何もかもが常識外 スクリーミング・イーグルの実像に迫る
ナパのプレミアムなカベルネ・ソーヴィニヨンの中でも、ミステリアスな存在なのがスクリーミング・イーグルです。現在の市価が安くて50万円台。80万円台や90万円台で売っている店も珍しくなく、高額ワインの多いナパの中でもその存在は抜きんでています(現在はゴースト・ホースの方が価格が上回りますが、こちらはまだ知名度は低いと思います)。生産量も1000ケース足らずと非常に少なく、実際に飲んだという話もほとんど聞いたことがありません。
セカンド・ワインに当たる「ザ・フライト」(以前の名称はセカンド・フライト)にしても、輸入元の希望小売価格は最新ヴィンテージで税込み31万9000円と、ハーラン・エステートの35万円に迫るものがあります。
今回、スクリーミング・イーグルのエステート・マネージャーで、サンタ・バーバラのヒルトやホナタなども管轄するアルマン・ド・メグレ氏が来日し、ザ・フライトを垂直で試飲しながら、話をうかがいました。また、スクリーミング・イーグルとソーヴィニヨン・ブランについても1ヴィンテージずついただきました。アルマン氏にとっても、このように「ザ・フライト」を垂直試飲するのは初めてとのこと。「過去を振り返ることはあまりない」そうです。
ザ・フライトをセカンド・ワインと便宜上書きましたが、実際には別のワインと言った方がいいのかもしれません。カベルネ・ソーヴィニョンが主体のスクリーミング・イーグルに対して、ザ・フライトはメルローが6割くらい入るのが通例です。一般的にはメルローの比率を上げるのは、あまり熟成させなくても飲みやすいようにする、というのが目的ですが、ザ・フライトの場合はメルローだから飲みやすい、というのでもなさそうです。ちなみに、当初は「セカンド・フライト」としていたのを2015年から「ザ・フライト」と変えたのも、ワインを実際に飲んだ人から「これはセカンドではない」というフィードバックを得たからだそうです。実は生産量もスクリーミング・イーグルの方がやや多くて500~900ケース。ザ・フライトは450~800ケースです。また2022年は熱波で酸が落ちた影響でザ・フライトは作りませんでした。
スクリーミング・イーグルの畑はオークヴィルの東側。シルヴァラード・トレイルのすぐ西になります。シルヴァラード・トレイルから東はかなりの斜面になります。ジョセフ・フェルプスのバッカスやダラ・ヴァッレの畑など、距離的には近いですが、特にダラ・ヴァッレの畑は丘一つ上になり、下からは見えません。
また、南側に標高140mほどの丘があります。畑の標高が40数メートルですから100mくらい、畑より高いわけです。このように、ナパの東側のベンチランドの中でもスクリーミング・イーグルの畑はちょっとくぼんだところにあり、周囲よりも少し涼しいという特徴があるそうです。例えば、収穫時のpHは周辺の畑では4.0程度とかなり高くなりますが、スクリーミング・イーグルでは3.4~3.5にとどまります。
スクリーミング・イーグルの創設者はジーン・フィリップス。不動産業で成功し、ナパのオークヴィルに土地を購入したのが1986年。当初はブドウを他のワイナリーに卸していましたが、カベルネ・ソーヴィニョンのブロックの品質が高いことに気付いてワインを造り始め、ロバート・パーカーに認められて有名ワイナリーになりました。
ジーン・フィリップスは2006年にスクリーミング・イーグルを売却、実業家のスタン・クロエンケが購入しましたが、引き継ぎ時にはワイナリーのカギを渡されただけで、畑やワインについては何も教えてもらわなかったとのこと。一から学んでいくことになりました。そこで気付いたことの一つがここのメルローの秀逸さでした。ただ、メルローの栽培もカベルネ・ソーヴィニョンの栽培も同じようにされていたので、メルローは葉を多く残すなど、メルローに合った栽培をすることでさらに品質も上がっていきました。このメルローを中心とした2つのブロックがザ・フライトのコアになっています。なお、45エーカーの畑のうち23エーカーが1980年代に植樹したものので、現在はそれだけを使っています。18エーカーは2006年から2007年に植樹したもので、これまではブレンドに入れていませんが、そろそろ使い始めるかもしれないとのこと。あと、2014~16年に植樹した数ブロックがあります。
2010年には醸造設備を一新し、ブロックごとに醸造できるようになりました。畑は45のブロックに分けられており、栽培も醸造もそれぞれにあった形で行っています。1ブロックでも別醸造のものもあり、合計で150パッチに分けられています。2月初頭に前年のブレンドを行います。
