モンダヴィとハーランの故郷、メリーヴェールの現在地
メリーヴェール(Merryvale)をご存じでしょうか。古いファンだったら、「あの金色のラベルの」とかって覚えているかもしれません。2000年頃はナパでも高品質なワインを作っているワイナリーの一つとしてそこそこ知られているような気がします。その後しばらく輸入が絶えていましたが3年前から輸入が再開されています。ただ残念ながらまだ知名度はそこまで戻っていないかもしれません。
今回、ワインメーカーのジェフ・クロフォード氏が来日し、プロモーションを行いました。久しぶりにラインアップの様々なワインを試飲し、よりエレガントなスタイルになっていることにも気づきました。セミナーの内容を中心に紹介します。
ロバート・モンダヴィやハーラン・エステートは、多くの人がご存じでしょう。どちらもナパを代表するワイナリーですが、二つともメリーヴェールに深い縁があります。メリーヴェールのワイナリーはセント・ヘレナの一等地にありますが、禁酒法が明けてからその地にワイナリーを構えたのがサニー・セント・ヘレナというワイナリー。このワイナリーこそがモンダヴィ家が初めてナパに持ったワイナリーなのです。ロバート・モンダヴィの父親のチェザーレはイタリアから米国に移住し、ミネソタの鉱山近くで食品やワインなどを売る店をやっていました。それが禁酒法時代に、自家醸造用のブドウを調達するためにカリフォルニアのローダイに移り住み、ロバートが大学を卒業してからワイン業界に入るために手に入れたのがサニー・セント・ヘレナです。その後、チャールズ・クリュッグを買収、そこからロバートが家を追い出されて作ったのがロバート・モンダヴィですが、それは全く別の話なのでここでは割愛します。
そのサニー・セント・ヘレナのワイナリーを買い取ってメリーヴェールというワイナリーを立ち上げたのがハーラン・エステート創設者のビル・ハーランでした。1983年のことです。メリーヴェールはハーランを立ち上げるためのワインやブドウの研究といった面があり、ナパの様々な畑からブドウを買い付けてワインを作っていました。その経験がハーランに生き、またそのときにブドウを買っていた畑がボンドの礎になっています。ちなみにハーランのワインメーカーとして長年活躍したボブ・リーヴィーも1988年にメリーヴェールに参画しています。
1994にスイス出身ジャック・シュラッターがパートナーに加わり、その後単独所有となって現在に至ります。現在は娘のレネと夫のローレンスの夫妻がオーナーになっています。欧州の出身ということで、ワインの味わいもナパの中ではエレガントなタイプになります。
ジェフ・クロフォードは2007年に入社、今年「統括ワインメーカー」としてメリーヴェール傘下のブランド全体を含めてワイン造りに責任を持っています。
メリーヴェールは現在4つのブランドからなります。フラッグシップがプロファイル・コレクション(Profile Collection)。以前はメリーヴェールの中のフラッグシップワインという位置づけで金色や銀色のラベルで知られていましたが、2010年以降は独立したブランドになっています。また、ラベルもシックな黒系に。下の写真のように、オーナー夫妻の横顔がシルエットになっています。
ビル・ハーランがオーナーだったことには現在ボンドで使っている畑をプロファイルに使用していたこともありましたが、今はエステート化を進めており、ボルドー系ブレンドのプロファイルはセント・ヘレナの東斜面にあるプロファイル・エステート・ヴィンヤード、シャルドネのシルエットはカーネロスのスタンレー・ランチ・ヴィンヤードの中の専用のブロックのブドウを使っています。
メインのブランドがメリーヴェール・ヴィンヤーズ(Merryvale Vineyards)。ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワール、メルロー、カベルネ・ソーヴィニョン、デザートワイン(フォーティファイド)を作っています。これまでは契約農家のブドウがメインで、上記プロファイルの畑のブドウも使っていましたが、2019年にはマウント・ヴィーダーに二つの畑、クームズヴィルにも自社畑を購入し、自社畑中心になりつつあります。
三つめがフォワード・キッド(Forward Kidd)。ナパのブドウを使ったレッドブレンドです。畑やブレンドはヴィンテージによって異なります。ナパの土壌のバリエーションに敬意を払い、土壌タイプにちなんで付けられたワインだそうです。
四つ目はスターモント。一番リーズナブルな価格帯でエントリー・レベルを担います。買いブドウを使ったワインでノース・コーストやセントラル・コーストの畑を使っています。
試飲の最初のワインはメリーヴェールのソーヴィニヨン・ブラン2022。ナパの北東部にあるポープ・ヴァレーのブドウを使っています。ハウエル・マウンテンの東側で日中は暑くなりますが夜は冷え込みます。醸造にはコンクリート・エッグと葉巻のような横長の形をしたシガーバレル、ステンレススティールタンクの三つを使っています。コンクリートはミネラリティやフローラルさ、シガーバレルは柔らかな口当たり、ステンレススチールは酸味に貢献しているそうです。最近、ソーヴィニヨン・ブランではこのように様々な熟成容器を使う話をよく聞きます。
