ジョン・コングスガードへのインタビューから、ジャッジ以外の部分を紹介します。


●ナパ・シャルドネについて

ナパ・ヴァレー・シャルドネは1996年のコングスガード創設時から作り続けているワインであり、生産量でもコングスガード全体の75%ほどを占めている重要なワインです。その根幹をなすのがナパのカーネロスにある二つの銘醸畑、ハイド(Hyde)とハドソン(Hudson)。ハイドを創設したラリー・ハイド、ハドソンを創設したリー・ハドソンとは古くから交流があり、特にリー・ハドソンは大学の同級生として、ずっと「どこにシャルドネを植えようか」という話をしてきたといいます。

ちなみに、ハイドは79年、ハドソンは大学を卒業した81年に土地を購入し、ブドウ栽培を始めています。もう一つついでに書いておくと、ジョン・コングスガードは代々ナパに住む第5世代目。文学で大学を出た後ワイナリーで働いてワインに興味を持ち、UCデーヴィスで改めて学んでいます。リー・ハドソンも園芸で大学を出た後にブルゴーニュでワインに目覚め、UCデーヴィスに入りなおしました。この時代、最初からワイン造りを志すよりも、ほかの分野から転身する人が多かったことがうかがえます。

ジョンのワイン造りに大きな影響を与えたのは前回の記事でも触れたNewton Vineyards時代。1983年にNewtonに入り、ハイドやハドソンのブドウを使ったシャルドネもそのときから作っています。足かけ40年の付き合いになるわけです。しかも、畑の同じブロックを使い続けているそうです。

このころ、ジョンは毎年2週間ブルゴーニュでワイン造りを学び、今も基本的にそのメソッドを使い続けています。今では高級シャルドネで当たり前のようにやられている「ノンフィルター」も1990年にNewtonで始めたのがカリフォルニアでは初でした。ただ、ノンフィルターだとどうしてもワインに濁りが出ます。そこで卸売業者などにフィルターを使ったものと使っていないものを両方試飲して、美味しい方を選んでもらう実験をしました。すると味ではフィルターなしが圧倒的。「にごり」について質問すると、全く問題ないという意見がほとんどでした。

さて、数あるカリフォルニアのシャルドネの中でも、ハイドとハドソンという銘醸畑中の銘醸畑を両方入れたというナパヴァレー・シャルドネですが、ここでずっと気になっていたことを質問しました。内容は、「ハイドもハドソンもどちらも単一畑でボトリングしてもおかしくない素晴らしい生産者。これをどうしてブレンドしようと思ったのか」ということです。

クラシック音楽好きのジョンは音楽に例えてこう答えました。「ソロ・バイオリンとオーケストラの違いと同じだ。ソロ・バイオリンは美しいがシンプルになってしまう。複数のワインを合わせることでコーラスのように広がりが出る」。実際2011年は、瓶詰めまでの2年間が過ぎてもまだハイドのワインが樽発酵が終わっておらず、ハイドなしで出したそうです。その結果としてはやはり味わいがシンプルになってしまったとのこと。

また、ハイドとハドソンの個性を聞いたところ、ハドソンは中間的な味わいで横に広がるイメージ。味わいに深みを与えてくれる。ハイドはハイノートで酸が強く、単独で飲むとアルザスのワインのよう、とのことでした。

また、逆に個性ある素晴らしいワインであっても、ブレンドするとうまくいかない、といったケースもあります。コングスガードではそういったワインはセカンドラベルの「Kingsfarm」に入れてしまうそうです。

なお、Kingsfarmのシャルドネは日本には入ってきていません。メーリングリストだけでほぼ売れてしまうそうです。

今回は2018年のナパヴァレー・シャルドネを試飲しました。
芳醇で香りがすばらしい。よく熟れた柑橘に白桃の風味。やわらかなまったりとした味わい。複雑で余韻も長く、やはりこれも素晴らしいワインです。

畑は前述のようにハイドとハドソンがメインですが、ほかにジャッジの畑の近くのブドウとカーネロスの畑のブドウもブレンドしているそうです。

前回、書き忘れたのですが、ジャッジの畑は1975年に植えられており、ジャッジのワインは2002年から。それまではどこで使われていたのでしょう。実は一番最初はZDのシャルドネで使われており、1983年から1996年まではNewtonのシャルドネにブレンドされていました。Newtonで10年以上ジャッジの畑のブドウを使ってきたことが、ジャッジのワインを作るときにも生かされています。また、コングスガードを始めたばかりの最初のシャルドネは、ジャッジの畑が3/4で、残りがハイドとハドソンという構成だったというからちょっと驚きです。