さて、2012年に2007~2010年の「セカンド・フライト」をセットでリリースしたのが、このワインのスタートとなりました。スクリーミング・イーグ0ルは「名前に恥じない究極の品質を目指しており、そのために謙虚であり続けないといけないし、ナンバーワンを続けなければいけない」としているのに対し、ザ・フライトの方は「世界で一番おいしいメルロー主体のワイン」を目指しています。
なお、サンタ・バーバラのThe HiltとJonataも同様に世界最高のシャルドネやピノ・ノワール、シラーを目指しています。シャルドネは明らかにそのポテンシャルがありシラーもニューワールドのシラーでは最高レベルのポテンシャルがあると自負しています。ピノ・ノワールはまだ苦戦していますが、目標はそこに置いています。
こういった世界最高を目指す精神の現れはコルクにも「Fly High and Proud」として描かれています。
スクリーミング・イーグルでは栽培はオーガニックですが、特にオーガニックであることをうたってはいません。マーケティング的に使われるのは本意ではないとのこと。ビオディナミには従っていません。ただ、月や太陽が栽培において重要だという意味ではその精神に共感しているところもあるようです。
試飲に移ります。今回は2012、2014、2015、2016、2019、2020の6ヴィンテージです。2015と2016はWine to Styleの在庫から、残りの4本はワイナリーからマグナムで持参いただいています。
ナパの天候において重要なのは気温と夜間の冷涼さ、生育期間の長さであり、「敵」になるのは熱波や干ばつです。2012年は比較的暖かいヴィンテージ。雨もやや多い年です。
以下にコメントを記しますが、相対的にどれがいいと思ったかを示すために、便宜的に得点を入れます。ほかの回と比較するというより、今回のワインの比較用と思ってください。
2012年はカシスの香りに、ちょっとミンティな風味、花の香り。酸高くタンニン強い。そこそこ年月を経ているにもかかわらず、果実味が強く熟成によるアロマはまだほとんどでてきていません。96
2014年は2012年よりも酸が低く、ブルーベリーの香りが顕著。ストラクチャーのしっかりしたワイン。94
2015年はタンニンがしっかり。果実の味わいは2012年と2014年の中間くらい。93
2016年は赤系果実とブルーベリーの香り。これもタンニンは強く、やや閉じ気味に感じられました。95
2019年もちょっと閉じている感じがありましたが、パワフルで酸高くポテンシャルを感じます。赤系と黒系果実も豊か。97
2020年はバランスよく、酸高く赤果実も強い。タンニンも強い。96
ちなみに、同席した森覚さんはマグナムの12、14はメルローの特徴がまだあまりでてきておらず、750mlの15、16は開いていたとおっしゃっていました。また15年以降の最近のヴィンテージの方がメルローらしさがより出てきているとおっしゃっていました。赤系の果実を感じたのは最近のヴィンテージの方が多かったので、そのあたりがメルローらしいところなのかもしれません(メルロー難しくてよくわかりません)。
総じて言えることは、パワフルでストラクチャーがありタンニンも強い傾向にあること。飲み頃がいつになるのか聞いてみたところ「わからない」とのこと。私の感覚では2012年のものでもまだ10年くらいは寝かせた方がポテンシャルを発揮するような気がしました。メルロー中心のセカンドワインというと、早飲みタイプなのかと想像してしまいがちですが、ザ・フライトは早飲みワインではなく20年は熟成できるし、する価値があるワインだと思います。
アルマン氏はザ・フライトで感じてほしいこととして「メルローの個性と精密性。口に含んだときにアタックがあり、酸も感じられ、ミッドパレットにしっかりした果実味があり、余韻にちょっと田舎っぽさを含みながらも骨格とエレガンスがある」というところだと語っていました。
これまで、Wine to Styleの試飲会でザ・フライトを数回試飲していますが、あわただしい試飲会では1つのワインにかけられるのは数秒。そこで価値を見極めるのは難しく、これまで試飲会で良かったワインとして紹介したことはなかったと思います。今回じっくり試飲して、やっとそのスケールの大きさが理解できた感じがしました。
