18世紀に遡る歴史を持つというブルゴーニュのド・モンティーユ家(現代のワイン造りは1947年から)。現在の当主のエティエンヌは挑戦的な人で、最近では北海道でもワイン造りを始めていますが、彼がブルゴーニュ外で最初に作ったワイナリーがサンタ・バーバラのラシーヌ(Racines)です。そのエティエンヌが来日し、セミナーに参加してきました。



実は、ブルゴーニュのド・モンティーユのスタッフは半数以上はフランス以外の国の人だそうです。彼らは皆、世界でシャルドネややピノ・ノワールがどう栽培されているのかについて非常に興味を持っています。さまざまなバックグラウンドの人たちの専門知識を資産としています。その一人が米国出身のワインメーカーであるブライアン・シーヴ。2010年にド・モンティーユのセラーマスターになりました。

ブライアンなどと、どこがピノ・ノワールとシャルドネに向いているか、エレガントでフレッシュなシャルドネとピノ・ノワールが作れるのか考えました。フランスではマコンやラングドック、ジュラなども可能性はあると思いましたが、素晴らしいポテンシャルを持ったテロワールはどこにあるかを、まず米国で始めてみよう、だめだったら南半球を探してみよう、ということになりました。

そこで、エティエンヌとブライアンは1カ月かけて米国西海岸の4カ所の産地を回りました。その4カ所はオレゴンのウィラメット・ヴァレー、カリフォルニアのソノマ・コースト、サンタ・クルーズ・マウンテンズ、そしてサンタ・バーバラのサンタ・リタ・ヒルズです。ワインを試飲し、畑を見て回りました。どこも素晴らしいワインを作っていましたが、中でももっとも面白いのはサンタ・リタ・ヒルズだと思いました。その理由は、この4カ所のうちで一番冷涼であることと、土壌の多様さです。

サンタ・リタ・ヒルズはこの4カ所の中で一番南にあります。それでも一番冷涼なのは太平洋からの冷気を直接浴びる産地だからです。カリフォルニアの沿岸は寒流が流れており、海水の温度は非常に低くなります。ただ沿岸に沿って南北に沿岸山脈があり、それによって冷気が遮られるため、内陸の気温は高くなります。サンタ・リタ・ヒルズのところは沿岸山脈が東西向きになり、西からの冷気が遮るものなく入ってきます。これが、サンタ・リタ・ヒルズが北の産地よりも冷涼になる理由です。

ただ、内陸に進むとどんどん気温が上がります。1マイル(1.6km)内陸に行くと華氏で1度(摂氏0.4度ほど)気温が上がると言われています。したがって畑がどこにあるかが非常に重要になります。

第2の理由の土壌の多様さですが、サンタ・リタ・ヒルズには三つの主要な土壌があります。一つは砂、一つは粘土、そして三つ目が石灰質の土壌です。石灰質といってもブルゴーニュに見られる石灰岩ではなく、珪藻による珪藻土ですが、化学的特徴は似ています。余談ですが、サンタ・リタ・ヒルズでエレガントなシャルドネを造るワイナリーの名称「ダイアトム(Diatom)」は珪藻という意味です。

米国では数少ない石灰質の土壌があることと畑の向きや海からの距離で多様性が生まれるといったテロワールによって、この土地を選びました。

ワイナリーの設立は2016年、ワイン造りは2017年に始まりました。ウェンズロー(Wenzlau)とド・モンティーユ・エステート(De Montille Estate)の二つの自社畑があります。ウェンズローの方は既に単一畑ものが出ていますが、ド・モンティーユの方は植樹が2019年と若く、今後自社畑としてリリースしていく予定です。それ以外に、銘醸畑として知られるサンフォード&ベネディクト(Sanford & Bennedict)やラ・リンコナーダ(La Rinconada)など様々な栽培家からブドウを調達していると言います。ワインの醸造はサンタ・リタ・ヒルズ西側のロンポックにあるワイン・ゲットーという多くのワイナリーが集結している一種のカスタム・クラッシュで行っています。2026年には専用の醸造設備とテイスティングルームもできるとのことです。
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ワインの試飲に入ります。

最初はスパークリングです。ラシーヌにはエティエンヌとブライアンのほか、シャンパーニュのピエール・ペテルスの醸造家で、様々なコンサルティングも手掛けているロドルフ・ペテルスも参画しています。ブラン・ド・ブランのエクストラ・ブリュットが造れるところを探していて、海からの潮風で塩味のニュアンスが出るサンタ・リタ・ヒルズが好適地だと考えたそうです。ロドルフは完璧主義で、収穫時のpHや醸造などについて極めて細かく指示を出しており、その通りに作っています。

1. NV Grand Reserve Chardonnay Sparkling Wine Sta. Rita Hills(希望小売価格、税抜き1万2500円、以下同)

ノンヴィンテージですが、今回のものは2020年をベースにして2018年と2019年のリザーブ・ワインが半分使われています。リザーブのワインはソレラになっているそうです。ドサージュは4g/Lとエクストラ・ブリュットになっています。畑は自社畑のウェンズローのほか、サンフォードが持つサンフォード&ベネディクトとラ・リンコナーダ、ザ・ヒルトが持つベントロック(Bentrock)のシャルドネを使っています。
イーストやブリオッシュ、青リンゴやレモンの香り。酸高く泡のきめ細かさを感じます。フレッシュでアフターに少し塩っぽさがあります。とてもきれいなブラン・ド・ブランらしいスパークリング。

