濃厚カリフォルニアワインと食事との見事なマリアージュ
世界最大規模の家族経営のワイナリーとして知られているE&Jガロ。実際にはガロという一つのブランドではなく、ガロの傘下に数多くのワイナリーやブランドがあるといった形になっています。最近ではコンステレーション・ブランズから30を超えるワイン・ブランドを買収したことも大きなニュースになりました。
今回は、ガロ傘下のプレミアムなワイナリー「ウィリアム・ヒル」「オリン・スウィフト」「マクマレー・エステート」のワインを飲みながらそれに合わせて作った料理とのマリアージュを楽しむというイベントに参加してきました。しかもガロでグローバル・ソーシング・ディレクターを務めるマスター・オブ・ワインのニコラス・パリス氏がそれを解説するという贅沢さです。食事は銀座のビストロ・バーンヤード。
ビル・マクモラン アジア・パシフィック・バイス・プレジデント(左)とニコラス・パリスMW グローバル・ソーシング・ディレクター(右)
まず、3つのワイナリーについて簡単に紹介しておきましょう。
ウィリアム・ヒルは1976年にウィリアム・ヒルによって設立されたワイナリー。2007年にガロ傘下に入っています。ワイナリーはナパにあり、ナパのシャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンなどを作っています。
オリン・スウィフトは才人デイブ・フィニーが1998年に設立したワイナリー。「レッド・ブレンド」のプリズナーで一世を風靡しましたが、2010年にプリズナー・ブランドをヒュネイアス・ヴィントナーズに売却、現在はコンステレーション・ブランズがプリズナーを所有しています。オリン・スウィフトは2016年からガロ傘下になりましたが、今もデイブ・フィニーがワイン造りをしています。デイブ・フィニーとしてはガロ傘下になることで、ワインのマーケティングを任せ、ワイン造りに集中することができるようになったそうです。
マクマレー・エステートはピノ・ノワールを中心とするワイナリー。ソノマのロシアン・リバー・ヴァレーなどに畑を持っており、100%自社畑のブドウでワインを作っています。俳優のフレッド・マクマレーが設立し、彼の死後1996年にガロ傘下に入っりました。
最初のワインはウィリアム・ヒルのナパ・シャルドネ2016。アメリカン・オークの樽を使い、シュール・リーで1年半熟成させており、マロラクティック発酵も100%行っています。最近では珍しいほどのフルボディのシャルドネで樽の香りもかなり強く、トロピカルフルーツやスパイシーさもあります。
これに合わせたのは「フェンネルの鉢植え仕立て 味噌とサワークリームのディップ添え」。左下には素揚げしたディルが付いています。
フェンネルは爽やかですが、サワークリームをつけるとそのまろやかさとクリーミーなテクスチャが濃厚なシャルドネとよく合います。またフェンネルの下にはナッツと味噌がありますが、これが樽香ともうまくマッチ。ニコラス・パリスMWによるとディルの香りもアメリカン・オークと共通するところがあるそうです。
一般には食事向けでないと一蹴されてしまいそうな濃厚シャルドネですが、このように合う要素を入れていくと予想以上に食事とマッチングするのが最初の一皿からわかります。
もう一つシャルドネが続きます。今度はオリン・スウィフトの「マネキン」2016。ラベルのマネキンの写真のコラージュが印象的です。
こちらも樽香がはっきり効いたパワフルなシャルドネです。ただ樽はフレンチ・オークを使っており、スパイシーさなどは少し穏やかになっている印象です。ニコラス・パリスMWによると、フレンチ・オークはナツメグやベイキング・スパイスの風味があるとのこと。ブドウはソノマとナパのアトラス・ピーク、カーネロスのものを使っているとのこと。涼しいところのブドウをブレンドすることで、きれいな酸味があります。
こちらに合わせた料理は「アサリ・ムール貝・アワビのタブレ仕立て フロマージュブランとタラゴンの香り」。こちらもナッティな風味やクリーミーさがあり、濃厚なシャルドネによく合います。あわびの肝の苦味がちょっとしたアクセントになっていて、ワインのパワーとよく合っていました。
3つ目のワインはマクマレーのロシアン・リバー・ヴァレー・ピノ・ノワール2016。