ところで、スクリーミング・イーグルの畑の中でメルローは東の方に多く植えられています。東の方は西向き斜面になるので、より太陽をよく浴びます。一般的にはメルローは比較的冷涼なところを好むと言われているので、西の方に植えるのが常道だと思いますが、スクリーミング・イーグルではそうはなっていません。
前述のように、スクリーミング・イーグルやザ・フライトに現在使っているのは1980年代に創設者のジーン・フィリップスが植えたブドウです。つまり、この選択をしたのもジーン・フィリップスです。アルマン氏に言わせると彼女は素晴らしいガーデナーだとのことで、彼女の直観によって植えられたのだそうです。ブロックの一つは過去に小川が流れていたところで、水はけ良く石がごろごろしているということで、これも粘土質などやや水を保持する土壌を好むといわれているメルロー向き土壌とは異なっています。このような理屈ではないところにスクリーミング・イーグルの魅力の一つがあるのかもしれません。
ザ・フライトの垂直試飲の後は、食事を取りながらソーヴィニヨン・ブランとスクリーミング・イーグルをいただきました。
ソーヴィニヨン・ブランは、一時期はカベルネ・ソーヴィニョンよりも高く取引されていたほどのレアワイン(Wine-Searcherのデータでは、今はカベルネ・ソーヴィニョンよりちょっと安いようです)。日本では100万円を超える値付けも珍しくありません。
ちなみに生産量は当初は20~50ケース。2016年以降は100~125ケースで、2019年は150ケースと過去最多だったとのこと。
ソーヴィニヨン・ブランを始めたのは試飲やメーカーズ・ディナーのときに白ワインも欲しいからだそうです。オーナーが代わった2006年に植樹して2010年からワインを造っています。この2010年はお世辞にもいいできではなかったそうですが、翌年以降は世に出せる品質になっていきました。最初は市販するつもりはなかったそうですが、レベルが上がったことで「Screaming Eagle」の名を冠することにしました。畑は1ヘクタールもなく、かつて川が流れていた少し粘土質の土壌だそうです。クローンはソーヴィニヨン・ムスケと、2つのソーヴィニヨン・ブランのクローンを使っています。
収穫は何度かに分けて行います。果実の色で収穫時期を決めますが、あえてまだ緑のものを含めることもあるそうです。収穫した果実は除梗してプレス。500~600リットルのフレンチオークの樽とステンレスの樽で発酵し、バトナージュもするそうです。10カ月樽熟成して、タンクに移して2~4カ月落ち着かせてからボトル詰めします。果実の美しさを残し、酸が出すぎないようにしているとのこと。収穫時のpHは2.9~3.2と非常に低く、酸の管理は一番難しいとのことです。MLFはヴィンテージによって行ったり行わなかったりします。
2020年のソーヴィニヨン・ブランを飲みました。第一印象は香りの高さでソーヴィニヨン・ムスケらしさがよく出ています。少し柑橘もありますが、メロンのような熟した果実の香りで、酸はやや低めに感じます。きれいでほのかな樽香。値段のことはさておき、トップクラスのソーヴィニヨン・ブランの一つであることは間違いありません。
さて、最後はいよいよスクリーミング・イーグル2021です。Vinousのアントニオ・ガッローニは100点を付けています。
青系と黒系の果実の香り。シルキーなタンニンで、スムーズ、丸い味わい。一方で酸も高くストラクチャーもあり、エネルギーを秘めた感じがします。ザ・フライトと比べて親しみやすく、飲みやすいワインですが、おそらく熟成によっても魅力が出てくるでしょう。98。
スクリーミング・イーグルの方が、ザ・フライトよりも飲み方を問わないように感じました。バーサタイルなワインという印象です。1ヴィンテージしか飲んでいないので、あくまでもこのワインだけの印象ではありますが。
スクリーミング・イーグルというとメーリング・リストに入った数少ない人しか買えないワインというイメージがありますが、実際にはメーリング・リストで売られているのは6割程度で、輸出分も3割くらいあるそうです(残りはごくわずかな米国内の流通)。メーリング・リストでごく限られた顧客だけが飲めるワインであるよりも、高級ホテルやレストランなどで、世界のトップワインと並んで飲んでもらうワインであることを重視したいとのことでした。なお、メーリング・リストは登録している人が亡くなっても、ほとんどの場合子供が親の名義で購入を続けるので、ほとんど空きは出てこないとのこと。
