自然派ワインは品種特性が出にくいのはなぜか?
「自然派ワインは、ブドウ品種の特徴が分かりにくい」と言われています。これがどうしてだろうという疑問をXやFacebookで投稿したところ、いろいろとご意見をいただきました。自身の覚書を兼ねて、まとめておきたいと思います。
といっても、そもそもこの命題自体があいまいなものであり、ミスリーディングにつながる可能性もあります。ひとつには自然派ワインという言葉自体がきちんと定義されたものではないからです。一般には、有機農法による栽培を実践していて、醸造は天然酵母で、SO2は瓶詰め時にごくわずか使うか、あるいは全く使わないといったところが共通項かと思いますが、実はこれだけだと、オーパス・ワンなんかも自然派ワインと呼べてしまうことになります。もちろん、オーパス・ワンを自然派ワインと呼んでも構わないですが、「自然派ワイン」と聞いてオーパス・ワンをイメージする人はほとんどいないでしょう。
それから、すべての自然派ワインがブドウ品種の特徴が分からない、というわけではありません。あくまで一般論としてそういうものが多いという話です。
あと、転載許可をいただいていないので、一応お名前は伏せさせていただきます。
ワインショップWさん
私的な意見では、ブドウの熟度が低めで個性差が出る前のため、単純な酸と糖のみで構成されてる事が大きな原因かと、完熟した時に香りや色で他の生物を引き付け広まるというのが一般的な生物学的な話やったと思うので、、
またSO2控える事で使える技法にも制約あるので幅広い味合いを作るにはハードル高いとは感じています。
因みにテロワールに関しで、土壌や気候はワインの成熟のプロセスに関わる要素と言う事であると考えると、成熟が完全に進む前に収穫するとその差も感じにくくなる様に思います。
WSET Diploma Hさん
個人的にはブドウの熟度の問題と結局品種特徴が出るのには人の手が掛かっているということが要因かなと思ってます。
野生酵母自体はナチュラルワインに限らず一般的に使用されていますが、SO2添加がされないことによりバクテリアとかのコントロールも不自由になるからそういったものがはたらいているが故の味に近づくのではないですかねぇ。
熟度が高いブドウを使ってクリーンに作られてちゃんと特徴が出ているワインももちろんありますが、一般にナチュラルワインと巷で言われるものは一方向を向いてますよね。
単純ゆえにウケてるという部分もあるのでしょうがファッションの側面も強いから扱いが難しいですね。
WSET Diploma Tさん
皆さんがコメントされてるように熟度や酵母といった理由はもちろんあると思いますが、最も大きな理由は品種個性を出すための介入をきちんとしていないからだと思います。
乱暴な言い方をすれば、これまで品種個性を強調するための先人たちの努力を無視した造りをしているから、でしょう。
例えばソーヴィニヨンブランの特徴的なアロマ。要因となる化学物質の特性をよく理解しているからこそ、収穫方法・温度・酸素との接触といったオプションを適切に行い、その個性を活かしてきました。それらをしていなければ、当然個性は失われます。
例えるなら良い食材と適切な調理法の組み合わせです。正しい火入をすることによって得られる風味や食感、それは調理法のみによってはえられず、やはり食材がなければ生まれません。そういうことかと認識しています。
ワイン講師Iさん
醸造上のナチュール系という事に限れば、似た味わいになるのはブレットと酸化によるものと思っています。酸化の部分は長期熟成のワインが似た風味になるのと同じ原理かと。
栽培のナチュール(バイオダイナミックなど)ではむしろテロワールの違いがはっきり出るように思います。かつてシャプティエとソノマのベンジガーのブランドマネージャー時代にその違いは徹底的に経験して来ました。現在BMのシャンパーニュ・トリボーも有機栽培転換以来、明確に品種、テロワール特性を感じる様になりました。
有名ソムリエYさん
「ナチュラル」に属するワインの全てに起こる現象では全くない、という前提が必要ではありますが。。。
一部のワイルド系ナチュラルでは、揮発酸、ブレタノミセス、還元臭といった「クラシック」でもごく普通にある風味香味が過度に出過ぎて「欠陥」の領域に入ることがあり、それらは確かにテロワールと我々が呼んでいる特徴に厚いヴェールをかけてしまうと思います。いわゆる「ネズミ臭(通称、マメ)」と呼ばれる欠陥だけは論外ですが。。。
