ナパの超高級ワイン「コルギン・セラーズ(Colgin Cellars)」からCOOのニール・ベルナルディMWが来日し、ランチセミナーに参加してきました。


ニール・ベルナルディさんはUC Davisで学び、ニュージーランドやオレゴン、ワシントンでワインメーカーの経歴を積み、カリフォルニアではリトライを経てダックホーンの主任ワインメーカーを務めていました。15年間の間にマイグレーションやコスタ・ブラウンでのワイン造りなども経験してきました。2018年にはワイン・エンスージアスト誌の「40歳以下の40人」にも選ばれています。マスター・オブ・ワインには2024年に合格しています。ちなみに、マスター・オブ・ワインの論文テーマは「瓶内二次発酵のスパークリング・ワインにおける澱の攪拌の官能的影響」で、「かなりマニアックな内容」だそうです。コルギンで働き始めたのは2023年で、ナパのトップワイナリーで働けることが嬉しいと、素直に語っていました。

コルギンの創設者で現在の会長はアン・コルギンさん。美術品のオークショニアでサザビーズ・ロンドンで働いていました。ワイナリーは1992年創設。当時の夫は後にシュレーダー・セラーズを造ったフレッド・シュレーダー。当初はプリチャード・ヒルのハーブ・ラムという畑のカベルネ・ソーヴィニヨンを作っており、初代ワインメーカーはヘレン・ターリーでした。

その後、フレッドともヘレンとも決別し、ハーブ・ラムも契約が切れて、新生コルギンがスタートしました。1996年にティクソン・ヒル(Tychson Hill)の一部を購入、1998年にはプリチャード・ヒルにIX Estate(ナンバーナイン・エステート)という畑を切り開きました(2002年が初ヴィンテージ)。アン・コルギンは9という数字が好きで、今の夫でCEOのジョー・ウェンダーと結婚したのも9月9日でした。ワインメーカーはマーク・オーベールを経てアリソン・トージエ(Allison Tauziet)が2007年から務めています。2017年にはLVMH傘下に入りましたが、コルギン夫妻が変わらずにワイナリーの指揮を取っています。

ann colgin and joe wender

さて、アン・コルギンさんといえば深紅の衣装がトレードマーク。衣装だけでなく深紅にこだわりを持っています。1997年のワイン・スペクテーターの記事には次のように書かれています。

彼女は赤をこよなく愛し、ワインだけでなく、ワードローブにも赤を取り入れています。先日の昼食会では、39歳の引き締まったコルギンさんは、明るいチェリートーンのスーツに、小さな赤い悪魔が2つエンボス加工された黒いパンプス、そして深紅の口紅を身につけていました。「口紅なしでワインにサインしたことは一度もありません」と彼女はにっこりと笑い、コルギンのカベルネ・ソーヴィニヨンのラベルにキスをしながらサインしました。
きっかけは、あるオークションでカップルが落札したワインにサインを求められたことだったそうですが、今はどうだかわかりませんが、かつてはこのキスマークが彼女のトレードマークになっていました。



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ちなみに、コルギンのロゴ、「O」の書体が横に向いています。これは彼女の唇を模しているのではないかと思っているのですが、ベルナルディさんは理由を「聞いたことがない」とのことでした。「今度聞いてみてね」と言っておきましたがどうでしょうか。

この赤い色のように「情熱的で魅力的、信じられないほどのワインパーソナリティであって、ナパの最上、すなわち世界の最上のワインを造るというしっかりとしたビジョンを持っている」というのがベルナルディさんの見るアン・コルギンさんです。

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コルギンは現在、3つの畑から、カベルネ・ソーヴィニヨン系ブレンドワインを造っており、IX Estateからはシラーも作っています。また、セカンドワインとしてジュビレーション(Jubilation)というカベルネ系ワインを造っています。これら赤ワイン5種が全ラインアップです。

三つの畑のうちティクソン・ヒルとカリアド(Cariad)はセント・ヘレナAVAに属しています。IX EstateはAVAとしてはナパヴァレーですが、プリチャード・ヒルと呼ばれるエリアの畑です。ティクソン・ヒルとカリアドはナパヴァレーの西側の山すそであり、プリチャード・ヒルは東側の丘になります。場所は異なりますが、斜面の畑であることと、斜面の向きが東寄りということが共通しています。東向きの斜面は朝日をしっかり浴びますが、夕方の強い日差しをあまり受けないので、西向き斜面よりもワインがエレガントになります。

それぞれの特徴については各ワインのところで説明します。


Jubilation 2021(希望小売価格税抜き5万円、以下同)
コルギンの他のワインが単一畑を基本としているのに対して、これは若く飲んで美味しい樽を選んでブレンドしたものです。単一畑は土地の個性を表現しますが、ブレンドものは「クリエイティビティ」だといいます。ジュビレーションというのは「喜び」や「祝祭」といった意味があります。早く開けて楽しんでもらうワインです。
品種構成は53%CS 26%M 13%CF 8%PV。IX Estateのものが一番多く入っています。

レッド・チェリーにカシスの風味、なめらかなタンニンで、鉄や血のニュアンスを感じました。早飲みタイプといっても軽いワインではなく、複雑でかなりしっかりした味わいを持っています。

