先日,ゲイツとジョブズについて書きジョブズの本を読んだのをきっかけに,今度はジョブズの前のアップルのCEOであるギル・アメリオの本「アップル薄氷の500日」を読んでみました。

ジョブズに比べて影が薄いギル・アメリオですが,個人的には非常に優秀な経営者なのではないかと以前から思っていました。例えばSystem 7で停滞していたOSを,System 8を開発したり,NeXT買収という形で正しい方向にやっと舵を切ったことなどOSだけを取ってみてもその功績は明らかです。また,上述のJobs本にはiMacを含むアメリオ退任後1年半(つまり1998年末まで)に出たアップル製品はすべてアメリオ時代に始まったプロジェクトであると書かれています。

さらに,本書を読むとアメリオは,後4ヶ月で破産という,ほとんど沈没しかかっていた状態でアップルに来て,それを財務的に運営可能な状態にまで持っていったことが分かります。財務面というのは決算の数字という形でしか我々に見えてこないため,それほどの苦境であったことは知る由もありませんでしたが,その状況から復活させたというのは称えられるべきだと思います。

結果的にアメリオはジョブズの露払いという役割でしか見られないのでしょうが,ジョブズのような一種の天才ではあるけれど,冷静な企業運営という業務には向かない人間が,アップルをつぶさずにやってこれたのはアメリオの建て直しがあったからなのです。

さらに,本書(1998年に執筆されている)の最後には,恐るべき予言がありました。「ジョブズがディズニーのアイズナーを追い出してCEOになるだろう」というのです。この言葉通りではありませんが,ジョブズは2005年にディズニーの筆頭株主になってアイズナーを追い出し,取締役になりました。アップルとディズニーの両方のCEOを務めるのは不可能ですから,アメリオの予言は当たったといっていいでしょう。これだけでも彼がどれだけの慧眼の持ち主か分かると思います。