ただし、これらの現象が発生する理由が、醸造過程における亜硫酸無添加が直接的なものとは言い切れませんね。むしろ、温度管理等を含めた醸造中の様々なコントロールの不備によるものが大きいかと考えられます。実際に瓶詰め前の極々僅かな亜硫酸添加のみで、クリーンなワインとなっているものも多々ございますので。
野生酵母を使用して問題が起こるケースは、むしろ葡萄畑の方に原因があると考えるのが、現状では一般論かと思います。(農薬を使用し過ぎて、酵母の質と量がよろしくない。収穫期の雨で酵母が流れた、などなど。)
過度の添加物を使用し、醸造技術で矯正しまくったタイプの「クラシック」もテロワールは歪んで金太郎飴状態になりますので、このあたりはどっちもどっちと考えるのがフェアかと思います。
一応、「カーボニック・マセレーション」や「バトナージュ」などの一般的なテクニックでも大なり小なり同様、とまた前置きしておきますが、あくまでもテロワールや葡萄品種の個性が分かりにくくなるだけで、消える訳では無いというのが私見です。
どれだけ揮発酸が出ていても、ジュラはジュラの味がしますし。。。
ご指摘の通り、かつては無添加醸造を目的とした低pH収穫(つまり早摘み)が主流になりつつあった時代がありましたが、現在この点に関しては大幅に改善されています。ポリフェノール類が未熟な葡萄は、亜硫酸の助け無しに自身を守りきれないと、多くのナチュラル派生産者がすでに理解しています。
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早摘みや醸造上の不備が品種特性を覆い隠す原因になっていそうなことは分かってきましたが、ケースバイケースの部分もかなりあるということなのでしょう。また、「自然派ワインは」と一緒くたに語ること自体、いい意味でも悪い意味でも視野を狭めてしまうことになるのでしょう。確かに「カリフォルニアワインは…でしょう」と雑なまとめ方をされてあまりいい気持ちはしませんから、同じことは言えると思います。
まとまったようなまとまらないようなことですが、いろいろ考えさせられる部分もあり、個人的には質問を投げかけてよかったと思っています。
といっても、そもそもこの命題自体があいまいなものであり、ミスリーディングにつながる可能性もあります。ひとつには自然派ワインという言葉自体がきちんと定義されたものではないからです。一般には、有機農法による栽培を実践していて、醸造は天然酵母で、SO2は瓶詰め時にごくわずか使うか、あるいは全く使わないといったところが共通項かと思いますが、実はこれだけだと、オーパス・ワンなんかも自然派ワインと呼べてしまうことになります。もちろん、オーパス・ワンを自然派ワインと呼んでも構わないですが、「自然派ワイン」と聞いてオーパス・ワンをイメージする人はほとんどいないでしょう。
それから、すべての自然派ワインがブドウ品種の特徴が分からない、というわけではありません。あくまで一般論としてそういうものが多いという話です。
あと、転載許可をいただいていないので、一応お名前は伏せさせていただきます。
ワインショップWさん
私的な意見では、ブドウの熟度が低めで個性差が出る前のため、単純な酸と糖のみで構成されてる事が大きな原因かと、完熟した時に香りや色で他の生物を引き付け広まるというのが一般的な生物学的な話やったと思うので、、
またSO2控える事で使える技法にも制約あるので幅広い味合いを作るにはハードル高いとは感じています。
因みにテロワールに関しで、土壌や気候はワインの成熟のプロセスに関わる要素と言う事であると考えると、成熟が完全に進む前に収穫するとその差も感じにくくなる様に思います。
WSET Diploma Hさん
個人的にはブドウの熟度の問題と結局品種特徴が出るのには人の手が掛かっているということが要因かなと思ってます。
野生酵母自体はナチュラルワインに限らず一般的に使用されていますが、SO2添加がされないことによりバクテリアとかのコントロールも不自由になるからそういったものがはたらいているが故の味に近づくのではないですかねぇ。
熟度が高いブドウを使ってクリーンに作られてちゃんと特徴が出ているワインももちろんありますが、一般にナチュラルワインと巷で言われるものは一方向を向いてますよね。