Tychson Hill 2021(12万5000円)
ティクソン・ヒルは歴史的に重要な畑です。1881年にナパで最初の女性ワイナリーオーナーだったジョセフィーヌ・ティクソンが開墾した畑です。当時は主にジンファンデルが植えられていました。その後、禁酒法時代にブドウは抜かれましたが、コルギンが新たに畑を作りました。カベルネソーヴィニヨンが中心で、ここのワインだけは品種名が入っています。
セント・ヘレナの街を出て少し北に行ったところで、ナパ・ヴァレーの谷幅が急に狭くなる辺りです。ハイウェイの西側のスプリング・マウンテンの麓の畑です。ハイウェイの脇はかなりフラットに見えますが、山に向かってどんどん斜面が急になります。畑の一番高いところと低いところの差は40m近くあります。土壌は石がゴロゴロしています。火山性の石が多いですが黒曜石もあります。写真はコルギンのサイトから拝借しています。
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ブルーベリーの豊かなフレーバーにカシス、コーヒー、たばこ。コルギンのワインの中では唯一青黒果実系の風味が強く、やや骨太の味わいです。酸やや高くバランスがいい。

Cariad 2021(12万5000円)
ティクソン・ヒルとIX Estateはコルギンの自社畑ですが、カリアドはコルギンの畑の管理を請け負っているデイビッド・エイブリューの畑のブドウを使っています。大部分は銘醸畑として名高いマドローナ・ランチ(Madrona Ranch)のブドウで、一部エコトーン(Ecotone)など、他のエイブリューの畑のブドウも入っています。ティクソン・ヒルと同じセント・ヘレナの西よりであり、距離も3kmほどしか離れていませんが、ティクソン・ヒルが火山性中心の土壌であるのの対し、こちらは沖積性。川底が持ち上がったところで、斜面も一様でなくうねったような形になっています。
56%CS 22%CF 14%M 8%PVという構成。
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ティクソン・ヒルと比べるとラズベリーやレッド・チェリーなど赤果実の風味を強く感じます。タンニン強くちょっと閉じている印象がありました。飲み頃まで時間かかりそうと感じましたが、同じワインを別の会(一般向けのディナー)で飲んだ方はカリアドを絶賛しておりましたので、ボトル差があったのかもしれません。

IX Estate 2021(12万5000円)
畑は有機栽培をしています。植樹した部分のほかに100エーカーの森が残っています。これは生物多様性や、野生のままの土地と開墾した土地とのバランス。益鳥を呼び寄せるなどの意味があります。
畑は標高335~427mと高く、霧がかからないので、日較差は小さくなります。西向きの斜面の多いプリチャードヒルの中で東向きの急斜面というのが大きな特徴になります。土壌は火山性の玄武岩が崩れたものが中心。土地を購入したときはここは森であり、一から開墾する必要がありました。岩が多く、20万トンもの岩を取り除いたといいます。大きなものではバスくらいのサイズの岩もあったとか。土地の購入費用よりも、開墾の方がコストがかかったそうです。
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開墾中は、この大型のトラクター/ブルドーザーがずっと畑にあり、岩を砕いていました。アン・コルギンとジョー・ウェンダーの結婚式のときに、彼女はウェディング・ドレスでこのトラクターに乗って道を降りて行ったのだそうです。

品種比率は不明ですが、カベルネソーヴィニヨンが70%程度でカベルネ・フランが20%程度、メルローとプティ・ヴェルドが残りくらいが通例です。
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四つの2021年のワインの中で、圧倒的に華やかさを持っているのがこのワイン。きれいな赤い果実の風味にシルクのようなタンニン。優美で長い余韻。
以前、アン・コルギンさんが来日したときに、コルギンのワインで何を表現したいと考えているか聞いてみたところ「ピュアでエレガントなワイン」と言っていました。そのイメージに一番合うのはやはりIX Estateだと改めて思いました。

IX Estate 2014(14万円)
蔵出しのオールド・ヴィンテージで2014年のものもいただきました。2014年は干ばつの2年目で、ブドウは小さな実を付け凝縮感があるいいヴィンテージでした。この凝縮感のためか、タンニンはシルキーでギュッと詰まったような印象。また10年を過ぎても華やかさは健在。赤果実に熟成によるマッシュルームや皮の香りも出てきています。もう10年は熟成のピークに向かっていくと思います。

実は2014年と2021年、「O」の字の色が変わっています。

最後のワインはIX Estateのシラー2021です(6万5000円)。
アン・コルギンは北ローヌのコートロティやエルミタージュのシラーが好きで、シャーヴからシラーを譲り受けて植えたと以前聞きました。シラーのブロックは4エーカー。IX Estateの特徴として、タンニンの強さがあるため、100%除梗して造っています。

カベルネ・ソーヴィニヨンと比べると、スミレの花やリコリス、ベイキング・パウダーの甘い香りが特徴的です。ブリーベリーやプラムの香り、タンニンは少しグリップがありストラクチャーを与えています。個人的にはものすごく好きなシラー。


この日は、今年のナパヴァレー・ワイン・ベスト・ソムリエ・アンバサダーに選ばれた山本麻衣花さんがいるマンダリンオリエンタル東京のSignatureというレストランでの食事も付いていました。コルギンのそれぞれのワインとのペアリングを麻衣花さんがシェフと考えて作ったという素晴らしいメニュー。