ナパのプリチャード・ヒルにあるワイナリー「ブランド・ナパヴァレー(Brand Napa Valley)」の新オーナーが来日し、インタビューの機会をいただきました。


ブランドは2009年に創設されたワイナリーで2019年からジム・ビーンとクリスティーン・オサリヴァン夫婦がオーナーになりました。二人は元アップルのエグゼクティブで、最高のワインが作れるところをナパで探していました。2019年に同ワイナリーが売りに出ているのを知り、これ以上の場所はないと購入したといいます。ナパヴァレーのブドウ畑が4万7000エーカーほどある中で、プリチャード・ヒルのブドウ畑の面積は1%にもなりません。その中で、コルギンやコンティニュアム、シャペレー、オーヴィッドなどナパの中でもトップクラスのワイナリーがひしめきあっています。これほど貴重な地域でワイナリーを買えるチャンスはそうそうありません。

というと、金に任せてワインを作るだけのオーナーなのかと思ってしまいそうですが、この二人はそうではありません。実はブランド購入前、2013年にセント・ヘレナに20エーカーの畑を買っており、2019年までに65エーカーに拡張し、自らブドウ栽培していました。そのときは家族のプロジェクトという位置づけでした。ワイナリーを本格的にやるにはまず栽培を知らないといけないという考えでやっていたそうです。なので、全く何も知らないところからブランドでのワイン造りを始めたわけではないと強調していました。ブランドの畑の管理はシルバラード・ファーミング・カンパニーですが、オーナー二人も毎日畑に出ており、シルバラードのチームと緊密に作業をしているそうです。ちなみにセント・ヘレナの畑はブランド購入時に売却しています。

ブランドでは栽培を有機栽培、そしてビオディナミ(バイオダイナミクス)に転換。すでに有機栽培では認証を取っています。果実の純粋さを引き出すために栽培が一番大事だと考えています。なお、バイオダイナミクスの認証を取るためには耕作に必要な動物を自分のところで飼っていないといけないのですが、現在は近所の農家から借りて耕作しているので、そちらの認証は「牛を飼ってからね」とのことです。

ワインメーカーはフィリップ・メルカ。前にマーヤン・コシツキーの記事で「アトリエ・メルカ」というコンサルティング会社の話を書いていますが、ブランドに関してはアトリエ・メルカではなくフィリップ自身がワインメーカーとして携わっています。


新オーナーになってから、ラベルデザインも変わりました。

以前は下のようなデザインでした。


新しいラベルは、ワイナリーの建物の印象的な5角形を模したものになっています。


新しいボトルデザインでもう一つ注目してほしいのがキャップシールのところです。ワインの種類によって色が異なっており、ラベルと同じアイコンが描かれています。これはワインセラーに入れたときの分かりやすさのためです。ワインセラーに入れるとキャップシールのところしか見えないのが普通です。その状態でも、これがブランドのワインであるということと、そのワインの種類が、ボトルを引っ張り出さなくても分かるというわけです。こういうところはさすがUX(ユーザー・イクスペリエンス)を大事にしているアップル出身だなあと思わせます。


ワインを試飲しながらインタビューを続けます。最初は唯一の白ワインであるナパの「ホワイト・ブレンド2020」(16000円)。こちらはリボッラ・ジャッラ、フィアーノ、アルネイス、グレコ・ディ・トゥーフォ、ヴェルメンティーノ(多い順)のブレンドという5種類のイタリア系品種を使った非常にユニークなワイン。一般的なシャルドネやソーヴィニヨン・ブランとは違ったきれいなワイン、そしてさまざまなシチュエーションに合うワインを作りたかったとのこと。ブランドの赤ワインはすべて自社畑のブドウを使っていますが、このワインだけは近隣の畑のブドウをメインに使っています。また、アンフォラとステンレス、オークの小樽と3種類の容器を組み合わせて使っています。

