シュレーダー(Schrader)とダブル・ダイヤモンド(Double Diamond)が2021年ヴィンテージのお披露目イベントを世界各地で開催。ニューヨークの次に開かれたという東京のイベントに参加しました。


紹介するのはコンステレーション・ブランズでシュレーダーのジェネラル・マネージャーを務めるジェイソン・スミスMS。27歳のときにマスターソムリエを取ったという才人で、チャーリー・トロッターやベラージオ、MGMグランドといったそうそうたる経歴を経てシュレーダーのGMになりました。

これまでシュレーダーは、こういったお披露目イベントをやっていませんでした。「創設者のフレッド・シュレーダーは『飲みたかったらまずボトルを買いな』というスタンスだった、それに対して自分はワインを皆とシェアするスタンスだ」と冗談まじりに語るジェイソン・スミス氏(まじめなイベントですが、ちょいちょいこういうジョークが混じります)。

ちなみに、コンステレーション・ブランズのラグジュアリー・ブランドのワイナリーにはシュレーダー、ダブル・ダイヤモンドのほか、マウント・ヴィーダー(Mount Veeder)、ト・カロン・ヴィンヤード・カンパニー(To Kalon Vineyard Company)、オレゴンのリンガ・フランカ(Lingua Franca)が入っているそうで、これらもお披露目イベントを開きたいという話でした。

さて、今回は2021年ヴィンテージのお披露目ですが、2020年はシュレーダー、ダブル・ダイヤモンドともにワインをリリースしませんでした。言うまでもなく山火事の影響で「大災難だった」とジェイソン・スミス氏。それに対して2021年は干ばつは続いたものの素晴らしいヴィンテージで凝縮感のあるブドウができ、シュレーダーのワインメーカーであるトーマス・リヴァース・ブラウンも、ト・カロン・ヴィンヤード・カンパニーの2022年までのワインメーカーだったアンディ・エリクソンもとても喜んでいたそうです。近年でも非常にいいヴィンテージの一つだった2018年と似ているとのこと。

ちなみに2023年は、巷間言われているように3週間ほど収穫が遅く、例年なら9月中旬に始まるところが先週末(10月上旬)に始まったとのこと。品質は「計り知れないほどだ」と絶賛しています。

ダブル・ダイヤモンドの説明と試飲に入っていきます。
ダブル・ダイヤモンドは日本に入ってきたのはここ数年だと思いますが、実は2000年から作っているワインだとのこと。シュレーダーは熟成に時間がかかりますが、ダブル・ダイヤモンドはすぐに楽しめるようなスタイルになっています。ブドウはすべてオークヴィル産で75%がト・カロンですが、ト・カロンよりも東側のナパ川に近いところの畑も使っているそうです。また、ダブル・ダイヤモンドは唯一、モンダヴィ(コンステレーション)のト・カロンとベクストファー・ト・カロンの両方のブドウが入ったワインですが、比率的にはモンダヴィのト・カロンの方がだいぶ多いようです(具体的な数字は不明)。モンダヴィのト・カロンの方がベクストファー・ト・カロンの4倍ほども面積があること。ダブル・ダイヤモンドは若木のブドウを中心に使いますが、モンダヴィのト・カロンの方が若木の比率が高いことが背景にあります。
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ダブル・ダイヤモンドは2021年からラベルが変わりました。従来は赤いダイヤモンドが二つ絡み合うように描かれていましたが、文字がメインになりました。書体もシュレーダーのラベルで使われているものに合わせています。また、よく見るとラベルの下の方にドラゴンが描かれています。これはシュレーダーのフラッグシップであるオールド・スパーキーのラベルに描かれるラベルに合わせています。ドラゴンを意匠に使うのは火を噴いているイメージがシュレーダーのワインに合っているとフレッドの奥さんが選んだのだそうです。


ダブル・ダイヤモンドのワインのスタイルは果実味が前に出ているのと同時にタンニンが秘められているとジェイソン・スミス氏。トーマスのワインはすべてバランスがよいのが特徴だと言っていました。樽は半分が新樽。残りはシュレーダーからのおさがりだそうです。

若木の話が出たのでもう一つ。モンダヴィのト・カロンは木の植え替えをコンスタントに行っているとのこと。ブロックがおとに全体を植え替えるのではなく、生産量が落ちてしまった木ごとに植え替えているとのこと。クローンの比率が変わらないように、前に植わっていたのと同じクローンを植えるそうです。ト・カロンの現在植わっている木の平均樹齢は20年以下だそうで、結構植え替えはやっているようです。ちなみにト・カロンの中でも有名なIブロックにはカリフォルニア最古と言われる古いソーヴィニヨン・ブランが植わっています。

ダブルダイヤモンドでは樹齢5~10年の木を使っているとのこと。

ダブル・ダイヤモンドでは2021ヴィンテージから赤のブレンドのワインも出しています。2021年の品種比率はカベルネ・ソーヴィニョン50%、メルロー25%、カベルネ・フラン25%。カベルネ・ソーヴィニョンはト・カロンと「オークヴィル・ステーション」という畑から。カベルネ・フランはマウント・ヴィーダーのものも入っているそうです。

2021 Double Diamond Cabernet Sauvignon
色はやや赤みが強いようです。カシスやブルーベリーに加えて赤果実の風味もあります。皮革、甘草…。酸はやや強くタンニンも強いです。全体としては暖かさと丸みを感じるワインでした。

2021 Double Diamond Red Wine
ミントのような清涼感のある香り、ちょっと香ばしいアーモンドの風味。青や黒の果実よりも赤果実の風味が顕著に強く感じます。カベルネ・ソーヴィニョンよりも酸高く、しっかりしたタンニン、長い余韻。

