ワシントン州からグラマシー・セラーズ(Gramercy Cellars)オーナーのグレッグ・ハリントン氏が来日し、そのセミナーに参加してきました。約2時間のセミナーは前半がワシントン州のお勉強で後半がブラインド・テイスティング。
グレッグ・ハリントン

この記事ではまず、前半のワシントン州のワインについてのお勉強部分を紹介します。

正直言って、ワシントン州のワインについては詳しくありません。コロンビア・クレストのワインのコスト・パフォーマンスの高さは昔から知っていますし、シャトー・サン・ミシェルのリースリングくらいはもちろん飲んだことあります。ほかの知識というとクィルシーダ・クリーク(Quilceda Creek)のカベルネ・ソーヴィニヨンがWine Advocate誌で何度も100点を取っていることや、カイユース(Cayuse)のシラーが引く手あまたなこと、くらいでしょうか。

ワシントン州の中でもシアトルには何十回か行ったことがあります。夏は非常にいいところですが、秋から冬にかけては雨が多く、自殺者も多いと聞いたことがあります。

飲食関係で言えば、スターバックスなど「シアトル系」のコーヒーショップの発祥の地であり、コストコもワシントン州からだったはず。サーモンやクラムチャウダーが美味しい。

と、いきなりワシントン州についての数少ない知識をさらけだしてしまいましたが、実は米国でもワシントンといえばワシントンDCしか知らないという人も意外と多いのだとか。この程度の知識でもまだマシなのかもしれません。

グラマシー・セラーズのグレッグ・ハリントン氏もワシントン州の出身ではなく、元々ニューヨークの人。24歳という若さでマスター・ソムリエの資格を取り(最年少記録だとか)、ニューヨークでソムリエをしていました。ちなみにグラマシーというのはニューヨークにある公園の名前なのだそうです。2005年に初めて奥さんとワシントン州に旅行に来て、「引退したらここに来よう」と思ったのが、なぜか翌年にはワイナリーを作りに移住してきてしまったそうです。

ワシントン州のワインについて知っておきたいことをまとめておきます。
・ワインの生産量はカリフォルニアに次いで米国で2番めに多い
・ワイナリーの数は850位上
・畑は2万ヘクタール以上
・一番作られている品種はリースリングで、シャトー・サン・ミシェルが大きく貢献している
・以下、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーの順だが、シラーはメルローの半分以下
・緯度はボルドーと同程度
・日照時間が長く、昼間は35℃まで上がることもあるが朝は15℃まで下がる
・コロンビア・ヴァレーがワシントン州のワインのほとんどの生産地を含んでいる
・ワインの生産地は内陸

生産地について、もうちょっと詳しく見ていきましょう。
ワシントン州AVA地図

地図の中央、大きな三角形をなしているのがコロンビア・ヴァレーです。太平洋から来る湿った風はシアトルには雨を降らしますが、オリンピック山脈とカスケード山脈を越えることによって乾燥してしまうため、コロンビア・ヴァレーでは雨はあまり降りません。

歴史的に見ると「ミズーラ洪水」と呼ばれる極めて巨大な洪水がこの地域の形成に大きな役割を果たしています。

氷河期の時代、ワシントン州の東側、今のモンタナ州の西部に巨大な氷河湖がありました。この氷河が決壊すると、その水が一気に今のコロンビア・ヴァレーのあたりを流れていきます。洪水の高さは200mに達したといいますから、津波の規模をさらに超えていたわけです。そんな洪水が何十回と起こっており、それによってできた堆積物がコロンビア・ヴァレーの土壌の基本となっています。非常に砂が多いのが特徴です。

というわけで、ワシントン州のワイン栽培地域は、土壌に関してはどこもさほど変わらないそうです。

そして、この砂が多い土壌や、冬場の気温の低さ、といった条件により、ワシントン州ではフィロキセラの被害が発生していません。なので、ワインの樹は接ぎ木ではなく自根で育てられています。

自根というのはワシントンにおいては重要な要素です。冬場に冷え込むとき、場合によってはブドウの木全体が死んでしまうことを防ぐために、根だけ残して、幹部分をカットしてしまうようなこともあるそうです。

また、霜にも強くなるよう、樹の幹を2つ撚り合わせたようなユニークな剪定方式も使っているそうです。

このほか、ワインを育てる条件として重要な気温についていえば、緯度経度よりも標高が大きな要素になっています。したがって、山脈に近い標高が高いところが気温が低く、リースリングなど寒いところに強いブドウ向け、標高が低いところがカベルネ・ソーヴィニヨンなど温暖な地域のブドウ向けになります。

グラマシー・セラーズのワインについては後編で紹介します。