レモンのような鮮烈な酸とミネラル感。かりん、すいかずら、濡れた石などを感じました。
次はプロファイル・コレクションのシャルドネ「シルエット」2020。
見るからに色濃く黄金色に輝くワインです。はちみつやカスタード、ヘーゼルナッツ、マンゴーなど。熟度の高さと熟成感が特徴でした。
3本目はメリーヴェールのピノ・ノワール2018。クローン15というピノ・ノワールのクローンとSO4という台木の組み合わせがユニークなのだそうです(Block 2A)。果実の成熟と酸の両立を目指しています。スタンレー・ランチ・ヴィンヤードのほか、ブラウン・ランチ、リー・ヴィンヤード、RMSといったカーネロスの畑を使っています。
新樽率30%は最近のワインの中では高いほうですが樽がオーバーにならないことに気を遣っているとのことで、実際飲んでみるとそんなに樽が強い印象はありませんでした。6年経っているので多少熟成感も出始めていて、赤果実や黒果実に加え、紅茶や土っぽいニュアンスもあります。とはいえまだまだ果実味も豊かです。15%だけ除梗なしになっています。
4本目はメリーヴェールのカベルネ・ソーヴィニョン2017。アトラスピークのステージコーチのブドウなどを使っています。しっかり熟してタンニンもあるが酸もあり、バランス良く仕上げるという信条だそうです。
上品でややタンニン強く、甘やかな果実味、カシス、ブラックベリーを感じます。酸のバランスもいい
5本目はプロファイルの2018年。カベルネ・ソーヴィニョン82%にカベルネ・フランが17%、プティ・ヴェルド1%という構成です。よいカベルネ・ソーヴィニョンに感じることが多い黒鉛や、タンニン強い、酸M+、余韻長い、濃い果実、スパイスなどを感じます。ワイナリーでは冷やした状態で一回漬け込んだあと、主発酵、さらに発酵後にも果皮などとワインを接触した状態を続けます。80%新樽。
プロファイルの畑はボンドのQuellaの隣。様々な向きに斜面があり一つの畑の中にもさまざまなテロワールがあるそうです。
もう一つ特別に2010年のプロファイルをいただきました。2010年は100%エステートになった最初の年です。むぎわら、甘やかさ強い、タンニンもまだしっかりしています。
特にプロファイルとシルエットのすばらしさを感じました。
セミナー後はメリーヴェールやスターモントのほかのワインも試飲できました。スターモントのシャルドネやロゼ、メリーヴェールのメルローあたりがとても良かったです。
ところで、メリーヴェールといえばラベルの上部の切り欠きが特徴的です。これの意味を聞いてみたところ、メリーヴェールの「M」をかたどったというのが一つの意味。もう一つの意味は切り欠きの英語がnotchで、ラベルのトップにnotchがあるから「top notch」=一流ということだそうです。
今回、ワインメーカーのジェフ・クロフォード氏が来日し、プロモーションを行いました。久しぶりにラインアップの様々なワインを試飲し、よりエレガントなスタイルになっていることにも気づきました。セミナーの内容を中心に紹介します。
ロバート・モンダヴィやハーラン・エステートは、多くの人がご存じでしょう。どちらもナパを代表するワイナリーですが、二つともメリーヴェールに深い縁があります。メリーヴェールのワイナリーはセント・ヘレナの一等地にありますが、禁酒法が明けてからその地にワイナリーを構えたのがサニー・セント・ヘレナというワイナリー。このワイナリーこそがモンダヴィ家が初めてナパに持ったワイナリーなのです。ロバート・モンダヴィの父親のチェザーレはイタリアから米国に移住し、ミネソタの鉱山近くで食品やワインなどを売る店をやっていました。それが禁酒法時代に、自家醸造用のブドウを調達するためにカリフォルニアのローダイに移り住み、ロバートが大学を卒業してからワイン業界に入るために手に入れたのがサニー・セント・ヘレナです。その後、チャールズ・クリュッグを買収、そこからロバートが家を追い出されて作ったのがロバート・モンダヴィですが、それは全く別の話なのでここでは割愛します。
そのサニー・セント・ヘレナのワイナリーを買い取ってメリーヴェールというワイナリーを立ち上げたのがハーラン・エステート創設者のビル・ハーランでした。1983年のことです。メリーヴェールはハーランを立ち上げるためのワインやブドウの研究といった面があり、ナパの様々な畑からブドウを買い付けてワインを作っていました。その経験がハーランに生き、またそのときにブドウを買っていた畑がボンドの礎になっています。ちなみにハーランのワインメーカーとして長年活躍したボブ・リーヴィーも1988年にメリーヴェールに参画しています。
1994にスイス出身ジャック・シュラッターがパートナーに加わり、その後単独所有となって現在に至ります。現在は娘のレネと夫のローレンスの夫妻がオーナーになっています。欧州の出身ということで、ワインの味わいもナパの中ではエレガントなタイプになります。
ジェフ・クロフォードは2007年に入社、今年「統括ワインメーカー」としてメリーヴェール傘下のブランド全体を含めてワイン造りに責任を持っています。
