カラマーゾフの兄弟の新訳で話題を呼んだ光文社古典新訳文庫で,同じ訳者(東京外国語大学学長の亀山郁夫さん)による「罪と罰」の刊行が始まりました。「罪と罰」を読んだのはたぶん20年くらい前で,内容もほとんど忘れてしまっていましたが,これを機会に新訳を読んでみることにしました。

ほとんど初読みたいなものですし,ロシア文学やドストエフスキーに詳しいわけでもない一般人の感想としては「確かに読みやすい(ような気がする)。それでもかなり大変ではあるけど,2回読むとずいぶんクリアになる」と感じました。1巻は原著の第1部と第2部,主人公のラスコーリニコフが高利貸しの老女を殺すまでと,マルメラードフの死までが描かれます。例によって異様に饒舌で,行動を計りがたい人たちが登場するので,人を覚えるのは,呼び名などをかなり統一させた本書であってもやはり大変。どうしても「この人どこかででてきたっけ」というところが出てきます。2回読むとそのあたりがすっきりして全体像が見えてきます。ストーリー自体はラスコーリニコフを中心に時系列で進んでいるので,パラレルに行きつ戻りつするカラマーゾフと比べると,素直です。

2回読んですっきりしたところの例として警察署の事務官「ザメートフ」があります。ザメートフはラスコーリニコフが警察署に行く場面(224ページ)に「この事務官にはひどく興味をそそられた」と名前なしで登場し,ポマードで撫で付けた頭など,容姿の詳しい描写はあるものの警察署のエピソードの間は名前が出てきません。その次にはラズミーヒンとの会話の中で「ここの警察署の事務官をしているアレクサンドル・ザメートフという男とも知り合いになった」とあっさり触れられます。会話中ではその後295ページに登場してここでラズミーヒンが彼を絶賛することで,急に話の中における重みがまします。

そして本格的に再登場するのは「水晶宮」に行く378ページ。「あのときと同じ格好で…」となるわけですが,最初に読んだときは「これはだれだっけ,あのときっていつだ?」と思ってしまいました。

レベジャートニコフなども冒頭でちらっと言及されただけで,後から登場しますが,たいていどこでどう言及されたかは忘れています。読み直しをすると,「この人あとからここで出てくるんだ」と思いながら把握できるので,より小説の構造が見えやすくなります。それで,本訳のすっきり具合もより見えてきます。

というわけで久々に読む罪と罰,やっぱりこれだけ骨格がしっかりした小説を読むのは楽しいです。続きも楽しみ。