シャルドネの熟成については前回のジャッジのときにも書きましたが、ジョン自身は白ワインでは酸とフレッシュさを大事にしているため、熟成については10年ほどが目安としています。ナパヴァレー・シャルドネについても6~8年は熟成して良くなりますが、それ以上は良くなるときもあるけど良くならないときも多いとのことです。

●コングスガードのワイナリー(醸造設備)とケーヴについて
コングスガードの本拠地はアトラスピークにあります。コングスガード・ワイナリーを始めて、自社設備のための場所を探していました。Lunaというワイナリーでアトラスピークのカベルネ・ソーヴィニョンを使ったことがあり、それが縁で2004年にアトラスピークに土地を買うことになりました。それから2年間かけてセラーとケーヴを作りました。お金がなかったのでほとんど自分たちだけで作ったそうです。ちなみに現在めきめきと売り出し中のMacDonald VineyardsのGream MacDonaldは、ジョンが設備を貸すことを条件に無償で手伝ってくれる人を探したときに知己になり、10年間働いてもらったそうです。

2009年に畑の植樹を始めました。標高800mというのはナパでは一番の高さと思われます。畑はカベルネ・ソーヴィニヨンのほか、シャルドネ、ヴィオニエ、ソーヴィニヨン・ブランを作っています。シャルドネは個性が強く、ナパヴァレー・シャルドネにはブレンドされていません。将来は単一畑のワインとして作っていきたいとのこと。ヴィオニエやソーヴィニヨン・ブランは自社のワインに使われています。

●シラーについて
試飲したワインの最後が2018年のシラー。シラーはハドソンの畑のものを使っています。ハドソンの畑はカーネロスの中ではマヤカマス山脈に近いところにあり、北側は丘で隆起しています。冷涼なカーネロスの中では特別な場所だといいます。2.5エーカーの畑で250~300ケース作られています。

試飲しました。
ペッパーなどのスパイス、黒鉛に黒系の果実が緻密な味わいを構成します。ちょっと血液や皮のニュアンスもあります。酸が豊かでエレガント。きれいで上品なシラーです。ナパのシラーではコルギンのシラーも素晴らしいですが、そちらはより暖かさを感じる味わい。この冷涼感は他では得られません。

シラーを作り始めたきっかけは、やはりフランス。ヴィオニエの勉強をしにローヌのコンドリューに行ったとき、一日コンドリューの試飲をして疲れて宿に帰ってきたときに飲んだシラーが美味しすぎて、シラーに目覚めたそうです。コートロティよりはエルミタージュを目指しているとのこと。

赤についてはステンレスタンクで発酵し、3週間スキンコンタクト。発酵中はポンピングオーバーを行います。熟成は50%新樽とシャルドネよりは低くなっています。新樽を多く使うと影響が出やすくなるので、あまり多くしていません。

●ピノ・ノワールは作らない?
ブルゴーニュに大きな影響を受けているコングスガードですが、ピノ・ノワールは作っていません。なぜでしょうか。「もちろんピノ・ノワールは大好きだ。ただ、私はナパの住民であり、ナパでは最高のピノ・ノワールを作るのは難しいと思っている。ソノマ・コーストまで行けば素晴らしい畑があるが、片道3時間のドライブを毎日のようにするのは大変だ」とのことでした。

●多くの弟子について
Newtonは中規模のワイナリーで、常にいろいろなワイナリーなどから研修生を受け入れていました。ジョンはコンサルタントを含めて1983年から2005年までNewtonで働いておりそこで多くの「弟子」的な存在ができました。例えばアンディ・エリクソンは彼の一番弟子と言われています。

多くの弟子の中で、スコリウム・プロジェクトというワイナリーで、アバンギャルドなワインを作っているエイブ・ショーナー(Abe Schoner)についてどう思うか聴いてみたときの反応が面白かったです。いわく「弟子の中には『高名』なワインメーカーと言われる人も何人もいますが、唯一エイブだけは「悪名」の高さで知られています。彼のワインはあまり好んでいないようですが「Intellecual」な部分は評価していると苦笑いを浮かべ名が答えてくれました。

●クラシック音楽について
クラシック好きで知られるジョンに、音楽の分野で何をやっていくか聞きました。ジョンは「CHAMBER MUSIC IN NAPA VALLEY」というNPOの世話役をしており、そちらもかなり忙しいようです。そちらは今後も続けるため、新しいことは今は考えていないとのことでした。