100年超の畑のワインが3000円! 歴史伝えるワイナリー「スリー」
コントラコスタ・カウンティというマイナーな生産地で100年を超える古木、しかも自根・無灌漑の畑から、極めてリーズナブルな価格のワインを作っているのが「スリー(Three)」です。このたび、そのスリーの生産者であるマットとエリンのクライン夫妻が来日、話を聞く機会をいただきました。なおスリーとは、天、地、人の3つを表しているそうです。
なお、古木の世界については先週公開した「カリフォルニアの貴重な財産、古木の世界」の記事もご覧いただけると幸いです。
クラインというと、「あれ?」と思う人もいるかもしれません。ソノマにクライン・セラーズというワイナリーがありますが、マットはクラインの創設者でもあり、兄弟で経営していましたが、そこを2002年にやめて作ったのがスリーなのです。母親がコントラコスタの出身で、クラインもコントラコスタのブドウを使っていました。そういった縁もあり、独立したときに畑を探したのがコントラコスタでした。
また、実はマットさん、1988年から2年ほど、日本にいたそうです。栃木県のココ・ファーム・ワイナリーで働いていました。マットさんの後ココ・ファームでワインメーカーになり、現在は北海道でワイン造りをしているブルース・ガットラブさんを招いたのもマットさんだったとか。現在、スリーを輸入している布袋ワインズは、創設当時ブルース・ガットラブさんの紹介や目立てでワインの輸入を始めたという経緯があり、実は縁がつながっていたのですが、今回の来日で初めてそれが判明したそうです。
さて、コントラコスタについてはワイン産地としてはほとんど知られていないと思うので、どのようなところか紹介しましょう。
サンフランシスコの半島があって、その内海が南側のサンフランシスコ湾と北側のサンパブロ湾になっています。サンパブロ湾はナパやソノマのカーネロスに接しており、そこからの冷涼な空気がナパやソノマのソノマ・ヴァレーにおいては大きな影響を与えているのはご存知の方が多いのではないかと思います。そのサンパブロ湾の東側、大学で有名なバークレーの北にリッチモンドという市があります。ここがコントラコスタの西端です。このように、サンフランシスコにも近く、郡内にもリッチモンドのほか、コンコードやウォルナット・クリークなどの市もあり、基本的には郊外の住宅地となっている地域です。
地勢的に見ると、サンパブロ湾の東側にサスーン(Suisun)湾あるいはサスーン海峡と呼ばれる浅い海があり、サン・ホアキン川とサクラメント川が流れ込んでいます。コントラコスタは内陸で気温は比較的高くなりますが、この海に近いところはサンパブロ湾からの冷気も流れ込んでくるため、比較的気温が低く、ブドウの生育にも適した土地になります。スリーの畑はコントラコスタの北東端にあるオークリーにあり、海に近いところです。夏場、非常に気温が高くなると、ブドウが光合成を止めてしまうといったことが起こりますが、ここは海からの風が吹くために比較的そういうことが起こりにくくなっています。なお、サクラメント川をさらに上流に行くとロウダイ(Lodi)があります。ロウダイはカリフォルニアのワイン生産の中心的な場所だったこともあるところで、ガロや、ウッドブリッジなどの本拠地はロウダイにあります。
また、ウォルナット・クリークの東側にはディアブロ山という標高1185mの山があります。冬には雪も降る山ですが、海の方から来る低気圧の雲がここに雨や雪を降らすため、オークリーなど、山の東側は非常に降水量が少なくなります。年間の雨量は600mm~900mm程度となっています。
また、スリーの畑のあるところの大きな特徴はその土壌です。デルハイ・サンズと呼ばれる、海からの風によって運ばれてくる極めてキメの細かい砂地になっています。この砂地のおかげで、スリーの畑は19世紀に自根で植えられたにもかかわらず、フィロキセラにやられずに済みました。また、20~30フィートくらいの深さのところに水の層があるため、降水量が少ないにもかかわらず、灌漑せずにブドウが育ちます。
畑のブドウの木は、古木では一般的な株仕立てですが、よく見かける盆栽のような丸い形ではなく、横に広がったような形。木と木の間は10フィート(約3m)とかなりたっぷり開いています。木と木が水を取り合うため、間隔を広くしているのだそうです。また、風が強いため、ブドウを上に伸ばすよりも横に伸ばすことを趣向しています。
