ソノマ・コーストやロシアン・リバー・ヴァレーの銘醸畑からすばらしいワインを作るセンシーズ(Senses)が国内本格輸入が始まり、創設者のひとりであるクリストファー・ストリーターが来日し、ディナーでワインをいただいてきました。

センシーズの国内輸入は2019年に始まっていました。ただ、ワインショップ「パリ16区」の独占販売という形だったので、同ショップとつながりがない人には届いていなかったかもしれません。当時、ワインのサンプルをいただいた記事がこちらになります。
センシーズのワインを検証、トーマス・ブラウンの実力にうなる

今回、中川ワインが輸入を始め、より手に入りやすくなりました。

クリストファーは昨年のAliveテイスティングにウエスト・ソノマ・コーストのワイナリーの一つとして参加しており、そのときに対面しています(実は忘れていたのですが、彼から「去年会ったよね」と言われました)。



今回のワインは6種。シャルドネとピノ・ノワールが3種類ずつです。
シャルドネ ロシアン・リバー・ヴァレー 2019
シャルドネ チャールズ・ハインツ ソノマ・コースト 2021
シャルドネ エル・ディアブロ ソノマ・コースト ロシアン・リバー・ヴァレー 2021
ピノ・ノワール MCM88(キーファーランチ) ロシアン・リバー・ヴァレー 2021
ピノ・ノワール デイ・ワン(ヒルクレスト・ヴィンヤード) ロシアン・リバー・ヴァレー 2021
ピノ・ノワール ボデガ・ティエリオ・ヴィンヤード ウエスト・ソノマ・コースト 2021

センシーズは幼馴染の3人で始めたワイナリー。その一人のマックス・ティエリオットは銘醸畑として知られるB.A. ティエリオットの畑のオーナーの息子であり、もう一人のマイルス・ローレンス・ブリッグスも両親がヒルクレストという畑の創設者です。クリストファーは大学では経済や財務を学び、卒業してジャクソン・ファミリーで働き始め、創設者のジェス・ジャクソンからワインビジネスの面白さと難しさを学んでワイナリーをやりたいと思ったそうです。弱冠22歳(あとの2人は21歳)のときに、3人でワイナリーを始めることにし、最初は100ケースからスタートし、徐々にビジネスを拡大して現在は5000ケースにまだなりました。マックス・ティエリオットは俳優としても有名で、マーケティングなどを担当。芸能人の知り合いなどハイエンドのワインが好きな顧客とのコネクションが高品質なワイン造りにも役立っているとのことです。またマイルスは料理が大好きで、畑の管理を主に担当しています。

畑の持ち主の息子ということから近隣の他の銘醸畑とのコネクションも数多く持っており、それがセンシーズのワインに生かされています。また、ワインメーカーはかの有名なトーマス・リヴァース・ブラウン。彼から3人に声をかけてワインメーカーになったという、引く手あまたの有名ワインメーカーから見染められるというのも異例の展開ですが、これもティエリオットの畑があったからこそです。クリストファーによると彼はとても賢い人だから、ティエリオットのブドウを手に入れるチャンスだと思ったのだろう」とのこと。実際、トーマスはティエリオットのシャルドネをその後作るようになりました。また、トーマスは多くの場合「コンサルタント」としてワイナリーに携わっていますが、センシーズではワインメーカーとして密にワイン造りを行っています。醸造もナパのカリストガにあるトーマスのワイナリーで行っています。

ワインの話に移りましょう。
シャルドネ ロシアン・リバー・ヴァレー 2019
名目上はAVAものですが、実際には超有名栽培家のダットン・ランチのブドウをメインで使っています。ちなみにダットン・ランチはキスラーやパッツ&ホールなどもワインを作っており「ダットン・ランチ」の名前を付けていますが、実際には単一畑ではなく数多くの畑の集合体になっています。センシーズで使っている畑はグリーン・ヴァレーのブッシュ・ヴィンヤードというダットンの畑だそうです。センシーズのポリシーとして、安いワインを作るために質の低いブドウを調達するようなことはしないとのことで、レベルの高い畑からだけブドウを買っています。

ついでにちょっとややこしい話をするとラベルにはロシアン・リバー・ヴァレーと書いてありますが、実質的にはグリーン・ヴァレーと名乗ることもできるし、ソノマ・コーストと名乗ることも可能です。どれを名乗るかはワイナリーの選択次第でどちらかというとマーケティング的な面が大きくなります。センシーズの場合、シャルドネ・ソノマ・コーストというAVAもの(日本未発売)もあるので、こちらはロシアン・リバー・ヴァレーとしているのでしょう。

ミネラル感やレモンオイル、ほのかなバニラの香り(新樽率は5%くらいと低いです)。リッチですがすごく上品できれいなワイン。センシーズのシャルドネの中ではエントリー的な位置付けですが、それにしてはレベルの高いワイン。


