造るワインのすべてが超高評価というモルレ・ファミリーのワインの正式輸入が始まりました。輸出担当をしているジュリアン・デュカス氏が来日してセミナーを開催しまいた。

まず、モルレのワインがどれくらい高い評価なのか紹介しておきましょう。モルレは様々な評論家からこれまで合計29回もの100点を取っており、中にはレイト・ハーヴェストのデザートワインも含まれています。この中で、ワイン・アドヴォケイトのレイティングで見ると、シャルドネとカベルネ・フラン、ホワイト・ブレンド(セミヨン中心)で最高100点、ピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨンで最高99点、シラーで最高97点。100点が合計で7本となっています。ピノ・ノワールとシャルドネだけ、あるいはカベルネ・ソーヴィニヨンに特化したワイナリーはたくさんありますが、両方でこれだけ高い評価を得ているワイナリーはほとんどありません。

キャラクター的によく似ていて、関連も深く、競合になるのは可能性が高いのがピーター・マイケルです。ピーター・マイケルではワイン・アドヴォケイトの100点は10本あるもののシャルドネとピノ・ノワールの2種類。カベルネ・ソーヴィニヨンは最高99点、セミヨンが98点と、モルレは引けを取りません。

どちらもオールラウンダーのトップ中のトップと言っていいでしょう。

ちなみに、関連が深いというのは、モルレの創設者でワインメーカーでもあるリュック・モルレはピーター・マイケルの4代目ワインメーカーだったのです。2001年にワインメーカーに就任し、2005年まで続けました。2006年にピーター・マイケルを辞めようとしたところ、強く慰留され、結局次のワインメーカーにニコラス・モルレを招聘し、リュックもコンサルタントとして残ることでやっと認めてもらったのでした。現在は6代目のワインメーカーになっていますが、二人合わせると20年近くもの間、ピーター・マイケルのワインを支えてきたのです。リュックは現在もピーター・マイケルでコンサルティングを続けています。ワインにフランス語の名前を付けることなど、ほかにも共通点の多い二つのワイナリーです。

リュックはシャンパーニュのアイ村の近くの出身。シャンパーニュやブルゴーニュ、ボルドーで修行しました。妻のジョディはカリフォルニアのサクラメント出身。二人は1994年にパリで出会い、カリフォルニアにやってきました。そのときの所持金は800ドルしかなかったといいます。カリフォルニアではニュートンなどで働き、その後、前述のようにピーターマイケルのワインメーカーとして活躍し、2006年にモルレ・ファミリーを立ち上げました。ジョディは学校の先生をしていましたが、それをやめてワイナリーのジェネラル・マネジャになりました。

モルレ・ファミリーでは、品質に妥協しないこと、ワインにおける調和のセンス、そして家族経営を三つの柱としています。

モルレはシャルドネとピノ・ノワールについてはフォートロス・シーヴューにある契約畑のブドウを使っています。シラーはベネット・ヴァレー、セミヨンもソノマで調達しており、ソノマのイメージが強いですが、実はワイナリーはナパのセント・ヘレナにあります。また、カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランについては以前はナパのベクストファー・ト・カロンなどから調達していましたが、現在は自社畑のみになっています。

最初の自社畑はピーター・マイケルの本拠地でもあるナイツ・ヴァレー。Mon Chevalierという畑です。石と粘土の赤土でミネラル感と強固なタンニンがボルドーを彷彿とさせるようなワインができる畑です。

2008年にはナパのセント・ヘレナに畑とワイナリーを購入しました。マヤカマス山脈側の山すそで、火山性の土壌と沖積性の土壌が混じっている傾斜のある土地です。チャールズ・クリュッグのはす向かいあたりで、ちょうどナパヴァレーの幅が狭くなるあたりの畑です。

最も新しい畑が2015年に取得したオークヴィルの畑。ト・カロン・ヴィンヤードからハイウェイを挟んで向かい合うところ。オーパス・ワンから少し南になります。マヤカマス山脈からの沖積性土壌で砂利が多い土壌です。カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランを植えています。10.5ヘクタール。

畑の管理は、12人からなる専門のチームで行っています。サスティナブルかつ有機栽培を実践しており、除草剤などは使用していません。収穫はブドウの鮮度を落とさないために夜間に行い、冷蔵トラックで運びます。白ワイン用のブドウは房単位で選果します。房単位で選果するのは、白ワイン用のブドウを房のままプレスするためです。粒を外してしまうと、酸素に触れる時間がながくなってしまいます。赤ワイン用のブドウは粒単位で、2段階の選果を行います。

白は樽発酵・樽熟成、赤は600リットルのパンチョン(フレンチオーク)を2/3使い、自然に発酵させます。樽についてはこだわりを持っており、フランスのダナジュー社の樽を自身で米国に輸入しているとのこと。清澄・濾過はせずにボトル詰めします。コルクは一つひとつ、ブショネの原因となる「TCA」のチェックをしたものを使っています。

今回はシャルドネ2種、ピノ・ノワール2種、カベルネ・ソーヴィニヨン3種の計7種類のワインを試飲しました。個々のワインの説明と合わせて試飲コメントを紹介していきます。

