5月に開催された「持続可能なパシフィック・ノースウェストワイン」のセミナーの覚書です。皆様に読んでいただく記事というよりは、自分のためのメモに近いものです。うまく記事にまとめられなくてすみません。
講師はBree Stock MW。昨年もパシフィック・ノースウェストの認定セミナーでお世話になりました。
まずは、オレゴンとワシントンについての基本的なことから。
95%の米国のワイン生産は西海岸ですがカリフォルニアが88%を占めており、1つのワイナリーでオレゴン(生産量5位)やワシントン(生産量2位)の全生産量を超えるような大手もあります。それに対してオレゴンとワシントンは小さなエステートの生産者が多く、栽培と醸造が近い関係にあるところが中心です。緯度で言うと緯42~49度と世界的に素晴らしい生産地が集まっている緯度帯です。
ワシントン州には21のAVAがありますが、その中で圧倒的に大きく、他のほとんどのAVAを包含しているのがコロンビア・ヴァレーAVAです。またコロンビア・ヴァレー、ワラワラ、コロンビア・ゴージュの三つのAVAはオレゴン州にも一部含まれています。
オレゴン州ではウィラメット・ヴァレーAVAの存在感が非常に強く、その中に含まれるネステッドAVAが増えています。
また、カリフォルニアやフランスから進出してきている生産者が増えており、サスティナビリティに根ざしたワイン造りを進めています。また、よりよいコミュニティ作りにも注力しているのが特徴です。サスティナブルについては、ただやっているというだけでなく、第三者認証によって示すのが重要になってきています。
認証としてはLIVE - Low Input Viticulture & Enologyがオレゴンで始まって現在はワシントンでも使われています。このほか水質保全を中心とするSalmon Safe、ワシントン州独自の認証で、Salmon Safeも含むSustainable WAなどが使われています。現在約半分のワイナリーがいずれかの認証を受けていますが、それを100%にしていきたいとのことです。このほか、企業の公益性を中心としたBコープという認証を受けているワイナリーもあります。
オーガニック、バイオダイナミック、最近では再生型にも注力している
ウィラメット・ヴァレーの玄武岩が母岩(保水性ある)
北の方では「ロス」ソイル 風によって運ばれる細かい土壌
ワシントンの土壌、バサルトのデポジット、ミズーラ洪水で運ばれる
カスケード山脈との標高差大きい
南向き斜面 ヤキマ 短い生育期間にたっぷり日照を受ける
マルベックやCSなどの熟すのが遅いブドウで重要
ワイン1
エロイカ リースリング コロンビア・ヴァレーAVA エンシャント・レイク XLC 2020
標高高いところの畑。大樽使用で20カ月シュールリーしてダイレクトプレス
青リンゴや濡れた石、ドライで酸高いリースリング
ワイン2
Phelps Creek Lynette Chardonnay 2019
オレゴンはこれまではピノ・ノワールの産地として知られてきましたが、近年はシャルドネの産地として評価されています。1970年代、80年代に植えられたシャルドネはカリフォルニアからのクローンで、オレゴンにあまり向いておらず、下火になってしまいました。1980年代に、デイヴィッド・アーデルシャイムなどが中心になって、ブルゴーニュからオレゴン大にピノとシャルドネのクローンを輸入できるようにして、シャルドネが増えてきました。
酸やや低く、ゆずやハチミツ、ブリオッシュ。ミネラル感ありますが、少し酸化が気になりました。
ワイン3
Adelsheim Breaking Ground Chardonnay
シェヘイレム・マウンテンズAVA
軽い樽感、ミネラル、酸高い、柑橘、バランス良く美味しい
ワイン4
Matthews Winery ソーヴィニヨン・ブラン 2022
再生型の認証も取っているワイナリー。Horse Heaven HillsとYakima Valley
ステンレススティールと樽を両方使っています。フルMLF
黄色い花や柑橘、ネクタリン、酸高くミネラル感ありおいしい
ワイン5
Grosgrain Vineyard Carignan 2022
ちょっとラスティックな赤果実、酸高く、凝縮感は低い。ちょっとナチュラル的なワイルドな風味
ワイン6
Grochau Cellars Gamay/Pinot 2023
ガメイはオレゴンの3%ですが増えています。ブルゴーニュより環境的には上かもしれません。
イチゴの香り、きれいな果実味、少し青果実も。タンニン低く、酸高い、ボディはミディアム
ワイン7
Granivlle Wines Koosah Vineyard Pinot Noir 2023
イオラ・アミティ・ヒルズで最も標高が高いところ(700フィート)に畑があります。オーガニック栽培。全房も使っていて柔らかく抽出しています。
赤い果実ときれいな高い酸、バランス良い、複雑さは強くないが美味しい
ワイン8
Ambar Estate Granville Pinot Noir 2022
ダンディ・ヒルズ、非常に涼しいヴィンテージ
再生型認証や有機認証取得
除梗して優しく抽出、スキンコンタクト21日 新樽30%
赤果実、レッドチェリー、少し黒果実、ミネラル感と複雑さ。ボディは強くないが複雑で美味しい
ワイン9
Boedecker Cellars Shea Vineyard Pinot Noir 2021
ヤムヒルカールトンの畑、50%新樽
レッドチェリーに濃厚なプラムの風味、熟した印象強い。酸は高くバランスはいい
ワイン10
Long Shardows Red Blend Piroutte 2020
カシスやブラックベリー、プラム、酸高く、ボディもやや強い、タンニンきめ細かい
ワインメーカーがフィリップ・メリカ
ワイン11
L'Ecole N.41 Ferguson Estate 2021
きれいで上品、タンニン強いがスムーズな味わい
ワイン12
Hedges Family Estate La Haute Cuvee 2020
沖積扇状地。最も暑く、風が強いAVA
煮詰めたプラム、濃く芳醇で酸高い。タンニン強くしなやか。ミネラル感、かなり良い
天然酵母、フレンチとアメリカンオーク 28カ月 新樽45%
講師はBree Stock MW。昨年もパシフィック・ノースウェストの認定セミナーでお世話になりました。
まずは、オレゴンとワシントンについての基本的なことから。
95%の米国のワイン生産は西海岸ですがカリフォルニアが88%を占めており、1つのワイナリーでオレゴン(生産量5位)やワシントン(生産量2位)の全生産量を超えるような大手もあります。それに対してオレゴンとワシントンは小さなエステートの生産者が多く、栽培と醸造が近い関係にあるところが中心です。緯度で言うと緯42~49度と世界的に素晴らしい生産地が集まっている緯度帯です。
ワシントン州には21のAVAがありますが、その中で圧倒的に大きく、他のほとんどのAVAを包含しているのがコロンビア・ヴァレーAVAです。またコロンビア・ヴァレー、ワラワラ、コロンビア・ゴージュの三つのAVAはオレゴン州にも一部含まれています。
オレゴン州ではウィラメット・ヴァレーAVAの存在感が非常に強く、その中に含まれるネステッドAVAが増えています。
また、カリフォルニアやフランスから進出してきている生産者が増えており、サスティナビリティに根ざしたワイン造りを進めています。また、よりよいコミュニティ作りにも注力しているのが特徴です。サスティナブルについては、ただやっているというだけでなく、第三者認証によって示すのが重要になってきています。
認証としてはLIVE - Low Input Viticulture & Enologyがオレゴンで始まって現在はワシントンでも使われています。このほか水質保全を中心とするSalmon Safe、ワシントン州独自の認証で、Salmon Safeも含むSustainable WAなどが使われています。現在約半分のワイナリーがいずれかの認証を受けていますが、それを100%にしていきたいとのことです。このほか、企業の公益性を中心としたBコープという認証を受けているワイナリーもあります。
オーガニック、バイオダイナミック、最近では再生型にも注力している
ウィラメット・ヴァレーの玄武岩が母岩(保水性ある)
北の方では「ロス」ソイル 風によって運ばれる細かい土壌
ワシントンの土壌、バサルトのデポジット、ミズーラ洪水で運ばれる
カスケード山脈との標高差大きい
南向き斜面 ヤキマ 短い生育期間にたっぷり日照を受ける
マルベックやCSなどの熟すのが遅いブドウで重要
ワイン1
エロイカ リースリング コロンビア・ヴァレーAVA エンシャント・レイク XLC 2020
標高高いところの畑。大樽使用で20カ月シュールリーしてダイレクトプレス
青リンゴや濡れた石、ドライで酸高いリースリング
ワイン2
Phelps Creek Lynette Chardonnay 2019
オレゴンはこれまではピノ・ノワールの産地として知られてきましたが、近年はシャルドネの産地として評価されています。1970年代、80年代に植えられたシャルドネはカリフォルニアからのクローンで、オレゴンにあまり向いておらず、下火になってしまいました。1980年代に、デイヴィッド・アーデルシャイムなどが中心になって、ブルゴーニュからオレゴン大にピノとシャルドネのクローンを輸入できるようにして、シャルドネが増えてきました。
酸やや低く、ゆずやハチミツ、ブリオッシュ。ミネラル感ありますが、少し酸化が気になりました。
ワイン3
Adelsheim Breaking Ground Chardonnay
シェヘイレム・マウンテンズAVA
軽い樽感、ミネラル、酸高い、柑橘、バランス良く美味しい
ワイン4
Matthews Winery ソーヴィニヨン・ブラン 2022
再生型の認証も取っているワイナリー。Horse Heaven HillsとYakima Valley
ステンレススティールと樽を両方使っています。フルMLF
黄色い花や柑橘、ネクタリン、酸高くミネラル感ありおいしい
ワイン5
Grosgrain Vineyard Carignan 2022
ちょっとラスティックな赤果実、酸高く、凝縮感は低い。ちょっとナチュラル的なワイルドな風味
ワイン6
Grochau Cellars Gamay/Pinot 2023
ガメイはオレゴンの3%ですが増えています。ブルゴーニュより環境的には上かもしれません。
イチゴの香り、きれいな果実味、少し青果実も。タンニン低く、酸高い、ボディはミディアム
ワイン7
Granivlle Wines Koosah Vineyard Pinot Noir 2023
イオラ・アミティ・ヒルズで最も標高が高いところ(700フィート)に畑があります。オーガニック栽培。全房も使っていて柔らかく抽出しています。
赤い果実ときれいな高い酸、バランス良い、複雑さは強くないが美味しい
ワイン8
Ambar Estate Granville Pinot Noir 2022
ダンディ・ヒルズ、非常に涼しいヴィンテージ
再生型認証や有機認証取得
除梗して優しく抽出、スキンコンタクト21日 新樽30%
赤果実、レッドチェリー、少し黒果実、ミネラル感と複雑さ。ボディは強くないが複雑で美味しい
ワイン9
Boedecker Cellars Shea Vineyard Pinot Noir 2021
ヤムヒルカールトンの畑、50%新樽
レッドチェリーに濃厚なプラムの風味、熟した印象強い。酸は高くバランスはいい
ワイン10
Long Shardows Red Blend Piroutte 2020
カシスやブラックベリー、プラム、酸高く、ボディもやや強い、タンニンきめ細かい
ワインメーカーがフィリップ・メリカ
ワイン11
L'Ecole N.41 Ferguson Estate 2021
きれいで上品、タンニン強いがスムーズな味わい
ワイン12
Hedges Family Estate La Haute Cuvee 2020
沖積扇状地。最も暑く、風が強いAVA
煮詰めたプラム、濃く芳醇で酸高い。タンニン強くしなやか。ミネラル感、かなり良い
天然酵母、フレンチとアメリカンオーク 28カ月 新樽45%
もう1カ月も前になりますが、杉本隆英・美代子夫妻がプロデュースするシャトー・イガイタカハが20周年を迎え、パーティが開かれました。
90名ほどが出席した豪勢なパーティで、ワインはもちろん尾崎牛のグリルなど料理も素晴らしかったです。そして、CWFC(カリフォルニアワインのファンクラブ)時代からの知り合いにもお会いできて旧交を温められました。
事前に、スピーチをお願いされていたので気楽に承諾していたのですが、スピーチに登場するのが尾崎牛の尾崎宗春さんや、俳優の石田純一さんなどすごい方ばかりで、一人普通の人ですみませんという感じでした。
その代わり、私にしかできない話をしようと、杉本さんとの最初の出会いや、CWFCの話などをさせていただきました。
CWFCでは私は副会長という肩書でした。杉本さんはワイン会を東京や関西、カリフォルニアなどで開き、麻布十番のCWGなどカリフォルニアワインのレストランというリアルの場を提供するのが得意ですし、杉本さんにしかできないこと。私は、サイトの「掲示板」でいろいろな方々からの質問に答えるオンライン担当、みたいな役割分担が自然にできて、それがCWFCがうまく運営されたいた(と思っています)理由ではないかと考えています。今も私は、相変わらずブログを書き、杉本さんはワイン造りをプロデュースしながら日本各地でワイン会を開くという、違う道を歩んでいますが、カリフォルニアワインを盛り上げたいという気持ちは今も共通で持っていると思います。
というようなことを話したと思います。
今後はインポーターであるワインライフ株式会社の方は、CWGからの番頭である菅原さんが社長として切り盛りするということで、杉本夫妻はこれまで以上にシャトー・イガイタカハにフォーカスしていくことになるそうです。
ますますのご活躍を祈念します。
90名ほどが出席した豪勢なパーティで、ワインはもちろん尾崎牛のグリルなど料理も素晴らしかったです。そして、CWFC(カリフォルニアワインのファンクラブ)時代からの知り合いにもお会いできて旧交を温められました。
事前に、スピーチをお願いされていたので気楽に承諾していたのですが、スピーチに登場するのが尾崎牛の尾崎宗春さんや、俳優の石田純一さんなどすごい方ばかりで、一人普通の人ですみませんという感じでした。
その代わり、私にしかできない話をしようと、杉本さんとの最初の出会いや、CWFCの話などをさせていただきました。
CWFCでは私は副会長という肩書でした。杉本さんはワイン会を東京や関西、カリフォルニアなどで開き、麻布十番のCWGなどカリフォルニアワインのレストランというリアルの場を提供するのが得意ですし、杉本さんにしかできないこと。私は、サイトの「掲示板」でいろいろな方々からの質問に答えるオンライン担当、みたいな役割分担が自然にできて、それがCWFCがうまく運営されたいた(と思っています)理由ではないかと考えています。今も私は、相変わらずブログを書き、杉本さんはワイン造りをプロデュースしながら日本各地でワイン会を開くという、違う道を歩んでいますが、カリフォルニアワインを盛り上げたいという気持ちは今も共通で持っていると思います。
というようなことを話したと思います。
今後はインポーターであるワインライフ株式会社の方は、CWGからの番頭である菅原さんが社長として切り盛りするということで、杉本夫妻はこれまで以上にシャトー・イガイタカハにフォーカスしていくことになるそうです。
ますますのご活躍を祈念します。