単純ゆえにウケてるという部分もあるのでしょうがファッションの側面も強いから扱いが難しいですね。
WSET Diploma Tさん
皆さんがコメントされてるように熟度や酵母といった理由はもちろんあると思いますが、最も大きな理由は品種個性を出すための介入をきちんとしていないからだと思います。
乱暴な言い方をすれば、これまで品種個性を強調するための先人たちの努力を無視した造りをしているから、でしょう。
例えばソーヴィニヨンブランの特徴的なアロマ。要因となる化学物質の特性をよく理解しているからこそ、収穫方法・温度・酸素との接触といったオプションを適切に行い、その個性を活かしてきました。それらをしていなければ、当然個性は失われます。
例えるなら良い食材と適切な調理法の組み合わせです。正しい火入をすることによって得られる風味や食感、それは調理法のみによってはえられず、やはり食材がなければ生まれません。そういうことかと認識しています。
ワイン講師Iさん
醸造上のナチュール系という事に限れば、似た味わいになるのはブレットと酸化によるものと思っています。酸化の部分は長期熟成のワインが似た風味になるのと同じ原理かと。
栽培のナチュール(バイオダイナミックなど)ではむしろテロワールの違いがはっきり出るように思います。かつてシャプティエとソノマのベンジガーのブランドマネージャー時代にその違いは徹底的に経験して来ました。現在BMのシャンパーニュ・トリボーも有機栽培転換以来、明確に品種、テロワール特性を感じる様になりました。
有名ソムリエYさん
「ナチュラル」に属するワインの全てに起こる現象では全くない、という前提が必要ではありますが。。。
一部のワイルド系ナチュラルでは、揮発酸、ブレタノミセス、還元臭といった「クラシック」でもごく普通にある風味香味が過度に出過ぎて「欠陥」の領域に入ることがあり、それらは確かにテロワールと我々が呼んでいる特徴に厚いヴェールをかけてしまうと思います。いわゆる「ネズミ臭(通称、マメ)」と呼ばれる欠陥だけは論外ですが。。。
ただし、これらの現象が発生する理由が、醸造過程における亜硫酸無添加が直接的なものとは言い切れませんね。むしろ、温度管理等を含めた醸造中の様々なコントロールの不備によるものが大きいかと考えられます。実際に瓶詰め前の極々僅かな亜硫酸添加のみで、クリーンなワインとなっているものも多々ございますので。
野生酵母を使用して問題が起こるケースは、むしろ葡萄畑の方に原因があると考えるのが、現状では一般論かと思います。(農薬を使用し過ぎて、酵母の質と量がよろしくない。収穫期の雨で酵母が流れた、などなど。)
過度の添加物を使用し、醸造技術で矯正しまくったタイプの「クラシック」もテロワールは歪んで金太郎飴状態になりますので、このあたりはどっちもどっちと考えるのがフェアかと思います。
一応、「カーボニック・マセレーション」や「バトナージュ」などの一般的なテクニックでも大なり小なり同様、とまた前置きしておきますが、あくまでもテロワールや葡萄品種の個性が分かりにくくなるだけで、消える訳では無いというのが私見です。
どれだけ揮発酸が出ていても、ジュラはジュラの味がしますし。。。
ご指摘の通り、かつては無添加醸造を目的とした低pH収穫(つまり早摘み)が主流になりつつあった時代がありましたが、現在この点に関しては大幅に改善されています。ポリフェノール類が未熟な葡萄は、亜硫酸の助け無しに自身を守りきれないと、多くのナチュラル派生産者がすでに理解しています。
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早摘みや醸造上の不備が品種特性を覆い隠す原因になっていそうなことは分かってきましたが、ケースバイケースの部分もかなりあるということなのでしょう。また、「自然派ワインは」と一緒くたに語ること自体、いい意味でも悪い意味でも視野を狭めてしまうことになるのでしょう。確かに「カリフォルニアワインは…でしょう」と雑なまとめ方をされてあまりいい気持ちはしませんから、同じことは言えると思います。
まとまったようなまとまらないようなことですが、いろいろ考えさせられる部分もあり、個人的には質問を投げかけてよかったと思っています。