古木紹介の記事にも書いたように、19世紀に植えられた畑のほとんどが「フィールド・ブレンド」といって複数の品種が畑の中に混ざって植えられています。スリーの畑ではジンファンデルとカリニャン、マタロの3品種が中心です。スリーの名前はこの3品種という意味合いもあるとのこと。ちなみにマタロはフランスでいうムールヴェードルです。スペイン・バルセロナのマタロの港から出荷されてきたことからその名が付いたと言われています。
この3品種は当時メジャーだった品種だそうですが、ソノマあたりの古木の畑で比較的多いプティ・シラーはあまり多くなく、また植えられているものも比較的後から植樹されたものだとのこと。このあたりの品種選択は、どこからの移民なのかによっても違っていたそうです。
スリーのワインは現状4種類が日本に輸入されています。フィールド・ブレンド オールド・ヴァインズ(2015年、2800円)、プティ・シラー コントラコスタ・カウンティ(2015年、3600円)、ジンファンデル オールド・ヴァインズ(2015年、3300円)、ジンファンデル ライブ・オーク(2015年、4700円)。
フィールド・ブレンド オールド・ヴァインズは39%カリニャンで26%マタロ、17%ジンファンデル、11%プティ・シラー、5%アリカンテ・ブーシュ、2%ブラック・マルヴォワジーという構成。非常に柔らかい味わいのワイン。優しい甘みにラズベリー、ブルーベリーの風味。タンニンはきめ細かくスムーズ。特にこの柔らかさが、スリーの味わいの特徴となっており、これがその入門的なワインになると思います。
次のプティ・シラーは打って変わってパワフルでタニック。ちょっと土っぽさも感じます。プティ・シラーのほか、カリニャンとマタロも入っています。スリーのワインの中では一番力強さを感じるワイン。
ジンファンデル オールド・ヴァインズは個人的に一番好きだったワイン。76%ジンファンデルで9%カリニャン、9%プティ・シラー、6%マタロ、1%アリカンテ・ブーシュ。柔らかさの中にしっかりとしたストラクチャーがあり、ブラック・ペッパーなどのスパイスの風味も豊か。3000円台前半でこのクオリティは素晴らしいと思います。
最後はジンファンデルのライブ・オーク。ライブ・オークはヒストリック・ヴィンヤード・ソサエティにも登録されている畑です。オールド・ヴァインズと比べると洗練されてややエレガントな味わい。
ちなみに、今回のワインは新宿にある今半万窯 新宿サザンタワー店でいただきました。スリーの柔らかな味わいは和食と合わせても問題なく、予想以上にいいマッチングでした。もちろんすき焼きにはジンファンデルが合うことは言うまでもありません。
なお、古木の世界については先週公開した「カリフォルニアの貴重な財産、古木の世界」の記事もご覧いただけると幸いです。
クラインというと、「あれ?」と思う人もいるかもしれません。ソノマにクライン・セラーズというワイナリーがありますが、マットはクラインの創設者でもあり、兄弟で経営していましたが、そこを2002年にやめて作ったのがスリーなのです。母親がコントラコスタの出身で、クラインもコントラコスタのブドウを使っていました。そういった縁もあり、独立したときに畑を探したのがコントラコスタでした。
また、実はマットさん、1988年から2年ほど、日本にいたそうです。栃木県のココ・ファーム・ワイナリーで働いていました。マットさんの後ココ・ファームでワインメーカーになり、現在は北海道でワイン造りをしているブルース・ガットラブさんを招いたのもマットさんだったとか。現在、スリーを輸入している布袋ワインズは、創設当時ブルース・ガットラブさんの紹介や目立てでワインの輸入を始めたという経緯があり、実は縁がつながっていたのですが、今回の来日で初めてそれが判明したそうです。
さて、コントラコスタについてはワイン産地としてはほとんど知られていないと思うので、どのようなところか紹介しましょう。
サンフランシスコの半島があって、その内海が南側のサンフランシスコ湾と北側のサンパブロ湾になっています。サンパブロ湾はナパやソノマのカーネロスに接しており、そこからの冷涼な空気がナパやソノマのソノマ・ヴァレーにおいては大きな影響を与えているのはご存知の方が多いのではないかと思います。そのサンパブロ湾の東側、大学で有名なバークレーの北にリッチモンドという市があります。ここがコントラコスタの西端です。このように、サンフランシスコにも近く、郡内にもリッチモンドのほか、コンコードやウォルナット・クリークなどの市もあり、基本的には郊外の住宅地となっている地域です。