UCデーヴィスが学生が造ったワインを初めて市販します。ワインのブランドは「Hilgard631」。Hilgardは土壌科学者、ブドウ栽培家、そしてカリフォルニア農業の成功の基盤を築き続けてきた大学農業試験場(AES)の初代所長を務めたユージン・ヒルガード博士に敬意を表して名付けられました。631という数字は、UCデーヴィスのLEEDプラチナム認証を受けた教育研究ワイナリーのストリート・アドレスです。このワイナリーは、持続可能性においてこの栄誉を世界で初めて獲得したワイナリーです。
2021年に成立した州法で、ワインを非営利団体に移管して販売する方法が合法になりました。売り上げは学生の奨学金に当てられます。
ブドウ畑はUCデーヴィスの周辺のほか、ナパのオークヴィルのかつてのト・カロン・ヴィンヤードの一部だったオークヴィル・ステーションがあります。オークヴィルの畑からはカベルネ・ソーヴィニヨンとソーヴィニヨン・ブランを販売します。ワインのラベルも学生がカスタムで制作しています。
なお、販売は6月24日、25日、26日、7月10日、24日の五日間。午後2時から午後4時にデーヴィスの教育研究ワイナリーで行います。事前予約などはなく、先着順での販売です。



国内未輸入のナパのワイナリー「INNOVATUS(イノヴェータス)」のセミナーに参加してきました。


INNOVATUSの創設者でワインメーカーのセシル・パークさんは韓国・ソウルの出身。大学を出て2001年に米国に来るまではワインを口にしたこともなかったといいます。そこからUC Davisでワイン造りを勉強し、2007年に韓国人としてはナパ初のワインメーカーになりました。カスタム・クラッシュとして有名なNapa Wine Co.のラボで働き、様々な有名なワイナリーやハイジ・バレットなどのワインメーカーとの経験や試飲を積み重ねました。また、ナパとソノマで40を超える畑を見てきており、有機栽培やサスティナブルの栽培についてもエキスパートです。

