トーマス・リヴァース・ブラウンの凄さの一端に触れ、まさに「天才」だと思った話(後編)
前編はこちら。
試飲の4番めから続けます。
4番めはオキシデンタル・リッジ・ヴィンヤーズのピノ・ノワール。Failaなども使っている人気の畑で、リヴァース・マリーは2005年から。ヴィンテージは最後の6番目を除いて2013年です。ここはオキシデンタルの町の近くの丘の斜面にある畑。冷涼な風が拭きますが、日照が多いことから密度の高いワインができます。面白いのは10%ほど除梗なしのブドウを使っていること。果実味が出すぎるのを防ぐためだそうです。新樽率は33%。
果実の香り高く、ラズベリーなど赤系の果実にブルーベリーなど青系の果実が少し混じる印象。カバークロップに使っているペニーロイヤルミントから、ワインにもミンティな感じが少し入っています。バランスよく飲みやすいワイン。ちなみにヴィナスのアントニオ・ガッローニは、このワインの評価が95点と一番高いです(2番めは最初に試飲したスーマ・オールド・ヴァインと5番目に試飲するシルバー・イーグルの94点)。
5番目のシルバー・イーグルは、リヴァース・マリーの中では比較的暖かい、ロシアン・リバー・ヴァレーに入る畑です。畑の中にグリーン・ヴァレーの境界線があるとか。ここは、ソノマで畑の管理者として名高いユリシス・ヴァルデスが管理している畑で、すトーツ・レーン沿いにあることから略してUV-SLとも呼ばれています。「オーベールのちょい古ヴィンテージを試飲、ピノとシャルドネで意外な結果」という記事ではオーベールのUV-SLの試飲も紹介しています。このセミナーまでUV-SLとシルバー・イーグルが同じ畑とは知りませんでした。リヴァース・マリーでは2009年から使っています。
これまでの畑と比べると暖かさを感じるワイン。芳醇です。タンニンも比較的強くスパイシー。ボディーがしっかりしており、いわゆるカリピノのイメージに近くなっています。これも10%除梗なしの全房発酵。味わいがキャンディっぽくなるのを防ぐためとのこと。新樽率は30%。
最後はカンツラー・ヴィンヤードの2014年。リヴァース・マリーでは2012年からここのワインを手がけています。やや南東よりのセバストポル・ヒルと呼ばれる辺りにある畑で近くにはダットン・ランチやマルティネリのボンディ・ホームなどがあります。2000年台にコスタ・ブラウンがここのブドウを使ったピノ・ノワールで、Wine Spectatorを中心に高得点を取り、一躍人気になった畑です。
果実味がガツンと来るあたりはコスタ・ブラウンとも少し共通しているような気がします。どちらかというと青系の果実の味が勝っています。最初に試飲したスーマ・オールド・ヴァインとは、これほど違うのかとびっくりするようなワイン。これが畑の個性ということなのでしょう。無理して1つのスタイルに持っていくのではなく、個性をうまく引き出していることに感心しました。なお、このワインは15%全房発酵。新樽率25%。
どれがいいか選ぶのは難しいですが、比較的万人受けしそうなのがシルバー・イーグル。ピノ・ノワール好きが喜びそうなのが、若いのに熟成したような複雑さがあるスーマ・オールド・ヴァイン。ただ、これは価格も高いため、少しおとなしくなるものの、普通のスーマも捨てがたいワインです。
さて、セミナーの後は試飲会もありました。実はこちらがさらに超弩級。彼を有名にしたシュレーダーのカベルネ・ソーヴィニヨンや、シュレーダーが手がけるマーカッシン対抗と言われる超高級ピノ・ノワール「ボアズ・ビュー」なども登場しました。
まず、セミナーとヴィンテージ違いの2012年のスーマとシルバー・イーグルのピノ・ノワールを試飲しました。これが面白いことに、2013年とは違ってスーマの方が濃く、シルバー・イーグルの方がエレガントなのです。理由を聞いたところ、2012年は収穫量が多い、スーマの畑の収穫が普通よりも時間がかかってしまったとのこと。その分、糖度が上がって濃いワインになったそうです。一方、シルバー・イーグルの方は全房発酵の比率が少し高く、果実味が抑えられたとのこと。このあたりの全房発酵比率などは今なお試行錯誤があるようです。