この日のレストランはエディション東京の「The Jade Room」。イギリス出身のシェフによる「今のイギリスの料理」を出しています。フランス料理と比べると素材の味をより生かしているように感じます。

2本目のワインに移ります。
シャルドネ チャールズ・ハインツ ソノマ・コースト 2021
チャールズ・ハインツも言わずと知れた銘醸畑。近年では入手困難なスパークリングワイン「ウルトラマリン」が使っている畑としても知られています。
最初のワインと比べるとゴージャスなワイン。白桃やパイナップルなど熟度の高いやわらかい果実味にはちみつやブリオッシュの風味。かといってビッグすぎないバランスの良さも光ります。センシーズは風味を引き出すために収穫は比較的遅めにしているのですが、チャールズ・ハインツの畑では貴腐化したブドウが必ず一部に入るとのこと。はちみつの風味はそのあたりから来ているようです。


ビーツにすだち、キャビア、干し草

シャルドネ エル・ディアブロ ロシアン・リバー・ヴァレー 2021
エル・ディアブロはロシアン・リバー・ヴァレーのミドル・リーチと呼ばれる比較的温暖なところにある畑。センシーズの使っている畑の中では一番内陸にあります。オーベールの「East Side」と同じ畑だとのこと。センシーズの多くの畑がゴールドリッジという水はけの非常にいい土壌であるのに対し、ここは粘土質が多く表土も深いところ。温暖なこともあり、収穫時期は早く、チャールズ・ハインツと比べると1カ月ほども変わることがあるそう。
温暖な畑なのでトロピカルフルーツの風味が出てくるのかと思いきや、収穫時期が早いせいか意外と冷涼感を感じます。酸がきれいでミネラルや黄桃の風味。チャールズ・ハインツとの甲乙を付けるのは難しいですが、こちらの方が開くのに時間がかかるとクリストファー。



ピノ・ノワール MCM88(キーファーランチ) ロシアン・リバー・ヴァレー 2021
ピノ・ノワールの1本目はMCM88というワイン。この名前は3人の頭文字に生まれ年の88を付けたもの。MCMはローマ数字で1900になるので「MCM88」で1988年生まれを表しています。畑は実際にはキーファー・ランチというコスタ・ブラウンで一世を風靡した畑ですが、契約上その名前が使えないためにこうしています。現在はオリジナルの名前であるPerry Ranchというのが畑の名称になっているようです。ダットンから紹介されて使えるようになった畑で現在の栽培管理もダットンが行っています。スイスクローンと呼ばれるクローンを使っています。
ピノ・ノワールとしてはややダークな果実味。ザクロやネクタリン。濃厚ですが重くなく酸とのバランスが秀逸です。ハーブ感もあります。


合わせるのが難しいあん肝を使った料理ですが、意外とピノともよく合いました。

ピノ・ノワール デイ・ワン(ヒルクレスト・ヴィンヤード) ロシアン・リバー・ヴァレー 2021
ヒルクレストはマイルスの家が持っていた畑でセンシーズの自社畑の一つとなっています。グリーン・ヴァレーの中でも最も海に近い冷涼なところの畑。1974年に植樹された、このあたりではかなり古い畑です。
ストラクチャーのあるピノ・ノワール。ハーブ、レッド・チェリーやフランボワーズといった明るい赤果実。ストラクチャーは全房から来ているのかと思ったのですが、全房発酵は基本的にやっていないそうです。クローン4種類のブレンドになっており、そのうちのカレラ・クローンがグリップ感を与えてくれるとのことだったので、そのあたりから個性が来ているのかもしれません。



ピノ・ノワール ボデガ・ティエリオ・ヴィンヤード ウエスト・ソノマ・コースト 2021
最後のワイン、ボデガ・ティエリオは2016年に植樹された新しい自社畑。ウエスト・ソノマ・コーストにあるオクシデンタルの畑の隣にあります。2021年が最初のヴィンテージ。
これがちょっと驚きのすばらしさ。赤果実に少しブルーベリーの風味も加わります。ちょっとのダークさが深みを与え、きわめてジューシー。このダークさはオクシデンタルのピノ・ノワールにも通じますが、極めて冷涼で海からの風で果皮が厚くなることから来ているようです。酸が豊かでエレガントさもあります。最初のヴィンテージでこの完成度はすごい。将来はオクシデンタルのピノ・ノワールや、同じく近隣の畑であるプラット・ヴィンヤード(トーマスのリヴァース・マリーがここからヴィノス100点のピノ・ノワールを作っています)にも並ぶ存在になりそうです。





以下のショップはいずれも「カリフォルニアワインあとりえ」。店長の野村さんもこのディナーに来られて、ワインを堪能されていました。各ページには野村さんのコメントも紹介されています。