穏やかな酸味のピノ・ノワールで、赤い果実に加え、ブルーベリーの風味もあります。樽香とタンニンも比較的しっかりとした、いかにもカリフォルニアのピノ・ノワールという作りです。
料理は「鴨の冷製スモーク ドライフルーツ添え」。鴨とピノ・ノワールは鉄板の組み合わせですが、鴨を薄くスライスすることで、比較的軽い赤ワインであるピノ・ノワールに合うようにしているとのこと。さらに鴨をスモークすることにより、よりワインの樽の風味と合うようになっています。クアントロを煮詰めてワイン・ヴィネガーを合わせたというソースはちょい甘で複雑な風味を持ち、柔らかな味わいのピノ・ノワールによく合います。添えられたドライフルーツも酸味や軽い苦味など、ピノ・ノワールと共通する風味を持っており、これもうまくワインに合っていました。
4つめのワインはオリン・スウィフトの「アブストラクト」2017。このワインのイメージはイタリアに旅行にいったときに雑誌を見て思いついたもので、それから雑誌の切り抜きを230枚集めてラベルをコラージュしたとのこと。これをシラーとプティ・シラー、グルナッシュのブレンドというイメージに合わせたそうです。
とてもパワフルなワインで、濃厚かつ甘みを感じます。カシスなどの果実味に、ホワイト・ペッパーなどのスパイスが絡み、スムーズで蠱惑的な味わい。単体で飲むにはおいしいワインですが、料理にはどう合うのでしょうか。
料理は「穴子のスパイス煮」。赤ワインベースのソースにトマトを合わせ、シナモンやクローブなどのスパイスを加えています。軽い甘みとスパイスの風味がワインの特徴と合っており、これも素晴らしいマリアージュでした。
5つ目のワインはウィリアム・ヒルのカベルネ・ソーヴィニヨン。ブルーベリーなどの青系の果実味豊かなパワフルなワイン。酸味はおだやかで、しっかりとしたストラクチャーを持っています。ブドウの96%はクームズヴィルだとのこと。近年はこの地域からもいいカベルネ・ソーヴィニヨンが作られており、注目の地域の一つです。
合わせた料理は「黒毛和牛上クリ肉のロースト 黒トリュフ香るマディアのソース」。牛肉とカベルネ・ソーヴィニヨンですから合わないはずがないですが、さらにマディラのソースの甘みとトリュフの風味が、フルボディのカベルネ・ソーヴィニヨンに見事に寄り添います。料理もワインも本当に美味しいです。幸せ。
最後のワインはオリン・スウィフトの「パピヨン」2016。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティ・ヴェルド、マルベック、カベルネ・フランにプティ・シラーのブレンド。ボルドー系でありながらプティ・シラーも入れているのが面白いところ。カベルネ・ソーヴィニヨンが60%とメルローが22%でこの2つが中心的になっています。フレンチ・オークで15ヶ月熟成。新樽率は45%。アルコール度数が15.7%もあるのにはちょっとびっくりしましたが、ウィリアム・ヒルと比べてやや柔らかくまろやかな味わい。オリン・スウィフトのワイン全般に言えますが、尖った味わいではなく丸さを感じるワイン。
デイブ・フィニーがこのワインを作ったとき2つの手のイメージに合わせる8文字の単語を探していたそうです。娘が蝶を見て「パピヨンだよ」と言ったのにインスピレーションを得て名前を決めたとのこと。ガロ傘下になったことで、ガロが買収したステージコーチのブドウも使えるようになったとのこと。
料理は「牛ほほ肉の赤ワイン煮込み」。ゆっくり時間をかけて煮込んだホホ肉は柔らかく、自然な甘みがあります。まろやかな味わいはワインの丸さと共通する味わい。これも素晴らしいマッチング。
今回の3つのワイナリー。ワイン造りについてはそれぞれ独立していますが、共通点としてはカリフォルニアらしく、果実味豊かで芳醇なワインであること。酸は比較的少なく、甘みを感じるワインになっています。近年増えている、早摘みしてアルコール度数を低く抑えてしっかりとした酸があるようなワインとは対極的な作り。これはいい悪いではなく方向性の違いということです。
こういったワインだと料理には合わせにくいというのが一般に言われるところですが、今回のビストロ・バーンヤードの料理はお世辞抜きで美味しく、どれもそれぞれのワインにしっかりと合っていました。ソースなどで少しずつ甘さを加えていたり、クリーミーなテクスチャでワインのまろやかさと合わせていたり、ワインと共通するようなスパイスの風味を加えているのが功を奏したのではないかと思います。ワインと料理の合わせ方という点でも非常に興味深く面白いディナーでした。