ワイナリー名は「イノベーション(変革)」のラテン語。ラベルにはグリフィン(上半身が鷲または鷹で、下半身がライオンという伝説上の生き物)が描かれています。これはナパの起業家精神やセシルのこれまでの歩みの象徴です。韓国出身の女性ワインメーカーとして、日本におけるアキコ・フリーマンさんのようになりたいとのことでした。
変革の意味を持つワイナリー名とマッチする、このワイナリーらしいワインがCuvee(キュヴェ)という赤ワイン。2020年のものを試飲しましたが、57%ピノ・ノワール、37%シラー、6%カベルネ・フランというユニークな構成です。
ピノ・ノワールとシラーのブレンドというと、2000年代前半のピノ・ノワール・ブームで濃いピノ・ノワールがはやったころには、少量のシラーをブレンドしたピノ・ノワールというのが時折見られましたが、ここのように4割近くもシラーを入れるのを見たことがありません。ピノ・ノワールはカーネロス、シラーはカリストガ、カベルネ・フランはオークヴィルと、ナパの有名産地のブドウを使っています。
第一印象は甘草やプルーンの甘い香りでブラック・ペッパーなどのスパイシーさもありシラーらしさが感じられます。ストラクチャーもありますが、重厚なワインではなく、軽やかさが感じられます。美味しいし、面白い。ジェームズ・サックリングが92点を付けています。
白ワインではヴィオニエを作っているのがユニークです。ヴィオニエはナパでは2%にも満たない品種。ヨントヴィルの畑のブドウを使っています。2023年のヴィオニエはサックリング93点。
白い花の香りや白桃など、ヴィオニエらしさがムンムンとしています。アロマティックでバランスよく魅力的。ヴィオニエとして、特別感はありませんが、ナパのヴィオニエという希少価値はあります。
もう一つユニークなのがヴィオニエでスパークリングも作っていることです。100%カーネロスのヴィオニエを使い、瓶内二次発酵による本格的なスパークリング・ワイン。ドサージュは1%以下とドライな造りです。元々スチルワインのヴィオニエにするつもりで造っていたのですが、一次発酵が終わったところで、ピュアさと酸の強さから、スパークリングに向くのではないかと思って作ったワインだそうです。
イースト感少しあり、香りも豊かでフレッシュ。シャルドネベースのスパークリングと比べるとちょっとリッチな感じはあるかなあと思いますが、ヴィオニエらしい香りはあまり感じられませんでした。ユニークなワインだけに、味わい的にももう少しユニークさが欲しい感じはします。ある参加者は、瓶内二次発酵でなく炭酸ガス注入とかで、ヴィオニエのスパークリングにしてみた方が面白いのではないかという意見を言っており、確かにその方が味わいのユニークさは出るかもしれないと思いました。
あとの2本は品種的には珍しいものではありません。
2021年のジンファンデルはソノマヴァレーの86歳の樹齢の畑から。5%カベルネ・ソーヴィニョンを加えて味を引き締めています。
ザクロやレッドチェリーの赤果実の香り。口に含むとブルーベリーっぽさもあります。酸高くタンニンもあり、美味しいジンファンデルです。全房25%使用。
最後は2018年のカベルネ・ソーヴィニヨン。ラザフォードのブドウを使っています。
スパイシー、タニックで華やかなカベルネ・ソーヴィニヨン。美味しいですが、群雄割拠のナパのカベルネの中で特別感を出すのは難しいところに感じました。
キュヴェなどまた飲みたいと思わせてくれるワインもあり、輸入元が出てくることを期待しております。


INNOVATUSの創設者でワインメーカーのセシル・パークさんは韓国・ソウルの出身。大学を出て2001年に米国に来るまではワインを口にしたこともなかったといいます。そこからUC Davisでワイン造りを勉強し、2007年に韓国人としてはナパ初のワインメーカーになりました。カスタム・クラッシュとして有名なNapa Wine Co.のラボで働き、様々な有名なワイナリーやハイジ・バレットなどのワインメーカーとの経験や試飲を積み重ねました。また、ナパとソノマで40を超える畑を見てきており、有機栽培やサスティナブルの栽培についてもエキスパートです。

ワイナリー名は「イノベーション(変革)」のラテン語。ラベルにはグリフィン(上半身が鷲または鷹で、下半身がライオンという伝説上の生き物)が描かれています。これはナパの起業家精神やセシルのこれまでの歩みの象徴です。韓国出身の女性ワインメーカーとして、日本におけるアキコ・フリーマンさんのようになりたいとのことでした。
変革の意味を持つワイナリー名とマッチする、このワイナリーらしいワインがCuvee(キュヴェ)という赤ワイン。2020年のものを試飲しましたが、57%ピノ・ノワール、37%シラー、6%カベルネ・フランというユニークな構成です。
ピノ・ノワールとシラーのブレンドというと、2000年代前半のピノ・ノワール・ブームで濃いピノ・ノワールがはやったころには、少量のシラーをブレンドしたピノ・ノワールというのが時折見られましたが、ここのように4割近くもシラーを入れるのを見たことがありません。ピノ・ノワールはカーネロス、シラーはカリストガ、カベルネ・フランはオークヴィルと、ナパの有名産地のブドウを使っています。
第一印象は甘草やプルーンの甘い香りでブラック・ペッパーなどのスパイシーさもありシラーらしさが感じられます。ストラクチャーもありますが、重厚なワインではなく、軽やかさが感じられます。美味しいし、面白い。ジェームズ・サックリングが92点を付けています。
白ワインではヴィオニエを作っているのがユニークです。ヴィオニエはナパでは2%にも満たない品種。ヨントヴィルの畑のブドウを使っています。2023年のヴィオニエはサックリング93点。
白い花の香りや白桃など、ヴィオニエらしさがムンムンとしています。アロマティックでバランスよく魅力的。ヴィオニエとして、特別感はありませんが、ナパのヴィオニエという希少価値はあります。
もう一つユニークなのがヴィオニエでスパークリングも作っていることです。100%カーネロスのヴィオニエを使い、瓶内二次発酵による本格的なスパークリング・ワイン。ドサージュは1%以下とドライな造りです。元々スチルワインのヴィオニエにするつもりで造っていたのですが、一次発酵が終わったところで、ピュアさと酸の強さから、スパークリングに向くのではないかと思って作ったワインだそうです。
イースト感少しあり、香りも豊かでフレッシュ。シャルドネベースのスパークリングと比べるとちょっとリッチな感じはあるかなあと思いますが、ヴィオニエらしい香りはあまり感じられませんでした。ユニークなワインだけに、味わい的にももう少しユニークさが欲しい感じはします。ある参加者は、瓶内二次発酵でなく炭酸ガス注入とかで、ヴィオニエのスパークリングにしてみた方が面白いのではないかという意見を言っており、確かにその方が味わいのユニークさは出るかもしれないと思いました。
あとの2本は品種的には珍しいものではありません。
2021年のジンファンデルはソノマヴァレーの86歳の樹齢の畑から。5%カベルネ・ソーヴィニョンを加えて味を引き締めています。
ザクロやレッドチェリーの赤果実の香り。口に含むとブルーベリーっぽさもあります。酸高くタンニンもあり、美味しいジンファンデルです。全房25%使用。
最後は2018年のカベルネ・ソーヴィニヨン。ラザフォードのブドウを使っています。
スパイシー、タニックで華やかなカベルネ・ソーヴィニヨン。美味しいですが、群雄割拠のナパのカベルネの中で特別感を出すのは難しいところに感じました。
キュヴェなどまた飲みたいと思わせてくれるワインもあり、輸入元が出てくることを期待しております。

ジャン・シャルル・ボワセのワイナリーであるナパのレイモンド(Raymond)とソノマのデローチ(DeLoach)が木曜日と日曜日に無料テイスティングを提供すると発表しました。テイスティング・フィーが高騰する中での大胆な方策が注目されます。
「私たちは、人々をワインの世界へと導くために存在しています。教育と楽しみが、あらゆる年齢層の次世代のワイン消費者を刺激する力になると信じています。私たちのワイナリーは、つながり、インスピレーション、知識、そして興奮を生み出すプラットフォームです」とジャン・シャルル・ボワセは語っています。
テイスティングの監修を務めたのはボワセ・コレクションのゲスト体験担当副社長のクレア・トゥーリーMW(写真右)。「今こそ、ワインコミュニティがオープンで、インクルーシブで、魅力的で、刺激的な存在であることを世界に発信することが、これまで以上に重要になっています」と語っています。
デローチではワイナリーとロシアン・リバー・ヴァレーのつながりを紹介する試飲でピノ・ノワールとシャルドネ、ジンファンデルが提供されます。ビオディナミなどの栽培についても解説しています。
レイモンドではソーヴィニョン・ブラン、シャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニョンから3種類が提供されます。ビオディナミの畑から自然の劇場、そしてプライベートな香水感覚庭園までを巡り、自然の美しさと静けさに囲まれたワイナリーツアーとワインの試飲で締めくくる「感覚の旅:ブドウ園、庭園、ワイナリーの没入型ツアー」など、新たな没入型体験を生み出しました。
6月6日と7日にオークション・ナパヴァレーが開かれました。総落札額は650万ドルで、これらは地域のチャリティ用、具体的には青少年のに使われます。6日のバレル・オークションはルイ・M・マルティニで、7日のライブ・オークションはシャンドンで行われました。入札はリアルのほかオンラインでも受け付けました。バレル・オークションでは700人を超える人がオンラインで入札したといいます。

