「パックス」に回帰する天才パックス・マーレ
2000年代初頭にローヌ系品種で一世を風靡した「パックス・セラーズ」。その共同オーナーでワインメーカーだった、パックス・マーレ(Pax Mahle)が再びパックスに専念することが判明しました(Pax Mahle Flies Solo | Wine News & Features | wine-searcher)。
といっても事情通でない人にとっては何が何やらというところだと思うので、順を追って説明します。
パックス・セラーズはソノマのシラーを中心に作っておりワイン・アドヴォケイトで90点台半ばのスコアを連発して注目を集めました。ここで有名になった畑の一つが「オブシディアン(Obsidian)」で、もしかしたらこれで「あれ、聞いたことあるかも」と思う人もいるかもしれません。
人気ワイナリーとなったパックスですが、2006年に共同オーナーだったパックス・マーレとジョー・ドネラン(Joe Donelan)が大喧嘩をして、パックスはワイナリーをやめてしまいます。2007年まではパックスの名前を使っていましたが、2008年からは「ドネラン・ファミリー・ワインズ」と改名しました。
ドネランについては今年5月のソノマの試飲会の記事で紹介しています。オブシディアンについては、昨年の火事で消失してしまった畑として書いています。当時は大きな話題になりませんでしたが、あの火事によって失われたものの中でも大きいもののように思います。
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ちょっと脱線しましたが、パックスを離れたパックス・マーレはウインド・ギャップ(Wind Gap)というワイナリーを作りました。パックス時代はかなり濃厚なワインを作っていたのですが、ウインド・ギャップでは収穫時期を1カ月くらいも早め、いわゆるバランス重視のスタイルに展開しました。ワイナリー名に「ウインド」と入っているように、風の強い畑のブドウを好んで使うという特徴があります。
このスタイルに賛同して出資したのがチャールズ・バンクス。スクリーミング・イーグルを買収してワイン業界で一躍有名になり、その売却後は「テロワール・キャピタル」という投資会社を設立して、サンタ・バーバラのサンディ(Sandhi)や、このウインド・ギャップ、その他海外のワイナリーなどに投資をしていました。また、個人としてマヤカマスのオーナーにもなっていました。
この人は元々スポーツ選手の資産を管理する仕事をしていたのですが、そのときにNBAの元スター選手ティム・ダンカンへの助言について提訴され、有罪になって現在は収監中です。
参考:元スクリーミング・イーグル・オーナー、有罪を認める
こんな記事もありました。
元スクリーミング・イーグルのオーナーがワイナリー投資家として目指すもの
チャールズ・バンクスが収監されたことで、テロワール・キャピタルの業務は宙に浮いた状態になってしまいました。サンディに関しては、ワインメーカーのラジャー・パーとサッシ・ムーアマンが株式を買い戻す形でテロワール・キャピタルの手を離れました。
一方、パックス・マーレは、ウインド・ギャップについては株を売ってしまって手を引くことになりました。実は、彼は2010年から再びパックス・ブランドでほそぼそとではありますがワインを作っており、そちらに専念することにしたのです。
新生パックスでは、これまでウインド・ギャップで使っていた畑のワインも造ることになるようです。シラー系以外のワインも必然的に増えることになるでしょう。ソノマのセバストポールにあったウインド・ギャップのテイスティング・ルームもパックスのテイスティング・ルームに代わりました。
数奇な運命をたどったパックスですが、彼の才能は多くの人が認めるところ。それを再び発揮してくれることを期待します。