今回は、ガロ傘下のプレミアムなワイナリー「ウィリアム・ヒル」「オリン・スウィフト」「マクマレー・エステート」のワインを飲みながらそれに合わせて作った料理とのマリアージュを楽しむというイベントに参加してきました。しかもガロでグローバル・ソーシング・ディレクターを務めるマスター・オブ・ワインのニコラス・パリス氏がそれを解説するという贅沢さです。食事は銀座のビストロ・バーンヤード。
ビル・マクモラン アジア・パシフィック・バイス・プレジデント(左)とニコラス・パリスMW グローバル・ソーシング・ディレクター(右)
まず、3つのワイナリーについて簡単に紹介しておきましょう。
ウィリアム・ヒルは1976年にウィリアム・ヒルによって設立されたワイナリー。2007年にガロ傘下に入っています。ワイナリーはナパにあり、ナパのシャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンなどを作っています。
オリン・スウィフトは才人デイブ・フィニーが1998年に設立したワイナリー。「レッド・ブレンド」のプリズナーで一世を風靡しましたが、2010年にプリズナー・ブランドをヒュネイアス・ヴィントナーズに売却、現在はコンステレーション・ブランズがプリズナーを所有しています。オリン・スウィフトは2016年からガロ傘下になりましたが、今もデイブ・フィニーがワイン造りをしています。デイブ・フィニーとしてはガロ傘下になることで、ワインのマーケティングを任せ、ワイン造りに集中することができるようになったそうです。
マクマレー・エステートはピノ・ノワールを中心とするワイナリー。ソノマのロシアン・リバー・ヴァレーなどに畑を持っており、100%自社畑のブドウでワインを作っています。俳優のフレッド・マクマレーが設立し、彼の死後1996年にガロ傘下に入っりました。
最初のワインはウィリアム・ヒルのナパ・シャルドネ2016。アメリカン・オークの樽を使い、シュール・リーで1年半熟成させており、マロラクティック発酵も100%行っています。最近では珍しいほどのフルボディのシャルドネで樽の香りもかなり強く、トロピカルフルーツやスパイシーさもあります。
これに合わせたのは「フェンネルの鉢植え仕立て 味噌とサワークリームのディップ添え」。左下には素揚げしたディルが付いています。
フェンネルは爽やかですが、サワークリームをつけるとそのまろやかさとクリーミーなテクスチャが濃厚なシャルドネとよく合います。またフェンネルの下にはナッツと味噌がありますが、これが樽香ともうまくマッチ。ニコラス・パリスMWによるとディルの香りもアメリカン・オークと共通するところがあるそうです。
一般には食事向けでないと一蹴されてしまいそうな濃厚シャルドネですが、このように合う要素を入れていくと予想以上に食事とマッチングするのが最初の一皿からわかります。
もう一つシャルドネが続きます。今度はオリン・スウィフトの「マネキン」2016。ラベルのマネキンの写真のコラージュが印象的です。
こちらも樽香がはっきり効いたパワフルなシャルドネです。ただ樽はフレンチ・オークを使っており、スパイシーさなどは少し穏やかになっている印象です。ニコラス・パリスMWによると、フレンチ・オークはナツメグやベイキング・スパイスの風味があるとのこと。ブドウはソノマとナパのアトラス・ピーク、カーネロスのものを使っているとのこと。涼しいところのブドウをブレンドすることで、きれいな酸味があります。
こちらに合わせた料理は「アサリ・ムール貝・アワビのタブレ仕立て フロマージュブランとタラゴンの香り」。こちらもナッティな風味やクリーミーさがあり、濃厚なシャルドネによく合います。あわびの肝の苦味がちょっとしたアクセントになっていて、ワインのパワーとよく合っていました。
3つ目のワインはマクマレーのロシアン・リバー・ヴァレー・ピノ・ノワール2016。
穏やかな酸味のピノ・ノワールで、赤い果実に加え、ブルーベリーの風味もあります。樽香とタンニンも比較的しっかりとした、いかにもカリフォルニアのピノ・ノワールという作りです。