土曜日のライブ・オークション上位ロットには、シャペレー・ヴィンヤード、プリド・ウォーカー、カーディナル、アルファ・オメガ、シェーファー、ピーター・マイケル、Bセラーズ、ダリオッシュ、セブン・ストーンズ、エルマンからの出品が含まれていました。
金曜日のバレル・オークションでは、アンティノリとスタッグス・リープ・ワインセラーズ、アルファ オメガとブシェーヌ、サン・スペリーとシャネル、ダリオッシュとザ ・ワールド、ケンゾー・エステートが上位ロットでした。

土曜日のライブ・オークション上位ロットには、シャペレー・ヴィンヤード、プリド・ウォーカー、カーディナル、アルファ・オメガ、シェーファー、ピーター・マイケル、Bセラーズ、ダリオッシュ、セブン・ストーンズ、エルマンからの出品が含まれていました。
金曜日のバレル・オークションでは、アンティノリとスタッグス・リープ・ワインセラーズ、アルファ オメガとブシェーヌ、サン・スペリーとシャネル、ダリオッシュとザ ・ワールド、ケンゾー・エステートが上位ロットでした。
18世紀に遡る歴史を持つというブルゴーニュのド・モンティーユ家(現代のワイン造りは1947年から)。現在の当主のエティエンヌは挑戦的な人で、最近では北海道でもワイン造りを始めていますが、彼がブルゴーニュ外で最初に作ったワイナリーがサンタ・バーバラのラシーヌ(Racines)です。そのエティエンヌが来日し、セミナーに参加してきました。
実は、ブルゴーニュのド・モンティーユのスタッフは半数以上はフランス以外の国の人だそうです。彼らは皆、世界でシャルドネややピノ・ノワールがどう栽培されているのかについて非常に興味を持っています。さまざまなバックグラウンドの人たちの専門知識を資産としています。その一人が米国出身のワインメーカーであるブライアン・シーヴ。2010年にド・モンティーユのセラーマスターになりました。
ブライアンなどと、どこがピノ・ノワールとシャルドネに向いているか、エレガントでフレッシュなシャルドネとピノ・ノワールが作れるのか考えました。フランスではマコンやラングドック、ジュラなども可能性はあると思いましたが、素晴らしいポテンシャルを持ったテロワールはどこにあるかを、まず米国で始めてみよう、だめだったら南半球を探してみよう、ということになりました。
そこで、エティエンヌとブライアンは1カ月かけて米国西海岸の4カ所の産地を回りました。その4カ所はオレゴンのウィラメット・ヴァレー、カリフォルニアのソノマ・コースト、サンタ・クルーズ・マウンテンズ、そしてサンタ・バーバラのサンタ・リタ・ヒルズです。ワインを試飲し、畑を見て回りました。どこも素晴らしいワインを作っていましたが、中でももっとも面白いのはサンタ・リタ・ヒルズだと思いました。その理由は、この4カ所のうちで一番冷涼であることと、土壌の多様さです。
サンタ・リタ・ヒルズはこの4カ所の中で一番南にあります。それでも一番冷涼なのは太平洋からの冷気を直接浴びる産地だからです。カリフォルニアの沿岸は寒流が流れており、海水の温度は非常に低くなります。ただ沿岸に沿って南北に沿岸山脈があり、それによって冷気が遮られるため、内陸の気温は高くなります。サンタ・リタ・ヒルズのところは沿岸山脈が東西向きになり、西からの冷気が遮るものなく入ってきます。これが、サンタ・リタ・ヒルズが北の産地よりも冷涼になる理由です。
ただ、内陸に進むとどんどん気温が上がります。1マイル(1.6km)内陸に行くと華氏で1度(摂氏0.4度ほど)気温が上がると言われています。したがって畑がどこにあるかが非常に重要になります。
第2の理由の土壌の多様さですが、サンタ・リタ・ヒルズには三つの主要な土壌があります。一つは砂、一つは粘土、そして三つ目が石灰質の土壌です。石灰質といってもブルゴーニュに見られる石灰岩ではなく、珪藻による珪藻土ですが、化学的特徴は似ています。余談ですが、サンタ・リタ・ヒルズでエレガントなシャルドネを造るワイナリーの名称「ダイアトム(Diatom)」は珪藻という意味です。
米国では数少ない石灰質の土壌があることと畑の向きや海からの距離で多様性が生まれるといったテロワールによって、この土地を選びました。
ワイナリーの設立は2016年、ワイン造りは2017年に始まりました。ウェンズロー(Wenzlau)とド・モンティーユ・エステート(De Montille Estate)の二つの自社畑があります。ウェンズローの方は既に単一畑ものが出ていますが、ド・モンティーユの方は植樹が2019年と若く、今後自社畑としてリリースしていく予定です。それ以外に、銘醸畑として知られるサンフォード&ベネディクト(Sanford & Bennedict)やラ・リンコナーダ(La Rinconada)など様々な栽培家からブドウを調達していると言います。ワインの醸造はサンタ・リタ・ヒルズ西側のロンポックにあるワイン・ゲットーという多くのワイナリーが集結している一種のカスタム・クラッシュで行っています。2026年には専用の醸造設備とテイスティングルームもできるとのことです。