エティエンヌがこのワインを家で友人に振る舞うと、ほとんどの人がシャンパーニュのブラン・ド・ブランだと思うそうです。最近はネタバレしてしまって、引っかかってくれなくなってしまったそうですが。

スパークリングとしては2026年に単一畑、単一ヴィンテージのものを出す予定です。2018年のワインでディスゴージまで6年熟成させています。より深い味わいになっているとのことです。


スパークリングの後はシャルドネ4種です。一つはサンタ・リタ・ヒルズのAVAもので、あとの3つは単一畑です。シャルドネの醸造はブルゴーニュとほとんど同じ手順を踏みます。収穫は夜間、人手で摘んでいます。ゆっくりとプレスし、澱とのコンタクトを長く保ちます。発酵は半分は小樽で半分は600Lのパンチョンを使います。樽はフランス製です。新樽はAVAもので10%、単一畑では20~25%。澱とともにステンレスタンクに移して5カ月熟成して瓶詰めします。

瓶詰め前に清澄をかけますが、面白いのはそのときにサンプルをブルゴーニュに送って、ブルゴーニュでどのように清澄するのかを決めているのだそうです。

AVAもののサンタ・リタ・ヒルズ・キュベはこのAVAの3種類の土壌のブドウをブレンドしています、このAVAのテロワールが感じられるワインです。

2. Sta. Rita Hills Cuvee Chardonnay 2020(1万500円)
熟した柑橘の風味、オレンジピールのようなちょっとした苦み、クリーム・ブリュレ。酸やや高くクリーミーで美味しい。

3. Wenslau Vineyard Chardonnay 2020(1万7500円)
ウェンズラウは砂質の土壌です。
クリーミーでフレッシュ、よりハーブの香りやアフターの塩味が感じられます。白桃の熟したニュアンスもあり、個性的です。

4. Bentrock Vineyard Chardonnay 2020(2万円)
ベントロックはザ・ヒルトの畑でサンタ・リタ・ヒルズの中では西寄りの涼しいところにあります。ここはアルカリ性の土壌です。
鮮烈な酸があり、柑橘の風味とハーブの香りが強く感じられます。一番ミネラル感が感じられるワイン

5. Sanford&Benedict Chardonnay 2020(2万円)
サンフォード&ベネディクトはサンタ・リタ・ヒルズで一番古い畑であり、銘醸畑として知られています。土壌は粘土質です。
少しオイリーなニュアンス、柑橘から白桃を感じます、他のシャルドネよりちょっとボリューム感があります。

4つのシャルドネに共通するのはフレッシュ感とミネラル感。アルコール度数は12.8~13.2(S&B)と現在のブルゴーニュよりも低くなっています。

ピノ・ノワールの試飲に移ります。
ピノ・ノワールのワイン造りもブルゴーニュとほぼ同じです。全房をやや多く使うのが特徴です。30%程度使っているとのこと。新樽率は15~20%。優しい抽出をこころがけていて、果帽の管理ではパンチダウンよりもポンピングオーバーを多くやるそうです。パンチダウンは果帽に圧力をかけることになるので全房の茎からの抽出が強くなってしまいます。ポンピングオーバーの方が自然な抽出ができるとのこと。

試飲ワインはシャルドネと同様、4種類です。

6. Sta. Rita Hills Cuvee Pinot Noir 2020(1万1500円)
シャルドネ同様、三つの土壌のブドウを組み合わせています。
ラズベリーやクランベリー。ちょっとグリップ感というか青っぽさを感じるのは全房のためでしょうか、エレガントですがチューイーな魅力もあります。

7. Saint Rose Pinot Noir 2020(1万6000円)
これは単一畑ではなくサンタ・リタ・ヒルズ・キュベの中から8~10樽を選んだものになります。
AVAものよりもより果実味が前面に出ていて明るい味わい。タンニンの一体感や余韻も感じられます。

8. La Rinconada Vineyard Pinot Noir 2019(1万8000円)
ここは砂利質でアルカリ性の土壌です。
ラズベリーやクランベリー、エレガントでしなやかなテクスチャー。シナモンのようなスパイスもわずかに感じられます。全房率は2/3くらいと高くなっています。

9. Sanford&Benedict Pinot Noir 2020(2万2000円)
粘土質の土壌です。La RinconadaとSanford&Benedictは隣り合った畑なのですが、土壌が異なるのが興味深いです。
ラシーヌでは1971年に植えたオリジナルプランティングの一部をもらっているそうです。
色濃く、赤果実にブラックベリーなど黒果実の風味、シナモン、複雑さが一番多くあり、非常に美味しい

ラシーヌのワインは、アルコール度数抑え目ですが、きっちり風味もあり、エレガントで美味しいものがそろっています。カリフォルニアのシャルドネ、ピノ・ノワールの中では、ブルゴーニュの名家が手掛けていることもあり、珍しくフランスワインファンにも人気の高いワインとなっています。
実はサンタ・リタ・ヒルズのワインは比較的アルコール度数は高くなりがち(非常に冷涼ですが太陽は当たるため、風味の成熟を待つと糖度も上がりがち)なのですが、それをうまく抑えているところが、非常に上手だと感じました。品質も安定して高く、安心して飲めるという点で、人気が高いのもなるほどと思わせるものがありました。