5種類のブドウは闇雲にブレンドしているのではなく、それぞれ役割があるそうです。リボッラ・ジャッラはカリフォルニアでは「グラスの中の太陽」などとも言われることがありますが、実はきれいなミネラル感があり、特にアンフォラによってそれが引き出されるそうです。フィアーノはゴージャスな柑橘の風味があります。アルネイスはボディを与えてくれます。グレコは花の香りやマイヤーレモンのような風味をもたらします。この品種は米国のTTBで認められている品種ではないので、ラベルには名前が入れられません。ヴェルメンティーノはごくわずかしか入れていないのですがワインに深みを与え、ブレンド全体をまとめあげています。

実際に飲んでみると、酸が豊かで果実味も広がります。果実味も、柑橘だけでなくトロピカルな味わいも出ています。複雑さもあり非常にバランスのいいワイン。これが突出しているというのがないのでテイスティング・コメントとしては少し書きにくい感じもしますが、美味しいです。応用範囲が広いワインというのはよくわかります。

ちなみに今回試飲した2020年はナパ以外のブドウも使っており「カリフォルニア」の表記になっていますが、2021年は「ナパ」になるそうです。ブランドの自社畑でも少しずつ白ワインを増やしていて2021年は自社畑だけになるとのこと。

プリチャードヒル
赤ワインの話に移る前に、プリチャード・ヒルの特徴について少し説明します。プリチャード・ヒルはオークヴィルの北東側にあるヴァカ山脈系の産地で、いくつかの丘からなり、北側にはレイク・ヘネシーという大きな貯水池があります。シャペレーが名前の登録商標を持っているため、プリチャード・ヒルという名前が付いたワインはシャペレー以外は作れませんが、ナパでも指折りの高級ワイン産地です。ポイントを三つ挙げると、まずは標高の高さ。ブランドの畑で360~430mほどの標高があり霧がかからないため、朝晩は比較的暖かくおだやかです。第2にレイク・ヘネシーからの影響です、そこからの冷却効果で昼間の気温はヴァレーフロアより華氏で10~15°も低くなります。第3にヴァカ山脈の土壌で、いくつか種類はあるのですが、総じて言うと鉄分が多く、岩がちで痩せた土壌です。

Brand

ブランドの地所は110エーカーありますが、畑は15エーカーで三つに分かれています。西のNo95は一番標高が低く、やや粘土質が多く比較的保水性があります。カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランが主に植えられています。中央のNo92はレイク・ヘネシーからの風の影響を一番受け、その涼しさがカベルネ・フランに最適のサイトになっています。東のNo90は一番標高が高く、すぐ東側にはコルギンの畑があります。コルギンとの境界が尾根になっています。土壌は一番岩が多く、ブドウにとっては過酷な環境です。

今後は既存の畑を拡張する形で30エーカーにまで増やしたいと考えていて、ナパ郡に申請を出しています。畑を拡張できたら現在9種類のクローンを使っているカベルネ・ソーヴィニヨン、4種類のクローンを使っているカベルネ・フランのクローン違いを植えていきたいとのことでした。

ブランドで作ろうとしているワインは、バランスが取れており、エレガントでフレッシュさがあること。果実味爆弾と言われるような濃厚でパワフル過ぎるワインにはしたくないといいます。また、エステートであることにこだわりを持っており、栽培から醸造、ボトル詰めにいたるまですべて自社で行い、オーナー自ら毎日ワイナリーや畑の作業にかかわり、すべてに目を配っています。それだけ手をかけて作っているワインだということです。これは高級ワインであれば当たり前と思われるかもしれませんが、実際に自社畑だけでまかなっているワイナリーはそれほど多いわけではありません。例えばナパのワイナリーは400くらいですが、ブランドの数で言えば3000を超えるわけで、大半はエステートの畑を持っていないのです。

赤の最初のワインはNo.95カベルネ・ソーヴィニヨン。その名の通り、No95の畑のブドウを使っています。この畑はブランドの前にモンターニャが使った畑で一番古く、また一番若い樹(樹齢10年)がある畑でもあります。ブランドの赤ワインの中ではエントリー・レベルになります。以前のオーナーはセカンドラベルのワインを作っていましたが、それよりもレベルが高いワインを少し価格を抑えて出したいというワインです。