料理は「鴨の冷製スモーク ドライフルーツ添え」。鴨とピノ・ノワールは鉄板の組み合わせですが、鴨を薄くスライスすることで、比較的軽い赤ワインであるピノ・ノワールに合うようにしているとのこと。さらに鴨をスモークすることにより、よりワインの樽の風味と合うようになっています。クアントロを煮詰めてワイン・ヴィネガーを合わせたというソースはちょい甘で複雑な風味を持ち、柔らかな味わいのピノ・ノワールによく合います。添えられたドライフルーツも酸味や軽い苦味など、ピノ・ノワールと共通する風味を持っており、これもうまくワインに合っていました。
4つめのワインはオリン・スウィフトの「アブストラクト」2017。このワインのイメージはイタリアに旅行にいったときに雑誌を見て思いついたもので、それから雑誌の切り抜きを230枚集めてラベルをコラージュしたとのこと。これをシラーとプティ・シラー、グルナッシュのブレンドというイメージに合わせたそうです。
とてもパワフルなワインで、濃厚かつ甘みを感じます。カシスなどの果実味に、ホワイト・ペッパーなどのスパイスが絡み、スムーズで蠱惑的な味わい。単体で飲むにはおいしいワインですが、料理にはどう合うのでしょうか。
料理は「穴子のスパイス煮」。赤ワインベースのソースにトマトを合わせ、シナモンやクローブなどのスパイスを加えています。軽い甘みとスパイスの風味がワインの特徴と合っており、これも素晴らしいマリアージュでした。
5つ目のワインはウィリアム・ヒルのカベルネ・ソーヴィニヨン。ブルーベリーなどの青系の果実味豊かなパワフルなワイン。酸味はおだやかで、しっかりとしたストラクチャーを持っています。ブドウの96%はクームズヴィルだとのこと。近年はこの地域からもいいカベルネ・ソーヴィニヨンが作られており、注目の地域の一つです。
合わせた料理は「黒毛和牛上クリ肉のロースト 黒トリュフ香るマディアのソース」。牛肉とカベルネ・ソーヴィニヨンですから合わないはずがないですが、さらにマディラのソースの甘みとトリュフの風味が、フルボディのカベルネ・ソーヴィニヨンに見事に寄り添います。料理もワインも本当に美味しいです。幸せ。
最後のワインはオリン・スウィフトの「パピヨン」2016。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティ・ヴェルド、マルベック、カベルネ・フランにプティ・シラーのブレンド。ボルドー系でありながらプティ・シラーも入れているのが面白いところ。カベルネ・ソーヴィニヨンが60%とメルローが22%でこの2つが中心的になっています。フレンチ・オークで15ヶ月熟成。新樽率は45%。アルコール度数が15.7%もあるのにはちょっとびっくりしましたが、ウィリアム・ヒルと比べてやや柔らかくまろやかな味わい。オリン・スウィフトのワイン全般に言えますが、尖った味わいではなく丸さを感じるワイン。
デイブ・フィニーがこのワインを作ったとき2つの手のイメージに合わせる8文字の単語を探していたそうです。娘が蝶を見て「パピヨンだよ」と言ったのにインスピレーションを得て名前を決めたとのこと。ガロ傘下になったことで、ガロが買収したステージコーチのブドウも使えるようになったとのこと。
料理は「牛ほほ肉の赤ワイン煮込み」。ゆっくり時間をかけて煮込んだホホ肉は柔らかく、自然な甘みがあります。まろやかな味わいはワインの丸さと共通する味わい。これも素晴らしいマッチング。
今回の3つのワイナリー。ワイン造りについてはそれぞれ独立していますが、共通点としてはカリフォルニアらしく、果実味豊かで芳醇なワインであること。酸は比較的少なく、甘みを感じるワインになっています。近年増えている、早摘みしてアルコール度数を低く抑えてしっかりとした酸があるようなワインとは対極的な作り。これはいい悪いではなく方向性の違いということです。
こういったワインだと料理には合わせにくいというのが一般に言われるところですが、今回のビストロ・バーンヤードの料理はお世辞抜きで美味しく、どれもそれぞれのワインにしっかりと合っていました。ソースなどで少しずつ甘さを加えていたり、クリーミーなテクスチャでワインのまろやかさと合わせていたり、ワインと共通するようなスパイスの風味を加えているのが功を奏したのではないかと思います。ワインと料理の合わせ方という点でも非常に興味深く面白いディナーでした。