ボアーズ・ビュー(Boars' View)はシュレーダーが手がけるソノマ・コーストのピノ・ノワールのプロジェクト。「マーカッサンを見下ろす親イノシシ?」という記事で紹介しています。今回試飲した2014年は4ヴィンテージめ(多分)で、2012年と2013年はWine Advocate誌で95点ついています。畑の管理はユリシス・ヴァルデスです。
香り高くリッチでパワフル。果実味に加え、紅茶のようなニュアンスを感じます。すごく美味しいですが、まだパワー一辺倒の若さのような感じもしました。もっともっとすごいワインがこれからできそうな気がします。「まだポテンシャルを発揮できていないのではないか」と厳し目の質問をしてみたところ、彼も、「まだ樹齢が若いので、ようやく花開いてきたところだ」とのこと。5年後くらいにはピノ・ノワールのカルトになっている可能性はかなり高いと思います。
もう1つのピノ・ノワールはアストンというワイナリー。ここはこれまで知らなかったのですが、ソノマ・コーストの中でもメンドシーノに近い北の端にあるワイナリーで、ここもシュレーダーが関わっており、畑の管理はユリシス・ヴァルデス。ここはまた、冷涼なソノマ・コーストのお手本のようなワインで、酸がとてもきれいです。個人的には今飲むならこのピノ・ノワールが一番好きかもしれません。ピノ好きであればぜひトライしてほしいワインです。
この後はカベルネ・ソーヴィニヨンで、リヴァース・マリー、プリド~ウォーカー、レヴァーナ、シュレーダーとそれぞれ2種類試飲しました。リヴァース・マリーのカリストガは明記していないもののラークミードの畑のもの。かのアイズリー・ヴィンヤードのクローンを使った区画のブドウだとのこと。濃厚というよりは明るい味わい。もう1つはオークヴィルのロア・ヴィンヤード。こちらはオークヴィルらしい上品かつパワフル。複雑さのあるカベルネ・ソーヴィニヨンでした。
プリド~ウォーカーはメランソンとパネクの2つのカベルネ・ソーヴィニヨン。メランソンはプリチャードヒルにある畑。カシスや黒鉛のフレーバー。美味しいです。パネクはセント・ヘレナのヴァレー・フロアにある畑。バランスの良さを感じるカベルネ・ソーヴィニヨン。
レヴァーナはテロワール・シリーズというナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンとエステートのカベルネ・ソーヴィニヨン。テロワール・シリーズは自社の畑とラークミード、シフレットを1/3ずつブレンドしたワイン。周りのワインがすごすぎて、今回はちょっと埋没してしまった印象。エステートのカベルネ・ソーヴィニヨンは赤系の果実と青系の果実をバランス良く感じるワイン。これも美味しい。
そして最後はシュレーダー。GIIIはベクストファーが管理するジョルジュ・ザ・サード(George III)という畑。かつてはボーリューのジョルジュ・ド・ラ・トゥールに使われていた畑です。しっかりしたタンニン、青系の果実、ボリュームあり骨格も強いワイン。何よりもシルキー。レベルが違う感じです。
シュレーダーのもう1つはRBS。これは、ナパでもだれもが最高の畑と認めるベクストファー・ト・カロンのブドウを使ったもの。前編で取り上げたWSとWAのダブル満点ワインCCSとOld Sparkyも同じ畑ですが、ブドウの区画が違っています。これはクローン337というブドウだけを使っています。これはもう言うことないです。ナパの最高峰の1つというのが納得できるワイン。
これでセミナー6種、試飲会12種の計18種の報告は終わりですが、何よりも驚いたのは作るワインの味わいの幅が極めて広いこと。ピノ・ノワールではリヴァース・マリーのスーマ・オールド・ヴァインとカンツラーでは全然違うし、ボアズ・ビューとアストンもまた、全然別のワインです。「みんな違ってそれがいい」という陳腐な表現しか思いつきませんが、これだけそれぞれが個性的で、しかもどれも素晴らしく美味しいというのは、凄いとしかいいようがありません。カベルネ・ソーヴィニヨンも同様です。
修行時代は比較的短いトーマス・リヴァース・ブラウンがどうやってこのような技能を身に着けたのかも興味深いところですが、セミナーでは、ワインショップ時代に多様なワインに触れたことを挙げていました。おそらくその舌の記憶をきちんと持っているのも類稀な才能の1つなのでしょうね。