2017年のNo.95はカベルネ・ソーヴィニヨン88%にカベルネ・フラン8%、プティ・ヴェルド4%という構成。プティ・ヴェルドはカベルネ・フランに接ぎ木してしまったので、これが最後のヴィンテージになるそうです。新オーナーになる前のワインですが、最終的なブレンドには携わっています。

ブランドの赤の中ではこれが一番リッチでパワフルな印象。ダークなフルーツ感があります。気温が少し高めだったヴィンテージの特徴もあるのかもしれません。その中でミントのような清涼さもあり、土っぽいタンニンの感じもあるいいワインです。

次のワインは2019年のプロプライアタリー・ブレンドです。これはNo92の畑のブドウを使っています。前述のようにカベルネ・フランが多く68%カベルネ・フラン、32%カベルネ・ソーヴィニヨンという構成。少し粘土質の土壌で保水力があるため、ほぼ無灌漑で栽培しています。

米国でもカベルネ・フランの人気は高まっているものの、ナパでの栽培はわずか3%以下にとどまっています。栽培が難しいのがその理由。カベルネ・フランは24℃から35℃の間の気温が最適だそうですが、ナパではそれよりも朝は寒いし、昼は暑くなるところが多いため、いいカベルネ・フランができるところは限られています。No92の畑はレイク・ヘネシーからの冷却効果があり、さらに周りが樹で囲まれていることでその温度が保たれる、カベルネ・フランに最適な畑です。

第一印象はスミレの香り。華やかさが光ります。きれいな赤い果実とブルーベリー。溶け込んだタンニン。リッチ感もありますが、重くなくエレガント。時間が経つと、皮のようなニュアンスも出てきます。カベルネ・フラン好きにはたまらないワイン。実際、このワインが好きな人は熱烈にこれを求めるそうです。プリチャード・ヒルのカベルネ・フランをメインに置いたワインとしては、オーヴィッドのヘキサメーターが素晴らしいと思っていたのですが、それに全くひけを取らないと思います。

最後のワインはNo90の畑のカベルネ・ソーヴィニヨンを使ったカベルネ・ソーヴィニヨン 2019です。フラッグシップのワインです。一番岩の多い畑で、ブドウは生長に苦労し、とても小さな実のブドウができます。この畑の中でも一番いいブロックが「See」というクローンが植わっているところ。2023年のプルミエ・ナパヴァレー・オークションでは2021年のSeeクローンだけを使ったカベルネが出品され、最高価で落札されました。

100%カベルネ・ソーヴィニヨンのワインの中でもとてもいいものには鉛筆の芯を感じることが多いのですが、このカベルネにもそれを感じます。エレガントで、重いワインではないのですが、緻密でパワーがふつふつと出てくるような強さがあります。最上級のカベルネ・ソーヴィニヨンらしい良さがあります。

フレンチランドリーのワイン・ディレクターがブランドのワインを、美しく料理をオーバーパワーしないワインだと高く評価しているそうですが、そのコメントがよくわかります。

最後に、ナパでは近年気候変動による高温が、大きな問題になりつつあります。例えば2022年はオークヴィルで華氏110°(摂氏43℃ほど)を超える日が26日もあったそうです。プリチャード・ヒルは標高の高さから6日で済んだそうですが、ブランドでは高温に対処するために、畑に霧を撒くシステムを導入したとのこと。1時間ほどで5~7℃ほども気温を下げるそうです。

ブランドのワイン、じっくりと試飲をしたのは初めてでしたが、超有名ワイナリーばかりのプリチャード・ヒルにおいても、見劣りしないだけでなく、非常に魅力的なワインを作っていることがよくわかりました。個人的にはやはりカベルネ・フランが一番好きでしたが、カベルネ・ソーヴィニヨンも非常に良かったです。白のブレンドもこれまで飲んだことがないものでした。まだ新オーナーになってからそれほど年月が経っていませんから、これからさらに良くなっていくことが期待できそうです。