山カベの頂点ロコヤ、テロワールの表現に感嘆した
ナパの山地のカベルネ、通称山カベ専門で、パーカー100点9本と圧倒的な実績を誇るワイナリーがロコヤ(Lokoya)。そのワインメーカーのクリス・カーペンターが来日し、セミナーに参加しました。
まずは、ナパの基本的なところを抑えておきましょう。
ナパヴァレーの東側にヴァカ山脈、西側にマヤカマス山脈があります。ナパは南にサンパブロ湾があり、そこから冷たい空気や霧が内陸に入ってくるので、基本的には南ほど涼しくなります。また、西側と東側を比べると、マヤカマス山脈は太平洋からの空気も入ってくるのでヴァカ山脈側よりも涼しくなります。また、山の畑の多くは霧がかかる標高よりも高いところにあるので、霧の影響を受けません。谷底など霧がかかるところは夜に気温が大きく下がり午前中にあまり日照を受けませんが、山は気温はそれほど下がらず朝から日照をしっかり受けます。一方で、標高によって気温は上がりにくいので、日較差は小さくなります。
土壌はヴァカ山脈側は火山性土壌が中心で、マヤカマス山脈側は沖積性の土壌が多くなりますが、場所にもよるので一概には言い切れないところもあります。痩せた土地が多く、水はけがいいため、ブドウの実は小さく凝縮したものになります。また、タンニンも強くなります。
クリス・カーペンターはシカゴの出身、生物学を学び、卒業後は医療機器のセールスやバーで働くなどをしていましたが仕事に満足できなかったそうです。レストランと科学、創造性の三つを総合した仕事がないかと考えたときに、ワイン造りが見付かったとのこと。そうしてUCデーヴィスで学び、醸造と栽培の両方を勉強したとのこと。素晴らしいワインを造るには、まずは素晴らしいブドウがないと、ということで今でも栽培を一番大事にしています。ロコヤはジャクソン・ファミリーのワイナリーの一つであり、クリス・カーペンターはロコヤ以外にもいくつかのナパのワイナリーを担当しています。畑の管理も415エーカーに及びます。
前述のように、ワイン造りはまず素晴らしいブドウを育てることであり、場所を表現していることだといいます。醸造はできるだけシンプルに行います。さまざまな技術はありますが、どう栽培しているかが見えるようなワインを造りたいとのことです。
ワインのテイスティングに移ります。今回は2019年のワインを4つのAVAそれぞれについて試飲し、そのあとマウント・ヴィーダーについては2006、2010年と垂直で試飲します。最後に最新ヴィンテージの2021年からスプリング・マウンテンのカベルネを試飲します。ロコヤが作る4つのAVAを下の地図に示します。ワインはすべてカベルネソーヴィニヨン100%です。
最初の試飲はスプリング・マウンテンです。標高640mの自社畑イヴェルドン、標高300mの自社畑ワーテレに加え、契約栽培のスプリング・マウンテン・ヴィンヤード(標高550m)のブドウをブレンドしています。沖積土壌と火山性の土壌が混じっているのがこの地域の特徴でもあります。また、ロコヤのワイナリーはスプリング・マウンテンにあります。
カシスやブラックベリーに、レッド・チェリー、ブラッドオレンジ、バラの花など華やかな香りが特徴です。山のブドウだけあってタンニンも強く酸も高く、きれいで余韻の長いワイン。最初からびっくりするほど美味しいワインです。
次はダイヤモンド・マウンテン。スプリング・マウンテンの北側に隣接するAVAです。自社畑ライオライト・リッジ・ヴィンヤード (標高365m)、 自社畑ウォリス・ヴィンヤード (標高450m) に、契約栽培のアンドリュー・ジョフリー・ヴィンヤード (標高550m) をブレンドしています。黒曜石が土壌に含まれていてキラキラ光ることからこの名前が付いたと言われています。
スプリング・マウンテンよりも少し北にあることから少し温暖なAVAになります。畑の標高もスプリング・マウンテンより低いので、それも気温に関係しているかと思われます。赤系果実が感じられたスプリング・マウンテンと違い、ダイヤモンド・マウンテンは黒系から青系の果実、特にブルーベリーを強く感じます。チョコレートや黒鉛の風味もあり、ダークな印象。酸やタンニンはスプリング・マウンテンより少し控えめに感じられました。
3本目はヴァカ山脈側でロコヤが唯一造るハウエル・マウンテン。インポーター資料には「自社畑 W. S. キーズ・ヴィンヤード、ヴァカ山脈の北東に位置し標高556m、火山性のトゥーファ土壌 (火山灰堆積)と鉄分を含んだ赤い粘土」とあります。最初に植樹されたのは1888年という歴史ある畑です。