ワインの試飲に入ります。
最初はスパークリングです。ラシーヌにはエティエンヌとブライアンのほか、シャンパーニュのピエール・ペテルスの醸造家で、様々なコンサルティングも手掛けているロドルフ・ペテルスも参画しています。ブラン・ド・ブランのエクストラ・ブリュットが造れるところを探していて、海からの潮風で塩味のニュアンスが出るサンタ・リタ・ヒルズが好適地だと考えたそうです。ロドルフは完璧主義で、収穫時のpHや醸造などについて極めて細かく指示を出しており、その通りに作っています。
1. NV Grand Reserve Chardonnay Sparkling Wine Sta. Rita Hills(希望小売価格、税抜き1万2500円、以下同)
ノンヴィンテージですが、今回のものは2020年をベースにして2018年と2019年のリザーブ・ワインが半分使われています。リザーブのワインはソレラになっているそうです。ドサージュは4g/Lとエクストラ・ブリュットになっています。畑は自社畑のウェンズローのほか、サンフォードが持つサンフォード&ベネディクトとラ・リンコナーダ、ザ・ヒルトが持つベントロック(Bentrock)のシャルドネを使っています。
イーストやブリオッシュ、青リンゴやレモンの香り。酸高く泡のきめ細かさを感じます。フレッシュでアフターに少し塩っぽさがあります。とてもきれいなブラン・ド・ブランらしいスパークリング。
エティエンヌがこのワインを家で友人に振る舞うと、ほとんどの人がシャンパーニュのブラン・ド・ブランだと思うそうです。最近はネタバレしてしまって、引っかかってくれなくなってしまったそうですが。
スパークリングとしては2026年に単一畑、単一ヴィンテージのものを出す予定です。2018年のワインでディスゴージまで6年熟成させています。より深い味わいになっているとのことです。
スパークリングの後はシャルドネ4種です。一つはサンタ・リタ・ヒルズのAVAもので、あとの3つは単一畑です。シャルドネの醸造はブルゴーニュとほとんど同じ手順を踏みます。収穫は夜間、人手で摘んでいます。ゆっくりとプレスし、澱とのコンタクトを長く保ちます。発酵は半分は小樽で半分は600Lのパンチョンを使います。樽はフランス製です。新樽はAVAもので10%、単一畑では20~25%。澱とともにステンレスタンクに移して5カ月熟成して瓶詰めします。
瓶詰め前に清澄をかけますが、面白いのはそのときにサンプルをブルゴーニュに送って、ブルゴーニュでどのように清澄するのかを決めているのだそうです。
AVAもののサンタ・リタ・ヒルズ・キュベはこのAVAの3種類の土壌のブドウをブレンドしています、このAVAのテロワールが感じられるワインです。
2. Sta. Rita Hills Cuvee Chardonnay 2020(1万500円)
熟した柑橘の風味、オレンジピールのようなちょっとした苦み、クリーム・ブリュレ。酸やや高くクリーミーで美味しい。
3. Wenslau Vineyard Chardonnay 2020(1万7500円)
ウェンズラウは砂質の土壌です。
クリーミーでフレッシュ、よりハーブの香りやアフターの塩味が感じられます。白桃の熟したニュアンスもあり、個性的です。
4. Bentrock Vineyard Chardonnay 2020(2万円)
ベントロックはザ・ヒルトの畑でサンタ・リタ・ヒルズの中では西寄りの涼しいところにあります。ここはアルカリ性の土壌です。
鮮烈な酸があり、柑橘の風味とハーブの香りが強く感じられます。一番ミネラル感が感じられるワイン
5. Sanford&Benedict Chardonnay 2020(2万円)
サンフォード&ベネディクトはサンタ・リタ・ヒルズで一番古い畑であり、銘醸畑として知られています。土壌は粘土質です。
少しオイリーなニュアンス、柑橘から白桃を感じます、他のシャルドネよりちょっとボリューム感があります。
4つのシャルドネに共通するのはフレッシュ感とミネラル感。アルコール度数は12.8~13.2(S&B)と現在のブルゴーニュよりも低くなっています。
ピノ・ノワールの試飲に移ります。
ピノ・ノワールのワイン造りもブルゴーニュとほぼ同じです。全房をやや多く使うのが特徴です。30%程度使っているとのこと。新樽率は15~20%。優しい抽出をこころがけていて、果帽の管理ではパンチダウンよりもポンピングオーバーを多くやるそうです。パンチダウンは果帽に圧力をかけることになるので全房の茎からの抽出が強くなってしまいます。ポンピングオーバーの方が自然な抽出ができるとのこと。
試飲ワインはシャルドネと同様、4種類です。
6. Sta. Rita Hills Cuvee Pinot Noir 2020(1万1500円)
シャルドネ同様、三つの土壌のブドウを組み合わせています。
ラズベリーやクランベリー。ちょっとグリップ感というか青っぽさを感じるのは全房のためでしょうか、エレガントですがチューイーな魅力もあります。
7. Saint Rose Pinot Noir 2020(1万6000円)
これは単一畑ではなくサンタ・リタ・ヒルズ・キュベの中から8~10樽を選んだものになります。
AVAものよりもより果実味が前面に出ていて明るい味わい。タンニンの一体感や余韻も感じられます。
8. La Rinconada Vineyard Pinot Noir 2019(1万8000円)
ここは砂利質でアルカリ性の土壌です。
ラズベリーやクランベリー、エレガントでしなやかなテクスチャー。シナモンのようなスパイスもわずかに感じられます。全房率は2/3くらいと高くなっています。
9. Sanford&Benedict Pinot Noir 2020(2万2000円)
粘土質の土壌です。La RinconadaとSanford&Benedictは隣り合った畑なのですが、土壌が異なるのが興味深いです。
ラシーヌでは1971年に植えたオリジナルプランティングの一部をもらっているそうです。
色濃く、赤果実にブラックベリーなど黒果実の風味、シナモン、複雑さが一番多くあり、非常に美味しい
ラシーヌのワインは、アルコール度数抑え目ですが、きっちり風味もあり、エレガントで美味しいものがそろっています。カリフォルニアのシャルドネ、ピノ・ノワールの中では、ブルゴーニュの名家が手掛けていることもあり、珍しくフランスワインファンにも人気の高いワインとなっています。
実はサンタ・リタ・ヒルズのワインは比較的アルコール度数は高くなりがち(非常に冷涼ですが太陽は当たるため、風味の成熟を待つと糖度も上がりがち)なのですが、それをうまく抑えているところが、非常に上手だと感じました。品質も安定して高く、安心して飲めるという点で、人気が高いのもなるほどと思わせるものがありました。
実は、ブルゴーニュのド・モンティーユのスタッフは半数以上はフランス以外の国の人だそうです。彼らは皆、世界でシャルドネややピノ・ノワールがどう栽培されているのかについて非常に興味を持っています。さまざまなバックグラウンドの人たちの専門知識を資産としています。その一人が米国出身のワインメーカーであるブライアン・シーヴ。2010年にド・モンティーユのセラーマスターになりました。
ブライアンなどと、どこがピノ・ノワールとシャルドネに向いているか、エレガントでフレッシュなシャルドネとピノ・ノワールが作れるのか考えました。フランスではマコンやラングドック、ジュラなども可能性はあると思いましたが、素晴らしいポテンシャルを持ったテロワールはどこにあるかを、まず米国で始めてみよう、だめだったら南半球を探してみよう、ということになりました。
そこで、エティエンヌとブライアンは1カ月かけて米国西海岸の4カ所の産地を回りました。その4カ所はオレゴンのウィラメット・ヴァレー、カリフォルニアのソノマ・コースト、サンタ・クルーズ・マウンテンズ、そしてサンタ・バーバラのサンタ・リタ・ヒルズです。ワインを試飲し、畑を見て回りました。どこも素晴らしいワインを作っていましたが、中でももっとも面白いのはサンタ・リタ・ヒルズだと思いました。その理由は、この4カ所のうちで一番冷涼であることと、土壌の多様さです。
サンタ・リタ・ヒルズはこの4カ所の中で一番南にあります。それでも一番冷涼なのは太平洋からの冷気を直接浴びる産地だからです。カリフォルニアの沿岸は寒流が流れており、海水の温度は非常に低くなります。ただ沿岸に沿って南北に沿岸山脈があり、それによって冷気が遮られるため、内陸の気温は高くなります。サンタ・リタ・ヒルズのところは沿岸山脈が東西向きになり、西からの冷気が遮るものなく入ってきます。これが、サンタ・リタ・ヒルズが北の産地よりも冷涼になる理由です。
ただ、内陸に進むとどんどん気温が上がります。1マイル(1.6km)内陸に行くと華氏で1度(摂氏0.4度ほど)気温が上がると言われています。したがって畑がどこにあるかが非常に重要になります。
第2の理由の土壌の多様さですが、サンタ・リタ・ヒルズには三つの主要な土壌があります。一つは砂、一つは粘土、そして三つ目が石灰質の土壌です。石灰質といってもブルゴーニュに見られる石灰岩ではなく、珪藻による珪藻土ですが、化学的特徴は似ています。余談ですが、サンタ・リタ・ヒルズでエレガントなシャルドネを造るワイナリーの名称「ダイアトム(Diatom)」は珪藻という意味です。
米国では数少ない石灰質の土壌があることと畑の向きや海からの距離で多様性が生まれるといったテロワールによって、この土地を選びました。
ワイナリーの設立は2016年、ワイン造りは2017年に始まりました。ウェンズロー(Wenzlau)とド・モンティーユ・エステート(De Montille Estate)の二つの自社畑があります。ウェンズローの方は既に単一畑ものが出ていますが、ド・モンティーユの方は植樹が2019年と若く、今後自社畑としてリリースしていく予定です。それ以外に、銘醸畑として知られるサンフォード&ベネディクト(Sanford & Bennedict)やラ・リンコナーダ(La Rinconada)など様々な栽培家からブドウを調達していると言います。ワインの醸造はサンタ・リタ・ヒルズ西側のロンポックにあるワイン・ゲットーという多くのワイナリーが集結している一種のカスタム・クラッシュで行っています。2026年には専用の醸造設備とテイスティングルームもできるとのことです。

