オレゴンの雄イヴニングランドから学ぶオレゴンワイン(前編)の続きです。
イヴニングランド
試飲のワインは10種類、2014年と2015年のヴィンテージでそれぞれピノ・ノワール2種類、シャルドネ3種類です。普通はこの場合、シャルドネから試飲するのですが、「酸が強く舌が麻痺してしまって、ピノ・ノワールの味わいがわかりにくくなる」(サシ・ムーアマン)という理由で、ピノ・ノワールからの試飲となりました。

ヴィンテージはサシ・ムーアマンが携わり始めた2014年と、より深く関わるようになった2015年。2014年は畑や醸造のチームはそれまでと同じでしたが、2015年は新しいチームに入れ替えています。この2つのヴィンテージはどちらも暖かいヴィンテージでしたが、2015年の方がより温度が高かったとのこと。また、栽培上の違いとしては2014年はカビ帽子のために、葉を多めに取っていっていたそうですが、2015年は日陰をあえてつくることで複雑さを出すのに成功したとのこと。

ピノ・ノワールの2種はレギュラーのセブン・スプリングスと、フラッグシップのセブン・スプリングス「ラ・スルス」。
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2014年のピノ・ノワールはきれいな酸が特徴的。甘みはほとんどありません。2015年のものは香りはやや控えめ。2014よりもリッチでふくよかな味わい。

限定ブロックから作るラ・スルスは2014年もレギュラーのものよりリッチで複雑な香りです。酸はどちらかというと低め。タンニンがスムーズなのも特徴です。2015年はやや酸が強く、味わいはやわらかめ。個人的には2014年のラ・スルスがピノ・ノワールの中では一番好みでした。

次にシャルドネです。シャルドネはレギュラーのほか、ラ・スルス、そしてサマムという2つの限定ブロックのワインです。これも2014年と2015年。

シャルドネは除梗なしで作ります。ゆっくりとやさしくプレスし、後は基本自然まかせ(イヴニングランドでは培養酵母は使っていません)。ただ、レギュラーのものはラッキングするのに対し、ラ・スルスとサマムはシュール・リーで作られています。シャルドネは、前任のドミニク・ラフォンのコンサルティングがすばらしかったので、基本はそれを採用。畑の植え替えも今後はシャルドネを中心にするというほど、シャルドネはお気に入りだそうです。

2014年のレギュラーのシャルドネ。リッチでクリーミーな味わい。パイナップル、ライチ、ライムなど多様な果実味。きれいな酸。第1印象からすばらしいシャルドネ。若干余韻は短いが、全体的な魅力がすばらしい。

2014年のラ・スルスはリッチで余韻の長いワインでしたが、ちょっと還元香らしい香りが気になりました。2015年はリッチでクリーミー。クリームブリュレのような味わい。ライチやオレンジなどの果実味。

2014年のサマムは、うま味がすごくまろやかな味わい。果実味はそれほど強くないですが、ものすごく複雑な味わい。一方2015年は大分印象が変わって、リッチで果実味もありながら、複雑さもすごい。個人的にはこの2015年がシャルドネの中では一番好きでした。

評価が高いピノ・ノワールはもちろんおいしく、特にラ・スルスの方はレベルの高さを感じました。サシ・ムーアマンとラジャ・パーが主宰していたIPOB(In Pursuit of Balance)では、カリフォルニアにおいて酸を残すことを重点においたワイン造りを志向しましたが、IPOBのワインの中には酸を残すという目的に固執しすぎたためか、味わいに魅力が欠けてしまうこともなきにしもあらずでした。一方、オレゴンでは酸の部分はほぼ自動的に達成できるので、むしろそれ以外の味づくりに専念できるのではないか、という気もしました。イヴニングランドだけでなくエオラ・アミティ・ヒルズのワインには注目していきたいです。

一方、予想以上においしかったのがシャルドネ。スタンダード版でもカリフォルニアの1万円クラスに負けないレベルだと思います。サシ・ムーアマンも、ここのシャルドネのできにはよほど感銘を受けたようで、サンタ・バーバラのドメーヌ・ドゥ・ラ・コートでもこれからシャルドネを作っていきたいと言っていました。