試飲の4番めから続けます。
4番めはオキシデンタル・リッジ・ヴィンヤーズのピノ・ノワール。Failaなども使っている人気の畑で、リヴァース・マリーは2005年から。ヴィンテージは最後の6番目を除いて2013年です。ここはオキシデンタルの町の近くの丘の斜面にある畑。冷涼な風が拭きますが、日照が多いことから密度の高いワインができます。面白いのは10%ほど除梗なしのブドウを使っていること。果実味が出すぎるのを防ぐためだそうです。新樽率は33%。
果実の香り高く、ラズベリーなど赤系の果実にブルーベリーなど青系の果実が少し混じる印象。カバークロップに使っているペニーロイヤルミントから、ワインにもミンティな感じが少し入っています。バランスよく飲みやすいワイン。ちなみにヴィナスのアントニオ・ガッローニは、このワインの評価が95点と一番高いです(2番めは最初に試飲したスーマ・オールド・ヴァインと5番目に試飲するシルバー・イーグルの94点)。
5番目のシルバー・イーグルは、リヴァース・マリーの中では比較的暖かい、ロシアン・リバー・ヴァレーに入る畑です。畑の中にグリーン・ヴァレーの境界線があるとか。ここは、ソノマで畑の管理者として名高いユリシス・ヴァルデスが管理している畑で、すトーツ・レーン沿いにあることから略してUV-SLとも呼ばれています。「オーベールのちょい古ヴィンテージを試飲、ピノとシャルドネで意外な結果」という記事ではオーベールのUV-SLの試飲も紹介しています。このセミナーまでUV-SLとシルバー・イーグルが同じ畑とは知りませんでした。リヴァース・マリーでは2009年から使っています。
これまでの畑と比べると暖かさを感じるワイン。芳醇です。タンニンも比較的強くスパイシー。ボディーがしっかりしており、いわゆるカリピノのイメージに近くなっています。これも10%除梗なしの全房発酵。味わいがキャンディっぽくなるのを防ぐためとのこと。新樽率は30%。
最後はカンツラー・ヴィンヤードの2014年。リヴァース・マリーでは2012年からここのワインを手がけています。やや南東よりのセバストポル・ヒルと呼ばれる辺りにある畑で近くにはダットン・ランチやマルティネリのボンディ・ホームなどがあります。2000年台にコスタ・ブラウンがここのブドウを使ったピノ・ノワールで、Wine Spectatorを中心に高得点を取り、一躍人気になった畑です。
果実味がガツンと来るあたりはコスタ・ブラウンとも少し共通しているような気がします。どちらかというと青系の果実の味が勝っています。最初に試飲したスーマ・オールド・ヴァインとは、これほど違うのかとびっくりするようなワイン。これが畑の個性ということなのでしょう。無理して1つのスタイルに持っていくのではなく、個性をうまく引き出していることに感心しました。なお、このワインは15%全房発酵。新樽率25%。
どれがいいか選ぶのは難しいですが、比較的万人受けしそうなのがシルバー・イーグル。ピノ・ノワール好きが喜びそうなのが、若いのに熟成したような複雑さがあるスーマ・オールド・ヴァイン。ただ、これは価格も高いため、少しおとなしくなるものの、普通のスーマも捨てがたいワインです。
さて、セミナーの後は試飲会もありました。実はこちらがさらに超弩級。彼を有名にしたシュレーダーのカベルネ・ソーヴィニヨンや、シュレーダーが手がけるマーカッシン対抗と言われる超高級ピノ・ノワール「ボアズ・ビュー」なども登場しました。
まず、セミナーとヴィンテージ違いの2012年のスーマとシルバー・イーグルのピノ・ノワールを試飲しました。これが面白いことに、2013年とは違ってスーマの方が濃く、シルバー・イーグルの方がエレガントなのです。理由を聞いたところ、2012年は収穫量が多い、スーマの畑の収穫が普通よりも時間がかかってしまったとのこと。その分、糖度が上がって濃いワインになったそうです。一方、シルバー・イーグルの方は全房発酵の比率が少し高く、果実味が抑えられたとのこと。このあたりの全房発酵比率などは今なお試行錯誤があるようです。
