言わずと知れたワイン評論家Robert Parker氏(以下敬称略)の半生を綴った伝記です。特に興味深いのはパーカーがワインを飲み始めた1967年からWine Advocateを創刊する1978年までのところ。先日紹介した「パリスの審判」と重なるところも多く,1960年代から70年代にかけて西海岸ではワイン作りが,東海岸ではワインを飲むことが発展していった様子がうかがえます。

読み物的なクライマックスは1982年のボルドーの評価をめぐるあたりでしょうか。ワインのレビューを書く人も,それまでは群雄割拠たる状況だったのが,このヴィンテージを境にパーカーの一人勝ちになっていったことが描き出されています。

それ以降はむしろ,自らが想像する以上に力を持つようになってしまったパーカーと周囲との軋轢に多くが割かれています。

個人的にはパーカーのことは好きです。まじめで実直であり,テイスティングについては何より一貫性があります。ただ,その生真面目さとやや単一的な価値観,自らの信念に向かって強烈にものを進める部分は一種ブッシュと重なるところを感じてしまいました。

また,これからどうなっていくかを考えると,パーカーの時代というのはそれほど遠くないうちに崩れていくような気がします。一番大きな理由は,一人で全世界をカバーできないこと。もちろん,Wine Advocate誌にはParker以外のReviewerもいますが,彼らがParkerと並ぶ信頼度を得ているかどうかというと,疑問です。また,パーカーが得意とするのはボルドーを中心とするカベルネ系が中心であり,現在急速に発展しているカリフォルニアのピノのような少量多種の世界ではないこと。こういった領域ではPinotReportのようなものの方が中心になっていくのではないかと思います。

まあ,これだけいろいろなことが語られるというだけでも,パーカーの存在の大きさは他を絶しているわけであり,パーカーをよく思う人,悪く思う人(特に悪く思う人は,ほとんどの悪口は既に言い尽くされていることは知っておいてほしいと思います),どちらにも読んでほしい本です。