ワインの試飲に入ります。
最初はスパークリングです。ラシーヌにはエティエンヌとブライアンのほか、シャンパーニュのピエール・ペテルスの醸造家で、様々なコンサルティングも手掛けているロドルフ・ペテルスも参画しています。ブラン・ド・ブランのエクストラ・ブリュットが造れるところを探していて、海からの潮風で塩味のニュアンスが出るサンタ・リタ・ヒルズが好適地だと考えたそうです。ロドルフは完璧主義で、収穫時のpHや醸造などについて極めて細かく指示を出しており、その通りに作っています。
1. NV Grand Reserve Chardonnay Sparkling Wine Sta. Rita Hills(希望小売価格、税抜き1万2500円、以下同)
ノンヴィンテージですが、今回のものは2020年をベースにして2018年と2019年のリザーブ・ワインが半分使われています。リザーブのワインはソレラになっているそうです。ドサージュは4g/Lとエクストラ・ブリュットになっています。畑は自社畑のウェンズローのほか、サンフォードが持つサンフォード&ベネディクトとラ・リンコナーダ、ザ・ヒルトが持つベントロック(Bentrock)のシャルドネを使っています。
イーストやブリオッシュ、青リンゴやレモンの香り。酸高く泡のきめ細かさを感じます。フレッシュでアフターに少し塩っぽさがあります。とてもきれいなブラン・ド・ブランらしいスパークリング。
エティエンヌがこのワインを家で友人に振る舞うと、ほとんどの人がシャンパーニュのブラン・ド・ブランだと思うそうです。最近はネタバレしてしまって、引っかかってくれなくなってしまったそうですが。
スパークリングとしては2026年に単一畑、単一ヴィンテージのものを出す予定です。2018年のワインでディスゴージまで6年熟成させています。より深い味わいになっているとのことです。
スパークリングの後はシャルドネ4種です。一つはサンタ・リタ・ヒルズのAVAもので、あとの3つは単一畑です。シャルドネの醸造はブルゴーニュとほとんど同じ手順を踏みます。収穫は夜間、人手で摘んでいます。ゆっくりとプレスし、澱とのコンタクトを長く保ちます。発酵は半分は小樽で半分は600Lのパンチョンを使います。樽はフランス製です。新樽はAVAもので10%、単一畑では20~25%。澱とともにステンレスタンクに移して5カ月熟成して瓶詰めします。
瓶詰め前に清澄をかけますが、面白いのはそのときにサンプルをブルゴーニュに送って、ブルゴーニュでどのように清澄するのかを決めているのだそうです。
AVAもののサンタ・リタ・ヒルズ・キュベはこのAVAの3種類の土壌のブドウをブレンドしています、このAVAのテロワールが感じられるワインです。
2. Sta. Rita Hills Cuvee Chardonnay 2020(1万500円)
熟した柑橘の風味、オレンジピールのようなちょっとした苦み、クリーム・ブリュレ。酸やや高くクリーミーで美味しい。
3. Wenslau Vineyard Chardonnay 2020(1万7500円)
ウェンズラウは砂質の土壌です。
クリーミーでフレッシュ、よりハーブの香りやアフターの塩味が感じられます。白桃の熟したニュアンスもあり、個性的です。
4. Bentrock Vineyard Chardonnay 2020(2万円)
ベントロックはザ・ヒルトの畑でサンタ・リタ・ヒルズの中では西寄りの涼しいところにあります。ここはアルカリ性の土壌です。
鮮烈な酸があり、柑橘の風味とハーブの香りが強く感じられます。一番ミネラル感が感じられるワイン
5. Sanford&Benedict Chardonnay 2020(2万円)
サンフォード&ベネディクトはサンタ・リタ・ヒルズで一番古い畑であり、銘醸畑として知られています。土壌は粘土質です。
少しオイリーなニュアンス、柑橘から白桃を感じます、他のシャルドネよりちょっとボリューム感があります。
4つのシャルドネに共通するのはフレッシュ感とミネラル感。アルコール度数は12.8~13.2(S&B)と現在のブルゴーニュよりも低くなっています。
ピノ・ノワールの試飲に移ります。
ピノ・ノワールのワイン造りもブルゴーニュとほぼ同じです。全房をやや多く使うのが特徴です。30%程度使っているとのこと。新樽率は15~20%。優しい抽出をこころがけていて、果帽の管理ではパンチダウンよりもポンピングオーバーを多くやるそうです。パンチダウンは果帽に圧力をかけることになるので全房の茎からの抽出が強くなってしまいます。ポンピングオーバーの方が自然な抽出ができるとのこと。
試飲ワインはシャルドネと同様、4種類です。
6. Sta. Rita Hills Cuvee Pinot Noir 2020(1万1500円)
シャルドネ同様、三つの土壌のブドウを組み合わせています。
ラズベリーやクランベリー。ちょっとグリップ感というか青っぽさを感じるのは全房のためでしょうか、エレガントですがチューイーな魅力もあります。
7. Saint Rose Pinot Noir 2020(1万6000円)
これは単一畑ではなくサンタ・リタ・ヒルズ・キュベの中から8~10樽を選んだものになります。
AVAものよりもより果実味が前面に出ていて明るい味わい。タンニンの一体感や余韻も感じられます。
8. La Rinconada Vineyard Pinot Noir 2019(1万8000円)
ここは砂利質でアルカリ性の土壌です。
ラズベリーやクランベリー、エレガントでしなやかなテクスチャー。シナモンのようなスパイスもわずかに感じられます。全房率は2/3くらいと高くなっています。
9. Sanford&Benedict Pinot Noir 2020(2万2000円)
粘土質の土壌です。La RinconadaとSanford&Benedictは隣り合った畑なのですが、土壌が異なるのが興味深いです。
ラシーヌでは1971年に植えたオリジナルプランティングの一部をもらっているそうです。
色濃く、赤果実にブラックベリーなど黒果実の風味、シナモン、複雑さが一番多くあり、非常に美味しい
ラシーヌのワインは、アルコール度数抑え目ですが、きっちり風味もあり、エレガントで美味しいものがそろっています。カリフォルニアのシャルドネ、ピノ・ノワールの中では、ブルゴーニュの名家が手掛けていることもあり、珍しくフランスワインファンにも人気の高いワインとなっています。
実はサンタ・リタ・ヒルズのワインは比較的アルコール度数は高くなりがち(非常に冷涼ですが太陽は当たるため、風味の成熟を待つと糖度も上がりがち)なのですが、それをうまく抑えているところが、非常に上手だと感じました。品質も安定して高く、安心して飲めるという点で、人気が高いのもなるほどと思わせるものがありました。

先日の記事のこぼれ話ですが、コルギンはプリチャード・ヒルに新しい畑を開墾しているそうです。おそらく、上の地図で「新しい畑」と記したところがそこだと思います。
コルギンのプリチャード・ヒルの地所は137エーカーあります。現在のIX Estateの畑は20エーカーで、地所全体の15%ほどに過ぎません。新しい畑は、地所の中のこれまで森だったところで、小川を挟んでIX Estateの反対側の丘にあります。プリチャード・ヒルは大きく分けると2つの丘からなるのですが、これは北東側の丘で、シャペレー(Chappellet)やコンティニュアム(Continuum)などああります。新しい畑はメランソン(Melanson)とコンティニュアムに挟まれた辺りになります。
土壌的にはIX Estateと同様、岩がごろごろしています。当初3年間は気温がIX Estateとどう変わるかなどを調べ、2016年から開墾を始めています。これまでの畑と大きく異なるのは斜面が北西向きであること。斜面は非常に急で低いところと高いところの標高差は80mくらいあるようです。気温はIX Estateより華氏1度くらい高くなるとのこと。
畑の面積は27ヘクタールほどと、IX Estateよりも広くなります。
植樹は5年前と2年前に行っています。2023年には5年前に植樹したブロックから1エーカーあたり0.65トンという極少量だけ収穫。2024年には1.5トン/エーカーと少し増えてきました。これらは発酵して現在樽に入っていますが、どうするかはまだ決めていません。おそらく最初はジュビレーションに使っていくことになると思います。
畑の名前は、現状IX Estate Eastと呼んでいますが、正式には決まっていません。
品種はカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フラン、また少量のシラーを植えています。
こちらがどういうワインになっていくのか、また興味深いです。
ナパの超高級ワイン「コルギン・セラーズ(Colgin Cellars)」からCOOのニール・ベルナルディMWが来日し、ランチセミナーに参加してきました。
ニール・ベルナルディさんはUC Davisで学び、ニュージーランドやオレゴン、ワシントンでワインメーカーの経歴を積み、カリフォルニアではリトライを経てダックホーンの主任ワインメーカーを務めていました。15年間の間にマイグレーションやコスタ・ブラウンでのワイン造りなども経験してきました。2018年にはワイン・エンスージアスト誌の「40歳以下の40人」にも選ばれています。マスター・オブ・ワインには2024年に合格しています。ちなみに、マスター・オブ・ワインの論文テーマは「瓶内二次発酵のスパークリング・ワインにおける澱の攪拌の官能的影響」で、「かなりマニアックな内容」だそうです。コルギンで働き始めたのは2023年で、ナパのトップワイナリーで働けることが嬉しいと、素直に語っていました。
コルギンの創設者で現在の会長はアン・コルギンさん。美術品のオークショニアでサザビーズ・ロンドンで働いていました。ワイナリーは1992年創設。当時の夫は後にシュレーダー・セラーズを造ったフレッド・シュレーダー。当初はセント・ヘレナ東方(昨年策定されたクリスタル・スプリングスAVA内)のハーブ・ラムという畑のカベルネ・ソーヴィニヨンを作っており、初代ワインメーカーはヘレン・ターリーでした。
その後、フレッドともヘレンとも決別し、ハーブ・ラムも契約が切れて、新生コルギンがスタートしました。1996年にティクソン・ヒル(Tychson Hill)の一部を購入、1998年にはプリチャード・ヒルにIX Estate(ナンバーナイン・エステート)という畑を切り開きました(2002年が初ヴィンテージ)。アン・コルギンは9という数字が好きで、今の夫でCEOのジョー・ウェンダーと結婚したのも9月9日でした。ワインメーカーはマーク・オーベールを経てアリソン・トージエ(Allison Tauziet)が2007年から務めています。2017年にはLVMH傘下に入りましたが、コルギン夫妻が変わらずにワイナリーの指揮を取っています。

さて、アン・コルギンさんといえば深紅の衣装がトレードマーク。衣装だけでなく深紅にこだわりを持っています。1997年のワイン・スペクテーターの記事には次のように書かれています。

ちなみに、コルギンのロゴ、「O」の書体が横に向いています。これは彼女の唇を模しているのではないかと思っているのですが、ベルナルディさんは理由を「聞いたことがない」とのことでした。「今度聞いてみてね」と言っておきましたがどうでしょうか。
この赤い色のように「情熱的で魅力的、信じられないほどのワインパーソナリティであって、ナパの最上、すなわち世界の最上のワインを造るというしっかりとしたビジョンを持っている」というのがベルナルディさんの見るアン・コルギンさんです。