最後にワインメーカーのニック・ギスラソンについて伺いました。20代という若さでワインメーカーに抜擢されたニックですが、そのエピソードについて聞いてみました。
ニックはワインメーカーになる前、2010年からワイナリーで働き始めていました。2010年の収穫や醸造が一段落した12月に、それまでのワインメーカーだったアンディ・エリクソンが退任することになりました。退任の理由はアンディ自身が「スクリーミング・イーグルにはフルタイムのワインメーカーが必要だ」と考えたたmです。アルマン氏はその後4カ月で志望者20~25人とインタビューしましたが、エゴが強かったり、ワインのレジュメが決まっていて合わせる気がない人が多かったり、自分の履歴書に1行加えたいだけの人だったりと適任者ははなかなか見つかりませんでした。そのときにニックが「自分ではだめか」と聞いてきたそうです。
若いしどうだろうかと思ったのですが、ニックは「6カ月くれたら自分がワインメーカーとしてふさわしいことを証明する」と言い、彼を見ることにしました。
それで採用を中断したのですが。彼の働きぶりと才能が素晴らしく、年齢は関係ないがわかり、2011年に正式にワインメーカーとなりました。ただ最初の5年間は見た目が若すぎるので、雑誌のインタビューなど表には出さなかったそうです。
ニックは花火師として日本に来たことがあり、また今ではビール醸造も行っていますが、そのように多趣味なところも評価しているそうです。一つのことにのめり込むとほかが見えなくなるからで、奥さんと子供、花火師、ビールが彼にあるのがいいところだそうです。またワインと花火は「サプライズな表現」が大事といったところに共通点があると考えており、彼が作るスクリーミング・イーグルだからこそ、表現が豊かでサプライズの要素があるのだとか。
今回のワインだけでスクリーミング・イーグルが分かったなどとは微塵も思いませんが、貴重な体験ができたこと、ワインの一端にでも触れることができたことは大変勉強になりました。また、これまで真の価値があまりわからなかったザ・フライトも素晴らしいワインであることがわかり、非常に魅力を感じるようになりました。参加させていただいたWine to Styleさん、またご一緒いただいた皆様ありがとうございました。
最後の最後に、長くなったので紹介を省いてしまいましたが、マンダリンオリエンタル東京の中華も素晴らしく美味しかったです。点心とソーヴィニヨン・ブラン、スペアリブとスクリーミング・イーグルなど、素晴らしい組み合わせでした。
セカンド・ワインに当たる「ザ・フライト」(以前の名称はセカンド・フライト)にしても、輸入元の希望小売価格は最新ヴィンテージで税込み31万9000円と、ハーラン・エステートの35万円に迫るものがあります。
今回、スクリーミング・イーグルのエステート・マネージャーで、サンタ・バーバラのヒルトやホナタなども管轄するアルマン・ド・メグレ氏が来日し、ザ・フライトを垂直で試飲しながら、話をうかがいました。また、スクリーミング・イーグルとソーヴィニヨン・ブランについても1ヴィンテージずついただきました。アルマン氏にとっても、このように「ザ・フライト」を垂直試飲するのは初めてとのこと。「過去を振り返ることはあまりない」そうです。
ザ・フライトをセカンド・ワインと便宜上書きましたが、実際には別のワインと言った方がいいのかもしれません。カベルネ・ソーヴィニョンが主体のスクリーミング・イーグルに対して、ザ・フライトはメルローが6割くらい入るのが通例です。一般的にはメルローの比率を上げるのは、あまり熟成させなくても飲みやすいようにする、というのが目的ですが、ザ・フライトの場合はメルローだから飲みやすい、というのでもなさそうです。ちなみに、当初は「セカンド・フライト」としていたのを2015年から「ザ・フライト」と変えたのも、ワインを実際に飲んだ人から「これはセカンドではない」というフィードバックを得たからだそうです。実は生産量もスクリーミング・イーグルの方がやや多くて500~900ケース。ザ・フライトは450~800ケースです。また2022年は熱波で酸が落ちた影響でザ・フライトは作りませんでした。
スクリーミング・イーグルの畑はオークヴィルの東側。シルヴァラード・トレイルのすぐ西になります。シルヴァラード・トレイルから東はかなりの斜面になります。ジョセフ・フェルプスのバッカスやダラ・ヴァッレの畑など、距離的には近いですが、特にダラ・ヴァッレの畑は丘一つ上になり、下からは見えません。