どちらもかなり美味しく、1万円台のワインとしては秀逸なできでした。個人的には冷涼感あるレッド・ブレンドがよかったです。

シュレーダーの話に移ります。シュレーダーの最初のヴィンテージは1998年。2000年にベクストファー・ト・カロンと契約し、トーマス・リヴァース・ブラウンをワインメーカーに据えました。そして今は傘下に入ったコンステレーションから「ト・カロン」の名称を巡って提訴されたなんてこともありました(もちろん今回の発表会ではそのあたりはスルーですが)。98年、99年にだれがどんなワインを作っていたのかは不明だったのですが、スプリングマウンテンの畑のカベルネ・ソーヴィニョンだったそうです。その後、ワイン・アドヴォケイトなどで100点ワインを連発して注目を集めたシュレーダーですが、なんとこれまで通算の「100点」の回数は37回だそうです。これまでのヴィンテージの数の1.5倍くらいあるわけで。毎年数回100点を取っている計算になります。

シュレーダーのユニークなのは、畑名のカベルネ・ソーヴィニョンだけでなく、その中のクローン別のワインも作ったこと。ほかにもクローン別のワインを作っていたワイナリーはありますが、そのどれもが高い評価を得たことで注目を集めたのはシュレーダーくらいだと思います。さらに、コンステレーション傘下に入ってからは、ト・カロンのブロック別のワインも作るようになり、さらにラインアップが充実しました。現在は10種類のカベルネ・ソーヴィニョンを作っています。

シュレーダーのワインはどれもフルボディでパワフル、アルコール度数も15度を超えるものが珍しくありませんが、それでもバランスが取れていることがポイントで、いわゆる高いアルコール度数による「熱」のような感じはめったに受けません。発酵は天然酵母、清澄、濾過などはしない、ある意味かなりシンプルなワイン造りです。

トーマス・リヴァース・ブラウンが重視しているのは二つのことで「いつ収穫するか」「いつスキンコンタクトを終えるか」だそうです。後者は風味の抽出とタンニンの強さがトレードオフになっており、そこの見極めがポイントになるとのこと。

このあと、ト・カロンの畑の歴史などの説明がありましたが、長くなるのでここでは割愛します(知りたい方は「トカロン・ヴィンヤードの謎を解く【保存版】」をごらんください)。

試飲に移ります。

2021 Schrader RBS Cabernet Sauvignon
RBSはベクストファー・ト・カロンでクローン337だけを使ったワイン。ダブル・ダイヤモンドと比べると色が濃く、赤というより黒みが強く感じます。濃厚で芳醇な果実味でやや甘やかさを感じます、黒鉛、杉、オリエンタルスパイス。酸はダブル・ダイヤモンドより低く、きめの細かいタンニン。緻密な味わいですが、全体としては硬質というよりやわらかさを感じます。
なおクローン337はナパを代表するようなクローンで、果実がルースにつき、収量が少ないのが特徴とのこと。



2021 Schrader Heritage Clone Cabernet Sauvignon
今回一番驚いたワインがこれ。Heritage Cloneは上の図にあるように、モンダヴィ側のト・カロンのブロック。ここはClone 31というト・カロンを最初に作ったハミルトン・ウォーカー・クラブが初期に植えたのではないかと言われているクローンが植わっています。このクローン、とにかく房が驚くほど小さいのです。手のひらの3分の1くらいのサイズ(写真を撮り損ねたのが悔やまれます)。畑を歩いていてこのブロックに来ると、感覚がおかしくなるとか。
味わいはシュレーダーの中では例外的なほど酸が豊かでタンニンも強くあります。赤果実感もとても強い。カベルネ・フランと言われたら信じそうな味わい。モンダヴィのト・カロン・リザーブにも通じるところがあります。シュレーダーらしくはないかもしれませんが個人的にはすごく好きです。

2021 Schrader Old Sparky Cabernet Sauvignon
2021年のワインの最後はオールド・スパーキー。名前はフレッド・シュレーダーのニックネームから取っており、マグナムだけが作られます。このワインはポジティブ・セレクションで、ベクストファー・ト・カロンの中から一番できのいいものを集めて作られます。そのためクローン4、6、337がブレンドされています。
RBS以上に緻密でパワフルな味わい。旨味も感じます。タンニンは高めで長熟向きです。酸もRBSより高い。
タンニンH、酸M+、旨味強い、緻密パワフル
ちなみにクローン4は、別名メンドーサクローンともいわれアルゼンチンから渡ってきたクローン。当初はマルベックと思われたそうです。緻密でミネラルも強いのが特徴。
クローン6はかなり貴重で、なかなか手に入らないクローンとのこと。

さて、最後にシュレーダーの熟成力を見るため2012年のRBSの試飲がありました。

2012 Schrader RBS Cabernet Sauvignon
色はややにごりを感じます。ちょっとアルコール感と赤果実の風味。タンニンはまだかなり強く、酸豊か。

まだまだ熟成の途中といったワインで、個人的にはもう数年前か10年くらい後に飲んだ方がよりおいしいのではないかという気もしました。

ところで、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーは現在大規模改修中で、テイスティング・ルームもナパ市内に移転していますが、2024年にはシュレーダーやト・カロン・ヴィンヤード・カンパニーなどのラグジュアリー・ブランド専用の醸造設備ができるそうです。シュレーダーは実は自前の醸造設備を持っておらず、これまでトーマスがワインメーカーを務めるアウトポストでワインを作っていましたが、ようやく自社の設備になります。