四つのワインの中で、これが一番リッチでパワフル。甘やかさも感じますが、一方で赤い果実の感じもあるのが面白い。酸は一番低く、タンニンは強いがシルキー。主張の強いワインなので好きな人とそうでない人には分かれるかもしれません。ちなみにジェブ・ダナックは100点、パーカー97点。
クリス・カーペンター本人はハウエル・マウンテンが一番好きだとのこと。グリーン・ノート(青っぽい風味)が感じられるところがいいと言っていましたが、私にはグリーン・ノートは分かりませんでした。
AVA水平試飲の最後はマウント・ヴィーダー。他の3つのAVAと比べるとかなり南にあり、ナパの山のAVAの中では一番冷涼と言われています。ワインもミントやセージなどハーブのニュアンスがあり、赤い果実に花の香り、酸高く、タンニンもガチガチに硬いです。非常に長塾型のワイン。最低10年くらいは置いてから飲みたいワインです。ちなみにジェブ・ダナックはこちらも100点を付けています。パーカー96+。
個人的には4つのAVAのワインの中でスプリング・マウンテンが一番良かったです。山らしい酸やタンニンに華やかな香り、もちろん熟成もできますが、今飲んでも十分に美味しい。
さて、一番長熟タイプのマウント・ヴィーダーは2010年と2006年も試飲しています。
2010年は酸高くきれいでエレガントな印象。タンニンはまだまだ強いです。2006年はミントの風味に赤果実、生肉のニュアンスも。やっぱりこれくらいは熟成させたい感じです。すばらしい。
最後に2021年のスプリング・マウンテンです。少し冷涼感がある2019年と比べると2021年は非常にパワフル。凝縮感もタンニンもものすごいレベルです。赤い果実はあまり感じられず、青系果実の風味が優性。すばらしいですが個人的には2019年のきれいさの方が良かったです。
山カベばかりをこれだけ並べて試飲する機会はめったにありません。特に4つのAVAの水平試飲はとても勉強にもなりました。ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンの中で、ト・カロン・ヴィンヤードのカベルネ・ソーヴィニヨンなどヴァレーフロアのいわゆる「谷カベ」ももちろん素晴らしいですが、まったく個性の異なる「山カベ」もあるというのがナパの魅力の一つだと思います。山のワインは生産量が少ないものが多く、価格も高くなりがちですが、ぜひ体験してほしいワインです。
まずは、ナパの基本的なところを抑えておきましょう。
ナパヴァレーの東側にヴァカ山脈、西側にマヤカマス山脈があります。ナパは南にサンパブロ湾があり、そこから冷たい空気や霧が内陸に入ってくるので、基本的には南ほど涼しくなります。また、西側と東側を比べると、マヤカマス山脈は太平洋からの空気も入ってくるのでヴァカ山脈側よりも涼しくなります。また、山の畑の多くは霧がかかる標高よりも高いところにあるので、霧の影響を受けません。谷底など霧がかかるところは夜に気温が大きく下がり午前中にあまり日照を受けませんが、山は気温はそれほど下がらず朝から日照をしっかり受けます。一方で、標高によって気温は上がりにくいので、日較差は小さくなります。
土壌はヴァカ山脈側は火山性土壌が中心で、マヤカマス山脈側は沖積性の土壌が多くなりますが、場所にもよるので一概には言い切れないところもあります。痩せた土地が多く、水はけがいいため、ブドウの実は小さく凝縮したものになります。また、タンニンも強くなります。
クリス・カーペンターはシカゴの出身、生物学を学び、卒業後は医療機器のセールスやバーで働くなどをしていましたが仕事に満足できなかったそうです。レストランと科学、創造性の三つを総合した仕事がないかと考えたときに、ワイン造りが見付かったとのこと。そうしてUCデーヴィスで学び、醸造と栽培の両方を勉強したとのこと。素晴らしいワインを造るには、まずは素晴らしいブドウがないと、ということで今でも栽培を一番大事にしています。ロコヤはジャクソン・ファミリーのワイナリーの一つであり、クリス・カーペンターはロコヤ以外にもいくつかのナパのワイナリーを担当しています。畑の管理も415エーカーに及びます。
前述のように、ワイン造りはまず素晴らしいブドウを育てることであり、場所を表現していることだといいます。醸造はできるだけシンプルに行います。さまざまな技術はありますが、どう栽培しているかが見えるようなワインを造りたいとのことです。