コルギンは現在、3つの畑から、カベルネ・ソーヴィニヨン系ブレンドワインを造っており、IX Estateからはシラーも作っています。また、セカンドワインとしてジュビレーション(Jubilation)というカベルネ系ワインを造っています。これら赤ワイン5種が全ラインアップです。
三つの畑のうちティクソン・ヒルとカリアド(Cariad)はセント・ヘレナAVAに属しています。IX EstateはAVAとしてはナパヴァレーですが、プリチャード・ヒルと呼ばれるエリアの畑です。ティクソン・ヒルとカリアドはナパヴァレーの西側の山すそであり、プリチャード・ヒルは東側の丘になります。場所は異なりますが、斜面の畑であることと、斜面の向きが東寄りということが共通しています。東向きの斜面は朝日をしっかり浴びますが、夕方の強い日差しをあまり受けないので、西向き斜面よりもワインがエレガントになります。
それぞれの特徴については各ワインのところで説明します。
Jubilation 2021(希望小売価格税抜き5万円、以下同)
コルギンの他のワインが単一畑を基本としているのに対して、これは若く飲んで美味しい樽を選んでブレンドしたものです。単一畑は土地の個性を表現しますが、ブレンドものは「クリエイティビティ」だといいます。ジュビレーションというのは「喜び」や「祝祭」といった意味があります。早く開けて楽しんでもらうワインです。
品種構成は53%CS 26%M 13%CF 8%PV。IX Estateのものが一番多く入っています。
レッド・チェリーにカシスの風味、なめらかなタンニンで、鉄や血のニュアンスを感じました。早飲みタイプといっても軽いワインではなく、複雑でかなりしっかりした味わいを持っています。
Tychson Hill 2021(12万5000円)
ティクソン・ヒルは歴史的に重要な畑です。1881年にナパで最初の女性ワイナリーオーナーだったジョセフィーヌ・ティクソンが開墾した畑です。当時は主にジンファンデルが植えられていました。その後、禁酒法時代にブドウは抜かれましたが、コルギンが新たに畑を作りました。カベルネソーヴィニヨンが中心で、ここのワインだけは品種名が入っています。
セント・ヘレナの街を出て少し北に行ったところで、ナパ・ヴァレーの谷幅が急に狭くなる辺りです。ハイウェイの西側のスプリング・マウンテンの麓の畑です。ハイウェイの脇はかなりフラットに見えますが、山に向かってどんどん斜面が急になります。畑の一番高いところと低いところの差は40m近くあります。土壌は石がゴロゴロしています。火山性の石が多いですが黒曜石もあります。写真はコルギンのサイトから拝借しています。


ブルーベリーの豊かなフレーバーにカシス、コーヒー、たばこ。コルギンのワインの中では唯一青黒果実系の風味が強く、やや骨太の味わいです。酸やや高くバランスがいい。
Cariad 2021(12万5000円)
ティクソン・ヒルとIX Estateはコルギンの自社畑ですが、カリアドはコルギンの畑の管理を請け負っているデイビッド・エイブリューの畑のブドウを使っています。大部分は銘醸畑として名高いマドローナ・ランチ(Madrona Ranch)のブドウで、一部エコトーン(Ecotone)など、他のエイブリューの畑のブドウも入っています。ティクソン・ヒルと同じセント・ヘレナの西よりであり、距離も3kmほどしか離れていませんが、ティクソン・ヒルが火山性中心の土壌であるのの対し、こちらは沖積性。川底が持ち上がったところで、斜面も一様でなくうねったような形になっています。
56%CS 22%CF 14%M 8%PVという構成。

ティクソン・ヒルと比べるとラズベリーやレッド・チェリーなど赤果実の風味を強く感じます。タンニン強くちょっと閉じている印象がありました。飲み頃まで時間かかりそうと感じましたが、同じワインを別の会(一般向けのディナー)で飲んだ方はカリアドを絶賛しておりましたので、ボトル差があったのかもしれません。
IX Estate 2021(12万5000円)
畑は有機栽培をしています。植樹した部分のほかに100エーカーの森が残っています。これは生物多様性や、野生のままの土地と開墾した土地とのバランス。益鳥を呼び寄せるなどの意味があります。
畑は標高335~427mと高く、霧がかからないので、日較差は小さくなります。西向きの斜面の多いプリチャードヒルの中で東向きの急斜面というのが大きな特徴になります。土壌は火山性の玄武岩が崩れたものが中心。土地を購入したときはここは森であり、一から開墾する必要がありました。岩が多く、20万トンもの岩を取り除いたといいます。大きなものではバスくらいのサイズの岩もあったとか。土地の購入費用よりも、開墾の方がコストがかかったそうです。

開墾中は、この大型のトラクター/ブルドーザーがずっと畑にあり、岩を砕いていました。アン・コルギンとジョー・ウェンダーの結婚式のときに、彼女はウェディング・ドレスでこのトラクターに乗って道を降りて行ったのだそうです。
品種比率は不明ですが、カベルネソーヴィニヨンが70%程度でカベルネ・フランが20%程度、メルローとプティ・ヴェルドが残りくらいが通例です。

四つの2021年のワインの中で、圧倒的に華やかさを持っているのがこのワイン。きれいな赤い果実の風味にシルクのようなタンニン。優美で長い余韻。
以前、アン・コルギンさんが来日したときに、コルギンのワインで何を表現したいと考えているか聞いてみたところ「ピュアでエレガントなワイン」と言っていました。そのイメージに一番合うのはやはりIX Estateだと改めて思いました。
IX Estate 2014(14万円)
蔵出しのオールド・ヴィンテージで2014年のものもいただきました。2014年は干ばつの2年目で、ブドウは小さな実を付け凝縮感があるいいヴィンテージでした。この凝縮感のためか、タンニンはシルキーでギュッと詰まったような印象。また10年を過ぎても華やかさは健在。赤果実に熟成によるマッシュルームや皮の香りも出てきています。もう10年は熟成のピークに向かっていくと思います。
実は2014年と2021年、「O」の字の色が変わっています。2017年から色を微妙に変えたとのこと。
最後のワインはIX Estateのシラー2021です(6万5000円)。
アン・コルギンは北ローヌのコートロティやエルミタージュのシラーが好きで、シャーヴからシラーを譲り受けて植えたと以前聞きました。シラーのブロックは4エーカー。IX Estateの特徴として、タンニンの強さがあるため、100%除梗して造っています。
カベルネ・ソーヴィニヨンと比べると、スミレの花やリコリス、ベイキング・パウダーの甘い香りが特徴的です。ブリーベリーやプラムの香り、タンニンは少しグリップがありストラクチャーを与えています。個人的にはものすごく好きなシラー。
この日は、今年のナパヴァレー・ワイン・ベスト・ソムリエ・アンバサダーに選ばれた山本麻衣花さんがいるマンダリンオリエンタル東京のSignatureというレストランでの食事も付いていました。コルギンのそれぞれのワインとのペアリングを麻衣花さんがシェフと考えて作ったという素晴らしいメニュー。
ニール・ベルナルディさんはUC Davisで学び、ニュージーランドやオレゴン、ワシントンでワインメーカーの経歴を積み、カリフォルニアではリトライを経てダックホーンの主任ワインメーカーを務めていました。15年間の間にマイグレーションやコスタ・ブラウンでのワイン造りなども経験してきました。2018年にはワイン・エンスージアスト誌の「40歳以下の40人」にも選ばれています。マスター・オブ・ワインには2024年に合格しています。ちなみに、マスター・オブ・ワインの論文テーマは「瓶内二次発酵のスパークリング・ワインにおける澱の攪拌の官能的影響」で、「かなりマニアックな内容」だそうです。コルギンで働き始めたのは2023年で、ナパのトップワイナリーで働けることが嬉しいと、素直に語っていました。
コルギンの創設者で現在の会長はアン・コルギンさん。美術品のオークショニアでサザビーズ・ロンドンで働いていました。ワイナリーは1992年創設。当時の夫は後にシュレーダー・セラーズを造ったフレッド・シュレーダー。当初はセント・ヘレナ東方(昨年策定されたクリスタル・スプリングスAVA内)のハーブ・ラムという畑のカベルネ・ソーヴィニヨンを作っており、初代ワインメーカーはヘレン・ターリーでした。
その後、フレッドともヘレンとも決別し、ハーブ・ラムも契約が切れて、新生コルギンがスタートしました。1996年にティクソン・ヒル(Tychson Hill)の一部を購入、1998年にはプリチャード・ヒルにIX Estate(ナンバーナイン・エステート)という畑を切り開きました(2002年が初ヴィンテージ)。アン・コルギンは9という数字が好きで、今の夫でCEOのジョー・ウェンダーと結婚したのも9月9日でした。ワインメーカーはマーク・オーベールを経てアリソン・トージエ(Allison Tauziet)が2007年から務めています。2017年にはLVMH傘下に入りましたが、コルギン夫妻が変わらずにワイナリーの指揮を取っています。

