Common Ground
ナパ在住の弁護士であり、デザートワインに特化したユニークなワイナリーも持つリチャード・メンデルソンが、「Common Ground」という新しい書籍で、これからのナパの在り方について提言しています。ワイン・サーチャーの記事から紹介します(Ranking Napa's Vineyard Areas)。

提言の一つはラベル表記に関するもので、「Napa Valley」を冠するワインはナパ産のブドウを100%使うべきだとしています。米国のルールでは「Sonoma County」などの郡名は75%以上、「Napa Valley」や「Oakville」などのAVA名は85%以上、「To-Kalon Vineyard」などの畑名は95%以上、「Estate Bottled」は100%自社畑自社醸造などとなっています。85%以上というのはほとんどの新世界の生産地で共通しています。

これを「Napa Valley」でも100%にすべきだというのがメンデルソンの提言で、ナパは他の新世界のワインと区別するためにも100%にするべきだとしています。

もう一つの大きな提言は収穫の場所だけを制限する現在のルールを越えて、品種の指定や酸度、糖度、アルコール度などワインそのものの制限を含めたEUのAOC式のルールを検討すべきだというものです。

もちろん、このルールには反対意見も多いでしょう。EUでもAOCなどの原産地呼称に縛られず、自由にブドウを栽培したいという生産者も増えていますし、ナパでも植える品種を制限されるなんてまっぴらと思う人が多いでしょう。メンデルソンは自身弁護士であり、ルールに敵対するようなことを積極的に行うタイプでもない人なので、これはTTBなどのルールにするよりも民間の認証にするといった考えの方が合っているかもしれないとしています。

実際に導入するとなったらさらに物議を醸しそうな提案もあります。それは郡が事前に未開発の土地の地図を作成し、どの地域がブドウ畑に適していて、どの地域が適していないかを決めておくというものです。これが実行されると、しばしば起こる開発の認可の訴訟はなくなっていくでしょうが、これも米国人が嫌いそうな考え方ではあります。

ナパは1968年に農業用地の保護法を全米で初めて定め、それがサンフランシスコに近い便利な土地でありながら農業が残った大きな理由になりました。メンデルソンによると、その基本的な考え方は、農業は土地の最高かつ最良の利用法である、ということです。今のナパでは環境保護の観点から斜面における木の伐採はほぼ認められなくなっており、そのため斜面の畑の新たな開発ができなくなっています。メンデルソンは、これは農地保護法の考え方と反対であり、実質的に「平らな土地は畑にしていいが、丘や尾根はダメ」という土地のランク付けになっていると指摘しています。前述の「未開発の土地の地図とブドウ畑にしていい土地を決めておく」というのは現在のやり方よりも農業が最良の利用法であるという保護法の精神により近いというのがメンデルソンの考えです。

この方法を実現するには極めて高い壁がありそうですが、ある意味根本に立ち返った提案ということで非常に興味深いものがあります。