地勢的に見ると、サンパブロ湾の東側にサスーン(Suisun)湾あるいはサスーン海峡と呼ばれる浅い海があり、サン・ホアキン川とサクラメント川が流れ込んでいます。コントラコスタは内陸で気温は比較的高くなりますが、この海に近いところはサンパブロ湾からの冷気も流れ込んでくるため、比較的気温が低く、ブドウの生育にも適した土地になります。スリーの畑はコントラコスタの北東端にあるオークリーにあり、海に近いところです。夏場、非常に気温が高くなると、ブドウが光合成を止めてしまうといったことが起こりますが、ここは海からの風が吹くために比較的そういうことが起こりにくくなっています。なお、サクラメント川をさらに上流に行くとロウダイ(Lodi)があります。ロウダイはカリフォルニアのワイン生産の中心的な場所だったこともあるところで、ガロや、ウッドブリッジなどの本拠地はロウダイにあります。
また、ウォルナット・クリークの東側にはディアブロ山という標高1185mの山があります。冬には雪も降る山ですが、海の方から来る低気圧の雲がここに雨や雪を降らすため、オークリーなど、山の東側は非常に降水量が少なくなります。年間の雨量は600mm~900mm程度となっています。
また、スリーの畑のあるところの大きな特徴はその土壌です。デルハイ・サンズと呼ばれる、海からの風によって運ばれてくる極めてキメの細かい砂地になっています。この砂地のおかげで、スリーの畑は19世紀に自根で植えられたにもかかわらず、フィロキセラにやられずに済みました。また、20~30フィートくらいの深さのところに水の層があるため、降水量が少ないにもかかわらず、灌漑せずにブドウが育ちます。
畑のブドウの木は、古木では一般的な株仕立てですが、よく見かける盆栽のような丸い形ではなく、横に広がったような形。木と木の間は10フィート(約3m)とかなりたっぷり開いています。木と木が水を取り合うため、間隔を広くしているのだそうです。また、風が強いため、ブドウを上に伸ばすよりも横に伸ばすことを趣向しています。
古木紹介の記事にも書いたように、19世紀に植えられた畑のほとんどが「フィールド・ブレンド」といって複数の品種が畑の中に混ざって植えられています。スリーの畑ではジンファンデルとカリニャン、マタロの3品種が中心です。スリーの名前はこの3品種という意味合いもあるとのこと。ちなみにマタロはフランスでいうムールヴェードルです。スペイン・バルセロナのマタロの港から出荷されてきたことからその名が付いたと言われています。
この3品種は当時メジャーだった品種だそうですが、ソノマあたりの古木の畑で比較的多いプティ・シラーはあまり多くなく、また植えられているものも比較的後から植樹されたものだとのこと。このあたりの品種選択は、どこからの移民なのかによっても違っていたそうです。
スリーのワインは現状4種類が日本に輸入されています。フィールド・ブレンド オールド・ヴァインズ(2015年、2800円)、プティ・シラー コントラコスタ・カウンティ(2015年、3600円)、ジンファンデル オールド・ヴァインズ(2015年、3300円)、ジンファンデル ライブ・オーク(2015年、4700円)。
フィールド・ブレンド オールド・ヴァインズは39%カリニャンで26%マタロ、17%ジンファンデル、11%プティ・シラー、5%アリカンテ・ブーシュ、2%ブラック・マルヴォワジーという構成。非常に柔らかい味わいのワイン。優しい甘みにラズベリー、ブルーベリーの風味。タンニンはきめ細かくスムーズ。特にこの柔らかさが、スリーの味わいの特徴となっており、これがその入門的なワインになると思います。
次のプティ・シラーは打って変わってパワフルでタニック。ちょっと土っぽさも感じます。プティ・シラーのほか、カリニャンとマタロも入っています。スリーのワインの中では一番力強さを感じるワイン。
ジンファンデル オールド・ヴァインズは個人的に一番好きだったワイン。76%ジンファンデルで9%カリニャン、9%プティ・シラー、6%マタロ、1%アリカンテ・ブーシュ。柔らかさの中にしっかりとしたストラクチャーがあり、ブラック・ペッパーなどのスパイスの風味も豊か。3000円台前半でこのクオリティは素晴らしいと思います。
最後はジンファンデルのライブ・オーク。ライブ・オークはヒストリック・ヴィンヤード・ソサエティにも登録されている畑です。オールド・ヴァインズと比べると洗練されてややエレガントな味わい。
ちなみに、今回のワインは新宿にある今半万窯 新宿サザンタワー店でいただきました。スリーの柔らかな味わいは和食と合わせても問題なく、予想以上にいいマッチングでした。もちろんすき焼きにはジンファンデルが合うことは言うまでもありません。