メリーヴェールは現在4つのブランドからなります。フラッグシップがプロファイル・コレクション(Profile Collection)。以前はメリーヴェールの中のフラッグシップワインという位置づけで金色や銀色のラベルで知られていましたが、2010年以降は独立したブランドになっています。また、ラベルもシックな黒系に。下の写真のように、オーナー夫妻の横顔がシルエットになっています。
ビル・ハーランがオーナーだったことには現在ボンドで使っている畑をプロファイルに使用していたこともありましたが、今はエステート化を進めており、ボルドー系ブレンドのプロファイルはセント・ヘレナの東斜面にあるプロファイル・エステート・ヴィンヤード、シャルドネのシルエットはカーネロスのスタンレー・ランチ・ヴィンヤードの中の専用のブロックのブドウを使っています。
メインのブランドがメリーヴェール・ヴィンヤーズ(Merryvale Vineyards)。ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワール、メルロー、カベルネ・ソーヴィニョン、デザートワイン(フォーティファイド)を作っています。これまでは契約農家のブドウがメインで、上記プロファイルの畑のブドウも使っていましたが、2019年にはマウント・ヴィーダーに二つの畑、クームズヴィルにも自社畑を購入し、自社畑中心になりつつあります。
三つめがフォワード・キッド(Forward Kidd)。ナパのブドウを使ったレッドブレンドです。畑やブレンドはヴィンテージによって異なります。ナパの土壌のバリエーションに敬意を払い、土壌タイプにちなんで付けられたワインだそうです。
四つ目はスターモント。一番リーズナブルな価格帯でエントリー・レベルを担います。買いブドウを使ったワインでノース・コーストやセントラル・コーストの畑を使っています。
試飲の最初のワインはメリーヴェールのソーヴィニヨン・ブラン2022。ナパの北東部にあるポープ・ヴァレーのブドウを使っています。ハウエル・マウンテンの東側で日中は暑くなりますが夜は冷え込みます。醸造にはコンクリート・エッグと葉巻のような横長の形をしたシガーバレル、ステンレススティールタンクの三つを使っています。コンクリートはミネラリティやフローラルさ、シガーバレルは柔らかな口当たり、ステンレススチールは酸味に貢献しているそうです。最近、ソーヴィニヨン・ブランではこのように様々な熟成容器を使う話をよく聞きます。
レモンのような鮮烈な酸とミネラル感。かりん、すいかずら、濡れた石などを感じました。
次はプロファイル・コレクションのシャルドネ「シルエット」2020。
見るからに色濃く黄金色に輝くワインです。はちみつやカスタード、ヘーゼルナッツ、マンゴーなど。熟度の高さと熟成感が特徴でした。
3本目はメリーヴェールのピノ・ノワール2018。クローン15というピノ・ノワールのクローンとSO4という台木の組み合わせがユニークなのだそうです(Block 2A)。果実の成熟と酸の両立を目指しています。スタンレー・ランチ・ヴィンヤードのほか、ブラウン・ランチ、リー・ヴィンヤード、RMSといったカーネロスの畑を使っています。
新樽率30%は最近のワインの中では高いほうですが樽がオーバーにならないことに気を遣っているとのことで、実際飲んでみるとそんなに樽が強い印象はありませんでした。6年経っているので多少熟成感も出始めていて、赤果実や黒果実に加え、紅茶や土っぽいニュアンスもあります。とはいえまだまだ果実味も豊かです。15%だけ除梗なしになっています。
4本目はメリーヴェールのカベルネ・ソーヴィニョン2017。アトラスピークのステージコーチのブドウなどを使っています。しっかり熟してタンニンもあるが酸もあり、バランス良く仕上げるという信条だそうです。
上品でややタンニン強く、甘やかな果実味、カシス、ブラックベリーを感じます。酸のバランスもいい
5本目はプロファイルの2018年。カベルネ・ソーヴィニョン82%にカベルネ・フランが17%、プティ・ヴェルド1%という構成です。よいカベルネ・ソーヴィニョンに感じることが多い黒鉛や、タンニン強い、酸M+、余韻長い、濃い果実、スパイスなどを感じます。ワイナリーでは冷やした状態で一回漬け込んだあと、主発酵、さらに発酵後にも果皮などとワインを接触した状態を続けます。80%新樽。
プロファイルの畑はボンドのQuellaの隣。様々な向きに斜面があり一つの畑の中にもさまざまなテロワールがあるそうです。
もう一つ特別に2010年のプロファイルをいただきました。2010年は100%エステートになった最初の年です。むぎわら、甘やかさ強い、タンニンもまだしっかりしています。
特にプロファイルとシルエットのすばらしさを感じました。
セミナー後はメリーヴェールやスターモントのほかのワインも試飲できました。スターモントのシャルドネやロゼ、メリーヴェールのメルローあたりがとても良かったです。
ところで、メリーヴェールといえばラベルの上部の切り欠きが特徴的です。これの意味を聞いてみたところ、メリーヴェールの「M」をかたどったというのが一つの意味。もう一つの意味は切り欠きの英語がnotchで、ラベルのトップにnotchがあるから「top notch」=一流ということだそうです。