また、南側に標高140mほどの丘があります。畑の標高が40数メートルですから100mくらい、畑より高いわけです。このように、ナパの東側のベンチランドの中でもスクリーミング・イーグルの畑はちょっとくぼんだところにあり、周囲よりも少し涼しいという特徴があるそうです。例えば、収穫時のpHは周辺の畑では4.0程度とかなり高くなりますが、スクリーミング・イーグルでは3.4~3.5にとどまります。
スクリーミング・イーグルの創設者はジーン・フィリップス。不動産業で成功し、ナパのオークヴィルに土地を購入したのが1986年。当初はブドウを他のワイナリーに卸していましたが、カベルネ・ソーヴィニョンのブロックの品質が高いことに気付いてワインを造り始め、ロバート・パーカーに認められて有名ワイナリーになりました。
ジーン・フィリップスは2006年にスクリーミング・イーグルを売却、実業家のスタン・クロエンケが購入しましたが、引き継ぎ時にはワイナリーのカギを渡されただけで、畑やワインについては何も教えてもらわなかったとのこと。一から学んでいくことになりました。そこで気付いたことの一つがここのメルローの秀逸さでした。ただ、メルローの栽培もカベルネ・ソーヴィニョンの栽培も同じようにされていたので、メルローは葉を多く残すなど、メルローに合った栽培をすることでさらに品質も上がっていきました。このメルローを中心とした2つのブロックがザ・フライトのコアになっています。なお、45エーカーの畑のうち23エーカーが1980年代に植樹したものので、現在はそれだけを使っています。18エーカーは2006年から2007年に植樹したもので、これまではブレンドに入れていませんが、そろそろ使い始めるかもしれないとのこと。あと、2014~16年に植樹した数ブロックがあります。
2010年には醸造設備を一新し、ブロックごとに醸造できるようになりました。畑は45のブロックに分けられており、栽培も醸造もそれぞれにあった形で行っています。1ブロックでも別醸造のものもあり、合計で150パッチに分けられています。2月初頭に前年のブレンドを行います。
さて、2012年に2007~2010年の「セカンド・フライト」をセットでリリースしたのが、このワインのスタートとなりました。スクリーミング・イーグ0ルは「名前に恥じない究極の品質を目指しており、そのために謙虚であり続けないといけないし、ナンバーワンを続けなければいけない」としているのに対し、ザ・フライトの方は「世界で一番おいしいメルロー主体のワイン」を目指しています。
なお、サンタ・バーバラのThe HiltとJonataも同様に世界最高のシャルドネやピノ・ノワール、シラーを目指しています。シャルドネは明らかにそのポテンシャルがありシラーもニューワールドのシラーでは最高レベルのポテンシャルがあると自負しています。ピノ・ノワールはまだ苦戦していますが、目標はそこに置いています。
こういった世界最高を目指す精神の現れはコルクにも「Fly High and Proud」として描かれています。
スクリーミング・イーグルでは栽培はオーガニックですが、特にオーガニックであることをうたってはいません。マーケティング的に使われるのは本意ではないとのこと。ビオディナミには従っていません。ただ、月や太陽が栽培において重要だという意味ではその精神に共感しているところもあるようです。
試飲に移ります。今回は2012、2014、2015、2016、2019、2020の6ヴィンテージです。2015と2016はWine to Styleの在庫から、残りの4本はワイナリーからマグナムで持参いただいています。
ナパの天候において重要なのは気温と夜間の冷涼さ、生育期間の長さであり、「敵」になるのは熱波や干ばつです。2012年は比較的暖かいヴィンテージ。雨もやや多い年です。
以下にコメントを記しますが、相対的にどれがいいと思ったかを示すために、便宜的に得点を入れます。ほかの回と比較するというより、今回のワインの比較用と思ってください。
2012年はカシスの香りに、ちょっとミンティな風味、花の香り。酸高くタンニン強い。そこそこ年月を経ているにもかかわらず、果実味が強く熟成によるアロマはまだほとんどでてきていません。96
2014年は2012年よりも酸が低く、ブルーベリーの香りが顕著。ストラクチャーのしっかりしたワイン。94
2015年はタンニンがしっかり。果実の味わいは2012年と2014年の中間くらい。93