Ma Douce Chardonnay 2020
ワインの名前の「マ・ドゥ―ス」は「私の愛しい人」という意味で妻ジョディにちなんでいます。ウエスト・ソノマ・コーストの中でも標高の高いところに位置するAVAフォートロス・シーヴューの畑のブドウを使ったシャルドネです。太平洋から近く、冷涼ですが、標高が高いため、霧はほとんどかからず、日照をしっかりと浴びます。シャルドネはウェンテ・クローン。熟成は85%新樽で12カ月。シュールリーでバトナージュもします。100%MLF。

白い花やヘーゼルナッツ。酸高く、柑橘強いですが、時間が経ち、温度が上がるとだんだん、クリームブリュレのような甘い香りが広がってきます。冷涼感と完熟という相反するような個性を併せ持つフォートロス・シーヴューらしさが出たワインです。

Ma Princesse Chardonnay 2021
名称の「マ・プリンセス」は「私のプリンセス」、すなわち娘のクレアのことを指しています。畑はロシアン・リバー・ヴァレーの川岸にあり、オールド・ウェンテ・クローンのシャルドネが植わっています。

フォートロス・シーヴューよりも温かなロシアン・リバー・ヴァレーの畑であり、ワインの色もやや濃く、味わいもより重厚で重層的です。柑橘に白桃柔らかい風味。酸高く、ミネラル感もあります。今回、やや温度を低めで供しているので、これも温度が上がるとクリームブリュレ感が出てきます。冷涼感はマ・ドゥ―スが上回りますが、複雑さはこちらが上に感じました。どちらも素晴らしいですが、個人的にはこちらを高く評価します。

この二つのシャルドネは奥さんと娘にちなんでいるわけですが、娘のワインの方が後から市場に投入されました。そのとき、奥さんのワインよりも価格が高かったので、奥さんの機嫌が悪くなったそうです。その後「Coup de Cœur」というバレル・セレクションのトップキュベを投入したことで、その問題は解消されたとのこと。

さらに余談になりますが、実はピーター・マイケルでも似たような話がありました。息子が結婚したときに、嫁が来たことを喜んで「Ma Belle-Fille(私の美しい娘)」というシャルドネを造ったのですが、実は奥さんにちなんだワインがなかったため、奥さんが機嫌を損ねたのでした。そこで、ピーター・マイケルがピノ・ノワールを始めたときに「Ma Danseuse(私のダンスパートナー)」というワインを造ったのでした。これはピーター・マイケルが奥さんとダンス教室で知り合ったことにちなんでいます。

En Famille Pinot Noir 2019
ワイン名の「アン・ファミーユ」は家族のこと。畑はマ・ドゥ―スと同じです。標高385~400mで南東向き斜面の畑。

赤い果実にちょっとアーシーな風味。しっかり熟していますが酸もあり、複雑な味わい。

Coteaux Nobles Pinot Noir 2020
ワイン名の「コトー・ノーブル」は「高貴な丘陵地帯」の意味。畑はアン・ファミーユと同じですが、標高が少し高く(400~430m)、斜面は南向きではありません。その分、アン・ファミーユよりも冷涼になります。

赤い果実にハーブのニュアンス。アン・ファミーユと比べると、やや線が細くエレガント。個人的にはアン・ファミーユの方が好きですが、エレガント好きならこちらを選ぶと思います。

最後はカベルネ・ソーヴィニヨン3本です。

Les Petits Morlet Cabernet Sauvignon 2019
自社畑の樹齢3~5年の若木のブドウを使ったエントリー向けのワイン。複数の畑をブレンドしており「Napa Valley」のAVA表記となります。85%新樽で16カ月の熟成。

ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンとしては珍しいほどの青いニュアンスがあります。タンニンも強く、ボルドー的な印象が強い中、みずみずしい果実の香りがナパらしさを表現しています。

Mon Chevalier Cabernet Sauvignon 2019
前述のように「モン・シュヴァリエ(私の騎士)」はナイツ・ヴァレーの自社畑。ワインの名前は息子のポール・モルレにちなんでいます。ナイツ・ヴァレーは内陸で温暖ですが、標高150~200mほどのところで冷涼な風が届きます。

ブルーベリーにカシス、わずかにレッド・チェリー。コーヒーやシナモン、凝縮感強く複雑で多層的なワインです。

ところで、このワイン、ラベルに剣の絵が描かれています。もちろん「騎士」を模したものですが、左側の剣は実はスターウオーズのライトセーバーになっています。
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Morlet Estate Cabernet Sauvignon 2018
最後のワインはナパのセント・ヘレナのカベルネ・ソーヴィニヨンで造ったカベルネ・ソーヴィニヨンです。

カシス、鉛筆の芯、皮革、チョコレート、酸やや高くなめらかなタンニン。凝縮感があり、バランス良く非常においしい。かすかに青さも感じます。モン・
シュヴァリエの方が複雑さがあり、熟成させるならそちらを選びたいですが、今飲むならバランスのよいこちらを選びます。

モルレのワインの輸入元はワインショップでもある勝田商店。フランスとカリフォルニアのハイエンドのワインを売るショップです。ショップでは今回の試飲に含まれていないトップキュベなども売られています。