送り出せるものができたことに誇りを持っているとマヤさん。
【琢馬コメント】Pietre Rosseに比べるとより緻密で凝縮された印象。熟れたアメリカンチェリー、ヴァニラ、わずかに感じるフレッシュハーブのタッチ。なめらかなエントリー、メリハリのある酸味とコンパクトなタンニンのストラクチャーから飲み心地の良い印象。
【アンディコメント】ブルーベリーなど青い果実の印象。華やかな香りで酸高く飲みやすい。ストラクチャーもある。
Colina 2019
トラブルのない良年でゆっくりとした収穫でした。
【琢馬コメント】2019年の方がより余韻の詰まり方や奥行きを感じるテイスト。2020年の方がより軽やかで熟度を感じながらもデリケートな印象。
【アンディコメント】2019年の方が赤果実系の明るさを感じる。プティ・ヴェルドのようなストラクチャーがあってパワフル。とても美味しい。
カベルネ・ソーヴィニヨン 2019と2018
【琢馬コメント】赤黒いフルーツのトーン、ハーブや黒鉛のようなタッチ、樽からくる甘やかなアクセント。総じて突出した香りというよりはそれぞれの要素が溶け込んだ香りの印象ながら、ほどよく抑制も効いている。
2019はスムースなエントリー、緻密でシームレスなテクスチャーが印象的。バランスを取る質の高い酸味とやや丸みを帯びたタンニン、今飲んでも楽しめるスタイル。
2018年は香りの方向性は同じながら、ややミネラルドリブンな印象。味わいはスムースでいて酸がより強く、タンニンによるグリップ感を感じ、熟成のポテンシャルを感じるテイスト。
【アンディコメント】
2019は酸が豊かできれい。ハーブやフォレストフロアなどのニュアンスもある。
2018年は緻密でパワフル。カシスや黒鉛の印象。熟成させて飲みたい。
ちなみに2019年はバイオダイナミクスに変えた年なので、ヴィンテージの違いだけでなく、栽培の違いも影響しているとマヤさん。ワインの重みが変わった。エナジーのシフト。フルーツフォワードになるわけではなく、味わいがリッチになったとのこと。なお、2019年からは酵母も完全に天然酵母にしたそうです。
DVO 2019
ダラ・ヴァレがオルネライアと共同で作るワイン。2019年は2ヴィンテージ目です(最初のヴィンテージについては「ダラ・ヴァレとオルネライアの新プロジェクトが日本上陸、貴重なワインを試飲」参照)。
マウント・ヴィーダー(35%)、クームズヴィル(15%)、オークヴィル(50%)の畑のブドウを使っています。オークヴィルはヴァイン・ヒル・ランチ(VHR)とオークヴィル・ランチ。VHRはダラ・ヴァレと反対側のオークヴィル西側の沖積扇状地にある銘醸畑です。オールドワールドのスタイルだけどナパの自由さを持ったワインだとのこと。
【琢馬コメント】まさかのコメントし忘れてました。味わいと香りののボリューム感が他のワインとは明確に違いましたね!より凝縮していて力強い印象を受けました。
【アンディコメント】青から黒系果実の風味。洗練されたきめの細かいタンニン。モンダヴィのト・カロンなどオークヴィル西側の扇状地の畑らしい緻密さを持っている。ベイキングスパイスやフォレストフロアのニュアンスも。
Maya 2019
【琢馬コメント】デリケートながらコアの強さ、華やかさを奥に感じる香りの印象。フレッシュなダークチェリーやラベンダー、セージ、ココアパウダーのような樽のアクセント、岩っぽいミネラルのトーンなど、香りの立ち上がりかたに気品と強さを感じる。
タイトでまっすぐな味わいの印象。瑞々しい酸味としなやかなタンニン。抑制されつつもハッキリと主張する個性。
【アンディコメント】リッチで華やかな味わい。青~赤果実。シルキーなテクスチャ。
何人かの方にどれが一番美味しかったか聞かれましたが、難しいですね。Maya 2019はまだ熟成が必要な感じがします。今飲むならカベルネ・ソーヴィニヨン 2019がいいかなと思います。ピエトレ・ロッセも個性的でまた飲みたい味わい。
このほか、いくつかの質問への回答を最後に載せておきます。
Q. オプティカル・ソーターは使っていないのか?
A. 使っていない。手作業で選果している。もともとのブドウの品質がいいのと、オプティカル・ソーターを使うと全部が均一になってしまって面白くないと思う。ナオコさんが選果台のリーダーをしている。
Q. メルローは作らないのか?
A. メルローは1エーカー作っていたが1993年にやめた
Q. マヤはカベルネ・フラン比率が高いワインだが、それでもカベルネ・ソーヴィニヨンが半分を超えている。もっとカベルネ・フラン比率が高いものを作るつもりはないのか。
A. カベルネ・ソーヴィニヨンの方が熟成には向いていると思うので、カベルネ・フランがメインのものは作っていない(ナオコさん)。私はカベルネ・フラン・メインのもやってみたいと思っており、そこは母と意見が分かれている(マヤさん)。1989年のMayaはカベルネ・フランが55%でこれまでで一番比率が高い。ナパに帰ったらそれを飲んで相談しようかと思う(ナオコさん)。
Q. 栽培面でカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランの違いは?
A. カベルネ・ソーヴィニヨンはいろいろなところに植えられる。多様性がある。カベルネ・フランは土壌や気候の適性がある。収穫量を増やすとグリーンノートが出やすいので注意が必要だ。
Q. 気候変動への対応でやっていることはあるか?
A. 灌漑に使う水を最小限にしている。例えば葉を絞って圧力をかけてその数値で見たり、ソイルモイスチャーを見て、灌漑の必要性を判断している。栽培では日陰を作るようにしている。バイオダイナミクスでモイスチャーはより保持できる。このほかソーラーパネルや排水の活用もしている。
Q. 2023年のヴィンテージはどうか?
A. 2023年は2018年と19年の中間的な感じで非常にいい。
お招きいただいたJALUXさん、ありがとうございました。
ダラ・ヴァレのワインを複数並べて飲むこと自体、初めての経験であり、大変勉強になりました。