2016年は赤系果実とブルーベリーの香り。これもタンニンは強く、やや閉じ気味に感じられました。95
2019年もちょっと閉じている感じがありましたが、パワフルで酸高くポテンシャルを感じます。赤系と黒系果実も豊か。97
2020年はバランスよく、酸高く赤果実も強い。タンニンも強い。96
ちなみに、同席した森覚さんはマグナムの12、14はメルローの特徴がまだあまりでてきておらず、750mlの15、16は開いていたとおっしゃっていました。また15年以降の最近のヴィンテージの方がメルローらしさがより出てきているとおっしゃっていました。赤系の果実を感じたのは最近のヴィンテージの方が多かったので、そのあたりがメルローらしいところなのかもしれません(メルロー難しくてよくわかりません)。
総じて言えることは、パワフルでストラクチャーがありタンニンも強い傾向にあること。飲み頃がいつになるのか聞いてみたところ「わからない」とのこと。私の感覚では2012年のものでもまだ10年くらいは寝かせた方がポテンシャルを発揮するような気がしました。メルロー中心のセカンドワインというと、早飲みタイプなのかと想像してしまいがちですが、ザ・フライトは早飲みワインではなく20年は熟成できるし、する価値があるワインだと思います。
アルマン氏はザ・フライトで感じてほしいこととして「メルローの個性と精密性。口に含んだときにアタックがあり、酸も感じられ、ミッドパレットにしっかりした果実味があり、余韻にちょっと田舎っぽさを含みながらも骨格とエレガンスがある」というところだと語っていました。
これまで、Wine to Styleの試飲会でザ・フライトを数回試飲していますが、あわただしい試飲会では1つのワインにかけられるのは数秒。そこで価値を見極めるのは難しく、これまで試飲会で良かったワインとして紹介したことはなかったと思います。今回じっくり試飲して、やっとそのスケールの大きさが理解できた感じがしました。
ところで、スクリーミング・イーグルの畑の中でメルローは東の方に多く植えられています。東の方は西向き斜面になるので、より太陽をよく浴びます。一般的にはメルローは比較的冷涼なところを好むと言われているので、西の方に植えるのが常道だと思いますが、スクリーミング・イーグルではそうはなっていません。
前述のように、スクリーミング・イーグルやザ・フライトに現在使っているのは1980年代に創設者のジーン・フィリップスが植えたブドウです。つまり、この選択をしたのもジーン・フィリップスです。アルマン氏に言わせると彼女は素晴らしいガーデナーだとのことで、彼女の直観によって植えられたのだそうです。ブロックの一つは過去に小川が流れていたところで、水はけ良く石がごろごろしているということで、これも粘土質などやや水を保持する土壌を好むといわれているメルロー向き土壌とは異なっています。このような理屈ではないところにスクリーミング・イーグルの魅力の一つがあるのかもしれません。
ザ・フライトの垂直試飲の後は、食事を取りながらソーヴィニヨン・ブランとスクリーミング・イーグルをいただきました。
ソーヴィニヨン・ブランは、一時期はカベルネ・ソーヴィニョンよりも高く取引されていたほどのレアワイン(Wine-Searcherのデータでは、今はカベルネ・ソーヴィニョンよりちょっと安いようです)。日本では100万円を超える値付けも珍しくありません。
ちなみに生産量は当初は20~50ケース。2016年以降は100~125ケースで、2019年は150ケースと過去最多だったとのこと。
ソーヴィニヨン・ブランを始めたのは試飲やメーカーズ・ディナーのときに白ワインも欲しいからだそうです。オーナーが代わった2006年に植樹して2010年からワインを造っています。この2010年はお世辞にもいいできではなかったそうですが、翌年以降は世に出せる品質になっていきました。最初は市販するつもりはなかったそうですが、レベルが上がったことで「Screaming Eagle」の名を冠することにしました。畑は1ヘクタールもなく、かつて川が流れていた少し粘土質の土壌だそうです。クローンはソーヴィニヨン・ムスケと、2つのソーヴィニヨン・ブランのクローンを使っています。
収穫は何度かに分けて行います。果実の色で収穫時期を決めますが、あえてまだ緑のものを含めることもあるそうです。収穫した果実は除梗してプレス。500~600リットルのフレンチオークの樽とステンレスの樽で発酵し、バトナージュもするそうです。10カ月樽熟成して、タンクに移して2~4カ月落ち着かせてからボトル詰めします。果実の美しさを残し、酸が出すぎないようにしているとのこと。収穫時のpHは2.9~3.2と非常に低く、酸の管理は一番難しいとのことです。MLFはヴィンテージによって行ったり行わなかったりします。