さて、アン・コルギンさんといえば深紅の衣装がトレードマーク。衣装だけでなく深紅にこだわりを持っています。1997年のワイン・スペクテーターの記事には次のように書かれています。
彼女は赤をこよなく愛し、ワインだけでなく、ワードローブにも赤を取り入れています。先日の昼食会では、39歳の引き締まったコルギンさんは、明るいチェリートーンのスーツに、小さな赤い悪魔が2つエンボス加工された黒いパンプス、そして深紅の口紅を身につけていました。「口紅なしでワインにサインしたことは一度もありません」と彼女はにっこりと笑い、コルギンのカベルネ・ソーヴィニヨンのラベルにキスをしながらサインしました。きっかけは、あるオークションでカップルが落札したワインにサインを求められたことだったそうですが、今はどうだかわかりませんが、かつてはこのキスマークが彼女のトレードマークになっていました。

ちなみに、コルギンのロゴ、「O」の書体が横に向いています。これは彼女の唇を模しているのではないかと思っているのですが、ベルナルディさんは理由を「聞いたことがない」とのことでした。「今度聞いてみてね」と言っておきましたがどうでしょうか。
この赤い色のように「情熱的で魅力的、信じられないほどのワインパーソナリティであって、ナパの最上、すなわち世界の最上のワインを造るというしっかりとしたビジョンを持っている」というのがベルナルディさんの見るアン・コルギンさんです。

コルギンは現在、3つの畑から、カベルネ・ソーヴィニヨン系ブレンドワインを造っており、IX Estateからはシラーも作っています。また、セカンドワインとしてジュビレーション(Jubilation)というカベルネ系ワインを造っています。これら赤ワイン5種が全ラインアップです。
三つの畑のうちティクソン・ヒルとカリアド(Cariad)はセント・ヘレナAVAに属しています。IX EstateはAVAとしてはナパヴァレーですが、プリチャード・ヒルと呼ばれるエリアの畑です。ティクソン・ヒルとカリアドはナパヴァレーの西側の山すそであり、プリチャード・ヒルは東側の丘になります。場所は異なりますが、斜面の畑であることと、斜面の向きが東寄りということが共通しています。東向きの斜面は朝日をしっかり浴びますが、夕方の強い日差しをあまり受けないので、西向き斜面よりもワインがエレガントになります。
それぞれの特徴については各ワインのところで説明します。
Jubilation 2021(希望小売価格税抜き5万円、以下同)
コルギンの他のワインが単一畑を基本としているのに対して、これは若く飲んで美味しい樽を選んでブレンドしたものです。単一畑は土地の個性を表現しますが、ブレンドものは「クリエイティビティ」だといいます。ジュビレーションというのは「喜び」や「祝祭」といった意味があります。早く開けて楽しんでもらうワインです。
品種構成は53%CS 26%M 13%CF 8%PV。IX Estateのものが一番多く入っています。
レッド・チェリーにカシスの風味、なめらかなタンニンで、鉄や血のニュアンスを感じました。早飲みタイプといっても軽いワインではなく、複雑でかなりしっかりした味わいを持っています。
Tychson Hill 2021(12万5000円)
ティクソン・ヒルは歴史的に重要な畑です。1881年にナパで最初の女性ワイナリーオーナーだったジョセフィーヌ・ティクソンが開墾した畑です。当時は主にジンファンデルが植えられていました。その後、禁酒法時代にブドウは抜かれましたが、コルギンが新たに畑を作りました。カベルネソーヴィニヨンが中心で、ここのワインだけは品種名が入っています。
セント・ヘレナの街を出て少し北に行ったところで、ナパ・ヴァレーの谷幅が急に狭くなる辺りです。ハイウェイの西側のスプリング・マウンテンの麓の畑です。ハイウェイの脇はかなりフラットに見えますが、山に向かってどんどん斜面が急になります。畑の一番高いところと低いところの差は40m近くあります。土壌は石がゴロゴロしています。火山性の石が多いですが黒曜石もあります。写真はコルギンのサイトから拝借しています。


ブルーベリーの豊かなフレーバーにカシス、コーヒー、たばこ。コルギンのワインの中では唯一青黒果実系の風味が強く、やや骨太の味わいです。酸やや高くバランスがいい。
Cariad 2021(12万5000円)
ティクソン・ヒルとIX Estateはコルギンの自社畑ですが、カリアドはコルギンの畑の管理を請け負っているデイビッド・エイブリューの畑のブドウを使っています。大部分は銘醸畑として名高いマドローナ・ランチ(Madrona Ranch)のブドウで、一部エコトーン(Ecotone)など、他のエイブリューの畑のブドウも入っています。ティクソン・ヒルと同じセント・ヘレナの西よりであり、距離も3kmほどしか離れていませんが、ティクソン・ヒルが火山性中心の土壌であるのの対し、こちらは沖積性。川底が持ち上がったところで、斜面も一様でなくうねったような形になっています。
56%CS 22%CF 14%M 8%PVという構成。

ティクソン・ヒルと比べるとラズベリーやレッド・チェリーなど赤果実の風味を強く感じます。タンニン強くちょっと閉じている印象がありました。飲み頃まで時間かかりそうと感じましたが、同じワインを別の会(一般向けのディナー)で飲んだ方はカリアドを絶賛しておりましたので、ボトル差があったのかもしれません。
IX Estate 2021(12万5000円)
畑は有機栽培をしています。植樹した部分のほかに100エーカーの森が残っています。これは生物多様性や、野生のままの土地と開墾した土地とのバランス。益鳥を呼び寄せるなどの意味があります。
畑は標高335~427mと高く、霧がかからないので、日較差は小さくなります。西向きの斜面の多いプリチャードヒルの中で東向きの急斜面というのが大きな特徴になります。土壌は火山性の玄武岩が崩れたものが中心。土地を購入したときはここは森であり、一から開墾する必要がありました。岩が多く、20万トンもの岩を取り除いたといいます。大きなものではバスくらいのサイズの岩もあったとか。土地の購入費用よりも、開墾の方がコストがかかったそうです。

開墾中は、この大型のトラクター/ブルドーザーがずっと畑にあり、岩を砕いていました。アン・コルギンとジョー・ウェンダーの結婚式のときに、彼女はウェディング・ドレスでこのトラクターに乗って道を降りて行ったのだそうです。
品種比率は不明ですが、カベルネソーヴィニヨンが70%程度でカベルネ・フランが20%程度、メルローとプティ・ヴェルドが残りくらいが通例です。

四つの2021年のワインの中で、圧倒的に華やかさを持っているのがこのワイン。きれいな赤い果実の風味にシルクのようなタンニン。優美で長い余韻。
以前、アン・コルギンさんが来日したときに、コルギンのワインで何を表現したいと考えているか聞いてみたところ「ピュアでエレガントなワイン」と言っていました。そのイメージに一番合うのはやはりIX Estateだと改めて思いました。
IX Estate 2014(14万円)
蔵出しのオールド・ヴィンテージで2014年のものもいただきました。2014年は干ばつの2年目で、ブドウは小さな実を付け凝縮感があるいいヴィンテージでした。この凝縮感のためか、タンニンはシルキーでギュッと詰まったような印象。また10年を過ぎても華やかさは健在。赤果実に熟成によるマッシュルームや皮の香りも出てきています。もう10年は熟成のピークに向かっていくと思います。
実は2014年と2021年、「O」の字の色が変わっています。2017年から色を微妙に変えたとのこと。
最後のワインはIX Estateのシラー2021です(6万5000円)。
アン・コルギンは北ローヌのコートロティやエルミタージュのシラーが好きで、シャーヴからシラーを譲り受けて植えたと以前聞きました。シラーのブロックは4エーカー。IX Estateの特徴として、タンニンの強さがあるため、100%除梗して造っています。
カベルネ・ソーヴィニヨンと比べると、スミレの花やリコリス、ベイキング・パウダーの甘い香りが特徴的です。ブリーベリーやプラムの香り、タンニンは少しグリップがありストラクチャーを与えています。個人的にはものすごく好きなシラー。
この日は、今年のナパヴァレー・ワイン・ベスト・ソムリエ・アンバサダーに選ばれた山本麻衣花さんがいるマンダリンオリエンタル東京のSignatureというレストランでの食事も付いていました。コルギンのそれぞれのワインとのペアリングを麻衣花さんがシェフと考えて作ったという素晴らしいメニュー。