ボアーズ・ビュー(Boars' View)はシュレーダーが手がけるソノマ・コーストのピノ・ノワールのプロジェクト。「マーカッサンを見下ろす親イノシシ?」という記事で紹介しています。今回試飲した2014年は4ヴィンテージめ(多分)で、2012年と2013年はWine Advocate誌で95点ついています。畑の管理はユリシス・ヴァルデスです。
香り高くリッチでパワフル。果実味に加え、紅茶のようなニュアンスを感じます。すごく美味しいですが、まだパワー一辺倒の若さのような感じもしました。もっともっとすごいワインがこれからできそうな気がします。「まだポテンシャルを発揮できていないのではないか」と厳し目の質問をしてみたところ、彼も、「まだ樹齢が若いので、ようやく花開いてきたところだ」とのこと。5年後くらいにはピノ・ノワールのカルトになっている可能性はかなり高いと思います。
もう1つのピノ・ノワールはアストンというワイナリー。ここはこれまで知らなかったのですが、ソノマ・コーストの中でもメンドシーノに近い北の端にあるワイナリーで、ここもシュレーダーが関わっており、畑の管理はユリシス・ヴァルデス。ここはまた、冷涼なソノマ・コーストのお手本のようなワインで、酸がとてもきれいです。個人的には今飲むならこのピノ・ノワールが一番好きかもしれません。ピノ好きであればぜひトライしてほしいワインです。
この後はカベルネ・ソーヴィニヨンで、リヴァース・マリー、プリド~ウォーカー、レヴァーナ、シュレーダーとそれぞれ2種類試飲しました。リヴァース・マリーのカリストガは明記していないもののラークミードの畑のもの。かのアイズリー・ヴィンヤードのクローンを使った区画のブドウだとのこと。濃厚というよりは明るい味わい。もう1つはオークヴィルのロア・ヴィンヤード。こちらはオークヴィルらしい上品かつパワフル。複雑さのあるカベルネ・ソーヴィニヨンでした。
プリド~ウォーカーはメランソンとパネクの2つのカベルネ・ソーヴィニヨン。メランソンはプリチャードヒルにある畑。カシスや黒鉛のフレーバー。美味しいです。パネクはセント・ヘレナのヴァレー・フロアにある畑。バランスの良さを感じるカベルネ・ソーヴィニヨン。
レヴァーナはテロワール・シリーズというナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンとエステートのカベルネ・ソーヴィニヨン。テロワール・シリーズは自社の畑とラークミード、シフレットを1/3ずつブレンドしたワイン。周りのワインがすごすぎて、今回はちょっと埋没してしまった印象。エステートのカベルネ・ソーヴィニヨンは赤系の果実と青系の果実をバランス良く感じるワイン。これも美味しい。
そして最後はシュレーダー。GIIIはベクストファーが管理するジョルジュ・ザ・サード(George III)という畑。かつてはボーリューのジョルジュ・ド・ラ・トゥールに使われていた畑です。しっかりしたタンニン、青系の果実、ボリュームあり骨格も強いワイン。何よりもシルキー。レベルが違う感じです。
シュレーダーのもう1つはRBS。これは、ナパでもだれもが最高の畑と認めるベクストファー・ト・カロンのブドウを使ったもの。前編で取り上げたWSとWAのダブル満点ワインCCSとOld Sparkyも同じ畑ですが、ブドウの区画が違っています。これはクローン337というブドウだけを使っています。これはもう言うことないです。ナパの最高峰の1つというのが納得できるワイン。
これでセミナー6種、試飲会12種の計18種の報告は終わりですが、何よりも驚いたのは作るワインの味わいの幅が極めて広いこと。ピノ・ノワールではリヴァース・マリーのスーマ・オールド・ヴァインとカンツラーでは全然違うし、ボアズ・ビューとアストンもまた、全然別のワインです。「みんな違ってそれがいい」という陳腐な表現しか思いつきませんが、これだけそれぞれが個性的で、しかもどれも素晴らしく美味しいというのは、凄いとしかいいようがありません。カベルネ・ソーヴィニヨンも同様です。
修行時代は比較的短いトーマス・リヴァース・ブラウンがどうやってこのような技能を身に着けたのかも興味深いところですが、セミナーでは、ワインショップ時代に多様なワインに触れたことを挙げていました。おそらくその舌の記憶をきちんと持っているのも類稀な才能の1つなのでしょうね。