2020年のソーヴィニヨン・ブランを飲みました。第一印象は香りの高さでソーヴィニヨン・ムスケらしさがよく出ています。少し柑橘もありますが、メロンのような熟した果実の香りで、酸はやや低めに感じます。きれいでほのかな樽香。値段のことはさておき、トップクラスのソーヴィニヨン・ブランの一つであることは間違いありません。
さて、最後はいよいよスクリーミング・イーグル2021です。Vinousのアントニオ・ガッローニは100点を付けています。
青系と黒系の果実の香り。シルキーなタンニンで、スムーズ、丸い味わい。一方で酸も高くストラクチャーもあり、エネルギーを秘めた感じがします。ザ・フライトと比べて親しみやすく、飲みやすいワインですが、おそらく熟成によっても魅力が出てくるでしょう。98。
スクリーミング・イーグルの方が、ザ・フライトよりも飲み方を問わないように感じました。バーサタイルなワインという印象です。1ヴィンテージしか飲んでいないので、あくまでもこのワインだけの印象ではありますが。
スクリーミング・イーグルというとメーリング・リストに入った数少ない人しか買えないワインというイメージがありますが、実際にはメーリング・リストで売られているのは6割程度で、輸出分も3割くらいあるそうです(残りはごくわずかな米国内の流通)。メーリング・リストでごく限られた顧客だけが飲めるワインであるよりも、高級ホテルやレストランなどで、世界のトップワインと並んで飲んでもらうワインであることを重視したいとのことでした。なお、メーリング・リストは登録している人が亡くなっても、ほとんどの場合子供が親の名義で購入を続けるので、ほとんど空きは出てこないとのこと。
最後にワインメーカーのニック・ギスラソンについて伺いました。20代という若さでワインメーカーに抜擢されたニックですが、そのエピソードについて聞いてみました。
ニックはワインメーカーになる前、2010年からワイナリーで働き始めていました。2010年の収穫や醸造が一段落した12月に、それまでのワインメーカーだったアンディ・エリクソンが退任することになりました。退任の理由はアンディ自身が「スクリーミング・イーグルにはフルタイムのワインメーカーが必要だ」と考えたたmです。アルマン氏はその後4カ月で志望者20~25人とインタビューしましたが、エゴが強かったり、ワインのレジュメが決まっていて合わせる気がない人が多かったり、自分の履歴書に1行加えたいだけの人だったりと適任者ははなかなか見つかりませんでした。そのときにニックが「自分ではだめか」と聞いてきたそうです。
若いしどうだろうかと思ったのですが、ニックは「6カ月くれたら自分がワインメーカーとしてふさわしいことを証明する」と言い、彼を見ることにしました。
それで採用を中断したのですが。彼の働きぶりと才能が素晴らしく、年齢は関係ないがわかり、2011年に正式にワインメーカーとなりました。ただ最初の5年間は見た目が若すぎるので、雑誌のインタビューなど表には出さなかったそうです。
ニックは花火師として日本に来たことがあり、また今ではビール醸造も行っていますが、そのように多趣味なところも評価しているそうです。一つのことにのめり込むとほかが見えなくなるからで、奥さんと子供、花火師、ビールが彼にあるのがいいところだそうです。またワインと花火は「サプライズな表現」が大事といったところに共通点があると考えており、彼が作るスクリーミング・イーグルだからこそ、表現が豊かでサプライズの要素があるのだとか。
今回のワインだけでスクリーミング・イーグルが分かったなどとは微塵も思いませんが、貴重な体験ができたこと、ワインの一端にでも触れることができたことは大変勉強になりました。また、これまで真の価値があまりわからなかったザ・フライトも素晴らしいワインであることがわかり、非常に魅力を感じるようになりました。参加させていただいたWine to Styleさん、またご一緒いただいた皆様ありがとうございました。
最後の最後に、長くなったので紹介を省いてしまいましたが、マンダリンオリエンタル東京の中華も素晴らしく美味しかったです。点心とソーヴィニヨン・ブラン、スペアリブとスクリーミング・イーグルなど、素晴らしい組み合わせでした。