ワインのテイスティングに移ります。今回は2019年のワインを4つのAVAそれぞれについて試飲し、そのあとマウント・ヴィーダーについては2006、2010年と垂直で試飲します。最後に最新ヴィンテージの2021年からスプリング・マウンテンのカベルネを試飲します。ロコヤが作る4つのAVAを下の地図に示します。ワインはすべてカベルネソーヴィニヨン100%です。
最初の試飲はスプリング・マウンテンです。標高640mの自社畑イヴェルドン、標高300mの自社畑ワーテレに加え、契約栽培のスプリング・マウンテン・ヴィンヤード(標高550m)のブドウをブレンドしています。沖積土壌と火山性の土壌が混じっているのがこの地域の特徴でもあります。また、ロコヤのワイナリーはスプリング・マウンテンにあります。
カシスやブラックベリーに、レッド・チェリー、ブラッドオレンジ、バラの花など華やかな香りが特徴です。山のブドウだけあってタンニンも強く酸も高く、きれいで余韻の長いワイン。最初からびっくりするほど美味しいワインです。
次はダイヤモンド・マウンテン。スプリング・マウンテンの北側に隣接するAVAです。自社畑ライオライト・リッジ・ヴィンヤード (標高365m)、 自社畑ウォリス・ヴィンヤード (標高450m) に、契約栽培のアンドリュー・ジョフリー・ヴィンヤード (標高550m) をブレンドしています。黒曜石が土壌に含まれていてキラキラ光ることからこの名前が付いたと言われています。
スプリング・マウンテンよりも少し北にあることから少し温暖なAVAになります。畑の標高もスプリング・マウンテンより低いので、それも気温に関係しているかと思われます。赤系果実が感じられたスプリング・マウンテンと違い、ダイヤモンド・マウンテンは黒系から青系の果実、特にブルーベリーを強く感じます。チョコレートや黒鉛の風味もあり、ダークな印象。酸やタンニンはスプリング・マウンテンより少し控えめに感じられました。
3本目はヴァカ山脈側でロコヤが唯一造るハウエル・マウンテン。インポーター資料には「自社畑 W. S. キーズ・ヴィンヤード、ヴァカ山脈の北東に位置し標高556m、火山性のトゥーファ土壌 (火山灰堆積)と鉄分を含んだ赤い粘土」とあります。最初に植樹されたのは1888年という歴史ある畑です。
四つのワインの中で、これが一番リッチでパワフル。甘やかさも感じますが、一方で赤い果実の感じもあるのが面白い。酸は一番低く、タンニンは強いがシルキー。主張の強いワインなので好きな人とそうでない人には分かれるかもしれません。ちなみにジェブ・ダナックは100点、パーカー97点。
クリス・カーペンター本人はハウエル・マウンテンが一番好きだとのこと。グリーン・ノート(青っぽい風味)が感じられるところがいいと言っていましたが、私にはグリーン・ノートは分かりませんでした。
AVA水平試飲の最後はマウント・ヴィーダー。他の3つのAVAと比べるとかなり南にあり、ナパの山のAVAの中では一番冷涼と言われています。ワインもミントやセージなどハーブのニュアンスがあり、赤い果実に花の香り、酸高く、タンニンもガチガチに硬いです。非常に長塾型のワイン。最低10年くらいは置いてから飲みたいワインです。ちなみにジェブ・ダナックはこちらも100点を付けています。パーカー96+。
個人的には4つのAVAのワインの中でスプリング・マウンテンが一番良かったです。山らしい酸やタンニンに華やかな香り、もちろん熟成もできますが、今飲んでも十分に美味しい。
さて、一番長熟タイプのマウント・ヴィーダーは2010年と2006年も試飲しています。
2010年は酸高くきれいでエレガントな印象。タンニンはまだまだ強いです。2006年はミントの風味に赤果実、生肉のニュアンスも。やっぱりこれくらいは熟成させたい感じです。すばらしい。
最後に2021年のスプリング・マウンテンです。少し冷涼感がある2019年と比べると2021年は非常にパワフル。凝縮感もタンニンもものすごいレベルです。赤い果実はあまり感じられず、青系果実の風味が優性。すばらしいですが個人的には2019年のきれいさの方が良かったです。
山カベばかりをこれだけ並べて試飲する機会はめったにありません。特に4つのAVAの水平試飲はとても勉強にもなりました。ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンの中で、ト・カロン・ヴィンヤードのカベルネ・ソーヴィニヨンなどヴァレーフロアのいわゆる「谷カベ」ももちろん素晴らしいですが、まったく個性の異なる「山カベ」もあるというのがナパの魅力の一つだと思います。山のワインは生産量が少ないものが多く、価格も高くなりがちですが、ぜひ体験してほしいワインです。